Life is Train


Life is Train



『毎日毎日あっち~な~ここは!』

『そりゃおめ~溶鉱炉だぜ!暑くて当たり前だろ!』

『そうだけどよ~、汗止まんねーよ!で、今日のモノは?』

『今日はその山だとよ!』

『あ?なんだこりゃ!?』

『なんかちょっと前に修道院で殺しがあったんだとよ!そこのガラクタがわんさかってわけよ!
ほら、こんなのもあるぜ!』

『わお!これなんか売れそうじゃね~か?西洋の甲冑だぜ?』

『ほんとだな!
って、うわっ!頭の方、血着いてるじゃねーか!』

『うっ!ほんとだ!さっさと入れちまおうぜ!』

『そうだな!』

こうしてたくさんの品々が溶鉱炉へ投げられた。

『これで最後か、ん?なんだこれ?うわっ、天使か、これ一番ひでーな。羽根が片方ね~し、血まみれだ。』


……
…………




Life is Train






カンカンカンカン、ガンッ!
ビーー~~~!!!

猛烈な機械音の中、僕は生まれた
T-2064系
それが僕の名前みたいだ。
これから沢山の人を乗せて線路の上を走る。
それが僕の存在意義だ。

『よし!試運転始めるぞ!』

これから線路に行って試運転を行うみたいだ。

ウィーーーーン……

ちゃんと走れるか不安だったが、僕の足は線路の上をしっかり走ることができた。
点検、テストに合格した僕は明日から人を乗せて走り出すことができる。
沢山の人を乗せ、ずっとずっと、どこまでも走り続けるんだ。

翌日、

始発前、今日乗る車掌さんが視察にやってきた。なにやら点検をしてくれている。
点検が終わり、
僕は真っ暗な車庫を後にしハツラツとファーストランに乗り出した。

車掌さんを乗せ、これから駅に向かう。
始めての太陽に身体が軋む。
ピカピカの身体に輝くエンブレム。
全てが希望に満ちていた。

ピンポンパンポン~

『~輌で電車が参ります。黄色い線までお下がりください。』


駅に着いた。

...
……
ザワザワ………ザワザワ……

あれ、どうしてだ、扉が開かない。
昨日の点検では上手くいったんだ。
でも、なんで
車掌さんが開閉のスイッチを操作してるのはわかるのに、開かない。

放送が流れた。

『誠に申し訳ございません。
この列車は故障の為回送列車とさせていただきます。
また、駅員が遅廷証明を配布しております。』

なぜだ。
昨日はちゃんと走れたのに。
ちゃんと扉も開いたのに。
なんで、
なんでこんなときに
こんなことになるんだ。

『なんだよこのボンクラ!
ふざけんなよ学校遅刻しちまったじゃねえかよ!
時間返せよ馬鹿野郎!』

駅で待っていた乗客たちが一斉に僕を蹴り、罵声を浴びせはじめる

こんなはずじゃ
こんな…はずじゃ…………

『誠に申し訳ございません。
発車いたしますので黄色い線までお下がりください。』

僕はゆっくり走り出し車庫へと戻った。

『なんで扉が開かないんだ!
早く点検はじめろ!』

怒号のように駅長が指示を出した。

『駅長!
扉を開くスイッチのコードがショートしてます!』

『そのせいだったか。よし、繋いでみろ!』

そう言って僕にビリッと電気が走った。
そして、

ガシャン!

一斉に扉が開いた。



『よし!
明日からまた再出発だ!』

やった。
これでまたあしたから走ることができる。
乗客たちを乗せて走ることができる。

『念のため他の場所も点検しておけ!』

そして、点検が始まった。

次の日、昨日の車掌さんがまた始発前の視察にやってきた。
なにやら今日は僕の足辺りを点検している。
少し痛かったが今日からまた走ることができる。
その喜びに僕は満たされていた。

エンジンレバーを倒し走り出す。
今日も太陽が僕を照らした。
昨日蹴られた後がはっきりとわかる。
でもそんなことはどうでもいい。
今日から僕はまた走り出すんだ。

駅が見えてきた。

……
…………
ん、なんでだ、
足のブレーキに力が入らない。
車掌さんは必死にブレーキを踏んでいる。
でも、ブレーキに力が入らない。

駅に入っても速度が落ちない僕を乗客たちは不思議そうな顔で見つめ、悲鳴を上げた。

次の瞬間


………
……キャーーーーー!!………

僕の顔は血だらけになっていた。
猛スピードで踏み切りに入ってしまい、踏み切りにいた人を何メートルも引きずってアクセルブレーキでようやく止まることが出来たみたいだ。

