残された手記

「これ、彼の遺書と考えていいんではないでしょうか。」

若い警察官はパソコンのディスプレイに出てきた文章を目で追いながら、中年の警察官に話し掛けた。

「どうかな。私にはただの日記のように読めるがね。」

中年の警察官は、懐かしむような目で流れていく文字を見ていた。

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4月16日

なるほど、これが大学の授業か。まあ、最初はこんなものでしょう。ただ教科書はちょっと高い気がする。内容よくわからんし。ま、これは勉強していくうちにおいおいわかってくるやろう。

授業で前やった人とちょっとしゃべったけど、なんかあんまり話さんまんま終わった感じ。こっちきて、ひとりやもんなあ。できるだけはやく友達つくりたいところ。

5月12日

今夜は気持ち良い風が吹いています。昼間は暑かった。5月はこんなに暑い月だったっけ。

まぁ、今はそんな事はどうでもいい。涼しい。洗濯物がよく乾いてました。

今はギターの神様と呼ばれるエリックの歌を聞きながら、こうしてこたつの前でパソコンを扱っています。

昨日とさしてかわらない今日だったけど、

今日先輩と会いました。すこしだけ話ました。

5月14日

本を読みました。人間失格という本です。気になったんで借りました。読んでみると結構おもしろい。知的なおもしろさ。本っていい。

6月1日

どうも眠れない。大学に入って2ヶ月が過ぎた。ちょっと最近、気が滅入ってる。会話に意味を求めるようになり、それによって、無意味な会話が空しく感じてきた。

6月15日

友達との会話の中のストレス。他人との会話がぎくしゃくしてしまう。少なくとも僕が話しててぎくしゃくしてると感じるのだから相手もそう感じているだろう。沈黙がくると話題をみつけたり、少々自分よがりな意見を言うやつがいても、笑ってやりすごしてしまう。

7月9日

いつだったか「たまには君も思い切ってバカになんなきゃ」って言われてそうかと納得して、ふざけてみたけど、結局”ばか”のふりをしていただけのような気がする。

10月20日

今、自分を欝にしているもの

まず、将来への不安。これはそのままだ。自分におもしろくもない勉強をさせる原動力となっているおおきな命題だ。はっきりいって不安はおおきい。

今の自分の技術というのはどの面をとっても中途半端で、通信系の技術をマスターする必要があるのだが、この勉強がまたお・も・し・ろ・く・な・い!!

あ~あ!! 文が支離滅裂!! 自分の不安定な心境が

そのまま文にでてらぁ!! ああ~も~

なんにもやる気がないのに、なんかしなければと攻めたてる、この心境が、なんとももどかしい!

疲れた~ 疲れた~ 土曜にテストがあるんだぜー 自分よー

その前に明日、物理実験のレポート提出だぜー それも2つー あーもー

11月4日

高校の時のように「耳をすませば」を見たかいがあって、勉強にやる気がでた。電気磁気学のテストは大丈夫でしょう。

小説でも書こっかな。思いたったが吉日っていうし。

11月6日

他人が自分を見ている。「やさしい人だ」と評価したとする。それを聞いた僕はどういう行動にでるだろう? それからも、その評価を下した人の前では腹が立ったときも、やさしい人でいるのか。それとも、わざとやさしくない人になるのか。

その時とった行動なんて、一瞬の行動だ。考えもなしにとった行動かもしれない。ちょっと演技じみた行動かもしれない。なのに、その一瞬の行動で自分=やさしいと決めつけられると、きついよ。そのなにげない一瞬の行動のせいで、のちの自分の行動が縛られるようじゃ、なんか馬鹿じゃん。でも「きみはやさしいね」って言った本人はそれで、結構満足してるハズだ。

自分の脳の中の「人の区切りの」の箱の中の、「やさしい」の箱に、僕をキッチリしまうことができるんだから。こんなストレスを与えるような言葉を吐いておいて、その言葉を吐いた本人は、ワクにキチっと入れられたことで満足している。

混沌としているのが嫌いなんだね。

あやふやとした状態が嫌いなんだね。

自然なんて、もともとキッチリとしたものはないんだから、

あやふやでいいじゃん。ごちゃごちゃでいいじゃん。

ぐっちゃぐちゃ、めちゃめちゃ。

その時どきに、言ってる事が違う、でも、その場でのその時の本心を素直に言ってる。

いいじゃん。いいじゃん。

なんでも、キチっとワクにおさめるから、人がワクからはみでたときに、怒るんだね。

そんなの、勝手だよ。自分でかってに決めつけておいて、ワクからはみでると、

「きみはそんな人だとは思わなかった」だって?!

