旅
ツイッター企画
深夜の真剣文字書き60分一本勝負の作品です
携帯電話が着信で振動している。私はそれをずっと無視して一人で地元へ帰っている。
カタンコトンと路面電車に揺られて外を眺める。
久しぶりの地元は東京に比べると変化は少ない。少しだけ人が減って、寂れてる。私を育ててくれた養護施設への最後の挨拶。お土産はたくさんのお菓子とおもちゃ。
笑顔で行こう。
どこまでいっても150円になったなんて便利だななんて思いつつ路面電車を降りる。
ここの夏は蒸し暑い。外に出るとべったりとした湿気が全身に張り付いて鬱陶しい。しばらく歩くと目的地に着いた。
「ただいま、我が家。」
家族は事故で亡くした。
見通しの悪い曲がりくねった山道でスピードを出したバイクと衝突しそうになり、こっちが避けたら山の下に落ちたらしい。
後部座席に乗っていた1歳の私だけ助かっった。
親戚がおらず施設に預けられた。
施設の中を覗いてみる。サチコさんが洗濯物をとりこんでいるところだった。
「サチコさん、ただいま。」
サチコさんはしばらく誰だって顔でこっちを見ていた。
「もしかしてアオイちゃん?」
彼女の顔がぱっと笑顔になった。
「うん、そう。久しぶりサチコさん。」
私を覚えていたことにうれしくなって自然と笑顔になる。
「報告があって帰ってきました。今時間ある?」
「うーん洗濯物取り込むのと夕飯の準備手伝ってくれるならあるかな。」
いい笑顔でお手伝いをお願いをするサチコさんは流石だ。
「喜んで手伝わせていただきます。」
私は荷物を置いて手伝い始めた。
夕飯のあと、施設の子にお菓子やおもちゃをわけて、夢中になってる間にサチコさんと話した。
「で、報告ってなに?」
「もうすぐ、死ぬらしいのでその報告です。」
「それは本当に?」
「はい。医者に診てもらいました。精密検査の結果です。他の病院でも診てもらいましたが結果はほぼ同じでした。」
「そう、残念ね。」
「仕事が忙しくて検査もろくに受けてなかったから。」
「これからどうするの?」
「行きたいところに行ってみようかなって。北のほうとか行ったことなかったし。」
「そう、他に……友達とかには言った?」
私は少しだけひっかかった。
「もう全員に言ってあるよ。ミキちゃんとかカワカミ先輩とか。連絡とれなくなってる人もいてちょっと落ち込んだ。」
冗談ぽく言った。
本当は一番大切な人には言えなかった。そして逃げてきた。これからだってときにこんな……。
それから私が東京に住んでたときの話や私がいなくなった後の施設の話で盛り上がって施設を出た。
夜の街。生ぬるい風が顔をなでていく。
適当に居酒屋に入りビールとおつまみを頼む。一人で居酒屋にいけるなんて私も成長したな。
「あの、ご一緒しませんか。」
私がナンパされるなんて珍しいと思いながら無視することにした。
「横、いいですか?あなたの横顔が家から出て行った彼女にそっくりなんですよね。」
しつこいなんて思いながら横を向く。彼女に出て行かれる男はどんな顔してるんだか。
「やっぱり。アオイにそっくりだ。」
そこには東京にいるはずのジョウジがいた。
「えっ、なんでっ、なんでここにいるの!?」
大きな声を出したせいで注目されて恥ずかしい。
「そりゃ彼氏だもん。彼女の隣にいるさ。」
「いや、だって、えっ」
慌てる私を無視して私のビールと勝手に乾杯するジョウジ。余裕ある顔にちょっとムカツク。
「アオイがさ、ちょっと前から外出すること多くなったし、夜誘っても拒否するから浮気かなって思って興信所に調べてもらってた。そしたら病院行ってたりしたからそういうことかなって思ってたら、朝早くに大きな荷物持って出て行ったから慌ててついてきた。そしたら途中で見失うしここら辺わからないし、で探してたらたまたま見つけたってわけよ。」
「黙っててごめんなさい。」
「いいよ、どうせ私がいなくなればーとか思ってたんでしょ。それが俺の幸せにつながるとかとかさ。アオイは勝手だよ。」
「だって、私もうすぐ死ぬって。」
「じゃあ最期まで看取らせてよ。彼氏だよ?歳も歳だし結婚も考えてるのに。」
「うん。」
私は泣きそうだった。
「アオイのほうが年上なのに相手のこと考えないで子供すぎ!もうちょっとこっちのことも考える。」
「うん。」
「よし、じゃあ飯食ったら帰ろ。おれ腹へって死にそうだし。」
「うん、帰る。」
ジョウジは私の頭をうれしそうに撫でてくれた。
それだけで私の決意は脆く崩れ去った。
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はじめてでまったく書けなかった