ビジグソ・ビジネス 〜フンコロガシ独占インタビュー〜

ビジグソ・ビジネス 〜フンコロガシ独占インタビュー〜

――本日のサムライ・ビジネスエクスプレスは、フンコロガシ・インターナショナルのCEOをスタジオにお招きしております。お忙しいところ、どうもありがとうございます。

フンコロガシ「いえいえ、こちらこそ、光栄です」。

――まず最初にお尋ねしたいのは、フンコロガシさんが、今この時代に糞を選ばれた理由について、なんですが――。

フンコロガシ「その前にまず、糞というものに、どういう印象をお持ちですか?」。

――糞、ですか。えー、そうですね、生物が栄養を摂取した後、身体から排出するものですよね。

フンコロガシ「つまり、排泄物。汚物。皆さんけっして、糞にいい印象をもっていらっしゃらないと思うんです。だけど、ぼくはある時、こうも思ったんです。糞って、本当はものすごく大切なものなんじゃないのかな。糞って、本当はものすごく大切なものなんじゃないのかな、って」。

――なるほど。思わず二回繰り返されるほど、大切なこと、ということですね。ええ、よく分かります。生きている以上、どうしても切り離せないものですよね。

フンコロガシ「糞をよく観察することで、様々なことを知ることができます。その日の身体のコンディション、胃腸の健康具合。糞の存在は、私たちにとって誤魔化すことのできない生命の記録のようなものではないのか、と」。

――よく見てみることで、あらためて気づかされることも多いですね。

フンコロガシ「しかしながら、糞というのは忌み嫌われる側面もあるわけです。あらゆる場面において登場することが許された存在ではない」。

――食事のときや、かしこまった席などでは、話題とすること自体がタブー視されています。

フンコロガシ「そうです。たとえば、そういった席で微笑ましいエピソードなどは話題にのぼっても、喜んで糞の話を切り出す人はいない。糞というのは、常にマイノリティな存在である、とも言えます」。

――そんな糞をですね、フンコロガシさんが転がすことになったきっかけについて――ぜひ、そこをお伺いしたいのですが。

フンコロガシ「それはまず、一にも二にも『日本を元気したい』ということですね」。

――なるほど。日本を元気に。それは素晴らしいお考えですね。

フンコロガシ「我が国を襲った未曾有の災害。環境汚染。そして経済の破綻。今の日本の置かれている状況を考えた時に、自分にできることはなんだろう、と考えました。なにせ、私どもはちっぽけな存在です。甲虫類コガネムシ科タマオシコガネ属・スカラベとして、できることは限られているかもしれないけれど、なにかやりたい、そういう気持ちが強くわき上がった」。

――日本中から集まったボランティアをはじめ、そういった方々の思いが現在の我が国を支えている、とそんな気がしますね。

フンコロガシ「ある一流企業の社長は、被災地に義援金を100億円寄付したといいます。それに比べて私たちには寄付するような財産もありません。恥ずかしい限りですが、コガネムシ科とは名ばかりなもので……」

――いえいえ、なにをおっしゃいますやら。

フンコロガシ「そんな名ばかりの私どもにも、ひとつだけ、できることがあった。それが、糞を転がすことです」。

――日本の危機的状況に、使命感を新たにした、という解釈でよろしいでしょうか。

フンコロガシ「まさしくその通りですね。糞――汚物とされるそれを転がすことで、少しでも社会のお役に立ちたい。みんなが嫌がることをやる、っていうのは並大抵のことではありませんよね?」。

――ええ、ええ、まさにおっしゃる通りです。

フンコロガシ「当然、私どもも、種が違えど、皆さんと同じ生きものです。それを生業にしているとはいえ、体調が悪いときや、気分がすぐれないときもある。『どうしても糞に触りたくない』とそんな日だってありますよね? どうですか」。

――想像するしかないところではありますが、あると思います。私、実はお酒――特にワインが大好きなのですが、飲めない日というのはありますから。

フンコロガシ「においを嗅いだだけで『うっ』となるときもある。洗面所に何度も駆け込んだ朝もあります。だけども、そんなとき、自分に言い聞かすのです。フンコロガシが糞を転がさなくて、何がフンコロガシですか! 何がフンコロガシですか!」。

――またしても二回続けて言われるほど、熱い思いがそこにあると。そこまでフンコロガシさんを奮い立たせたものというのは端的に言うとなんでしょうか?

フンコロガシ「とにかく人助け。これが第一やね。それとあと、社会貢献。この二つが僕のなかの宝物やね」。

――なんで急に大阪弁になられたのか分かりませんが、そういったこう、なんと表現すればいいんでしょう、普通の人が考えるよりもずっと気高い目的というか――。

フンコロガシ「崇高な使命」。

――あ、それです。まさに。崇高な使命を、糞を転がすことに感じられたということでよろしいでしょうか。

フンコロガシ「お金もうけやないんです。お金は二の次なんです。だいたいアンタ、お金のこと考えて糞、転がす人がいますか? 会ってみたいわ! 逆に」。

――聞いたことがないですね。いや、いないと思いますね。そういう人は。

フンコロガシ「お金ちゅうのはね、ま、そらわてかてお金ほしいよ(笑)。さっきはあんなこと言うたけど。本音でいうとな。わたい、お金大好き。札束を数えるのが趣味でんねん。お金が嫌いな人っちゅうのは、ま、いっぺん会ってみたいなあ。よっぽどよう出来た人やと思うけど。少なくとも私はそういう聖人のようなモンとはちゃいますさかい」。

――もう、完全に大阪弁になりましたね。

フンコロガシ「せやけど、ね。わたいお金大好きですけど、お金だけではどうにも収まらん、解決できん心の部分ってある思います。今回の災害に関してもそう、まあ通常やとわたいら、一個の糞を転がして8800円ほどもろうてますけど、被災地でその商売やるのかというと、そんなわけにもいかんでしょう」。

――職場を失い、住むところを失い、財産をすべて失った人もいらっしゃいます。

フンコロガシ「押しつけがましく被災地へ出向いていって、じゃあ、わて糞転がしますんで、お代はこっち置いといてください、てそんな! 相手は何もかも失っている人でっせ。そういう商売は最低やと思います」。

――では、フンコロガシさんは、現在無償でやられている、と。

フンコロガシ「いや、無償、っちゅわけにはいかん」。

――はい?

フンコロガシ「無償というわけにはいきません、こっちもわざわざ危険を冒して現地まで出向いて行ってるわけやから。人件費もこれ、馬鹿にならんし」。

――では、格安でそういったサービスを提供されている、ということですか?

フンコロガシ「そうやね。まあ特別価格ではやらせてもらってますけどね」。

――おいくらでしょうか。

フンコロガシ「ズバリ、7480円やね」。

――これは素晴らしい。通常8800円のところが、なんと、7480円! ……7480円?

フンコロガシ「これはもう、しっけつ大サービス。期間限定15%オフ。普段は、ここまでの割引はないよ。だけど、こういう状況やと、そんなこと言うてられやしまへんやろ。実際、現地では皆さんに大変喜ばれとります。仮設トイレの数も足りてない状況ですからね。我々がそこいらに落ちてる糞を転がすことで、衛生面においても役立ってると、そんなお言葉を頂戴することもあります。ただまあ無料でやってもらえると思ってるあつかましい客も中にはいてますけどね。ごく一部やけど。そういう人らに私どものサービスを説明すると、ウンコを見るような目で見られます」。

――誤解をされることも多い、と。

フンコロガシ「まあ、フンコロガシなんてやってると誤解の連続ですわ。そういう宿命やと思ってます。たまに、わけのわからんおっさんに『趣味でやってんのか』言われるときありますからな。だれがそんなもん、趣味でババ転がします? そんなコミュニティ、ミクシィで見たことあるのんか!」。

――あくまでも、ビジネスでやっていらっしゃると。

フンコロガシ「ええ、ビジグソビジネスです」。

――ところでフンコロガシさんは、どういった交通手段で現地にまでいらっしゃってるんですか?

フンコロガシ「私どもには羽がありますからね。飛んで行くのが一番手っ取り早い。渋滞につかまる心配もないし。なにぶん遠いけれどもね」。

――では、自らの羽を広げて、現地まで飛んで向かうと。それはさぞかし大変でしょう? 

フンコロガシ「大変? いやいや全然、大変なことはおまへん。家族と離別し、寝食すらままならん生活を送ってる方々のことを考えると……グスッ、あ、すんません。ハンケチ貸してもらえます?――日常すら剥奪された彼らと比べたら、僕らの大変さなんて大変のうちに入らないですよ。怒られますよ、そんなん言うてたら! どんだけ時間がかかっても、気持ちで向かわさせてもらいます」。

――そこまでして、現地に、サービスを届けたいと。

フンコロガシ「サービスを届けたい、という表現が正しいかどうかは分かりません。ただ、おこがましい物言いになるかもしれんけれども、皆さんとちょっとでも『痛みを分け合いたい』っちゅうかね」。

――そうやって、ありったけの力を振り絞って、飛んで行かれるわけですね。いやあ、なんか、いいお話ですね。そういった思いが向こうの方々に伝わるといいですね。

フンコロガシ「まあ、最近はもっぱらヘリを使ってるけどね」。

――ヘリ? どうしてまたヘリコプターを?

フンコロガシ「チャーターやチャーター。ヘリを一台借り切って移動してる。今は事前に申請したらどこにでも離着陸できるから、目的地までピンポイントで行ける。いくら道が塞がってても関係ない」。

――現地までヘリコプターを使う、という方法は、どういったところから思いつかれたのですか?

フンコロガシ「それについては逆に質問するけれども、アンタ、ビジネスで一番大事なことってなにか知ってますか?」。

――ビジネスで一番大事なことですか? 難しい質問ですね。たとえば――ブランディングとか、そういったことでしょうか?

フンコロガシ「それも大事なことやね。我々、フンコロガシ・インターナショナルには、『糞を転がす』というはっきりとした目的がある。それを我々もお客さんも認識してる。まあ、端的にいうとこれがブランディングですわな。うちとこのCM見たことありまっか? イメージキャラクターに起用してる砲丸投げの室伏選手が、馬糞をアンドロメダ星雲にまで放り投げるっていうCM。我々のサービスが、いかに遠くにまで届けられるか、ということを現してるんや。そういったことを消費者に伝えていくのもこれ、必要なことです。しかしながら、イメージだけでは食っていけないのも事実やから。私はね、ビジネスにとって一番大切なのは、効率やと思ってる。『時は金なり』とこれ、昔の人はええこと言うた。1時間で終わる仕事が30分で済ませられれば同じ時間で倍の仕事ができる。15分やと、4倍。効率性はビジネスそのものを加速させる。我々の場合はまず現地に着かんと話にならんから、いかに現地に早く辿り着けるか。ここが勝負を分ける。精神論やないんです。だから、どんな方法を使ってでもライバル会社より早く着く。そうすると、必然的に仕事も早く終わる。早く仕事が終わったら、早く家に帰れるやろ。そこで、家族との団らんの時間が生まれる。私はそんな当たり前の日常生活こそが、大事なことやと思うとります。オンとオフの切替が上手な人は仕事もできる。ええ仕事したあとは、奥さんの手料理を食べ、子どもといっしょにお風呂に入って、温かい布団で川の字になってぐっすりと眠る。家庭って、ええなあと心底思いまっせ。そうやってオフを充実させることが、明日への活力につながる」。

――なるほど、時間を有効に活用するために、現在は、ヘリを利用していると。ビジネスパーソンにとって、この先、空中移動というのは、新たな選択肢となりえるかもしれませんね。

フンコロガシ「巷で叫ばれているように、無責任に『頑張れ』なんてよう言いません。けど、同じ気持ち、同じ立場になって痛みを分け合うことならできる。みんなで、ちょっとずつ、分け合ったら、痛みはちょっとずつになるんです。そのために、できるだけ早く同志に『真心』を届けたい。そんな思いで我々、フンコロガシ・インターナショナルは駆けつけてます。 ヘリで」。

――なるほど。ヘリで。

フンコロガシ「ええ、ヘリで」。

――その思い、皆さんに届くといいですね! では最後になにか、この番組を見ている方にメッセージがあれば、どうぞ。

「今フンコロガシの世界では、後継者不足が深刻です。我が国の伝統の技であるフンコロガシの技術を絶やさないためにも、この放送を見て、フンコロガシに興味を持った方は、私どもに連絡をください。我こそは、糞を転がすぞ、糞を転がすことで、飯を食っていきたい、ま、もっとも僕らウンコそのものを食ってますけど(笑)、これからのフンコロガシ界を担う、ワンパクヤングパワーにぜひ期待を――」。


 そのとき突然、空間が激しくシャッフルされた。甲高い音を立てて照明が次々と割れ、無数の悲鳴が暗闇で渦を巻く。テーブルや椅子、マイク、花輪は天井に当たった粉々に砕けた。声を上げる間もなかった。フンコロガシとインタビュアーはもつれあって激しく壁に激突し、水風船のように炸裂した。一瞬のうちに窓の外で朝と夜とが何度も目まぐるしく入れ替わった。
 巨大なフンコロガシが、とてつもなく大きい後ろ足で、地球を転がし始めたのだ。

ビジグソ・ビジネス 〜フンコロガシ独占インタビュー〜

ビジグソ・ビジネス 〜フンコロガシ独占インタビュー〜

なぜ、今この時代にフンコロガシは糞を転がすのか。糞を転がさなければならなかったのか。フンコロガシが自らの使命を語り尽くす独占インタビュー。

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-12-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted