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百十四




 双子の間に川が流れていればいい。勢いつけて一跨ぎで「対岸」に渡れる程度であれば,どちらも寂しい思いもしなくて済むだろうし,お菓子をどちらが食べただとか勝手に小物を借りただとかで顔を見合わせたくないときでも,手を伸ばしたり,ねえあれ見て?と注意を促したりすることは出来る。迷い込んだ魚だって釣れるかもしれない。釣れるかもしれないというより,手掴みした方が早いかもしれない。そのときは綺麗な水の中で小石にちょいと気を付けながら,裸足になって下流に向かって来るのを待ち受ける。網は,ここらの近所で見かけたことがないから勿論持って来ることは叶わないし,小屋から勝手に借りてくるわけにはいかないと思う。足下が濡れるのを嫌がる双子はそんな時に川を覗き込むためにしゃがんで,綺麗な水にそっくりな姿を均等に写すだろう。髪をかき上げる仕草を順番にすることで時間というものを演じてみせ,「それを取って。」という同じ望みを抱いて伝えて待つことで,山向こうから来る流れを囲む雑草が風に吹かれる世界を元に戻して行く。捕まえ損ねて,あるいは銀色の鱗が冷たい飛沫を特に僕に浴びせかけたら,驚きと笑い声が次々に重なり,地面を走って,下流へと影を追いかける。空っぽのバケツは蹴っ飛ばされて,青い内側を底まで見せる前に正面に建つ古い塔の変わらない様に向けて,小さく小さくなっていく。雲は大きく背後を通り,また大きなものを引き出す。丸みを帯びていると聞いた草原の向こうのところまで,一人と一人が遠くなっていく。
 靴を持って,駆け抜けていく。
 小屋の中で,逆さまの鞍をひっくり返して金具を探し,見つからないことを知らせに扉に向かった。ボール遊びをするのに良い所と代々教えられた,家を形づくるポーチまでの木板並びのどこかには藁をかくためのフォークが寝かせてある。転けずにその柄を飛び越えてから,ポーチを挟んで反対側の牛乳瓶が詰まった箱を開ける前に馬は来て,客人を迎えるためにポーチは開いた。二人居た。いいや,三人居た。陽に輝く髪はともに短くて,朝は一段と早かった。パンと果物と牛乳の簡単な朝ごはんを済ませてからは後片付けに時間がかかり,窓の外を眺めて,金具の場所を聞いて,先に外に飛び出してからはボール遊びをするのにボールが足りなかった。藁の匂い,それから鞍をひっくり返して逆さまにする。小屋の天井には名前がなくて,寝転ぶには丁度良かったんだった。
 長い長い道の続き,角を曲がって家路を急ぐのはまだまだ先の話。地面を走って,飛沫をあげる。建っている古い塔は変わらずに青い世界に目をしばたたかせ,雲は大きく,バッタが水面を跳び超えている。川は流れていればいい。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-19

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