真未と真伽

真未と真伽

ゆっくりとボールにお水を入れていく。
1リットルくらいにはなっただろうか。
ゆっくり、飲む。
ただでさえパンパンに膨らんだお腹に、
1リットルの水は正直辛い。
だけどこれがないとできない。
午前1時。
真未はまだ起きてると思うけどパパもママも
おじいちゃんもおばあちゃんも、夢の中だ。
真未は部屋の前を通ったとき、
物音一つしなかったから
また絵を描いているか、
ラインで友達と話してでもいるのだろう。

最後までお水を飲みきる。
よし。よくやった、私。
今日もやりますか。
階段を上る。
家の構造上、2階にあるのは
真未の部屋と私の部屋と
結婚して家を出てしまったお兄ちゃんの
部屋とトイレだけだ。
2階のトイレの中に入る。
便座を上げる。
しゃがむ。
トイレの中の水が、
黙って私を見ている。
喉に手を突っ込む。
・・・出ない。
今日は調子が悪いのかな。
色々なスポットを指で探してみる。
あった。やっぱりここだ。
のどちんこの左。
ここが私のツボ。
ゆっくりと指を上下させる。
「うおぇっ」
先ほど食べたプリンやケーキ、チョコに
ポテトチップス、バームクーヘンなどが
どろどろとした形で姿を現す。
まだまだ。
食べたものを全部出し切らないと、
太るし大変だ。
喉の底で指を上へ下へと動かす。
「うぉぇっ」
「うぇぇっ」
目には涙が溜まっている。
別に泣いているのではない。
体のしくみがよくわからないけど、
これをやってると必ず涙やよだれが
だらだらと出てくる。
5、6回は吐いただろうか。
そろそろトイレを流さないと
詰まってしまうかもしれない。
1度トイレを流す。
ジャーーーーー
綺麗に跡形さっぱりなくなった。
バイバイ。脂肪さん。

午前1時。
真伽ちゃんがいつものようにトイレへと向かった。
「やだなぁ」
独り言を思わずつぶやく。
塗りかけのペディキュアを指2本残して、
ペンタブを持つ。
今日中にあげると言ったのに、
もう1時を回ってしまった。
みんな待ってくれてるのかなと思うと、
寝ている場合ではないとはりきってしまう。
明日は1限は休講だから、
学校は休んでしまおうかと思っている。
必修の英語があるが、まだ1回くらい
休めるはずだ。
斉藤の方がよく休んでいるし、大丈夫。
午前1時半。
真伽ちゃんがトイレから出てきたみたいだ。
やだなぁ。
真伽ちゃんはちゃんと芳香スプレーを
ふってくれるけど、なんか、嫌だ。
気配というか、雰囲気が残っている。
じっとりとした、なにか嫌な雰囲気。
真伽ちゃんは、気にしすぎだと思う。
164センチの56キロなんて。
標準体重じゃん。
確かに昔真伽ちゃんは太っていたけど、
それがなんなんだろう。
「私も真未みたいに生まれたかった」
よく真伽ちゃんはそう言うけれど、
それは私の台詞だよ。真伽ちゃん。
私が真伽ちゃんみたいに生まれたかったよ。
頭が良くてあんなに素敵な彼氏がいて。
友達だってたくさんいるじゃない。
ほんと、私の台詞だよ、真伽ちゃん。

午前2時。
真未の部屋から音楽が流れてくる。
誰の音楽かまではわからないけど、
多分アニソン。
どこがいいのかわからないけど、
真未は見た目とは裏腹に昔からアニメが
好きだ。今見てるのは、「相当の敵」
と「ガンオブミックス」だったかな。
「相当の敵」は相当好きみたいで、
原作もこの前買って読んでいるのを
リビングで見た。
「2時かぁ」
お腹の中がフラットで気持ちがよい。
まだ寝るには惜しいなぁ。
明日は2限からだし、もうちょっといいか。

午前4時。
夜が白み始めている。
やっとイラストが完成した。
勇んでアップする。
・・・すぐに返事がくるのが嬉しい。
神なんて。
えへへ。照れるなぁ。
1人1人に返すのは難しいので
「みなさん、ありがとうございます」
とお礼を言って寝る準備をする。
ケイトミズケットのふわふわのパジャマは、
先月出たバイト代でおととい買った。
見た目は可愛いけどややもこもこしすぎていて
眠りずらいけど、我慢。
私は自分の好きな可愛いものやかっこいいものに
囲まれて暮らすのが好きなのだ。
彼氏の洋佑も、だから付き合った。
かっこいいから。
ただそれだけ。
私って、なんて存在価値のない人間なんだろうって
たまに思う。
親の金で大学に行って、食べさせてもらって。
まだ1年生だから就活まで時間はまだまだある。
この時間を、絵を描くこととバイトにつぎこんでいて
いいのだろうか。
考えても答えがでない。
「答えは出るべくしたとき、出るもんだよ」
おじいちゃんの言葉を思い出す。
「でっかいおにぎりになるんだよ。
一つの飯粒がいっぱいつながった、でっかいおにぎりに」
1人の人間を米粒ひとつに例えるなんて、
おじいちゃんらしい。
好きな考え方だ。
ぐぅ。
おにぎりのことを考えていたらお腹が鳴った。
なんか食べに行こうかなぁ。
真伽ちゃん食べ尽くしちゃったかなぁ。
真伽ちゃんのあれを、家族は黙認してる。
それは多分、おじいちゃんの指示だと思う。
いつか自分でやめてくれると思ってるのだ。
調べたけど、病院に行った方がいいのかもしれない。
自分という軸から見れば大丈夫だと思えることでも、
人から見れば「もう限界ではないだろうか」と思えることがある。
真伽ちゃんは私から見たらもう赤信号寸前。
でもそれで真伽ちゃんがいいというのなら、
それでいいのかもしれない。
遠くで雀が鳴いている。
よし、今日は休むか。
ほんと私、しょうもない学生だな。




真未と真伽

真未と真伽

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-07

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND