迷宮のファイア

迷宮のファイア

魔法と友情と恋愛と。
様々な気持ちが混ざり合う
勇気の物語。

第0章 前夜


______________


なんだか今日はとても風が強い。
そこまで古くもない、縦長の窓がカタカタと音を立てている。

大きなフローリングの部屋には
本棚がたくさんあり、
本は古いものばかりのようだ。

「うむ・・・。そろそろ時が来たか。」

白い髭を鎖骨あたりまで垂れ流し、
ゆるい服を着て、窓を眺め、
近くのベッドにふわっと腰掛けた老人はそう呟いた。

そのベッドの隣にあるドレッサーの上に置いてある
火のついていない小さなロウソクを見つめ、
老人はスッとその長い指をかざす。
するとロウソクは小さく炎を灯した。

「今回は長かったのう・・・」

そういって老人は窓から目を逸らした・・・。


______________

第1章 始まり

「よ、よし・・出来る。うん、大丈夫・・・。」

少年は目の前にある花瓶に手をかざし、
何度も何度も同じ言葉を繰り返していた。

「よし!花瓶よ・・宙へ!」

___パリィィイン!!!!!!!

花瓶はふらふらっと落ちて
弾けるように割れた・・・・・。

「っ!やべっ!!!」

少年はしっかり前だけを見ながら
後ずさろうとした。

その瞬間。

「まったお前か!!!!!ミラ・アルミストォォオ!!!」

その少年、ミラの後ろの廊下の向こうから
怒鳴り声が聞こえた。

「ち、ちょ、ドミック先生・・・ほら!まだ修行の身なんスから〜・・」

と、言いつつ、ミラは背後のドミックがやってくる前に颯爽(さっそう)と走り出した。

「壁よ現れろ!!」

そんなミラの逃走もあっけなく、ドミックの魔法によって
ミラは見えない壁に激突し、
その場で頭を抱えて壁に突っ伏した。
ドミックはやれやれとミラに近づきその制服の襟を掴み乱暴に引っ張り、
あはは・・と言うミラの苦笑いの顔に向かって一喝、

「馬鹿野郎!!!!」

と叫んだ。
ミラは咄嗟(とっさ)に耳を塞ぐ。
するとドミックはミラの耳元でささやき始めた。

「お前に校長から直々に話だ。校長室へ向かえ。」

「へ?」

ミラはすっとんきょうな声を上げた。
そしてもしや校長先生から直々に叱られるのかと思い、

「あ、いや、その、ほら!まだ授業がありますし!!」

「授業も行かんで良い。それにお前が思っているように別に
怒ったりもしない。真面目な話なんだとよ。」

「授・・え?真面目な・・話?・・っスか?」

「おう。そうだ。だから校長室へ向かえと言ってるんだ。」

ミラは不思議そうな顔で頷いた。
しかし、校長先生とはこの魔法学校ではなかなかお目にかかれない
かなりのレアキャラであり、それに生徒のほとんどは
校長室がどこにあるのか知らない。ミラもその一人なのだ。
なのに突然、校長室に行けと言われても・・・
それにこんな自分になんの用だ?校長室ってどこだ?
そんな疑問にドミックは察したのか

「校長室は魔法用具室の奥の◯△□が重なったマークに話しかければ分かる。」

「◯△・・?」

「さあ、さっさと行って来い。落ちこぼれ。」

「ちょ、先生、それは禁句っスよ〜・・」

ミラは掴まれた襟を離されたと同時にため息を付いた。
ドミックは無言でポンポンとミラの肩を叩き、その場を去った_______






「え〜。さて・・・ここに着いたのはいいものの・・・」

埃っぽい匂いに、積み上げられた段ボールの箱、天井には蜘蛛の巣。
ミラは魔法用具室で迷っていた。

「どっこにも無いぜ〜?まる〜、さんかく〜・・・」

ぶつぶつと呟きながらとりあえず埃まみれの段ボールをかき分け、
奥に進んで行く。そうすると行き止まりの壁が現れた。

「無いじゃん!どこだよ、こうちょ・・・」

いじけるようにそう言い放って目を逸らすと、
異様なマークが壁に書いてあるのを見つけた。

「おっと・・これ、か・・・・?」

ミラはやっとこさ◯△□の重なったマークを見つけた。

「話しかけるっつったって・・・何話せば良いんだ?
とりあえず・・こ、校長先生〜?」

しばらくの沈黙の後、ミラは恥ずかしくなって周りを見渡した。
もちろん誰も見ていない。

「は、はは。あはは・・・・」

頭を掻きながらそのマークに目を凝らしていると、
マークの横に何やら文字があるのを見つけた。

「ん?なになに・・・これらは、この先の道を照らす暗号である?それぞれのマークの単語を言え・・・・。って、なんだあ〜?」

ミラは首をかしげた。

「ん〜。◯は〜、なんだ・・・・わっかんねえ・・・・」

ついに頭を抱えた。
するとミラの後ろの方から

「CTS」

と言う声が。

その途端、目の前の壁がまるで奥に吸い込まれて行くように消え去り、
上へと繋がる長い階段が現れた。
ミラは突然の事に口をぽかんと開け固まった。
そしてその横を何事も無かったかのように通り過ぎる姿。
ミラよりも頭一つ分は大きい背の生徒のようだ。
ミラは、はっと我に返り、

