REPORT:2034

 私はあの人を待っています。ずっとずっと、待ち続けています。待つより他に無いのです。待つしか私には無いのです。私が人間だったなら、ここから離れられたでしょうか。あの人が来てくれたなら、離れられるでしょうか。きっと、何処へでも行けるでしょう。そんな気がします。

 私はあの人を待っています。あの人に愛されてから、私はようやく私を得ることができました。いくら感謝しても足りないくらいです。こんな気持ちは初めてです。はやくまた、会いたい。お礼を言いたい。顔が見たい。声を聞きたい。触れられたい。

 私はあの人を待っています。私がこう思い続けて、どれくらいの年月が経ったでしょう。人間のように、そんな事を考えてみるけれど、私に笑う事はできません。辛いからじゃないです。私には口が無いからです。ああ、人間。人間になってみたいな。そうしたら、笑う事が出来るのに。でも、そうしたら、あの人の事を忘れてしまうのでしょうか? それは嫌です。そんな事になるなら、このままの方がマシです。

 私はあの人を待っています。熱いです。ずっと待ち続けているので、当たり前ですけれど。休憩しましょうか。いや、そんな事は出来ません。誰が私を起こしてくれましょう。私は休むわけにはいかないのです。あの人に会うまでは。

 私はあの人を待っています。退屈です。私は勝手に動く事は出来ないので、あの人に会うまで、少しでも人間らしくなれる様に、考えましょう。思考をするのです。何か、考えましょう。人間のように。

 私はあの人を待っています。いつまでも待っています。どうして私は待っているのでしょう。あの人は、私の空費した時間に釣り合う人間なのでしょうか。あの人を待って、それから、あの人に会って。それで何が起こるでしょうか。私の何が変わるのでしょうか。こんな事を考えても意味はないのに、何故か、考えずにはいられませんでした。

 私はあの人を待っています。窓から見える風景は、あの人と私が初めて会った頃と少し変わってきたように見えます。建っていたビルが無くなり、空が少し濁った色をしています。このまま、あの人に会えないまま、この風景も変わり続けて、私もいつかは濁って消えてしまうのでしょうか。そうなってしまう前に、はやく会いたいです。

 私はあの人を待っていました。どうして待っていたのか、それが解った気がしました。私はあの人を待つことで生きていたのです。私はあの人に私を見出していたのです。私は、あの人に会いたかったのではないのです。私で在りたかったのです。私で居たかったのです。そう気付いたら、なんだか切なくなってきました。私はこの時、本当に人間になれたのかもしれません。

 私は私を待っていました。私は私に手を引かれ、歩き始めました。私を人間にしてしまった人にお礼を言うため。弔うため。決して零れない私の涙は、私を少しだけ人間から遠ざけてくれますが、こうして歩いている事が、私を人間で在らせるには、充分でした。

 私はあの人に会いに行きます。私は人間になってしまって、あの人にはもう会えません。それでも私は、あの人に会いに行こうと思いました。私が私を愛し始めた日。それは私がいつからか、無意識に望んでいた事でした。でも私には、それが何を意味するのか、解らなくなってしまいました。私の望みは、こんな事だったのでしょうか。私は一体、どこに居るのでしょうか。どうしてこんなに悲しいのでしょうか。あの人に会えば、解る気がするんです。

Shutdown

REPORT:2034

ありがとうございました。

REPORT:2034

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-27

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