yume

夢、漢字で表すと一つだけだが、その一つを叶えるためには相当な努力が必要だ。
まだまだ荒削りですが、楽しんでいただけると幸いです。

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いつもと変わらぬ、青い空、白い雲。桜並木が風に吹かれ、雨に晒され、五月の訪れを表しているようだった。
そんな風景の下で俺、橋本 優は屋上で昼寝をしている。
ここには、俺一人。まあ、そうだろう。鍵が無けりゃ、誰も入れやしない。
見た目は、普通の高校一年生。だが…。

俺がまだ、中学二年生の頃。
俺の両親、親父とお袋は、不幸な交通事故で死んだ。お袋のお母さん、つまり俺の祖母に引き取られ、二人暮らしが始まった。弁当はいらない、と言ったが、ちゃんと作ってくれるし、体育大会だ、と言えば弁当が揚げ物だらけになったり…。
(って弁当だけかよ)
ばあちゃんは、親父とお袋が死んでからバンドメンバーとバンドの練習に明け暮れる日々な俺を、「夢があるのは、良いことだ」と言った。
だが、その祖母まで去年の六月、死んだ。ショックだった。何だかんだ言っても、祖母がいてくれただけで、俺は救われていたのだ。
梅雨が訪れるのにはまだ早い時期だったが、葬儀の日には土砂降りの雨が降っていた。
俺は泣かなかった。
・・・いや、泣けなかった。
高校入学の為、勉強している周りの同級生たちとは違い、何をするのにも力が入らず、ただぼんやりと明日が来るのを待っていた。
それから、バンドも辞めた。
中学三年生、卒業式が近づいてきた頃。
どういうわけか、必死で受験勉強を始めた。
がむしゃらに何かをしたくなったからだ、とは思う。
そして、まぁまぁ名の通った地元の高校に通うことになった。
だが、やっぱり学校は面白くなく、サボってばかりの毎日。
そんなある日、今日だけは他とは違う日だった。
いつも通り、サボるか寝てるかの授業が終わり、昼にパンを食べてるところだった。
聞き覚えのあるイントロが始まり、俺の声。
飲んでいたコーヒー牛乳の紙パックが机から落ちたことにも気付かず、放送室へ駆け込んだ。
「止めろ!」
幸い、放送室のマイクがOFFになっていた。が、急に曲が止まったことに、全校生徒はびっくりしていただろう。
そう、この曲は、以前までバンドを組んでいたメンバーとつくった最後の一曲だった。
当時、優がボーカルを務めていた。誰もが、これで終わりだとは思っていなかったが、「ヒトリ」という題名で、優は歌い、数日後、優の祖母が亡くなった。そして、解散。
だからなのか、CDなんて発売されているとは思わない。ましてや、この俺ら。いつも、ランキング上位にはいるが、顔を見たことが無い。
幻、と言われていたバンドだ。ブログで、新曲発表やメンバーのちょっとした個人情報が知れるだけで、あとは謎。CDは、本格的に活動し始めてから、三枚のみで、ネット販売のみだ。
そんな俺らの歌を、CDを、なんでこいつは持っているんだよ?
「そのCD、どこで手に入れた?」
半ば無理やりで無表情な俺は、いらだちと戸惑いを隠せなかった。
「その…ネットで…」
怯えながら、放送部であろう少女は、答えた。 その後、バタバタと大人の足音が近づき、放送室のドアが半開きになっているところを勢いよく開く、先生の姿があった。
「何だ、どうした?」
少し、眉間にしわを寄せた男の先生が、入って来た。
沈黙が続く中、担任の女教師が入って来た。
「どうしたの、橋本君?」
何も言わなかった、いや、何も言えなかった。この曲は俺らがつくったんだ、かけてほしくないから言いに来た、なんて。
誰も信じないだろう。
「何でもないです。」
そう言って、放送室を後にした。
気が付くと、また屋上で寝そべっていた。俺は、一人が好きだからあんな曲つくったんだな、と今更ながら思った。
午後の授業は、確か‥面白くもない英語・・・じゃなかったっけ。
「ヒトリ」、どんな曲だったか、うろ覚えで歌ってみた。
「誰にも合わせなくていい。それだけで心が軽く感じた。自分の好きなことができる。孤独感ではなく優越感。空のようにゆっくりゆっくり進めばいい。こんな日々でもいい。ヒトリ、言葉にすれば寂しそうな感じがする。だけど、寂しくなんかないんだよ。ただ、一人でゆっくり考えたいだけ。こんな日があったっていいじゃないか。そんなに・・・」
急に屋上のドアが勢いよく開いた。