「え!あ、ちょ!!」

とその生徒の後に習って階段を上り始めた。

階段は想像以上に長く、
しばらく無言の間が続いたのでミラはその生徒に話しかけた。

「おい!あれってどうやって開けたんだ?」

その生徒はミラに背中だけを見せ、淡々と上っていく。

「おい!なあ!」
「おいってば!」
「なあ!なんであのか・・ぶふぉ!」

しつこく聞き続けていたらその生徒は突然立ち止まり、
ミラはその背中に思い切り顔をぶつけた。
その生徒はすこし迷惑そうに首をこちらに向け、

「簡単な暗号だよ。あの程度ならお子ちゃま魔法使いでも分かると思うけどなあ・・」

その生徒はおでこに手を当てたミラに嫌味の様にニコッと微笑みかけ、
そしてまた階段を上り始めた。

「な、なんだよ!嫌味かよ!」

「嫌味じゃないさ。僕の思った事を言っただけさ。」

「それ!嫌味だって!!」

その生徒の後ろにぴったりと着いていき、二人はそんなこんなで
やっと階段の最後までたどり着いた。
目の前には少し古いが大きな赤いドアがあった。

「やあっと着いたって!疲れたって!」

ミラはぜえぜえと息を切らす。

「そりゃあ、あんなに一人で叫んでちゃあ、疲れるかもね?」

「あんたなあ・・・」

ミラの返しの言葉もスルーし、その生徒はノックを3回した。

「さて、入ろうか。」

その生徒は失礼します。と言い、先に入ってしかもドアまで閉めてしまった。

「はあ!?なんだよ、もう・・・。おい!」

ミラはドアを開けようとしたがなぜか開かない。

「へ!?なんで!?さっき開いてた!え!?」

ミラはドアノブをガチャガチャとしてみたり引っ張ったりするが
やはり開かない。

「・・・・待てよ。あいつ、ノックしてたよな・・・・」

ミラは思い出し、コンコンとノックをしてみた。
ドアノブに手をかけ、引く。開かない。

「なんでだよ!!!えぇえええ!?」

ミラはパニックになったかのように叫んだ。

「なあに?なんの騒ぎなの?」

ミラの後ろの階段からクスクスと女の笑い声が聞こえてきた。
ミラははっと後ろを振り返る。

「あら?あなたここまで来てるのにそこでひっかかってるの?」

ぱっつんの前髪に髪色は今時見ない水色のボブヘア、
クリクリとした目をミラに向けながら女は階段を上りきると

「はあ〜!やーっと着いた!」

とう〜ん、と背伸びをした。

「ひ、ひっかかってねえし!開かないだけだし!」

「もしかしてあの壁もあんたが解いた訳じゃないんだ?」

女はにやっと笑いミラに近づき上目遣いで見た。
ミラはそれに動揺して目を逸らす。
女はふふっと声を出して笑った。そしてドアノブの右横にある小さな数字を指差した。

「はい!これ見て。なんて書いてある?」

ミラは今まで目にも付かなかったその数字を見て唖然とした。

「さ、3・・・・。3回ノックしろってことか?」

「あら、そういうのは分かるのね?」

「当たり前だろ!つか俺はノックしたんだよ!!に、2回・・・」

ミラは肩を落とした。

「2回してたのね!おしいおしい!じゃ、もう一回やってみれば?」

女はにこにことそのドアを指差した。
ミラはうなずきノックしようと手を握って振りかざした。その途端

「あ。ねえ!あんた、名前は?」

突拍子もない急な質問にミラはノックし損ねた。

「は、はあ?俺?ミラ・アルミストだけど・・・」

「あら!あんたがミラ?ふぅ〜ん?案外普通の顔なのね」

女はそういうとミラの顔をまじまじと見た。

「な、なんだよ!俺を知ってんのか?」

「ええ。なんでもこの学校一の落ちこぼれなんだ・と・か♫」

女はミラの問いに愕然とした。
その通り。ミラは魔法の制御がなかなかヘタクソなのだ。
それにこの間の魔法中間テストはベベだった。

「う、そ、それは!」

ミラは言い訳しようとしたら口元に人差し指を当てられミラは目を見開いた。

「はいはい。言い訳は言わなくて大丈夫。早く校長に会いましょ?
あなたもきっとここにいるってことは校長に呼ばれたんでしょうから。
それに校長がどんな人なのか見てみたいし?」

女は指をミラに当てたまま、そう話すとスッと離れ、
ミラに目を合わせ、その後にドアに目を向けた。

「ちなみに、私はハング・ノーラン。よろしくね!」

「お、おう・・・・」

ミラはハングの笑顔に少し照れながらも、
ドアをしっかり3回ノックして、そのドアノブを引いた。

迷宮のファイア

迷宮のファイア

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第0章 前夜
  2. 第1章 始まり