practice(120)



百二十




 お爺さんは葉っぱを拾って,袋は口を開けていた。引きずられてきた跡を犬が辿る。産毛がそよそよとしていた。白いお髭がもぐもぐと動く。すこしすこし,お爺さんの手が葉っぱの根っこ(と犬が思う)を回す。ちょっとずつ,残っていた水分が行きわたる。ゆっくりと,お爺さんが鼻を近づける。息を吸って,思い出は,とお爺さんは犬語で話し始めた。うんうん,と二回頷いた犬は人のことを知っているとお爺さんに伝えていた。すーっと,胸が膨らんでいく。すーっと,見上げてその日が高くなる。白いお髭がもくもく話す。青い空とかサングラスとか変更線とか,そこら辺のことを犬がまだよく知らない。
 地面は固いと歩いてきた。クリーム色の味がして,お爺さんに顔を拭いてもらったり,お腹をつけて夜には眠ったり。葉っぱは数多くあったから。袋は口を開けていて,お爺さんはうがいをしていた。仰向けに眠るお爺さんの側で,犬はくるまるんだと話してくれる。
 ハンチング帽は忘れられて,三年にもなっている。アロハシャツは新調されたんだそうだ。お爺さんの足元に立てばすっかりと膝のあたりまで大きくなって,産毛はそよそよとしている。鼻の頭を近づけて,同じ名前とともに呼ばれる。ブリーフケースには大事なものが入っていると犬は知っている。お爺さんは葉っぱを回して,指さしている。
 少し歩いた。袋がぱたぱたと残されて,小さい姿をそれぞれ捉える。あれが飛行機かと犬がお爺さんに尋ねたが,横に首を振って,お髭をもぐもぐとする。
 お爺さんはしゃがんだ。犬の耳から頭を撫でて,同じ高さになったのだなということを伝える。犬語でも何でも。それはゆっくりと雲を引く,高いところへと流れていく。若いヒゲを見て,お爺さんも追いかけた。
 葉っぱは地面を見つめたという。



 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-01

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