パトカーのサイレンが遠くで鳴り響いている。

誰かが僕の顔に着いた大量の血を拭いている。

そして僕はゆっくり車庫へと戻った。

『次は人身事故か…
どうなってんだよこの列車は……』

『駅長!
ブレーキが何者かによって壊された形跡があります!』

『なに!
事故じゃなかったのか!』

『ここです!
ここがハンマーで叩き壊されています!』

僕はなにも考えられなかった。
人間を轢いてしまった。
僕はどうなってしまうんだ。
どうなってしまったんだ…
……
……………
…………………

『…昨日発生いたしました、東阪線事故ですが、ブレーキを破壊したJE社員 『鬼堂 凌路 キドウ リンジ』 が先ほど、逮捕された模様です……』

『…遺族8名が…事故現場に、えー…献花…をしております…』

『…私たちはJEと鬼堂被告を許しません…』


『…中継、中継、一昨日の午前、5時ころ、ブレーキが効かず、踏み切りに突入した列車は踏み切りを渡っていた3人を轢いて100mほどのこちらで、停止しました。』

『…同事件ですが、当時運転していた鬼堂被告がブレーキをハンマーで破壊した模様。
鬼堂被告は、
『人が死ぬ様を目の前で見たかった。』
と、証言した模様…』

『次のニュースです。
先日殺人事件が起こりました修道院の……』


……
………

ジーーーーーー!
ガッ!ガガガガガガ!カンカン!!

『血がついたところは全部外せ!
錆びて使い物にならない!』

ジーーーーーー!ガガガガガガ!
カンカンカンカン!!!!
ジーーーーーー!

猛烈な騒音と熱さの中、僕は目を覚ました。

『いいぞー!
降ろせー!』

また怒号が聞こえる。
降ろせ?
どこに降ろすんだ
なん…なんだ…
あ…
あつ…い
熱い…
熱い、熱い……
熱…い、熱………い
あ………
…………つ………………

…………………………………

…………………………………………


フッ………



ここはどこだ、真っ赤な世界

遠くに白く輝く影がいた。

君は…誰?

『私はこれから新しく生まれる存在』

ここは…どこなの?

『ここは生まれ変わる世界
あなたはもう一度生まれ変わるの』

ん?
何を言ってるの?
僕は列車だ。
明日からまた走るんだ。
沢山の人を乗せて、どこまでも、どこまでも…

『あなたは死んでるのよ
人を轢いて、身体中に血が着いて、
錆びてしまうからここで溶かされてもう一度生まれ変わるの。』


ようやく自分の置かれている状況が理解できた。
僕はスクラップにされたんだ。
そりゃそうだよな。
人を轢いた列車がそのまままた走れるなんてそんなわけないよ…な
でも、さっき、生まれ変わるって……

僕、もう一度生まれ変われるの?

『そう。あなたは生まれ変わるべき存在。だからここにいる』

でも僕は失敗しちゃったんだ。
線路で止まれなくて、人を轢いちゃった。
僕はもう走ることなんて出来ないんだよ

『だからあなたは死んだの
でもね、もう苦しまなくていい。
あなたが悪いわけじゃない。
だから………』

そう言ってその片翼の影は僕を包み込んだ
熱い熱い溶鉱炉の中で
暖かく包み込んだ……

……
…………
…………………

ガガガガガガ!ガコッ!!
ジーーーーーー!!!
バリバリバリバリ!!


僕は猛烈な騒音の中、また目を覚ました。
NT-2064系
それが僕の新しい名前みたいだ。
また僕は走り出すことができる。
今度こそ、ずっと、沢山の人を乗せてどこまでも、どこまでも走るんだ。

真っ暗な車庫から出た。
光が眩しい。
僕の新しい体を強く照らす。
光り輝くエンブレム。


そこには…白銀の羽根のレリーフが刻まれていた…

Life is Train

Life is Train

人生は列車のようだ。 生まれれば誰もが強制的に線路に乗せられる。 そしてそれは自分の意志とは別に急に脱線させられる。 でも、人間であるが以上線路には乗らねばならない。 そして、この線路の上には思いがけないチャンスが転がっている。 人生とは皮肉なものだが、まっすぐ諦めない。 そんな、どこまでも走り続ける列車と自分を重ねて...

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-23

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