おい!! いったいあんたは何様のつもり?!

11月8日

ちいさい頃の夢は数あれど、それは他人に誉められる事を目的とした夢であった。

てんで、レベルが低くてやんなっちゃう。かっこわるいよね。

どちらを向いて、どこにむかうのか?

悲観で焼け焦げた思考回路

手探りの未来と、ちいさな自分

なにが欲しいのかわからない自分

なにも持ってない自分

なにもわからない自分

本当は誰かに助けてもらいたいのかもしれない。それもわからない。

やってて楽しいと思える事はあるけど、それに没頭させないのが現実という大きな舞台で、やってて楽しいことよりも、やってておもしろくないことのほうが将来にはやくにたつと、人は言う。

もしも、となりにもう一人自分がいたとしたらこの掴みどころがなく、かっこわるい悩みを

真剣にきいてくれるだろうか? たぶん自分はへらへらと笑って「そんなこと考えんで、気楽にいこー」とかなんとか言いながら、真剣に相談している自分を傷つけるんだろうね。

今、大地震でも起きてこの家がつぶれそうになったとしたら、

自分は外に逃げようとするのだろうか。

11月20日

まるで進歩のない18の自分 。でも、長い、長い18の自分。

おそらく時というのは人間の心の中にあるのだろう。この一年はものすごく心の中に変化があった。人格の大きな転機だったといってもいいかもしれない。

そんななかで流れる一年は長いものだ。

こうして自分がパソコンの前であれこれと考えている時も、一生懸命に時を費やしている人もいれば、時代に流れて時を過ごす人もいるんだな。おんなじ一年でも、短いと感じる人と長いと感じる人とがいるんだな。

大学のキャンパスを歩くと

毎日毎日新しい顔をみつける

たくさんの人間が歩いている

もしかすると

すれちがった人のなかに

自分の大切な人となる人がいたのかもしれない

さびしいな

11月27日

拝啓、将来の自分様、今の暮らしはどうですか?

楽しいですか? 満足してますか?

彼女はできましたか? やりたい事をみつけられましたか?

大切な友人は見つかりましたか? 命よりも大事なものはありますか?

この18の頃の心を覚えてますか? 今の心とどう違いますか?

胸が張り裂けんばかりの、数々の悩みは解決しましたか?

今自分を動かしてるものはなんですか?

もしも、今のあなたがこのすべての質問にたじろぐ事なく答られたのなら

18歳の僕はあなたを尊敬します

そして、あなたは本当にかっこいい人間になってると思うよ

できれば、今の悩みをどうやって解決したか教えて欲しいぐらい

もしも、まだ18の頃の悩みを引きずっていたり

どうしょうもなくなって、心の奥にしまいこんでしまっていたりしたのなら

もういちど18の頃の心を思いだしてください

18の頃、心の奥に燃えていたもの、しかし外にだせなかったもの

18の僕よりも経験をつんだ今のあなたなら必ずできるはず

今のあなたなら必ずその熱いものを自分の生きる活力にできるはず

あなたは劇の舞台に立って演じているわけじゃない

自分の人生を、ただ、いきているだけなんだ

だから、他人の目を気にする必要はないよ

精いっぱいに自分の道をゆこう

18のぼくには、まだ解決できない悩みがたくさんあるけど

これからひとつひとつ解決していくつもりです

悩みがすべて解決できたのか?

その答えを、たのしみにして…

18歳の自分より

11月27日 (夜)

12月2日

毛筆はおもしろい。経験のない自分でもうまく書いてるようにみえるから。

正月帰って、家族にあって

部屋をかたずけ、もち食って

むかし暮らした自分の家で

心に整理をつけましょう

1月19日

正月、福岡で過ごしてきました。でも、そう簡単に心に整理がつくんなら、こんな文をずらずらと並べているはずがないね。

まだ、ぜんぜん心に整理なんかついてない。

あさって試験だっていうのにやる気がおこらない。はぁ。

さっき、今までの自分の日記を見た。これじゃまるで歌詞だな。

そうおもってギターとってジャカジャカやったけど、そう簡単に歌なんてできるワケもなく

再び 明後日試験 という現実に戻る。

そして、まだやる気がでないので、こうして自分の心の内を書きならべている。

おいおいあと2カ月もしたら19だぜ

情緒不安定のまま大人になるのかい?

そして、児童館の子供や、友達や

親や、兄弟や、隣人を傷つけるのかい?

もっとしっかりとした答をだそうぜ

なにか自分の信念となる思想を心にもとうぜ

今のまんまじゃ空っぽの人間じゃないか

どうした自分

あのころのやる気はどこいった?

でもね、あの頃のやる気にはそれなりに根拠があったんよ

「せめて、いままで育ててくれた両親への報いとして、大学いかなくちゃ」ってね。

今は何もない。それとも

「せめて、いままで育ててくれた両親への報いとして、高給の職につかなきゃ」ってやつを

やる気の原動力にするのかい?

それじゃ、職についたあとまた同じように悩むだけじゃんかよ。それでも

「せめて、いままで育ててくれた両親への報いとして、職をつづけなきゃ」ってなるのか?

あんた、いったい誰の物?

親への報いマッシーンかよ。

そりゃ、親はいろいろしてくれたよ。でも、それで親に報いることを目的としたら、あんた、いったい何のために生きてるの? それとも、親を口実に、自分の道の決断から逃げてるの?

ギター、建て前なしに音に惚れました。ゲームプログラム、建て前なしにおもしろい。

明後日ある線形台数のお勉強は、、、?

そういう興味のないお勉強でも、自分の確たる目的のためなら

やってのけられると思うけど、目的がないと、どうしょうもない拷問なんだよな

「ただの怠惰だろ」なんて言われても、そう感じるからしかたがない。

でも、今はどうしょうもなくおもしろくない線形台数のお勉強をするしかないの。

こんなくだらない日記を書く暇あったら勉強しろよ。なんて言われても、まだ、やる気になれないんだ。だから、まだやらない。

金か? なんて思うけど

やっぱり金は違うだろ

愛か? なんて思うけど

やっぱり愛は見つかんない

時か? なんて思うけど

時間に追われてあくせく過ごすなんて絶対やだ

高いギターも、高いパソコンも違う

じゃなんだ?? 自分の最大の目標ってやつは??

しょせん人間なんてそんなもんだ って見限るのは簡単だけど、そうしたとして、今の自分には金や愛や時間や欲望をやる気には還元できそうもない。

なんか、こう、もっと、、生きる力となるものは、、

せめて3月3日までには目標を決めたいな

そして目標が決まったとき、今日、試験勉強をしてなかったことを後悔しないために、

とりあえずこの一週間を乗り切ろう。

なぁに、18年間 頑張ったんだ。

あと一週間ぐらい、無目的に単単と勉強してやろうじゃん

それが出来ないようなら、それはほんとうの怠惰だよ

わかったかい自分

さぁ、さっさとパソコンしまって、線形のお勉強をはじめなさい

3月3日

さあ、いよいよ19歳の時を迎えた!

目標は決まったかい?

それがね、まだ決まってないんだ。

でもね、バイトはじめて、勉強も休みにはいってすこし気が楽にはなってるよ。

毎日の暮らしも欝ではないよ。あいかわらず目標はないけど。

ちょっと前にユアルと電話したんだ。「ぶち切れた」んだって。他の人のバイクとか自転車とかぶったおして帰ったんだって。どう思う? 正直に言って「へえ、そうなんだ」だな。

それで? なに??

感情すらなくなりつつある。

誕生日の始めに一つ!! これを小目標にしよう!! 人間らしく感情を持って生きよう!

太宰は「人間らしく生きようとすると、この世では人間失格となる」

と悟ったが、僕にはそうは思えない

3月9日

けいこの電話はうれしかった。自分の小説を認めてくれた。

しかし、そこでけいこに対して、自分の中に「道化」の発想がうまれつつある。

いかん、いかん。単純に、けいこは小説に共感してくれただけだ。

でも、それがどうしてこんなにうれしいんだろう。

あーうれしい!! 幸せとは、こういう所にあるんだろうかとか本気で感じる。

なんか胸にジーンときていつまでたっても眠れない。

あーたぶん、幸せとはこういう気分なんだろうなー

自分よ、道化にはなるなよ

これからも素直な気持ちを書き続けるのだ

自分よ、道化にはなるなよ

うまい文章なんてくそくらえ

自分よ、道化にはなるなよ

小説に自分のこころの中のモヤモヤしたものを全部吐き出してしまえ!

