初恋列車

思い出旅行

電車の中は人で埋め尽くされて・・・というより
人がすし詰めになっているという表現の方が正しい。
am8:07
朝の通勤通学時間。
どの路線でも大体この時間は混む。
「ちょ、修学旅行生とかまじかよ?」
「勘弁してくれよ」
ドアが閉まる。
身動きが全くとれない。
しまった。
と思った時にはもう既に時は遅かった。
「この人、痴漢です!」
俺の目の前にいた頭の空っぽそうな金色の髪の毛をした
女が俺の目をみてそう叫ぶ。
「は?俺、してないし!」
「私見た」
斜め後ろのショートカットの女が鬼の首でもとったかのように
俺を見つめて言う。
まじか。
つーか。
まじでか。
噂には聞いてはいたけど、
まさか俺がはめられるとは。
正真正銘、俺はやってない。
なぜって俺はゲイだから。
なんて言ってもここにいる人間達を説得できないことくらい
もう俺にもわかってる。
「駅員呼んで、交番行くぞこら!!!」
頭の空っぽそうな女が頭の空っぽそうな発言をする。
駅のホームで駅員を静かに待つ。
もう、終わりだ。
厳しい就活を終えてやっと内定がとれてこの春から
働きだしたばかりだというのに。
グッバイ。俺ライフ。
グッバイ。我が友よ。
グッバイ・・・
「ちょっと待ってください」
振り返ると中学生と思われる女の子が
俺たちの方をじっと見ている。
「私、見ておりましたけどこの方、なにもしてはおりませんよ」
女2人の顔に明らかに動揺が走る。
「な、なに言ってんだよ!お前誰だよ!
つーかなな・・私、見てたし!
お前嘘ついてんじゃねーよクソガキ!」
「嘘なんてついておりません。
私、この殿方があまりにも格好のよいお方だったので
この1ヶ月ずっと見ておりましたの。
今日もずっと見ておりましたのよ?正真正銘、清廉潔白です」
「は?ストーカーかよ!」
「違いますけど」
「あーもう。とりあえず皆落ち着こうか。
とりあえず君、駅員室に・・・」
「待ってください。お兄様、身分証をお出しになって
身分をお名乗りになってください」
「は?」
「身分をお名乗りなると警察は現行犯逮捕ができません。
さぁ、免許証を出してお名乗りになって」
言われるがままに財布から免許証を取り出して俺はこう言う。
「す、須藤聖哉です」
「まぁ素敵!せいやさんとおっしゃるのですね!
私、国木田麗美と申します」
「君、なんでそんなこと知ってるの?」
若い警官が尋ねる。
「今はインターネットの時代。そうじゃございません?」
「ぶっ」
こんな時になんだが吹き出してしまった。
なんなんだ、こいつ。
引っ詰めの三つ編みに眼鏡、やる気のまるでない細い身体。
そしてこのしゃべり方。
なんなんだ、一体。
「ね、行こうよ」
頭の悪そうな女がショートカットの女にそうささやく。
「いや、君たちも一緒に来なさい。
君、君は学校があるだろうから・・・どうする?」
「失礼いたします、ではせいや様、ごきげんよう」
なんなんだこの沸き上がる感情。
いやちょっと待って。
あの子俺より10個は下だぞ?
この女のためだったらなんでもできる。
え?俺、ゲイじゃなかったけ。
この女のために俺は生まれてきた。
え?なにこれ夢?
君のためなら僕は、空でも飛べる。
げ。なんかの歌詞かよ。




君に出会うために、俺は生まれてきた。





初恋列車

初恋列車

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-07

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND