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百十五





 犬の大きな身体を撫でて,結局抱きしめるまでをした。目の前の果物を食べたい気持ちに犬は低くしていた首をつんと鼻先まで伸ばしたいような動きを見せて,芝生の中をほんのちょっと前に踏みたい素振りはみせている。膝のあたりの石は多分小さく,拾えるものと同じような数が二つ,三つと地面の近くにあったようだった。細くチクチクする芝の感触は動かない。庭園の名前を教える意匠を凝らした入り口の大きなものから,私たち以外の訪問者の少なくない数を迎える名前,風が強かった日を思わせる傘の骨組みとそれを片付ける人が持つ装飾品の(たぶん懐中時計の)揺らめき,会釈で済ませる挨拶,それから持参してきたカゴの持つ手のまとまった軋みまで,繋がって思い出せる。間は犬を先に行かせた。だから私は後からついて行くような形になった。低く木の葉が積もっていて,見れば奥の方へと向かうほどにその状態は顕著だった。飛び石を跳んで来たように一箇所が手で払ったように何もなく,外に全部が置かれていた。その場にしゃがんで私たちもそうする。落ち葉数枚に折れた枝つきが目立った。それからまず摘み,断面はまだそのことに気付いていないように生きていて,犬は側から嗅いでいた。私は代わりにそこを引っ掻いた。外に置いて,それから払った手をもう一度払った。ミドルネーム。それから末尾と先頭の文字。
 動かない時間が過ぎて行く。
 どちらの膝にも丁度あたる石の感触は立ち上がって暫く消えなかった。それから飼い始めの頃の感覚を思い出す。つくりの違いに戸惑いを覚えて,力強さを覚えるには回数を重ねなければいけなかった。手を回す,あるいはからかわれる。それから鼻を突き合わせてもう一度。試みに,「こんなもの?」と言ってみて。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-22

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