Abnormal Thought
――――私の中の、あなたがたへ捧ぐ。
【少女Aの母の所見】
あの子の気味の悪いことったら。先生、私の育て方が悪かったのでしょうか。
あの子の歳ですか?今年で7つになります。
そういえば、あの子は物心ついた時から、すこし乱暴で。一人で四つん這い歩きを始めたと思ったら、部屋で見つけた蜘蛛をですね、こう、手で・・・。ええ。あの時は、毒蜘蛛だったらどうしましょうと主人と怯えたものです。
他にはですね、あれは一歳ぐらいの時だったでしょうか。
夏の縁日へ、あの子と私と、それから主人とで出かけたんです。その時に、金魚すくいの屋台がありまして。あの子が、したいしたいと駄々をこねるものですから、私たち大人は根負けしてしまって。
屋台のおじいさんに、金魚をすくう・・・。あれはなんという名前でしょうか。それを渡されたのを、そっと、大事そうに浴衣の帯にしまって、あの子、どうしたと思います?素手で、素手でですよ。水の中の金魚をうまく握って、地面に放り投げて・・・。あの子、声をあげて笑ったんです。その時は、しかりましたが・・・。
内心、とても嬉しくて。あの子、その時が初めてだったんです。声をあげてきゃっきゃと笑うのは。
家に帰り、主人と二人で大喜びました。あの子、どんな玩具を与えても、ちっとも嬉しい顔をしなかったんです。
次の日、主人は五匹の金魚を買ってきました。あの子の笑顔みたさに買ってきたようです。その晩、あの子は、五匹すべての命を、笑顔で奪いました。ええ。今でも、覚えています。二匹は手で握りつぶし、一匹は何度も投げて。残りの金魚は、踏み潰して殺しました。
私は、その時に、あの笑顔・・・。少し前まで、可愛らしく泳いでいた金魚たちの無残な亡骸をみて喜ぶ、あの子の無邪気な笑顔に、背筋の凍るような感覚、違和感というのでしょうか。そういうものを感じたのです。
あの子に対する私の教育が間違っていたのでしょうか。ええ、そうだわ、きっと。そうです、私が悪かったんです。だから、あの子は、あの子は、あんなことを・・・(錯乱状態。数分後、鎮静。)
すみません。私ったら、取り乱してしまって。ご迷惑をおかけしました。今日は、もう帰らせていただいていいですか。
本人の希望により退室。精神衰弱の疑いあり。以後、連絡とれず。
一週間後、夫により自殺完遂の報告を受ける。
Abnormal Thought