カラフルなモノクロ世界
〈はじめに〉はじめまして、しるくみしる と申します。今回が初めての投稿で、見づらい点が多々あるかと思いますが、ご了承お願いしたします。また、アドバイスなどいただけるとありがたいです。「日常」の中に少しだけ「不思議」が混じっているような小説を目指しております。更新ペースは遅めかも知れませんが、どうぞ最後までお付き合いしていただければ幸いです。更新報告などはツイッターなどで報告予定です。https://twitter.com/sirukumisiru
1,【プロローグ】
「ねえ、君の名前は何ていうの?」
「――――。」
「へえ、ミヤチ・ハルカって言うんだ。変な名前だね。」
「――――。」
「え、私の名前? 私はルイス。 ルイス・エリックよ。」
「――――。」
「ありがとう。君、この辺りの子じゃないみたいだけれど、別の場所から来たの?」
「――――。」
「そう、ずっとずっと東の遠いところから来たのね。私は生まれも育ちもここだから、少し憧れちゃうな~。」
「――――。」
「もう帰っちゃうの?私、君ともっとお話がしたいなー。私は毎日ここにいるから、よければ明日もまた来てよ。」
「――――。」
「うん、約束だよ。」
――あれは、いつの事だっただろうか。
それほど遠い昔でもない出来事なのに、ずいぶんと昔のことのように思える。
薄れゆく意識の中で、僕は走馬灯のようにルイスとの日々を思い出していた。
別に今から死ぬ訳でもないというのに、人間とはつくづく不思議なものだな。などと感心してしまう。
あの日々に戻れるものなら戻りたい。しかし、どれだけ技術が進歩しようとも、過去に戻ることはできないのだ。
現実を受け入れるしか無い。そして、これから今を大切に生きていくんだ。
じゃないと、もしもう一度、君に会えた時に笑われてしまうから――。
そして、僕は深い深い眠りへと落ちていく。
大好きだった、ルイスのことを思いながら……。
2
「はあ、暇だなぁ……。」
とある夏の日。
いつも通りに学校に行き、授業を受けて、そして時間がくれば家に帰る。
簡単な事だ。
――今日は湖にでも行って、本を読もう。
そんなことを思いながら、僕は、窓から見える白黒の世界を眺めながら、授業の終わりを知らせる鐘が鳴るのを待つ。
突然だけれど、僕は本が好きだ。
色の無い世界に生きている僕にとって、本というのは僕に「色」を与えてくれる唯一のものだから。
5歳の頃、僕は色を失った。
突然に色を失ったわけではないのだけれど、徐々に、徐々に、世界はモノクロの世界へと姿を変えていった。
当時の僕は、何も気づいていなかった。しかし症状が進んでいくにつれ、違和感を覚え始めると、今度は急に世界が変わってしまったように思た。
僕はただ、泣いた。
それに気付いた母に、病院に連れて行かれ、そして「全色盲」という診断を受けた。
2027年現在、医療分野に関する技術はかなり進歩していて、目の移植なんていうことも可能になったらしい。
しかし成功率は30%にも満たなく、失敗すれば、一生 光を見ることができなくなる。
さすがの僕も、そこまでして色を取り戻したいわけではない。
それに、白黒の世界でも案外、普通に生活もできたりするものだ。
ただ、日本では生活するには少し厳しいものがあった。信号もそうだけれど、新宿駅に行ったことはあるだろうか?
駅の案内がほとんど色で表示されていたりする。
それを不憫に思ったのか、母は僕を連れて、故郷である日本から遠くはなれた、この地にきたのだ。
「おい遥!今日、ハンスの家で勉強会やるんだが、お前も来ないか?」
「んー、今日は遠慮しておくよ。悪いね。」
「ちぇ、遥がいれば百人力だったのによー。」
「買いかぶりすぎだよ。僕は勉強出来る方じゃないんだ。」
「俺からすると、嫌味にしか聞こえないね!」
少し、拗ねたような素振りをした後に、冗談だと笑いかけてくるコイツは、ロルフ・ブレガーだ。
日本から転校してきて間もない僕に、最初に声を掛けてくれた、良い奴。
「そういやあ、遥はトウキョウ?ってところに住んでたんだろ?やっぱり都会って人がいっぱいいるのか!?」
「今は授業中だぞ。先生にまた水掛けられても知らんぞ。」
「大丈夫、大丈夫。で、どうなんだよ!」
そこまで話した時、授業終了の鐘がなる。
「えー、じゃあ今日はここまでだなー。気をつけて帰るように。あ、それと、ロフルは職員室にいらっしゃーい。」
などと、しっかり私語を聞いていたであろう、僕らの担任のアルネ・ズワット先生は、綺麗なブロンズの髪を指でくるくるしながら、ロルフに笑顔で微笑んでいる。
ああ、ロルフよ。死んだな。
その後、必死に抵抗するも虚しく、アルネ先生に引きずられて行くロルフを見送り、
学校の裏手にある山を少し登ったところにある、小さな湖の辺りで本を読むことにした。
読むことにしたと言うか、ずっと前から決めてたんだけどね!
この場所は僕のお気に入りの場所だ。
人がほとんどいなく、静かで空気もいい。それに、水辺なので夏でも涼しい気がする。
ここで本を読んだり、昼寝をするのが、趣味になりつつある。
今日も少し大きめの石の上に寝転がり、本を広げ、そして―――。
3
――気が付くと、辺りはもう薄暗くなりかけていて、
遠くに見える夕日が、湖の水面に映りこみ、2つの太陽が1つになろうとしていた。
どうやら、本を読みながら寝てしまっていたらしい。
「そろそろ、帰らないとな。」
真っ暗になると母さんが心配する。
「キャッ」
「は!?」
体を起こすと、横から突然、短い悲鳴のような声が聞こえたので、つい反射的に言葉が出てしまった。
そして、すぐに声の主を見つけるに至る。
ふわふわとした栗色の髪。
風になびくその髪を、腰上まで伸ばした青い瞳の女子。
その女の子は少しだけ瞳を潤ませて僕を見下げている。
潤んだ瞳で見下げるってなんか新しいな。
まあ、僕はいま地面に座っていて、目の前の少女は椅子に座っているので、しかたないのだが。
「えっと…… どちらさま?」
「どちらさまとは、ヒドイね君!こんな外でバカみたいに寝てたから、横で見ててあげたのに!」
と言って、頬をふくらませて見せる少女。
べ、別にドキッとなんてしてないし!
「こんなところで寝てたら、持ち物全部持って行ってくださーい。って言ってるようなもんだよ?」
「まあ、たしかに……。その点は俺が悪かったよ。平和ボケしすぎてたかも。」
「ん。わかればよろしい。ところで君の名前は何ていうの?」
「それ、僕が聞いてたんだけど!まあ、確かに聞いておいて自分が言わないのも失礼か。僕は宮地遥。」
「へえ、ミヤチ・ハルカって言うんだ。変な名前だね。」
クスクスと面白そうに笑ってみせる少女。普通に可愛い。
「変って……。確かにこの辺りの人からすれば珍しいだろうけど。で、君の名前は?」
「え、私の名前? 私はルイス。 ルイス・エリックよ。」
「へえ、ルイスかー。いい名前。」
「ありがとう。君、この辺りの子じゃないみたいだけれど、別の場所から来たの?」
「ああ、うん。ちょっと訳あってね。母さんに連れられて、ずっと東の方から来たんだ。」
「そう、ずっとずっと東の遠いところから来たのね。私は生まれも育ちもここだから、少し憧れちゃうな~。」
そういって、遠くを見つめるルイス。
「ここの方が、何十倍もいいよ。おっと、母さんが心配してるだろうから、帰らなくっちゃ。今日はありがとうね。」
「もう帰っちゃうの?私、君ともっとお話がしたいなー。私は毎日ここにいるから、よければ明日もまた来てよ。」
「毎日?僕もたまにここにいるけど、見かけたことないような。」
「今日から毎日って意味だよ。絶対にきてね約束だよ。」
にっこり微笑んで小指を差し出してくるルイス。その笑顔はちょっと反則かもしれないな……。
そんな事をおもいつつ、僕も小指を差し出してルイスの小指と絡める。
「わかった、明日も来るよ。」
「やったー!じゃあ、今日と同じ時間にここで!」
「おう。お前も、早く帰れよ。暗くなりすぎると危ないから。」
「お前じゃなくて、ルイス。」
「ル、ルイス……。」
「よろしい。ありがとね、心配してくれて。私はこれをもう少し進めたら、帰るよ。」
そう言って、まだ白いキャンバスをコツンと叩く。
「そう言えば、絵かいてるのか?」
「うん。私、絵を描くのが好きなの。まだ全然描けてないんだけどね。」
「そっか。」
描いている途中の油絵は、残念ながら僕には黒い絵の具の塊にしか見えなかった。
それでも、ルイスが本当に嬉しそうに話すものだから、きっと良い絵に鳴るんだろうな。なんて心の中で思ったりする。
「あまりジロジロ見ないでよ。なんだか恥ずかしいじゃない……。」
「いいじゃない、もし完成したら僕にも見せてよ。」
「えー、どうしよっかなー。」
そなんな意地悪そうな目で見られましても。
「しょうがないなぁ、特別だからね!」
「そ、それはどうも。」
なんで、してやったり顔なんだよ。まあ、いいけどさ。
そんなこんなで、ルイスと別れた僕は、まっすぐに帰路についた。
……のだが。
「なんで、付いて来てるんだよ!!」
「てへ☆」
「てへ☆じゃねえええええ」
全力で叫びたい気分だった。というか、すこし叫んだ。
4
「本、忘れてたから届けに来たよ!」
ここまでは良かった。と言うより、むしろ感謝している。
「で、なんで家まで付いて来てるのかな?」
「言ったでしょ。君ともっとお話したいって。だから来ちゃった。」
テヘッって感じの顔をするルイス。頭の上に☆の文字が見えそうなくらい完璧だった。
「へぇ、君の家。すごく大きいんだね。」
「そうか?普通だと思うけど……。と言うか、帰れよ。」
「え~、どうせ帰っても暇だも~ん。」
ぷう。とふくれっ面をしながら玄関の方に近づいていく。
しかも運の悪いことに――。
「遥~。帰ってきたの~?あら?」
物音を聞きつけたのだろうか、母さんが玄関から、出てきてしまった。
ああ、面倒だ……。
「え、えっと……。ル、ルイスです。よろしくお願いします。」
人が出てくるとは、思ってもいなかったのだろう。ルイスが相当テンパリながら言った。
よろしくお願いします。って、何をお願いするのだろうか。
「あらあら、遥ったら、こんな可愛い子を連れてくるなんて、隅に置けないわねぇ。」
「ちょっとまて、誤解だ。この子はさっき出会ったばっかりで、本を届けてもらって、えっと……。」
「うふふ、分かってますって。」
ニヤニヤしながら微笑む母さん。この人絶対に分かっていない。
そこで、以外にも助け舟を出してくれたのは、ルイスだった。
「あの、ごめんなさい。ハルカ君に本を届けたらすぐ帰るつもりだったんです。お騒がせいたしました。」
意外と礼儀正しいんだな。想像と少し違った。
「まあ、そうなの?」
「はい、では私は、失礼しますね。」
「あらあら、ルイスちゃんだっけ? せっかくだからお夕食、食べていかない?」
「え、でも悪いですし……。」
なんだ、礼儀正しいというより、キャラ変わってないか。
そして、そんな僕なんて居なかったかのように、話は進んでいく。
「ウチは大丈夫よ~。いっぱい作りすぎちゃって~。」
「では、少しだけご馳走になります。」
ペコリと頭をさげて会釈する。
「まあ、嬉しいわ~。」
「ちょっと、まて。何勝手に話進めてんだ!」
「いいじゃない。ルイスちゃん可愛いし~。」
ルイスを見ながら、おっとりとした口調で言う、母さん。
「じゃあ、出来るまでもう少しだけかかるから、遥の部屋でまっててね。」
「あ、はい。お邪魔します。」
「そうだ、電話使っていいから、ご両親に言っておいてちょうだいね~。」
そう言うと母さんは、せっせとキッチンの方へ早足で言ってしまった。
「えっと……。マジで食っていくの?」
「うん、断れなかった。」
「見てて分かった。まあ、とりあえず両親に電話しろよ。電話は玄関入ってすぐのところにあるから。」
「ああ、いや、大丈夫。」
ルイスは少し困ったような顔をした後、苦笑いをこちらに向けて続ける。
「少し、事情があって……。私、今一人暮らしなんだ。パパとママはもういないの…‥。」
「あー、えっと……。」
いくら会話力が無い方に定評のある僕でさえ察することができた。
多分、ルイスのご両親はもうこの世にはいないのだろう。
もう少し早くに気付いていれば、嫌なことを思い出させなくて済んだのかもしれない。
「ま、まあ上がれよ。とりあえず客間に案内するよ。」
「私、ハルカの部屋が見たい!」
「は?」
この馬鹿女は何を言っているのか。
ほぼ初対面の男を相手に部屋に入りたいとは……。一瞬でも同情したのがバカみたいだ。
「あのな、あまり男にむかってそういう事を言うのはよk...
「ハルカの部屋が見たい!」
大切なことなので二度言われてしまった。
「私ね友達とかいなかったから、お友達の部屋に入ってみたいの!」
エッヘン!とでも言わんばかりに体を反らしてみせるルイス。
いやいやいやいやいやいや……。
重い重い重い。というか、なぜそんなに堂々とボッチだと言い張るのだ。
「わ、わかったよ……。案内してやるけど、あまりジロジロ見ないでくれよな。散らかってるし。」
「わーい!!ハルカのお部屋♪」
楽しそうで何よりです。
「さあ!レッツゴー!だよハルカ!」
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