「やっぱり!優くんがボーカルだったんだ。」
誰かと思いきや、隣の席の女の子。やっぱり、って。
「何が。」
冷たく、棘のある言い方をした。
「今日のお昼にかかっていた曲!歌ってるの優くんでしょ?」
なんで俺の名前知ってんだよ、と言おうとしたとき
「なんで名前知ってるんだ、って思ったでしょ?隣の席だよ、私。」
それぐらい知ってるよ。この学校じゃ、美人で有名だからな。まぁ、俺はタイプじゃないけど。
「何の用?」
早く一人にしてくんねーかな。
「また、歌って欲しいの。」
…は?何言ってんだ、コイツ。
「イヤ。」
子供のような返事をして、そっぽ向いた。
「えー、何で?歌ってよ!!良い曲ばっかなのに。」
なんで知ってんだよ。こいつ…。
「これ以上用が無いんなら、帰れ。」
と言ったが、帰る気配が無い。
仕方なく、俺が出て行くことにした。先生には、腹痛と目まいということにしておいて、家に帰った。
家に帰ってすることは、一つ。まず、元バンドメンバーで、CD管理をしていたヤツに電話を掛ける。コールが五回鳴ったところで、相手の声が聞こえた。
「…んー、もしもし?」
寝起きのような声だった。
「お前か、ヒトリのCD売ったのは。」
唐突に話し始めてわかるのが、俺らの仲。
「ああ!優じゃん。久しぶり~。」
別の会話が始まりそうだった。
「質問に答えろ。」
半ば、怒り口調で喋った。
「ごめん、ごめん。で、何だっけ?」
コイツの性格が、これだ。
「ヒトリのCD!!」
「あ~、ブログでさ、ヒトリで最後になりました、って書いたら、欲しいって言って来たんだよ、ファンの子が。だからね、その売上げで優のおばあちゃんのお墓、建てたんだよ、皆で。」
びっくりすることを言われた。お墓?ばーちゃんの?
「は?どういう事だよ。」
場所と時間を言われ、そこへ行った。そこには懐かしいメンバーが揃っていた。
「久しぶり、優。」
電話の主。
「よお!元気にしてたか?」
ドラムをしていた、力強いヤツ。
「ハロー。」
見た目にこだわるが、しっかりとしたベース担当。
「なんでいるんだよ、お前ら。」
ポケットに両手を突っ込んだまま、歩きながら近づく、俺。
そんな俺にもかかわらず、笑顔で迎える仲間に、懐かしいような後ろめたいような感情が入りまじっていた。
「いーじゃんか。」
その後の会話は、無かった。
ただ、ばあちゃんの墓に案内してもらい、確かに名前が入っていた。
「…んで黙ってたんだよ!」
声が震えていた。
「なんで、言わなかったんだよ!」
声を荒げ、仲間の一人の胸ぐらを掴みながら言い放った。
「お前の辛さは、わかんねぇよ。」
優が、驚いた顔になった。
「何もこっちに相談してくれねぇ、頼ろうともしねぇ、そんなんで仲間って言えるのか?!」
何も言い返せない。そりゃ、言ってることに間違いなんて一つもありはしないからだ。だが、俺は心配をかけたくないから言わないだけで…
「ほら、何も言い返してこねぇ。悔しかったら、今思ってること…ぶちまけて見ろよ!!」
「お前らに心配かけたくねーんだよ!・・・だから・・・黙ってたのに、クソッ!」
「お前にそんな顔させたら、俺らがお前のばーちゃんに叱られるよ。優の気持ちもわかるけど、やっぱちゃんとしたとこに入れてあげないとな。」
何も言い返せなかった。俺のことを、そんなに思ってくれていたバンドの皆に俺の都合だけで解散してしまった。情けない。ばーちゃん、俺、もう少し・・・。
気づいたときには、俺以外の全員が静かに手を合わせていた。祖母の漢字が刻まれたその墓石に向かって。いつから降っていたのか、雨に濡れながら。
「ばーちゃん、俺、もう一度頑張ってみてもいいかな?このメンバーでもう一度、夢を叶えてみても、いいかな?」
雨か涙かわからないが、頬が濡れ、鼻が少し赤くなっていた。
(ああ、いいとも。夢があるのは、いいことだよ。がんばんな。)
いつかの声と同じ、懐かしく、暖かい声が響いてきた。
涙目なのか目が赤くなった優が、膝をつき、
「もう一度、俺とバンドを組んで欲しい。」
そう言いながら、頭を下げた。

-END-

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更新日
登録日
2014-07-06

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