あー胸がジーンとする

太宰もこういう気持ちを味わったのだろうか

3月10日

今日バイトでマスターが言っていた。「青春とは何ぞや」

マスターが言うと、ちっとも芝居っぽくなくていい。マスターはいい人だと思った。

マスターが金の話しをしても、ちっともいじ汚いような感じがしなくていい。

マスターは出来た人間だ

性欲の本当の意味を知らないで、その具体的な事ばかり知っているのは

恥ずかしい。犬みたいだ。って太宰が言ってた。

俺もそう思う。でも

くしゃみが一つでたので、ねる。

5月1日

あー なんか疲れた

あーあー疲れたー あーあー

「あのさー、さっきから聞いていたら本心とか親友とか綺麗ごとならべて いるけど、ただ甘えてるだけなんじゃないの? もっと現実を見なさいよ。しょせん…あ、”しょせん”なんていうとなんか聞こえが悪いか。でも、社会の中で生きていくにはさ、いくらか建て前は必要だろうし、そんな…本心しか言わない奴なんて、逆にコワイよ」

女は男の熱弁をさえぎるようにそう言うと、テーブルのコーヒーに口をつけた。

「…そういうふうに聞いていたんだ。ああ、そうかい。いいよ。わかったよ。」

男は鞄とジャンパーを手にもつと、伝票をつかんで会計へと向かった。

「そうやってすぐ逃げるから、なんにも…」

その女のつぶやきは、もう男には届かなかった。

5月5日

まさか、本当に俺が「消えたい」なんて思う日がくるなんて。

ほんとうにまさかや。この頃めっきりそんな思いが強くなった。

いったい何なんや

くだらん、くだらん、くだらん、くだらん

あーもーくだらねーやー あほーーーばかーーーとんまーばかたれー

きーかーかえいDKKEIFKDJHOILFSJIDJFO

うるせーーーだまれーーーあほーーーしねーーーー

あーーなるほど、これがストレスか ほーほーなるほど

ストレスとはこれか、ふむふむなるほど。

なるほどね。こりゃ嫌なもんだ。うん、めっちゃ嫌や。

せかいいち うつくしいはなしをかこう

きれいなきれいな はなしをかこう

みんながうなるような はなしをかこう

やってみいや すててしまいなよ

きえてしまうならすてろすてろ

すててしまえ

きれいなはなしって なにや

そうしいわく きれいのがいねんが きたないをうんだ

ならきれいなはなしなんてかくと それいがいはきたないはなしになるよ

やめとけやめとけやめときな

きたないはなしを かこうかこうかきましょう

でも そんなにじぶんをさげすんでどうすんの

どうじょうかってたのしいの

たのしいわけないじゃん

じぶんをたたけるのが おとなとかおもってない

ならじぶんをほめなよ

じぶんにじしんをもってみな

でもじしんをもてるこんきょがないよ

ならどうしろってんだ

みすちるいわく なるしずむとじぎゃくのはざまでさまよう

ああそうだ

ひとりくらし

鞄を放って、こしかける

好きな曲をかけてくつろぐ

でも、一緒にわらう人はいない

喧嘩する相手もない

機械と紙と木と電気

それがうっとうしいくらいにそろっていて

血のざらざらした感触はない

ああ、太宰治がなぜ自殺したのかがわかる

こういう感情は、こういう気持ちの人間にしかわかるまい

人間の感情が全部でいくつぐらいあるか知らないけど、

自分はそのうちの、いままで味わったことのない一つの感情を味わっている

もっと幸せを感じたい。もっと楽しみたい

もっと愛情をもらいたい。もっと愛情を与えたい

もっと暴れてみたい。もっと動きたい。

もっとすごくなりたい。もっと生きてる感覚がほしい

もっともっともっともっともっと

ちぇ、またミスチルに先をこされた。

そしてミスチルの教えてくれた解決方法は、答なんてどこにもみあたらないけど、それでいいさ流れるまますすもう。

流れるままいくと、俺は勉強もせず、遊びもせず、、、苦悩を続け、つまりは自殺

流れに逆らうと、俺はひいひい言って勉強して、遊んで、そして死

どっちにしろ 死 なんだな

寝てみるか

もう、レポートなんか放って、寝てみるか?

けいこを傷つけた。けいこから電話が来なくなった。

俺のせいだ。俺の小説のせいだ。

18の頃より、酷くなってる

20までに、ふっきれないと

ぐずぐずぐずぐずいっちゃうよ

ぐずぐずぐずぐずぐずぐずぐず

自虐・ナルシスト・マゾヒスト・自栄

普通、平凡、凡人、一般市民、普通、ふつー

5月11日

君は悪魔だ。

君はその小説を発表する事により、人を惑わせた。言葉は時には、凶器ともなりうるのだぞ。それを知ってか知らずか、あまりにも露骨な表現で、人の心をザラリと掻きむしった。なにが本心か! 君のいう本心などというのは、ただの「甘え」だ。君は現実の世界から目をそむけ、思考の上での高潔な世界に逃げているのだ。君のその「甘え」の理論によって、真に純真かもしれぬ人を困惑の世界に墜としこんだのだ。謝罪したまえ。君は君のその言葉を使って罪をなしたのだ。人の心にザクリと大きな傷をつけておいて、しかし法律では罰せられないという悪質な犯罪だ。

犯罪? 本心で向き合いたいっていう気持ちのどこがいけない?

自分でわからないようでは重症だ。君はひとり無人島にでも行って暮らすべきだ。君の思想が通用するのはそこしかない。社会で生きたいのならば「甘え」の思想を捨てたまえ。生活の為に嘘をつけないのなら、死になさい。もういいかげんに大人になれ。ファンタジーの夢物語は、無人島の世界だ。君のいう「本心」などを求めた者は精神病院に入れられるか、もしくは肥大した自分の苦悩に潰されて死ぬかのどちらかだ。幸せになりたいなら、その思想を捨てろ。そして二度と答えなど見つけようとするな。生活の為に働け。幸せはそこにある。無心になれ。物事に意味を見いだすな。どこにも結論はない。探すな。死ぬぞ。無心になれ。ただ単々と生きよ。

無心はいけません。判断の放棄です。

人は、迷いの中で絶望した時に恍惚とします。

恍惚とし、戦う事を諦めた時点で、あらゆる緊張から解放されます。

判断の苦悩から解放されること。

つまり、「諦め」を、人は「幸せ」と呼ぶわけです。

幸せ、とは、いわば死体の状態に近づく事です。

自虐、マゾヒスト、それは自殺の道。

自栄、ナルシスト、このような名文を書けるのは私以外に他はない。

どちらも否定された自分はどうすればいい? どこに道がある?

なぜ自ら道を2つに狭めるのですか。

どちらでもない道もあるはずです。その真中を行くのはどうですか?

あなたは機械ではないのだから、ON-OFFのデジタル思考はやめなさい。

ああ、○か×かしか考えられない自分は、現代教育の量産品かな、なんて、誰かに責任をなすりつけていないと、これ以上自分を責め続けたら、気が狂いそう。

君、それをやめろと言っておるのだ。そんな事考えて、生活に何のプラスになる?

さっきから言っておるだろう。無心になれ。ただ単々と生きよ。

でもね、頭じゃそれを理解しても、無心に単々となんて自分には無理。

この体がね、自分の中で燃える何かが、かきたてるんだよ。

このままじゃ、不完全燃焼のまま体を内側から蒸し焼きにして、そして朽ちていくような気がして恐いんだ。

おうおう、とうとう本音を言ったね。君。結局、老いるのが恐い、死ぬのが嫌だ。それだけじゃないか。でもね君、一つだけ確かな事を教えてやろう。君がどんなに老いを恐れ、死を恐れても、やがてそれはくる。そこが目的地だ。数学のようにどんなものにも、完璧な解答を求める君には辛い答えかもしれんが、そこが最終目的地だ。異論はあるかい? 旅行の旅路を楽しめない奴は、さっさと目的地に行けばいい。

人生を楽しめない奴は、死ね。

おお、いよいよ危ない思想になってきたぞ。自分の頭の中で、必死に生きる意味を見つけようとした結論がこれだ。滑稽でたまらん。ああ、たのし。ああ、たのし。

これ以上は、危険だ。もう、寝よう。

これはキチガイの文章だ。精神分裂症だ。医者にでも見てもらえ。

でもたぶん医者に行っても無駄なんだ。もうわかってる。

もう行き着く先はわかってる。

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手記はその日で唐突に終わっていた。

「やっぱりそうですよ。彼は死ぬ気なんですよ。」

若い警察官は、あわててフロッピーをパソコンから取り出した。

「いや、おそらく死ぬ気はないだろう。今ごろ一人旅にでもでて、

悦に浸ってるじゃないかな。捜索願いがでてることもしらずにね。」

「そうでしょうか。私は、はずかしながら少しこの文章に圧倒されるような、

彼が今にも死んでしまいそうな、そんな迫力みたいなものを感じたんですが。」

中年の警察官は、若い警察官の肩に手をのせて、はにかみながら言った。

「理屈じゃないのさ。理屈じゃ。」

残された手記

残された手記

大学時代の日記を、社会人になった後に小説にしました。太宰にはまっていたせいか、色濃く影響を受けています。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-28

CC BY-NC
原著作者の表示・非営利の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC