漁獲

漁獲

 素潜りの得意な女性がいる。

 大きな貝を自分の体にくっ付くながら上がって来たりする。サーフボードケースの様な大きな入れ物に、ピッタリ入るほどのゴカイを捕まえて来た。大量の足を動かして逃げようとする。動きはムカデほど俊敏ではなく、あっさりと捕まえられる。1m40cmはあろう巨体を裏返すと、そこには人間の顔に良く似た、頭と同じ大きさのこぶがあり、それは子どもの笑顔のような作りになっている。頭のような形の部位の少し下にある足が、カニのハサミの様に、一対が他の節足構造とは異なり、人間の腕の様に見える。子どもの顔の様に見える部位は体の上1/3辺りにあり、本当の口などの器官は上部の先端にある。こぶの周りにある半楕円状の体と、多くの足がある姿は、良く言えば千手観音のようだ。そして、たどたどしくではあるが、言葉のような物を発している。

 「やめて、逃がして」

という類いの人間の言葉だけ知っているらしい。知っているというより、意味も無くそのように聞こえる鳴き声を発しているのだ。表情というより、張り付いた笑顔が言っているような気がするが、実際はそれは擬態であり、人間に食べられない為に付いた文様のようなものであり、言葉の様に聞こえる鳴き声であった。
 初めてそれをみる私は、どう見ても人間に近い生き物にしか見えない。グロテスクだし、そんなものは食べなくてもいいと言う。昔から、食料のない時は地元の人は食べていたということで、撮影クルーの為に調理をするという。私は食べる必要は無い!と怒るが、漁師は手際良く、感情を殺した慣れた動作を始める。こぶを持ち上げ、まるで人の後頭部の様に見える所の、頸椎辺りに線を引き、そこを刺すことですぐに動きが止まると説明している。私は席を外す、時間を置いて戻ってみると、白身に、所々赤みが混ざったような肉片を何かで和えた料理が出来上がっていた。

漁獲

漁獲

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-30

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