空想の時計塔

Clock1.出会い

チクタク、チクタク・・・
心地良い時計の音、どこかで聞いたような時計の音。
どこで聞いたのだろう・・・?
ただひとり佇むボク。
目の前には固く閉ざされた扉。
この先には・・・なにがある?

 ボーン、ボーン・・・
ボクの耳に入ってくる心地良い低音。
夢・・・?
よくわからない夢だ・・・
この天候も影響しているのか?
 街はここ最近厚い雲に覆われていた。
しかし、暗いわけではない。明るい。
厚い雲に覆われているから、普通は暗いのだろう・・・
だけど、明るい。
光がどこから入っているのかもわからない。
ずっと朝のような明るさ・・・
昼時みたいにジンジンとした暑さはない。
爽やかな風と優しい光。
この街に何が起きているのか、ボクにはわからない。
不思議だ・・・。

 「みゃーん」
目の前に真っ黒な猫が来る。
いつも通りの光景、のはずなのに、何かが違う気がする。
 『オルヴェ・・・、おはよう。もう少ししたらご飯をあげるよ』
そう言ってボクは戸棚から、キャットフードの箱を取り出す。
オルヴェもこの天候で、眠いのだろう・・・
窓辺でウトウトとしてる。
ボクは寝ぼけ眼をこすって、オルヴェのために取り出したキャットフードを皿にいれる。
 『はい。ゆっくり食べるんだよ?』
 「みゃん」
いつもの光景・・・のはずなのに・・・。
何かが違う。何が違う?
ピカピカに磨いた靴はちゃんと置いてあるし、昨日読んでいた本だってサイドテーブルに置いてある。
でも、何かが違う。
 「みゃーーん・・・」
 『早いな・・・。ゆっくりたべろって言っただろ?』
ボクは小さく微笑んだ。
 「みゃん」
オルヴェもそれに答えるかのようにボクを見つめる。
なにもおかしくない・・・はず

そういえば、バターがなかったな・・・
今日は、買いだしかな?
 「フシャーーーー!」
ボクが考え事をしていると、オルヴェの唸る声が聞こえた。
・・・何かあったのか?
 『オルヴェ?』
いつもの窓辺。
ゴロゴロと寝転んでいるはずのオルヴェ。
その窓辺には、オルヴェとは対極の真っ白な猫。
だれかの猫か・・・?
 『どこからきたんだい?』
ボクは白猫に問いかけた。
答えるわけないんだ・・・
わかってる。だけど、そのときは自然とはなしかけてしまった。
 「にゃーん・・・」
オルヴェのお気に入りである窓辺を占拠した白猫は、首輪はしていなかった。
だけど、すごく毛並みも良く、野良とは思わないほど綺麗だった。

 「すまない。それは私の猫だ」
 『そうかい。よかった。迷い猫かと思っていたところだよ』
え?・・・誰だ?
まるで、今までずっとそこにいたかのように佇んでいるのは少女だった。
年はいくらも変わらないだろう・・・
 『なんで、ここにいる!?ボクはここに入れたつもりはないぞ!?』
 「なんでここにいるか?そんなの決まっている・・・
  キミが望んだから」
 『望んでなんかないぞ』
ボクが・・・望んだ?
どこをどうして、そうなったんだ?
 「ああ、そうだったね。正確に言えば、
  キミが、《望む》んだった」
 『え?』
ボクにはわからなかった。
望む?これからのことか?
ボクはこれからも望まないし、望みたくもないものだ。
 「まあ、そのうちわかるよ」
 『わかりたくもない・・・』
 「なんだって?」
 『あ、いえ・・・なんでもないです』
偉そう。
第一印象は最悪だ。
いったい誰なんだ・・・?
僕にこんな知り合い・・・
 「わたしは・・・《ファンテジー》」

Clock2.視える人

《ファンテジー》そう名乗った彼女はボクを見て、クスリと笑った。
失礼なやつだ・・・初対面に対して笑うなんて。
ボクは多分、こう言う奴は好きになれない。
 「キミの名前を聞いてなかったね。教えてくれるかい?」
 『なんで、キミに教えなくちゃいけないんだ。今回限りの付き合いだ。キミに教えたって個人情報の流出だ』
 「まあ、そんなこと言わずに・・・ね?」
しつこい・・・
初対面なのに、この態度。
好きになれないんじゃない・・・嫌いだ。
 「なんで教えてくれないの?いけずだなあ。はやらないよ?」
 『流行らなくて結構だよ。その子(猫)を探しに来たんだろう?見つけて捕まえたなら、早く帰ってくれ。ボクは 街にバターを買いに行かなきゃいけないんだ』
 「バターなんて何に使うのさ」
 『何に使うって・・・、そんなの、パンに塗るんだろう。そんなこともわからないのか?』
早く帰って欲しい。というか、早く帰れ。
この部屋に異物がある時点でボクは嫌なんだ。
 「ああ、わからないね。わたしはなんでも知ってるわけじゃない」
 『誰しもそうだろう?完璧な人間なんていないんだ。それはボクも知っている。だけど、バターを何に使うのかなんて、みんな知ってる』
 「ああ、確かにそうだ。完璧な人間なんていないし、なんでも知っている人間もいない、だけども、キミのことはなんでも知ってるよ」
 『は?』
・・・ボクのことはなんでも知ってるって?
なんで、こいつはボクのことを知っているんだ?
ボクはこんな奴のこと知らないし、知りたくもない。
まさか・・・、不審者?ストーカー!?
 「キミは、この街に生まれた特別な存在」
 『ボクが・・・特別なそんざい・・・?』
今まで普通に暮らしてきたボクが、特別って・・・なにかの間違いなんじゃないのか?
ボクは一般人だ。
 「だって、ほら。私が見えてる」
 『?』
 「買い物に、ついて行ってもいいかい?」
 『なぜ?』
 「なぜって・・・、キミが特別だということを自覚させることができる」
ボクが特別なんてありえないんだ・・・
いいだろう。証明でもなんでもかかってこい。
ボクが特別なんてことはないんだから・・・。

 「やあ、今日もバターかい?」
 『ああ、バターを3欠ほどくれないか?』
 「一人で暮らしていて、そんなに使うのか・・・?何に使うのか、興味があるな」
 『いや、ただパンに塗って食べるだけだ』
 「にしても、消費量が多いな・・・。ああ、パンに塗る量が多いのか!」
ガハハと笑う店主。
まるでボク一人で買い物に来ているみたいに話す。
なんで気づかないんだ・・・?
真横には、彼女がいる。触れるし、話すこともできる。
でも、店主には見えないかのようだ・・・
ボクにだけ、見えているかのよう・・・。

 「これで分かっただろう?私が見える時点でキミは特別なんだ」
 『ああ、わかったよ。だけど、ボク以外にも見える人はいるのじゃないか?』
 「いるとも」
 『じゃあ、そちらへ行ったらどうなんだ?』
 「この街にはいないんだ。この街の視える人はキミだけだ」
わけがわからないよ・・・。
ボクにだけ見えるって・・・まるで化物じゃないか。
 「あ、ちなみに、わたしは存在を薄くしているだけだから、実質、そこにはいる」
 『は?じゃあ、キミは能力者とでもいうのか?』
 「物分りがいいね。そういうこと。私たち能力者の能力が無効化される人間。それがキミ達、《視える人》だ」
彼女はそう言ってにこりと笑った。
まあ、笑顔は可愛いだろう・・・
 「私たち能力者は視える人をパートナーにしようとし、戦い、妬み合う」
 『それで、パートナーになったら、なにかあるのか?』
 「ああ、パートナーになると、相手の能力が視えるから、強くなる」
 『それって、結局自己のためだろう?』
 「そうだよ」
・・・くそが。
腐ってる・・・
なんなんだ。視える人って・・・、こんなやつの茶番に付き合ってられるか・・・
ボクは彼女を置いて帰ろうとした。
 「あーあ、だめだよ!キミは私に守られていないと・・・」
 『はあ!?なんでキミに守られなくちゃいけないわけ?!ボク、狙われるようなことしてないんだけど!』
 「視えるだけで、狙われる。馬鹿でない限りわかるだろう?ほら、もう来た」
 『え?』
気づくとまわりには何人かの人間。
だけども、あきらかに様子がおかしい。
目が・・・青い。
 「ねえ、キミ。私の後ろに居てよ」
 『え?』
 「私はキミを守りに来た。これでどう?キミにプラスのことしかないだろ?」
 『胡散臭』
 「ははっ、だろうね。私だって、こんな仕事辞めたいよ」
 『やめればいいじゃないか』
 「そんなことにもいかないんだよ。キミは考えが甘いんだね」
・・・むかつく。
こんな奴に守られるなんてたまったもんじゃない。
まずだよ?
ボクは男なのに、なんで女の彼女に守られなきゃいけないんだ。
ダサいだろ・・・そんなの。

空想の時計塔

空想の時計塔

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-21

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  1. Clock1.出会い
  2. Clock2.視える人