春の陽に

微かに残りし炭の火に

翳す手指の冷たさよ

待ち焦がれたる春の陽の

小川の水の輝きに

いざ渡らんと彼の人と

手を取り合いし温もりも

今では はかなき遠い夢


気まぐれな 芽吹き柳に吹く風を

慣れたこなしでうちやれば

運命も忘れ 水ぬるむ浮世の春に

この身をば 任せて浮かれて

ほろ酔いの 粋な文句の三味の音に

小判の雨降る笛太鼓 朧の宵の夢花見


明けて送りし大門の 振り向く影に心失せ

想いもかけぬ迷い撥 昇り詰めたる黒塗りの

花緒も重き足回し 秘める思いを胸底に

閉ざしたはずの浮世花 何を今頃 琴更に


灰に滲みし涙をば 火箸で隠して小春日の

開けし障子のその向こう 輝く春の陽 燦々と

遠き昔に変わらねど あの日と少しも変わらねど 



 

春の陽に

春の陽に

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-28

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