妹が壊れた話・2
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夜中に目が覚めると妹が得体の知れないものになっていた。
まるで幼児退行したかのような妹と遭遇した後、ここ数年では考えられないような笑顔を浮かべながら僕に遊んで強請ってきた。
そのやりとりだけで、これまで10年でした会話量を軽く超え、僕を混乱させた。
妹は煩いくらい僕に話しかけてきた。
「なんてなまえ?」
「ふーん、ケイくんっていうの」
「なにかおもしろいおあそびはないの?」
妹は夜中という時間にも関わらず騒がしく捲し立てる。
この得体の知れない生き物をどう扱っていいかのかわからず、僕は言葉を詰まらせながら妹の入れ替わり立ち廻り出てくる言葉に、戦々恐々となりながら口数少なく対応した。
妹は夜中であるのに眠たくないと宣い、退屈だから僕に遊べと、十分ほどのマシンガントークで言ってきた。
回りに回った内容を要約すると、一緒に遊べということだったが僕は冗談じゃないと思った。
どうして同じ空気を吸っていることに苦痛を覚える存在である妹とこれ以上一緒にいるなんて・・・。
いくら明日、仕事が休みだからって、こんな最悪なことに巻き込まれるなんて。
「い、いやだよ」
「なんで?! なんでユイとあそんでくれなの?!」
「う、煩いって、静かにしろよ・・・! 何時だと思ってんだよ?」
「あーそーんーで!」
「わかったから、静かにしろって!」
声の音量調節ができない子供のように叫く妹に僕は仕方なく折れた。
すると妹は僕が了承すると、満面の笑みを見せた。
10年近く見ていなかった妹の笑顔に僕は本気で震え上がった。
誰だ、こいつ・・・。
妹の外見に、宇宙人に中身だけ別人に変えられたのではないかとしか思えない。
僕は、1mの範囲内に躊躇なく入り込んでくる妹から慌てて距離を空けようとした。
が、妹が動く度にぽたぽたと滴り落ちる髪からの水滴の存在を思い出す。
「お前、この頭どうしたんだよ」
「あたま?」
「濡れてんじゃん」
「しらない」
そう言い切る妹に、僕は内心、知らないじゃねーだろ、と言いたくなるがどうせ言ったって今の妹には理解できないような気がした。
僕は妹を少し待たせると仕方なく洗面所からタオルとドライヤーを持ってくる。
「ほら、先に乾かせよ」
「んー」
妹はそう生返事をするものの、タオルを広げたりドライヤーに触ったりするものの髪の毛を乾かそうとしない。
「さっさと乾かせよ。風邪引くぞ」
「んー。あそぼーよ」
「・・・」
身嗜みにかなり力と時間をかける妹に有るまじき様子だ。
その様子に僕は唖然となる。
けれど、この引き上げられた水死体のように水を滴らせる妹を放置しておくことができず、仕方なく、仕方なくタオルで妹の髪を拭き始める。
妹の髪に触るなんて考えられないことだった。
まずは髪の水分を落とそうとタオルを動かす。
今まで女の髪なんて触ったこともないのにどうやって扱っていいのかわからず手を動かすが、髪を引っ張ると妹は「いたい!」と悲鳴をあげた。
「あッ、わりー・・・!」
「やさしくしてよ!」
「・・・はい」
まるで我侭なお嬢様の相手をさせられているような気になってくる。
僕は手の力を抜いて、できるだけできるだけ丁寧に妹の髪を乾かした。
ある程度の水気がなくなるとドライヤーで髪を乾かし始めたのだけど、鼻歌交じりにドライヤーを当てられている妹に僕は血の気が引くような思いだった。
目の前にいるこいつは誰なんだ。
だけど誰も答えを出してくれない疑問に頭痛を覚えながらこんな妹の相手を朝までさせられることになった。
妹が壊れた話・2