森の

森の

森の

森と言ってもジャングルのようだ。友達四人と市内に行った帰り道、ちょっと行ったことのない道を選んで歩いてみるとだんだん周りが緑に埋め尽くされた。見たこともない真っ赤な植物、二mぐらいの羽を羽ばたいて上空を通過する大きな鳥。最初はふざけて「なんだここ!」と、叫んでいた私達だが、だんだんと恐怖心が湧いて来た。小川も流れていなくて、水の給水もない。植物と植物との距離が近すぎて上手く歩けない。何より湿気が凄く、腕時計の温度計を見てみると五月の上旬というのに36度前後もあった。そして、とうとう帰り道がわからなくなった。
「どこに行くんだよ!」
初めて声を上げた仲原に皆が驚いた。
「知らないよ…」
私は前を向き、再び歩き出す。皆もついて来ている。果たしてここはどこなのか?日本にこんなところあるのか?こんなに変な気候もありえないし、こんなわけわからない植物なんて生えてるはずがない。方向がわからない私達はただひたすら歩くしかなかった。足音が消えたことに気がつくと私一人になっていた。
私は怖くなって全速力で走った。こんなとこにいつまでもいたら死んでしまう!ここは危険だ!

いつまで走っただろうか。出口は一向に見当たらなかった。時計の短針は11を刺していた。お腹も空いたし、汗もだくだく。目の前は真っ暗でどこにいけばいいのかわからない。私は走るのをやめ、その場にへたれこんだ…
すると、目の前が一瞬光ったように見えた。本当に微かな光で見えたのもあいまいだけど、見えた気がした。その方向にゆっくりゆっくり歩いて見ることにした。もう体力はそこまで残っていない…。しかし、一歩に力をいれてしっかりと歩いた。頑張った。


寝ぼけた朝の午前六時。今日は朝市があるから朝早い。目をこすりながら彼女の様子を見た。
「大丈夫かい?」
外の草木が容赦無く窓から入り込んでいるきしんだ部屋に彼女は柔らかい草木の布団に寝込んでいた。

「昨夜はありがとうございました…!」
そう私は言うと何匹の蚊をはらいながらおばさんは笑った。
「あんなところで倒れてるもんだからねえ。よくここまで歩いたわねえ。」
昨夜は意識がなかった。光を目の前に倒れこんだ。目の前にいたのはおばさんだった。光の正体は懐中電灯で、
「よくがんばったわねえ。」
と、呟き、気絶している私をひょいと抱えて右手に私を、左手に人参、キャベツ、白菜をめいいっぱい抱えて古びた家に帰っていったらしい。もしあの時少しでもあの光に足を運んでなかったら恐らく飢え死にだっただろう。おばさんには感謝だ。
「とりあえずご飯でも食べんさい。私も何年も一人で暮らしてるもんだから淋しくてねえ」
おばさんにはかなわない。あんなに良い笑顔をされたら断る余地もない。
「すみません。いただきます。」
なまった体は匂いに引き寄せられた。ほんのりとした甘い香りがただよってきた。机の上にはクリームシチューがおいてあった。新鮮な野菜が勢ぞろいで野菜の甘みもただよってきた。元々野菜嫌いな私だが食欲をそそる、優しい匂いだった。
「いただきます。」
口にいれた。ほんの少し熱かった。しかし、野菜の新鮮さがシチューの柔らかい甘みに上手くマッチして冷えた体を優しくほんのりとあたためていった。
「どうだい?」
おばさんが歯並びの悪い歯を見せてニカっと笑った。
「美味しいです。」
「そりゃ良かったわぁ」
そういうと調理が終わったのか、おばさんも椅子に腰掛けた。私は夢中になってシチューを食べ続けていた。


「おい!」
微かに声が聞こえた。
「おい!恵!」
ハッと目を開けた。目の前には父さんが立っていた。周りにはよく見えないが友達が集まっていた。仲原の姿もあった。
「良かった…。お前があの空き家に避難してたからなかなか見つからなかったんだ。」
「空き家?!」
飛び起きて後ろを振り返った。そこにはあのおばさんの家があった。半分以上草木に埋め尽くされていてとても人が住むような家ではなかった。
「おばさんは?!」
私が裏返った声で問うと、皆キョトンとして返事もない。
私はボロボロになった家に草をかけわけながら入った。窓ガラスはほぼ割れていて、今にも崩れ落ちそうな家だった。ドアを開けて入った。見たこともない害虫が散乱していた。しかし、この家の構図はおばさんの家に間違いはなかった。台所に足を運んだ。変わっていなかった。あの台所。あの机。何もかもそのままだった。唯一変わったことはあの時の私のお皿がキチンとしまってあることだった。

森の

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  • 小説
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-19

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