遠距離恋愛

遠距離恋愛

画面の向こうで俺の女が泣きじゃくっている。
3:23am
話があると叩き起こされただけでも十分怒りは沸点に
達しているのに、
なんでそんなに泣いているのか聖美は教えてくれない。
「だからさぁ・・・なんでさっきから泣いてるんだよ。
おい、聞いてる?ちゃんとこっち見ろって」
「・・・・・・」
さっきより泣き声が大きくなってしまった。
やれやれ。
女は泣き出すと手がつけられないから困る。
こうであるから、こうしてほしい。
はっきりそう言えばいいのに。
泣くことで自分を表現しても、
泣いている本人以外から見れば、
「なんで泣いているの?」
と思われるだけなのに。
泣けばいいと思ってる。
ほんと女は勝手だ。
「ねーお願いさとちゃん、泣きやんで?
俺明日プレゼンあるから寝ないとやばいんだよ?
わかってる?」
「・・・・・・」
泣き声が止む。
「ぷれぜん?」
ああ。
俺はこの顔に弱い。
弱すぎる。
今まじ抱きたい。って思ったし。
抱けないけど。
泣いた顔もかわいいんだよな。
わかっててやってんのかな、こいつ。
ちょっとからかいたくなるが
本当に眠りたいので今日はやめておく。
「ぷれぜんって、なに?」
神様。
あなたは悪い人です。
何が楽しくてこんな夜更けに、
恋人にプレゼンテーションの意味を
教えなければならいのだろう。
だるい。
あーもう。
だから年下と付き合うのはいやなんだよ、俺は。
「プレゼンって言うのはさ、新しいことを
発表する場所なの。
こんなのどうですか?とか
こうしたらどうですか?って
提案して、偉い人に自分の考えを
見てもらう場所なの。
合唱コンクールみたいなもんだよ」
「・・・・・じゃあ、緊張するね」
ふっと彼女の顔から笑みがもれる。
神様。
あなたは悪い人だ。
岡山と東京。
この距離、なんとかなりませぬか。
聖美のすべてが好きだ。
なんか、離れて冷めるかなって思ったけど、
離れて思いは募るばかりだ。
会えない時間が2人を強くする。って
陳腐な歌にでてきそうだけど、
ほんとにそうだと思う。
お互いに会いたい。
でも会えない。
じゃあ今度会える時までに、
自分を磨いて色んな情報を吸収して、
会えた時に爆発させよう。
みたいな。
うまく言えないけど。
いや、本音を言えば
抱きたいだけっていうのもあるけど。
異動の話が出た時は正直焦ったけど、
だって岡山だし。
桃太郎くらいしかイメージないし。
でもここへ来てよかった。
なんで本社に呼ばれたのかはわからないけど、
エリート街道ひた走るぜ。
俺は。
「のんくん・・・・・」
しまった聖美を忘れていた。
なぜか聖美は画面の向こうでもじもじしている。
またあれをやるのか・・・
「いつものあれ、やろ?」
「・・・・・2秒な」
「うん。いきなり泣いてごめんね。
なんかどうしても会いたくなっちゃって。
かゆちゃんもみんみんもつかまらなくって。
お盆、楽しみだね」
「うん。きびだんごいっぱい持って帰るよ」
「わぁ。鬼退治いっぱいできるね」
そう言って聖美が画面の向こうで笑う。
好きだよ。
そう心の中で言ってみる。
届きはしないけど。
「じゃあ、おやすみなさい。
明日、頑張ってね」
「ありがと。
聖美も数学の再試頑張って」
「げ!なんでそれ知ってんのさ!」
「タイムラインに書いてただろ」
「ストーカー!」
「彼氏です」
「ふふっ。まぁいいや。
うん、頑張る。じゃね」
「うん。ほんと気合い入れてるから。
お盆はあそこ、行こうな」
「ほんと?わぁい!メッキーに会える!
わぁいわぁい!のんくん大好き!
超大好き!ほんと大好き!」
「ありがと。俺も好きだよ」
「じゃあ、寝るね」
「うん。頑張って」
「おめめにキスして?」
そう言って画面の向こうの聖美が静かに目を閉じる。
「おっけ。おやすみ、聖美」
そう言って俺はスマートフォンの画面に
2度、口づけをする。




遠距離恋愛

遠距離恋愛

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-07

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND