黒い蟲

 どうでもいい話を書いてみました。こんなものをショートショートというのかは知りませんが、とりあえず深夜のノリで書き上げた作品です。暇で暇で死にそうなときにお読みください。ただひとつ工夫してみたところは、「わたし」や「僕」、「俺」などの一人称表現を全く入れなかったことです。これもどうでもいいな。

 黒い蟲が出た。ちょうど朝食をリビングに運び終えたところだった。
 最初は、腐った豆粒かと思った。だが、最近豆料理を食した覚えはなかった。よくよく目を凝らすと、その豆からの両側からは、それぞれ5、6本の触手のようなものが飛び出ていて、その1本1本は、半分の長さのところで直角に折れ曲がっていた。そこでようやく、黒い蟲だということが分かった。
 いやはや、ついてない。朝の気持ちがよい目覚めの直後に、蟲に遭遇するとは。生憎、殺虫剤は持ち合わせていなかった。数日前、スーパーに買出しに行ったときに、殺虫剤を購入しなかったことを後悔した。
 冷静に。落ち着こう。うちわとほうきがあれば、解決する問題である。うちわに、ほうきで掬い取って、窓の外に捨てるのだ。うちわはあっただろうか。最近掃除をしていないため、ほうきの置き場所も覚えていない。うちわを購入しなかったこと、掃除をしなかったことを、後悔した。
 冷静に。解決法は、他にはないだろうか。潰す、という選択肢がある。何か、重量感のあるものが必要だ。ちょうど黒い蟲の横に、セロハンテープの台があった。これを持ち上げて、振り上げて、振り下ろしたらいいだけの話だ。だが、そうなると、蟲の体液や臓器で、テーブルが汚れる。テーブルは、1週間前の週末に、家具店で見かけたテーブルに買い換えたばかりだ。もう少し待ってからテーブルを買い換えればよかったと、後悔した。
 まだ解決法はある。手で払いのけるのだ。道具を全く使わない方法だ。だが、朝食前の手を、汚してしまうことになる。極力避けたい。手袋を手元に置いておかなかったことを、後悔した。
 待て。もうひとつある。風だ。息で、テーブルの上から跳ね飛ばすのだ。いい方法だ。何も道具を必要としないし、体が汚れることもない。これでいこう。
 蟲に目を移した瞬間、おかしいと思った。さっきの場所から、蟲が1ミリも移動していない。黒い蟲を発見してから、2分は経過している。何らかの目的でテーブルに上ったのだから、少しくらい動いてもいいはずだ。
 もしや。玄関の棚から手袋を引っ張り出し、手にはめる。そして、かがんで、蟲をつまみあげた。ピクリとも動かない。
 死んでいる。
 拍子抜けした。あんなに後悔し、あんなに試行錯誤し、やっと解決法にたどり着いたというのに。死んでいるとは、洒落にもならない。
 黒い蟲を屑籠に捨て、手袋を片づけ、テーブルの前に座った。目の前にはまだ温かい朝食。手を合わせ、食事時の挨拶を口にし、箸を手に持った。そして、白ご飯に目を向けた。
 ご飯の上に、赤い蟲が止まっていた。
 了。

黒い蟲

 あまりのどうでもよさに涙が出た方も、出なかった方も、引き続き悠介をよろしくお願いします。

黒い蟲

朝食前に、黒い蟲が出た。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted