ハレルヤ

ハレルヤ

「ファイトォ?」
「ファイトォ!」
「ファイトォ?」
「ファイトォ!」
お願い伊達ちゃん。
ここだけは乗り切って!
玲奈は腰を低くおろして
グローブを地面につける。
「ランナーーーーー、ゴー!」
相手チームの声援が大きくなってきた。
4-3
7回の裏。
ノーアウト満塁。
2ストライク3ボール。
ぎりぎりだ。
伊達ちゃんの精神にかけるしか、
もうない。
審判に声を掛ける。
「すいません、タイムお願いします」
「ターーーイム!」
1塁塁審のおじさんが高らかに宣言する。
内野だけがピッチャーである伊達ちゃんの
周りに集まる。
「すいません。なんか手がすべっちゃって」
「ボール替えてもらう?」
「いや、なんか手から汗がすごくて」
「ロジンいっぱいつけな」
「大丈夫?」
「大丈夫。絶対守りきって、全国いってみせます」
「まずは1個1個アウトとってこ」
「絶対勝つで!」
輪が散らばりそれぞれのポジションに戻っていく。
伊達ちゃんがスローイングポジションをとる。
考えろ。
次どう動くのかを。
内野に飛んできたら、バックホーム体制だから
ホームでさす。
考えろ。
汗が流れてくる。
じりじりと皮膚が灼けているのがわかる。
暑い。
考えろ。
スクイズがきたらホームでさして
ファーストでアウトにできるかもしれないから
ツーアウトだ。
外野に飛んだらライトだったら私はファーストへ。
センターとレフトで、
浅めだったらホームのカバー。
深かったら中継に走る。
考えろ。
考えろ。
考えろ。
伊達ちゃんの投げたボールがバッターのバットに当たり
ぽとりとサード側に落ちる。
「ホーム!」
皆が叫ぶ。
サードの心美がボールをキャッチャーにトスする。
「ファースト!」
セカンドの史保がベースについて構える。
キャッチャーの栄美がファーストにボールを投げる。
「アウトォ!」
1塁塁審が大きなリアクションでそう叫ぶ。
「ナイスサード!
ナイスキャッチャー!
ナイスセカン!」
よし!
よしよしよしよしよし!
見えてきた。
全国大会が、今、はっきりと見えてきた。
夢だった。
今のこのチームのみんなと全国に行くのが。
練習もたくさんした。
自主練も、かっこうわるいから言わなかったけど
死ぬ程した。
ボールを磨いて、みんなで笑いあったあの頃。
私は、まだみんなと一緒にソフトボールがしたい。
まだ、終わりたくはない。
「ファイトォ!」
ベンチの後輩を見る。
見てて。
私たちがみんなを全国に連れて行くから。
伊達ちゃんの手からボールが離れる。
「ショート!」
悲鳴にも近い声がグランドに響く。
ショートのあっこが私にボールを投げてくる。
あっこの投げた鋭いボールが、
ゆっくり、しかししっかりと、
私のミットの中に、
収まる。




ハレルヤ

ハレルヤ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-07

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND