食欲不振

食欲不振

「ふわわわわ。よく寝た」
月曜日の午前11時50分。
真船可憐はそう言ってベッドから体を起こす。
「もうお昼かぁ」
そう言ってテレビをつけ、つけっぱなしにしていた
パソコンのマウスをクリックする。
「んーまだ頭が起きてないなぁ。あとにしよ」
そう言って可憐はトイレへ行き、歯を磨き、
朝食を食べようと冷蔵庫の中からコンビニの中華丼を
取り出す。レンジにかけ、昨日買ってきた洒落たどんぶりにそれを
移し替え中に入っているきぬさやを丁寧に箸で
とりよけていく。
「よーしいいでき」
そう言って可憐はスマートフォンでそれの写真を何枚か
撮影する。綺麗なランチョンマットは先日友人が北欧で
買ってきてくれたブランドものだ。
「かわいいじゃん」
自分で撮った写真に満足しながら可憐はスマートフォンで
ツイッターに中華丼の写真をアップする。
「今日のお昼ご飯は中華丼だよ。
うまくできた(●´∀`●)」
「さー飯じゃ飯じゃ」
2人がけの椅子に立て膝をついて座り
可憐はわしゃわしゃと音を立てながら中華丼を食べる。
12時40分。
「今日はなにをしようかなぁ」
ぼんやり考えていると友人からのラインの通知がピロリン、
と鳴る。
「なになにー?あーののちゃんだぁ」
野々宮優亜から今夜の予定を聞かれる。
可憐は嬉しくなりすぐに返事を打つ。
「ののちー(●´∀`●)もちろん空いてるよぉ!」
午後3時50分。
可憐は洗面台の前に立って化粧を始める。
ファンデーションを塗って写真を撮る。
チークを塗って写真を撮る。
アイラインを引いて写真を撮る。
めんどうくさいと思いつつも、それをするのは、
コメントで「可憐たんの化粧工程がみたい♪」
と言われたからだ。
化粧が全部終わった所で、
化粧品の写真も忘れずに撮る。
汚れているファンデのパフは、
わざと写り込まないように工夫をする。
午後5時。
予定の時間までは少し早いが気分がいいので外へ出る。
「あ、あれ書いてないや」
そう言って可憐はマンションのエントランスで
スマートフォンに向かってこう打つ。
「みんなこんばんわ。
可憐たんだよ。
今日は朝皇居の周りを走ってきました!ヾ(´ω`)ノ
勿論彼氏と一緒だよ。
その後彼氏と一緒に新しいパン屋さんに行って、
美味しそうなクリームパンとクロワッサンを買って
おうちで食べたよ。
お昼は一人で中華丼を作ったよ。
初めてだったけど、なんだかうまくできて嬉しい(●´∀`●)
今日はこれから彼氏とデートだよ。
憧れの2人で水族館とプラネタリウム♪
ほんとにほんとにダーリンのこと、大好き。
のろけちゃってごめんね。
てへ。

今日の格好はクロックノームのサロペットに
靴はヒストリアンのサンダル。
サングラスはINORIMISUDAのものだよ。
バッグはアウトローナンバー1。
ネックレスとピアスはいただきものだけど
エンゲリアのものだよ。

おいしいもの、いっぱい食べてきます!
今日もお仕事お疲れ様!(●´∀`)人(´∀`●)オツカレノ 」


道行く人が可憐の姿を興味深げに見て通り過ぎていく。
当の可憐はスマートフォンに夢中でそのことにまったく
気が付いていない。
高校生の集団が可憐の隣を通り過ぎていく。
「なくね?芸能人かよ」
「片時も手放せない感じだな」
「ブログと全然違うし」
「かわいそうな人だな」
「ブログするために生きてんじゃん」
「ないな。哀れ」



食欲不振

食欲不振

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-07

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND