seasons...第一章、春・桜

seasons...第一章、春・桜

物語上で起こった一部一部の出来事には、ノンフィクションが含まれております。
が、全ての固有名詞は、実在の物とは一切関係はありません。
基本的にフィクションな青春物語です。

話の量にバラツキはあるものの、日付毎にチャプター分けをしていますので、
読んでいく際の目安にお使いください。

それでは、お時間のゆるす限り、お楽しみください。

4月11日 月曜日、天候晴れ。

 過ごしやすい気温は、春を感じさせる。

 今年は入学シーズンにあわせたみたいに、桜は“今”が満開。

 大学生として初めてくぐる大学の門は、新しい出逢いを嫌でも期待させた。

 大勢の人々と共に始まった入学式。

 堅苦しい挨拶、期待の拍手、緊張だらけの顔…そんな重い空気を足早に逃げ出し、

 この大学の中で唯一大きな桜の木の下に座り込んだ。



宜之(のんびり桜見物でもするかな…)

 不意に春風がゆるやかに吹き抜け、微かに春のにおいが香った。

宜之「ん?」

 ふと、背後から呼ばれた気がした。

 振り返ったが、…誰も居らん。

 再び前を向くと、女性がひとり立っていた。

宜之「ぅわっ!?」

 「あっは! いやゃぁ~驚いてんで」

 驚いたオレを見て、女性は笑っている…。

 感じ悪いなぁ初対面やのに。

 そら、さっきまで誰も居らんかったのに、いきなり目の前に人が居ったら誰でも驚くやろ。

宜之「な、何っ?」

 なんか恥ずいな…リアクションでか過ぎたか? オレ…

 「えっ…??」

宜之「え?? て?」

 「えぇぇ~~!?」

宜之「だからなんやねん!?」

 「なんで?! あんた、うちのこと見えてんのっ?!」

 はあぁ~?

宜之「何言ってんねん、見えてて当然やん? 大体、そっちから話しかけといて、何驚とん??」

 なんなんや?

 「…」

 いきなり黙ったかと思うと、女性の瞳から涙がこぼれだした。

 「…ごめ…」

宜之「えっ、どうしたん?」

 なんなん? この人…どないしたんや?

 「嬉しくて…」

 は?

宜之「何が?」

 「あんたには、うちの姿が見えとぉ」

 は??

宜之「当たり前やん?」

宜之「当たり前やん?」

 何が言いたいんやろ…

 「うちのこと、が、見えるなんて…そんな人、初めてやねん…」

 その時、オレの携帯から着信音が鳴った。

宜之「ちょっと、ごめん」

 オレは焦りながら、ズボンのポケットから携帯を取り出した。

 ―着信・佐藤 誠―

 着信は友達だった。

 …

宜之「はい、どないしたん?」

誠 「それはお前や~! 何入学式そうそうサボってんの。今ドコ~?!」

宜之「ははっ」

 乾いた笑いが出た。

宜之「わりぃ」

誠 「今日はもう終わりらしいからさ、帰ろうよ」

宜之「あ、校門迄行くわ」

 ―ピ。会話終了―

宜之「そうゆう事やから、

  ?」

 オレの目の前には、さっきまで居た女性の姿はなかった。

 何処行ってん?

 …まぁ~えぇかぁ。

 なんや、入学早々変な人に会ってもたなぁ~
 
 
 

翌日、4月12日 火曜日は雨だった。

 昨日の桜の木の下を、傘を差しながら歩いてみたが“誰”にも会わず。

 ま、えぇねんけど。

 …って、何やっとんやろ、オレ。
 
 
 

4月13日 水曜日。

 この日も雨だった。

 静かに降り続く肌寒い雨とは対照的に、

 サークルの勧誘はアツく、うるさい位だった。
 
 
 

4月14日 木曜日。

 昨日、一昨日の雨の影響で、地面の到る所に桜の花びらが少しずつ落ちていた。

 それらをぼんやり見ていると、

誠 「散りゆく時も、また美しい…」

宜之「!?」

誠 「ってか~?」

 いきなり肩に腕を組まれ、驚き振り向こうとしたオレの目に友達が映った。

宜之「わ! っぃきなりアップでくんなよっ」

 友達の誠だった。

誠 「ここ 二、三日、心ここにあらず。って感じやん。何、春なのに(笑)浮かない顔してんのぉ~?」

宜之「そんなんちゃうわ」

誠 「いんや! 隠し事は良くないで! 言ってみ言ってみ♪」

宜之「だから、マジでちゃうよ、」

 誠の腕を軽くほどいて、その場を立ち去ろうとしたオレに

誠 「恋の相談ならのるで」

宜之「うっさい」

 恋?

 んなわけないやろ、

 恋ぃ~?

 はっ(笑)

 んなわけないやろ、勘弁してくれ…。

 はぁ、「今日は、(ストレス)発散やっ…!」

 ぁ、しまった…つい声に…
 
 ちらり、後ろを振り向くと…

誠 「よおーし、いくかぁ~」

 マジか…
 
 
 

4月15日 金曜日。

 昨日は、誠にボーリングやらダーツやらを、延々と付き合わされてしまった。

 しめは、カラオケにラーメン…ラーメンて(笑)意味わからん…お陰で腕が痛い…

 最近、運動なんもしてなかったからかな? なまっとーなぁ

 そんな事を思いつつ、腕を擦りながら、あの桜の木の下を通りかかった。

 「よっ! 元気?」

 声に驚いて振り返ると、入学式にここで会った変な人だった…。

 「どしたの?」きょっとーん

 真顔でオレを見てやがる…。やや、怒りが込み上げた。

宜之「…えーっと、…まずオレは何からツッコんだらえぇんや?」
 
 やわらかくも、鋭くも、両方含めて言ったみた。

 「え…?

  …あぁ~! アレかぁ。まぁ、えぇやん?」

宜之「えぇことないわっ」

 「そんなんよりさぁ、」

 そんなんより? …気にかけた数日間返せよ。

 …ん? 気にかけた? のか…?

 「なぁ! ちょっと、聞いてる?」

宜之「(ん)ぁ? あぁ、何?」

 「ちょっとさぁ、…頼まれてくれへん?」

 なんやろう…

 この人の事やから、ロクデモナイ事頼まれそうやなぁ…

宜之「…内容によるけど、何?」

 「…ぇ」

宜之「なんやねんな?」

 「ぅ、うち…じ、実は…いや、えっとなぁ…」

 まどろっこしいのぉ…

 「折り入って、あんたに連れて来てほしい人がおんねんっ!」

 そう答えた、この人の頬は真っ赤に染まっていた。

宜之「連れて来て欲しい人?」

 「うん」

宜之「オレに言うって事は、オレの知っている人。って事か」

 「いやっ、そぉやなくて」

宜之「…じゃぁ、なんでオレに?」

 「その…」

宜之「はっきりせぇへんなぁ」

 「うーん…」

宜之「何処の誰? 何? 喧嘩?」

 「そんなんじゃなくて…」

宜之「よくわからんけど、そんな感じでその人に会っても大丈夫か?」

 オレが心配してやる必要はないが。

 「…」

 何故黙る…

 「ありがとぉ」

宜之「へ?」

 感謝?

 「心配してくれて」

宜之「そら、こんな調子やったらなぁ…や、なくて。ん~なんか話進まんなぁ。

 とりあえず、どういう理由会いたいんかは知らんけど、自分でちゃんと会いに行ったほうが気持ちとか伝わると思うで?」

 当たり前な意見として。

 「…うん、」

宜之「悪いけど、そんな仲良くもない人(ましてや初対面?)の頼まれ事を易々と引き受ける程、オレはイイ人。じゃないし。

 ごめんな、」

 …冷たいようやけど…これ位言わなな?

 それ以上は何も言わず、その場を去ろうとした。

 「…」

 ほら、何も言わんやん。

 …

 軽く後ろを見ると、まだ、おる。

 …

宜之「もう、なんやねんなぁ?

 この前は、いきなりおらんようになったくせに、今日に限って…」はぁ、

 「…イイ人?」

 泣きそうな顔でオレを指差した。

宜之「バカにしてんの?」

 「まさか! ちゃうって! だって、さっきあんたがっ」

宜之「はっ(笑)もうえぇわ。」

 「え?」

宜之「連れて来るだけ! で、えぇんやろ? しゃーないから頼まれたるわぁ、それ位」

 「えっ! 本マ?」

宜之「本マ、本マ、」

 もう、何か半ばヤケやな。はぁあ~、…でもオレはイイ人ではない。

 しゃーない気持ちでする、えぇ奴なんかおらんやろ、

 事実、一瞬でもこの人から逃げようとしたし…。

宜之「…で、連れて来て欲しい人ってのは、誰なん?」

 「…うん…」

宜之「? いや…言ってくれな、連れて来ようがないやん?」

 「え…っとねぇ」

宜之「うん。」

 「…」

宜之「…」

 「…」

宜之「…あの、時間、かかるんかなぁ…?」

 これから授業もあるし、時間を気にして聞いてしまった。

 「あ! そ、そうやんなぁっ」

宜之「悪いねぇ…」

 「つ、連れてきて欲しい人。ってのは…

  その、…うちの、」

 …の?

 「す。す…好きな人やねんっ」

宜之「そうなんや」

 「え?!」

宜之「何?」

 「…それだけ?」

宜之「え、何か不服?」

 「いや…」

宜之「好きな奴なら、尚更自分から会った方がいいとは思うけど…」

 「…」

宜之「まぁ、本人がそれでえぇなら何も言わんよ」

 「…ありがとう」

宜之「礼は、無事に会えてからでええからさ。早速聞くけど、その人は何処におんの?」

 「…」

 何か…又、時止まってんなぁ…

 「それが…」

宜之「まさか知らんとか言わんといてな?

 なぁんて」

 「! …」

宜之「いや、冗談…」

 女性は目線を下にそらした。

宜之「えぇっ」

 「えーっと…」

宜之「え、? あ、でも何処の誰かは、もちろんわかってる…よなぁ?」

 「あはっ」

宜之「何誤魔化しとんねん」

 「すみません…」

宜之「何処の誰かもわからんて…今時、一目惚れじゃあるまいし」

 「…

 って、言ったら?」

宜之「え?」

 「その…まぁ、珍しくないで? 一目惚れの一つや二つ…」

宜之「ちょっと確認するけど…オレが連れてくるんですよねぇ?」

 「…うん…」

宜之「何にも、情報がなかったら…どないすればいいんですかねぇ?」

 「…

 あ!」

宜之「何っ!?」

 「…び、微妙にこんな感じの顔かなぁ…」

 ―目をつむって、頭の上を指差した―

宜之「頭で思い描かれてもわかるかっ!」

 「とにかく、何も手掛かりはないねん、」

 きっぱり言うなよ…

宜之「どーしようもないなぁ」

 「どーしようもないねん」

 お互いのため息のタイミングが合ってしまった。

 「なんか、えぇ方法ないかなぁ? こんなに息合ってんのに、」

 関係ないと思うぞ。

 しかも、その全く根拠のない自信はどっから?

宜之「多分、それ関係ないと思うけど」

 「うちの事、助けられるんは、あんたしかおらへんと思うねん」

 ん…なんか今さらっと、深い事言われた気が…

宜之「そ、そぉかぁ~?」

 そうでもないと思われますけどねぇ

 「っだって、」

宜之「何?」



 暫く黙った後、女性は言った。

 「…あんたしか、うちの姿見えてないねんもん」

 は?

 えっと、…あれ、前もこんなん一度聞いたかな、

 デジャヴュ…ってヤツ?



宜之「じょ、冗談キツイって、」

 ようやく出た言葉がコレやった。

 「冗談? …まぁ、そうやんね、普通な反応かもね」

宜之「…」

 「…じゃぁ、証拠一つだけみせるわ」

 そう言うなり、女性の拳がオレの顔面に迫った。

宜之「っ!!」

 急な展開に思わず目を瞑った。

 が、

 …?

 痛くない。

 むしろ、拳が顔に当たった感触もない。

 …

 恐る恐る、ゆっくりと目を開けてみた。

宜之「…えっ…?」

 明らかに女性の拳は、オレの顔に当たっていた。

 …どういうこと…?

 「…なんも難しいことなんてないやろ? 今、見たまんま。感じたまんまや…」

 殴った手を力なく下ろしながら、少し淋しそうに、悲しそうに言った。

 その顔は、泣き出しそうな顔だった。

 心が ちくっ と痛んだ…

宜之「悪い…」

 他に何て言えばいいか、わからんかった。

 「謝らんといてよっ…そんなん言われ…」

 あ、

宜之「ご、ごめん! 泣かすつもりとかじゃ」

 「ぁ、えぇねんえぇねん。気にせんといて?

 ほら、うちこんなんやから自分の感情上手くコントロール出けへんねん」

 笑顔が若干引きつってるように見える…

 そんな言い方…余計心苦しくなる…

 「あのさぁ、…うちがとことん引き止めといてこんなん言うんどうかと思うけど、」

宜之「ん?」

 「時間は宜しいんでしょうか?」

宜之「あっ!」

 つい…

宜之「や、でもさぁ? ほら、」

 このまま授業とか出てる場合? オレ。一応、フォロー…というか、なんだ…

 「…」

 ぶつぶつテンぱってると、

 「とりあえず、授業に行ってよ」

宜之「え、あぁ…えいいの?

 じゃなくて、…大丈夫? っていう台詞が正しいかどうかは不安なんやけど…」

 「ふはっ(笑)焦り過ぎ! うちは平気よ」

宜之「そか、じゃぁ…」

 「また来週の月曜日に来て?」

宜之「ん? わかった」

 「それまでに、各自いい案を何か考えて来る事!」

 オレもっすか

宜之「了解」

 「今日は、有難う」

宜之「いぃえ」

 「授業しっかり聞いて、ちゃぁ~んと勉強しぃやっ」

 オレは軽く手を振って、何も言わずに教室に向かった。

 あの子の言葉が、なんか心に重く響いた。

 そして、案の定授業には遅刻をしていた…

 
 
 

翌日、4月16日 土曜日。晴れ。

 言われたとおり考えてみたものの、…何も浮かんでこない。

 そら、相手の手掛かりが何にもないねんから仕方ない事や

 けど、頼まれて引き受けたんやから…

 「何も思いつかんかった。」

 は、流石にひどいやろ。
 
 
 

4月17日 日曜日。晴れ。

 自分の部屋の窓から空を見上げると、

 飛行機雲が綺麗に青い空に映えていた。

 明日、あの子に会って…どうしたらえぇんやろ?

 オレは…何ていえば…

 あれこれ考えている内に寝てしまっていた。
 
 
 

4月18日 月曜日。曇り。

 授業迄の時間に余裕を持って、とりあえず会いに行ってみた。

 「早いなぁ~おはようさーん」

宜之「おぉ、おはよ」

 相変わらずのテンション…

宜之「…宿題の事やけど…」

 少しの緊張を覚えながら、話を切り出した。

 「は? 宿題?」

宜之「そっちが一目惚れした相手の話やろ、」

 「あぁ~そかそか。あ、そういえば、まだうちの名前言うてなかったね」

 そういや、聞いてもないし言ってもなかったな…

 「うちの名前は薫」

宜之「かおる?」

薫 「そ。漢字は、草冠の薫ね。お香じゃないで」

宜之「わかった。オレは宜之。」

薫 「たかゆきかぁ…うん、覚えたで」

宜之「…で、さぁ。本題やねんけど…」

薫 「うん」

宜之「…初めから分かっとった事やけど。やっぱり相手の手掛かりが何もない…ってのは…

 なぁ? で、ようやく気付いてんけど、何処で会ったとか、いつ会ったとか、覚えてないん?」

薫 「…それがね…」

宜之「うん」

薫 「なぁんも覚えてないねん…ぼんやりとした顔だけ。誰かもわからんし、話したこともあるんかどうか…

 ごめんなぁ…やっぱりめちゃくちゃなこと言うてたよ…ね?

 はは、…もう、忘れて」

 えっ

宜之「何言うとんねん」

薫 「えぇねん。…そもそも会いたいって気持ちしかなくて、顔もまともに覚えとらんなんて、…アカンやろ?」

宜之「…」

薫 「それに、な? もし、うちがちゃんと相手の顔を覚えてたとしても、

 うちの…こと、姿が、相手に見えんかったら…意味ないやん。うちみたいなんに好かれても…なんか悪いやん。

 誰だって嫌やろ? うちみたいな…

 よう、分からん存在に」

宜之「そんなん言うな…なんでオレにしか見えへんのか、そんなん分からへん。

 でも、オレ以外の人等を見れてるのは事実やんか。そん中で、誰かに惹かれるんは、何も悪い事ちゃうやん。

 自然な事やん。お前はお前や! どんな存在であろうと、関係ないやろ?

 誰かを好きになる気持ちなんて、自分にも、他の奴にも止められへん! ちゃうか!?」

 …

 なんかムキになって、ガーっと、言ってしまった…。

薫 「気持ちは…分かった。…ありがとうな? うちの為に言ってくれて…」

宜之「…」

薫 「なぁーんか…すっきりしたわぁ~」

 本マかよ、

宜之「嘘。言うなよ?」

薫 「嘘なんか…」

 この子の事を思うと、それ以上は言ったらアカンと思った…

 なんか、自分が情けない奴に思える

 この子からしたら、オレは何の素性も分からん奴やのに。頼ってきてくれた。

 理由は、この子の姿がオレには見える。

 から。

 只、それだけやろうけど…。

宜之「ごめん」

薫 「どないしたん?」

宜之「何も…力になれてへんから。折角頼ってくれたのに、なんか悪い気がして」

薫 「そんなことないで! うちに出来た初めての喋り相手やもん♪

 それに、ロクデモナイ奴と、うちが縁あるわけないやん! そうやろ」

 その言葉は、彼女の精一杯の励ましに聞こえた…

 ありがとう。

 そう、思ったけど…なんだか声に出せんかった。

 だって…やっぱ、この子に申し訳なく思えてきて。

宜之「…」

薫 「…」

宜之「…、」

薫 「…」

宜之「…。」

薫 「…

 ~~あほお――っ!!」

 彼女の拳が迫ってきた!

宜之「!! …当たらへん。の、やったやん?」

薫 「あんたはあほやっ! 大あほやっっ!」

宜之「いや、大馬鹿しか聞いた事ないから」

薫 「そんなんどーでもえぇねん! 力になっとぉか、なってへんかなんてな、自分で決めんな!

 うちが良かったらそれでえぇんねん! 結果より、それまでの過程ちゃう?

 …それだけで…えぇんちゃうん? なんでそこまで責任感じんの? ってか、なんでうちが慰めてんのよ!」

宜之「…」

薫 「…もう知らんわっ!」

 そう言い放ち、彼女は突然消えた。

 オレは驚く事も忘れ、その場に力なく座り込んだ。

 彼女の言いたい事は、なんとなく分かる。…オレだって、そこまで大あほ。じゃない…

 でも、正直。力になれなかった…。というのが、無力に思えて。情けなくて…

 どうやら自分の駄目さを実感してしまったらしい。

宜之「あぁ~っ! 情けない男やのぉー」

 服が汚れる事にも気をとめず、その場に大の字に倒れた。

 視界に映る青空とは正反対に、オレの心は真っ黒や…



誠 「何してんの? タカ」

 !

 目を開けると、目の前には誠がおった。

誠 「また今日もサボリ~?」

宜之「そうゆうつもりはなかってんけど、…そう、なりそうや」

 誠から目をそらした。

誠 「…タカ、どないしたん? 何かあったん?」

 …

誠 「僕で良ければ聞くで?」

 一瞬ためらったが、これ以上状況を悪化させるのはアカン。

 オレは誠に、彼女、薫との事を話した。

 誠は何でも話し合える大事な親友だから、わかってくれる。と、思う…



誠 「…タカ、…マジでそんな事言うてんの?」

 誠は、目をまぁるくしている。

宜之「うん…?」

 誠のリアクションを想像してなかった事に気づき、ごくり…。と、思わず唾を飲み込んだ。

誠 「なんかそれって、すっごいなぁっ! めっ…ちゃファンタジックやんっ♪」

 …へっ?

 思わず笑ってしまったわ

宜之「マコ…お前、本気で言ってんの?」

 そら、確認もしたくなるで。

誠 「えっ? なんで? すっごいやん。だって幽霊じゃあないんやろー?

  僕もタカも全然全く霊感ないやん。」

 誠は瞳をキラキラ輝かせながらオレを見ている…うん、本気やな

 そんな誠に呆気にとられていると、

誠 「え、どないしたん? あ! そかそか~ケンカしてもうたんやったな?」

 え? いや…そうやったけど…喧嘩やったか?

誠 「ん?」

宜之「いや、…ちょっとビックリしてん。マコの反応にも驚いたけど、さ、」

誠 「うん。どしたん?」

宜之「…オレ、あの子が…幽霊か何か、なんて…考えてなかった。

  ? いや、…考えようとしてなかった…? …なんて言うんやろ?

   … 

   アカン。わからへんわぁ…」

誠 「タカ…。今はわからんくても…いつかはわかるかもしれへんで? きっと。

 それより、優先させなアカンのは、その薫って子とのことやろぉ?」

宜之「あぁ…」

 しまった。また固まってた…

誠 「僕思うんやけどさぁ…最近の宜之は、どうもおかしかった。

  …でも話を聞いて、なんとなくわかりそうな気がするわ」

宜之「どうゆう事?」

誠 「単純にさぁ、薫ちゃんのこと気になっとんやろ?」

宜之「えっ!」

 誠が彼女を『ちゃん』付けで呼んだ事に驚いたわけじゃあない。

宜之「オレがぁっ?」

誠 「まぁまぁ~反論せずに聞いてよ」

宜之「…おぉ」

誠 「タカのえぇトコはさぁ~人の悩みを親身になって、聞いてくれる所や。

  他にもあるけど、とりあえずはそこをあげるで?」

宜之「ぉ、おぅ」

誠 「問題は、ここからや。いつもなら、人の悩みに対して第三者側からアドバイスとかをしてくれんのに、今回は…」

宜之「はっきり言ってくれ、じゃないとわからへん」

誠 「う~ん…なんかタカ自身の悩みになってへん?」

 …ん?

誠 「薫ちゃんの悩みを聞いてただけやろ? 好きな人に対してアクション起こされへん自分自身に落ち込んでた。っていう。

   その悩みをタカが聞いた。で、よく考えたけど、どうにもこうにも出けへん」

宜之「うん…」

誠 「それからまた悩むんはさ、悩んどぉ薫ちゃん本人やん。タカまで一緒に悩んだって悪循環になる時だってあんねんで?

   自分でもわかっとぉやろ?」

 …

宜之「そうやんな、普通…。ソレが当たり前やなぁ…」

誠 「親身になり過ぎて、きっと前が見えなくなってもたんちゃう? らしくないで。

  そんなタカ初めて見るからびっくりしたよ~」

 誠は苦笑した。

宜之「オレらしくない…か?」

誠 「だからさぁ、いつもと違う感じやったから恋してるんかと勘違いしたもん(笑)」

宜之「えぇっ?」

 思わず笑いが出た。

誠 「だって、タカが恋してるトコ一度も見たことないねんもん。男の勘やっ」

 …いや、そんな満面の笑みで言われても…

 それに女の勘は当たりやすいって聞いた事はあるけど、男の勘って…

誠 「とにかくさっ、ウジウジすんなよ! 今の季節にはそんなん似合わへんで!」

宜之「…オレも思う」

誠 「今、現に悩んでんねんから、まずはこの悩みを解決せなアカンなぁ?」

宜之「…そお、やなっ」

誠 「悩みを誰かに相談しても、結局決めるんは自分自身やから…

   僕はこれ以上は何も言わへん」

宜之「本マ、有難うな…」

誠 「話なら、いつでも聞くからさっ」

宜之「おぉサンキュ!」

 そして暫くの間、他愛のない雑談をしていたオレ達の耳に、ようやく聞こえてきた音は、一限目の終わりを告げるチャイムだった。

宜之「ゃばっ!」

誠 「あはは。結局僕までサボってもたぁ~」

宜之「マジでごめん!」

誠 「えぇってぇ~今度オゴリで?」

宜之「覚悟しとくわ」

誠 「それじゃぁ~宜之君、次の授業からはボチボチ真面目に出席しましょか~」

宜之「はいよ」

誠 「って、僕が言うんも何やね」

宜之「そやな」

誠 「タカひど~い」



そうして桜の木の下を後にした。



 …謝んないとな…



  授業終了後、あの桜の木を遠くから眺めただけで…帰る事にした。



 今日、このまま帰る事が後々少しでもお互いにとって、いい結果になれば…

 
 そう期待するしか、そう思うしかなかった。
 
 
 

4月19日 火曜日、晴れ。

 朝から初夏の暑さだった。

 大学では、サークルの勧誘がまだまだヒートアップしそうで…

 それでもオレの気分を晴らしてはくれない。

 今日の授業が終わり、ようやく桜の木の下に行った。



 やっぱ、おらん…よな。

 そら、そうやんなぁ…

 落ち込みかけたオレの耳に 何か 聞こえた気がして、後ろを振り返った。

宜之「…」

薫 「なんやねん、せっかく出てきたのに。無言はナシやで」

 …

宜之「…昨日は…悪かった。めっちゃ…反省したよ。本マ、ごめん。」

 精一杯の気持ち込めて、頭を下げた。

薫 「…」

宜之「…なんか、言ってくれよ」

薫 「え(笑)だって、まさかこんなかしこまった感じで謝られるなんて思いもよらんかったから」

宜之「オレも。反省して謝ったのに、そう返されるとは思ってもみんかったよ、」

薫 「あ、スネたぁ~?」

宜之「スネるか、」

 お互いの顔に、笑顔が戻ったのがわかった。

 でも、なぁ~んか…えらいあっさりしてるな

宜之「あの後、見てたんじゃぁないやんなぁ?」

薫 「えっなんのことぉ~?」にやにや

 笑顔で答えたな…

 見てたんやな…

宜之「もぉ、えぇわ。オレが悪かったんやし…」

 せめられへんし。

薫 「うちも…ごめん。いきなり消えて」

宜之「別に…謝る必要なんかないで」

薫 「よし! じゃぁ~仲直りなっ♪」

宜之「…おう」

薫 「なんなん? 今のちょっとした“間”は?」

宜之「いや、」

薫 「嫌なん?」

宜之「違うよ、…ん~…只、オレのような奴が唯一話せる相手…なんて、悪いなぁ。と思ってしまったり」

薫 「あほぅ」

 そう言ってオレの頬を軽くはたいた。

宜之「って」

薫 「こんの、チョー後向きっ! あんなぁ、自分が思うほど簡単に人はアンタのこと嫌いにはならへんで?

   だからそんなん思てしまっても口に出したらアカン。

   よく知りもしない人のことを簡単に嫌いになってしまう人は、自分に自信もなくて自分自身が好きちゃうんやで。

  そんなん悲しいと思わへん?」

宜之「っていう事は、自分に少しは自信があって、自分自信が好きだと…」

薫 「自分自身が嫌いな人を好きになってくれる人って、おんの?」

宜之「そう、滅多にはおらんやろうなぁ~

  でも、皆が皆、自信に溢れている奴ばっかやないで?」

薫 「それはわかる。たかゆき見てたらそう思う」

宜之「さいですか」

薫 「あはは。それに、こういうのもなんかの縁ちゃうかなって。

  うち、チョ~~~っ前向きやからっ! どんな縁でも大切やん♪?」

宜之「そぉやなぁ~…」

薫 「そやでっ!」

 …

宜之「よしっ、…じゃぁ好きになったんも一つの縁や! いくでっ」

薫 「え?」

宜之「え、じゃないわ。悩んでる暇があるんなら少しは行動やっ!」

薫 「…」

宜之「ほらっ! 何してんねん」

薫 「…~~ならっ! うちは友達がほしい!」

宜之「は?」

薫 「今が楽しい…そう思えるんは、誰とおったって一緒のことやん。

  一緒におるんが好きな人なら、友達とか恋してる人とか、そんなん関係ない。」

宜之「え、? 何言うてんのかイマイチわからへんねんけど?」

薫 「…うちが、今一緒にいたいと思うんは、たかゆきやねん」

 …

薫 「…それじゃぁ、アカン?…」

 …はっきり言って、どう言えばえぇんか…

 あっ…

宜之「なぁーんや、オレと友達になりたい。って、そうゆう事やろ?」

薫 「うっ…うん」

宜之「まどろっこしい言い方せんでも」

 照れんでも(笑)

宜之「焦ったわ。そやな~オレは、もう友達やと思っとったけど」

薫 「えっ本マにっ?! なぁ~んやぁ…」

 安心したみたいで、途端に笑顔になった。

 …そぉいや、何かに気づいてへんかったよぉな…?

宜之「本マにいいんか? 会いたい人。」

薫 「うん。なんかたかゆきと話してたらその人に会いたい気持ちがやわらいだ」

宜之「本マか~? 後でまた言うてくるんちゃうんか~?」

薫 「そん時はよろしく」

宜之「おいおい」

 あれ?

宜之「ん?」

 なんやったかな…

薫 「あれ…」

 !?

宜之「ちょっと待て! さっき軽く当たった気が?!」

薫 「うちも…めちゃ叩いた感触があった…」

宜之「どーゆう事や?」

薫 「うちにもわからん…」

薫 「うちにもわからん…」

 二人共暫し沈黙…

薫 「…ま、世の中にはわからんことは、いっぱいいっぱいあるから…な、ははっ」

 あえてそれ以上は踏み込まない様に、薫は軽~く流した。

宜之「そやな…」

 オレも、同じように悟ったので、ここいらで終わらしておこう…

薫 「…あ、そろそろ…」

宜之「ん? おう…? じゃぁ、又あし」

薫 「ううん、…明後日。」

宜之「ん?」

薫 「……明後日、宜しく」

宜之「? わかった。明後日、な?」

 薫の言葉を少し変に思いながらも、その日は家に帰った。
 
 
 

4月20日 水曜日。

 朝から雨が降っていた。雨の日は外に出るのが憂鬱になる。

 今日は大雨らしいから特に…だ。

 それでも、対して体調が悪いわけじゃぁないのに今から休んでたら…

宜之「アカン! これ以上サボリ癖つけたらヤバイッ」



  大学に着いてから数時間後、昼過ぎにもなると雨風が更にヒドくなった。

 教室の窓から見た外の様子は、凄まじいものがあり、台風前を思い出した。



  授業終了後、あの桜の木の下を帰り道に通ったが、

 『明後日』と言った通り、薫はそこには居なかった。

 見上げた桜の木は、激しい雨風に吹かれて今にも花びらが全部落ちてしまいそうに思えた。

 何故か不安に感じ、桜の木に手を伸ばしかけた。

誠 「タカぁ~?」

 誠の声がした。

誠 「むちゃくちゃ雨ヒドいなぁ~はよ帰ろーよ~」

 伸ばしかけた手を下ろし、誠のそばに行った。

宜之「今日は朝から、よ~降るよなぁ~」

 振り返り桜の木を見た。

 (また、明日)

 夜が深まるにつれ、雨音は次第に弱まっていった。
 
 
 

4月21日 木曜日。

 昨日の雨は何処へやら…嘘みたいにカラッと晴れた。

宜之「しっかし、よ~晴れたなぁ…」

 ジリジリ照りつけてくる太陽は、真夏の太陽みたいだ。

薫 「本マ、あっついなぁ~」

宜之「っいきなり登場すんなよ!」

薫 「朝っぱらから独り言ゆうてる人に会う方がビックリやわ」

 良かった。いつも通りの笑顔や。

 一昨日様子が微妙に変やったから心配したけど…そうでもなさそうやな。

 思い過ごしって事やな、

薫 「なぁ、せっかくこんなえぇ天気やねんから何かしようや?」

宜之「う~ん…何かって言われても…」

薫 「何か思いついてよ」

宜之「…」

 こんのわがまま。むちゃ振りかよ…

誠 「タカぁ~♪」

宜之「ん? マコ…」

誠 「あれっ? …もしかして、その子が“薫ちゃん”?」

宜之「うえ?!」

薫 「えぇ!」

宜之「見えてんのっ?!」

薫 「うちの姿見えんのっ?!」

誠 「…ん?」

 オレと薫が同時に詰め寄ったみたいになってしまい、誠が一瞬止まった。

誠 「落ち着いて言ってョ~」

宜之「あぁ、わりぃ…」

薫 「あんたもうちの姿見えてるんやんなぁ?!」

 黙ろうとしたオレを見て、すかさず薫が誠に言った。そりゃびっくりやわ…。

誠 「…ぇ? タカがおるから、なんちゃうの?」

宜之「えっ!」

薫 「えぇっ?」

 さらり、と誠が言った言葉に驚きを隠せなかった。いやいや…

 オレと薫は互いに驚いたまま固まってしまった。

誠 「…ねぇ~このまま固まり続けてもらっても、なんもおもろくないよー」

宜之「そう…やな、」

 そう返すのが、いっぱいいっぱいだったり…

誠 「あ! 僕、誠って言います。よろしく~」

薫 「あ、うちは薫です」

宜之「じ、自己紹介?」

誠 「初対面やもん、当たり前やん♪」

 …ま、まぁな、

誠 「ところで、何の話しとったん? ごめんなー割り込んできて。しかも今更」

宜之「いやいや、大丈夫」

薫 「そうそっ♪ それにたかゆきの友達やもん、全然おっけぇ~やでっ」

誠 「ありがとぉ~2人共♪ しっかし、今日は気持ちえぇぐらいの天気やねぇ~」

薫 「お!」

 ?

薫 「よう言った! この晴れた日にこそ、何かするべき! やと思わへん~?」

 おいおい…今度は誠にかよ

誠 「え? ん~~

  ……あっ! 花見ってのは? 僕まだ今年花見してないねん」

宜之「花見かぁ…そういえば」

薫 「いぃねぇ! それっ♪ 採用~~」

 お、ノってきたな…?

誠 「この桜の木を見ながら三人でお弁当でも食べようよぉ~」

薫 「賛成っっ!」

宜之「早っ!」

薫 「えぇやんえぇやん~早速実行しようよ~♪」

 その時、チャイムが鳴り響いた。

宜之「あ、」

誠 「あっ」

薫 「んぁ?」

誠 「授業やねぇ~」

宜之「やなぁ」

薫 「つーまーらーん~」

誠 「明日は僕達二人共お昼までしか授業ないから、それから花見しようかぁ?」

 誠が機転を利かした。

宜之「悪くない…よな?」

 何故か顔色を伺ってしまった。

薫 「しゃぁ~ないなぁ~うちが言い出したワガママやし、明日までちゃんと我慢するわ♪」

宜之「よし、じゃぁ又明日な!」

薫 「うん」

誠 「バイバ~イ薫ちゃ~ん」



 そして教室に向かう最中、

宜之「…ん?」

誠 「どしたん? タカ、」

宜之「いやぁ…アイツ、食べれるんかな? って…」

誠 「ん? お弁当?」

宜之「…そぉや…」

宜之&誠「…」

 ―暫し二人共沈黙…― 

 教室に着いてしまった。

誠 「もしかしたら、そうゆう雰囲気を楽しみたいんかな?」

 誠がポツリと言った。

宜之「違う。とは言い切れんやろうけどな、」

 確かに間違ってはいないだろうと思った。薫が望んでいるんなら、出来る事はしてやりたい。

 そう思ったりもした。

 授業中、誠から

 〔お弁当はやっぱ手作りかなぁ~?〕

 とかゆ~メールが来た…

 いや、恋する乙女じゃぁあるまいし。ってか、マコ料理出来たっけ?

 それとも何や? オレに作れ…と?

 誠のマジボケに素直に反応せずに、返信した。

宜之〔どっかにウマイ弁当屋あったか?〕

誠 〔無視かョっ?! ん~サンドイッチの美味しい店なら知ってんで♪ 他にも種類あったかなぁ…

 帰りに行ってみる? 僕んちの近所やから買うのは明日でもええし〕

宜之〔おっけ!〕

 そんなやりとりをしながら…っつうか後で喋りゃぁいぃ話やったな…



 …そして大学帰り、誠のオススメらしい店に2人で向かった。

 着いた店は、なんか可愛らしぃ~感じの店やった。マコがこんな店知ってんの?

 い、意外っ

 …

 軽~く固まってしまっていた。

誠 「? えっ? や、タカどないしたん?」

宜之「あ! ごめん、いやぁ~まこっちゃんがこーんな店知ってるなんてなぁ」

誠 「あぁ~葵ちゃん♪ と前に来たんだよ」

宜之「ふぅ~ん」

 満面の笑みで話す誠に、「あっそ。」となりながら返した。

誠 「焼き餅?」

宜之「イントネーションがおかしいやろ」

誠 「大丈夫! タカには僕がおるやん」

宜之「いや、意味わからんし」

誠 「あ、それとも薫ちゃん?」にやにや…

宜之「阿呆。」

誠 「大丈夫! 僕等の友情はアツアツやもんっ」

宜之「(言葉の選び方がおかしいが…)そやね、」

 誠には、割りと可愛らしい彼女がいる。(失礼??)高校の卒業式から付き合い始めたが、きっかけは互いが別々の大学に進むから。らしい。離れる前に気づいた。

 ってわけやな。友人としては、誠が幸せなんはいい事や。

誠 「ん?」

宜之「まぁ、…友人としては、誠が幸せなんは嬉しいよ。笑ってる顔が一番似合ってるから」

誠 「な~、さらっと照れる事言わんといて~」

宜之「ほんまや」

 こんな可愛らしい店ん中で、男同士何喋っとんやろ。キモチわるっ

誠 「とりあえず、チラシ貰ったし今日は帰ろっか?」

宜之「そぉやな、」
 
 
 

4月22日 金曜日。

 割りと過ごしやすい気候だった。もちろん晴れ。

 お昼迄の授業を終えたオレと誠は、桜の木の下に向かった。弁当を三人分持って。

 弁当は、家から近い。と言う理由で誠が買って来てくれた。

宜之「早いなぁ~もう待ってんで」

 桜の木の下でおる薫の姿を見つけ、思わず言葉が出た。

誠 「嬉しそうやなぁ~」

宜之「怒るでっ」

誠 「しかしぃ~」

 んな事を言いながら薫の元に着いた。

薫 「おはよ~さん! あんたらちょっと遅いで! 待ちくたびれるとこやったわぁ」

宜之「おはよ、悪いな」

誠 「おっは! ごめ~ん薫ちゃん♪ でも晴れて良かったねぇ~」

薫 「本マっ♪」

宜之「ちゃんと弁当も用意したで…温めてきたし…」

 内心ドキドキしながら持ってる袋を見せた。

薫 「わぁっ! めっちゃ嬉し~!! 有難ぉ~」

宜之「買って来てくれたんは誠やで」

薫 「有難うな! まこっちゃん!」

誠 「うん! …って、あれ~?」

宜之「ぷっ…」

薫 「何?」

宜之「しゃぁないやろ? “マコト”って名前のヤツは、一度は“まこっちゃん”って確実に言われんねんから」

誠 「やっぱそうか~」

薫 「え? なに? 言ったらアカンかった?」

宜之「いぃや~!」

誠 「全っ然!! むしろ自然すぎておもろかっただけっ」

薫 「も~変な言い方するから焦ったやん!」

宜之「ははっ」

誠 「ごめんごめん。さ、気を取り直して、お弁当食べよか」

 ! …きたっ! …ちらり、薫の様子を伺った。

薫 「待ってましたぁ~!」

 あれ、普通?

誠 「はい、まず僕の~。次、タカの~」

宜之「サンキュ」

誠 「お待たせしました~最後に薫ちゃんの~」

薫 「いやったぁ~」

 誠が薫に弁当を手渡し…

 …ごくっ…

薫 「何が入ってるんやろっ?」

 た…

 手に! 薫の手にっ弁当がぁ~っ!

 気がづけば、オレと誠は薫の手と弁当を、まじまじ。と、見つめてしまっていた。

薫 「んん? …あんたら何見とん?」

宜之「いゃあ~」

 軽~く目をそらした。

誠 「うぅん」

 誠はそれでも見とった。

宜之(「オイッ!」)

薫 「あげへんでっ」

 がくっ

誠 「あはは、大丈夫やって~」

 よ、良かった。ボケとって…

薫 「じゃ、いっただきまぁ~すっ」

宜之「…(はい)いただきます」

誠 「いただきまぁすっ」

宜之&誠「…」…ごくり… 

 またオレ等の視線は薫に釘付けになった。さっきのはマグレかもしれん…

 誠は気にしながらも、弁当に箸がのびていた。

薫 「ん~美味しいっ…」

誠 「ん!」

宜之「どしたっ? マコ…」

誠 「ぅうまぁ~いっ」

宜之「ぁ…そ、」

誠 「タカもハヨ食べ~ョ?」

宜之「うん…。お、本マに旨いなぁ」

誠 「やろっ?」

宜之「なかなかえぇ店や」

誠 「そぉやろぉ~」

 ふと薫を見ると、我を忘れて感動しながら弁当を旨そうに喰っている。 

 …面白い

誠 「なんか、今、一番春を感じてるんかもなぁ~」

宜之「ん?」

 誠がオレを見てた。

宜之「そぉ、やなぁ…そぉいえば、こんな風に花見するの久しぶりやなぁ~。」

 誠や他の友達とも一緒に桜を見たことはあったけど、桜の木の下で弁当を食べた事はなかった…

 家族とは昔はあった気がするけど

 …しかし謎は残されたまんま…

 ちらり。薫を見た。

薫 「ふふふん」

 感動しながらも、黙々と食べ続けている。



  そんなこんなで、楽しくも不思議な花見の時間は過ぎていった。

 それでも、「なんか、今、一番春を感じてるんかもなぁ~」と言った

 誠の台詞が、何故か心に残ったままやった



誠 「さて、そろそろ僕は帰ろっかなぁ~~」

宜之「もぉ帰んの?」

誠 「いぃ記念日になったわぁ~春の」

宜之「マコ!」

誠 「ん?」

宜之「有難ぅな、楽しかったで」

誠 「何言っとん? 皆やから楽しめたんやん。ま~キッカケを作ったんは僕やけどねっ」

薫 「そぉやんやなぁっ! 感謝してんでまこっちゃん」

宜之「なんか…名残惜しいよな、」

誠 「ん?」

薫 「…」

宜之「あ、いゃ! なんでも」

 なんでこんな言葉が出てきたんやろ?

誠 「…タカっ!」

宜之「んっ?」

 ―誠が言った事を、忘れないと思った―

誠 「春は、来年も来んで。ココにも。僕等にもっ!」

 満面の笑みで誠はそう言った。何故か チクッ と、胸が痛んだ気がした。

 めっちゃ当たり前な言葉やのに…心に、重く響いていた。

宜之「…そぉやんなぁ…(ヤバッ何か…泣きそう)」

薫 「……」

 思わず二人に背を向けてしまったオレの肩に、誠が手をかけた。

誠 「タカ! 後は二人でなっ」

宜之「へぁっ? コソッと何言うとんねん」

誠 「気ぃきかしたんや~ん♪ ハヨ気づけやぁ」

宜之「えぇ?」

誠 「じゃぁ、薫ちゃん、今日は本マに楽しかったなぁ」

薫 「あ、うん本マに! うち、今日という日を忘れへんわ! 有難う」

誠 「僕もやで。それじゃぁこの感動し屋さん☆をヨロシク」

薫 「あぃよぅっ」

宜之「お前等ぁ~二人共…」

誠 「ばいびぃ~」

 そうして誠は帰って行った。本マにオレをおいて…。

宜之「その…なんでもないからさ」

 気まずくなるのを避ける為に先に声をかけた。

薫 「…なんでもないんやったら…えぇねんけど」

宜之「うん、本マに。本気で。」

薫 「…」

宜之「いや、こんな花見友達とするん初めてやったからって何か感動してもたわ!

  自分でもびっくりやで! ホンマはははっ…」

薫 「…」

宜之「…? どない、したん?」

薫 「…アカン、わぁ…もぅ…無理や…」

宜之「え…?」

薫 「…」

 また黙ってしまった。

宜之「何?」

薫 「…」

宜之「なんやねんな? …言わな…わからへんやん」

 内心は焦っていた。いつもの調子な薫とは、どこか、何かが違う気がして…

 何か…

 何か、

 嫌な予感(気)がした。

薫 「…なんで…なん? ……なんでっ、なんでそっんな……ふぇっ…」

 薫は泣きはじめてしまった。

 ?

 なんで? は、オレの台詞ちゃうんか?

 なんでいきなり泣いてん?

 ……なんでやねん

薫 「うちっ…ぅ…ごめん! ごめんなさいっ!」

 泣いてたと思たら今度は頭を下げた…

 しかも何やら謝ってる…?

薫 「うちっ…うちな……たかゆきに…謝らな」

宜之「…聞いとぉで」

薫 「…」

 薫が顔を上げた。

宜之「ちゃんと聞いてるから。

  ゆっくりでえぇから…」

薫 「…」

 …オレは心の中で深く深呼吸をした。

宜之「だから、…ちゃんと話して?」

 薫は手で涙を拭ったが、次から次へと溢れ出るばかりだった。

宜之「ほら、」

 思わず自分のハンカチを差し出した。

薫 「…」

 薫は無言で受け取ろうとしたが、その手にハンカチは掴めなかった…

宜之「な、んで…―」

 思わず口から声がこぼれ、

 は! とし、口を手で押さえた。

薫 「…」

 焦りを隠しきれないまま、薫の様子を伺い見た。

薫 「…」

 薫は伸ばした手を力なくおろし、再び黙り込んでしまった。

 オレは黙って、そんな姿を見ているしかなかった…。

薫 「…うち…な、」

 よぅやく少し落ち着いたのか、口を開き話し始めた。

宜之「…うん」

薫 「…ふぅ…」

 薫は深く深呼吸をし、オレも同じ様に深呼吸をした。

薫 「…うちが、うちが生きてる…人間じゃない…って……たかゆきは、分かってるやろ?」

 …

宜之「…」

 うん。

 なんて…口に出されへん…「わかってる。」なんて…

薫 「…」

 オレの気持ちを察してか、それ以上は聞かず、話を続けた。

薫 「…うちな、もぅ今日で……」

 言葉を絞り出すようにゆっくりと喋った。
 
 そこから先は…言わんといて…――― !!!

薫 「たかゆきに…もぉ会えへんねん……」

 最後の言葉迄しっかりと、薫は言った。

 オレは……頭が、目の前が真っ白になった。

 何、…言うとん?

 オレの

 目には、

 しっかり薫が映ってる…

 やのに、なのに…

 真っ白や………

宜之「…」

薫 「…ごめん…本マに…黙ってて…ごめんなさい」

宜之「…どぉゆうことやねん……」

 次第に怒りに変わっていく自分の感情に戸惑いながらも、

 薫の発した言葉の意味を聞かないわけにはいかへんかった…。

薫 「…」

 薫はオレの微妙な心の変化を敏感に察したのか、

 少し目線を下に落とし、…瞼を強く閉じた様に見えた。

 そして、

薫 「…さよならやねん」

 ぽつりと呟いた。

宜之「! おまぇっ…自分が何言っとぉか分かっとんかっ?! なんやねん、いきなり!

  なんでそんなこと…なんでそんなこと言うねん?!」

 オレは自分自身、わけがわからんようになりだしていた…。

薫 「……うちも…こんなん言ぃたなぃよ…でも…しゃぁなぃやん?本マやねんから

  …本マに…今日で、」

 薫は…理由をちゃんと語ろうとしていなかった。なんでや…?

宜之「なんでや? だったら…謝るんやったら何でちゃんと理由言わへんねん!

 そんなんで…そんなんで納得出来るかっ!」

薫 「…理由聞けば、たかゆきは納得出来るん…?」

宜之「今更聞くな…分かってるやろ、」

薫 「…そぉ…やんなぁ…」

宜之「なぁ…なんでなん? なんで…こんないきなりやねんな、

  オレ等、友達とちゃうかったんか?」

薫 「…友達やで」

宜之「じゃぁっ!」

薫 「友達やからっ! …友達やから…やから言ぃにくい事、沢山あるんちゃうの?」

宜之「言い訳や…」

薫 「そぅや…言ぃ訳しか、言えへんよ」

宜之「…」

薫 「…たかゆきにはさ、うちの気持ちわからへんの? …今どんだけうちが淋しいか…

  辛いか悲しいんか…!」

薫 「…うちは、たかゆきの前から消えてしまう…

  だけどたかゆきは、またうちのおらんかった生活に戻るだけやん。只…それだけやん。

  いつの間にか…うちのことを忘れてまう。きっと…」

 薫の目から、次々とまた涙が溢れていた…

宜之「オレは…謝らへん!」

薫 「…」

宜之「悔しかったら…もっと一緒におってや。こんなたった何日かだけの友達なんて…

  そんなん有りかよっ」

薫 「…たかゆきには、たった何日間でも、…うちには…すっごく長く感じた! 嬉しかったよ!

  楽しかった! 本マに、初めての友達にしちゃぁ~…良かったョ」

宜之「…」

薫 「……こんなに……離…れるんが、辛くなるなんて、思いもよらんかった。

  ごめん…ごめんな…? こんな……別れ方しか、さよならしかできんくて…」

宜之「…」

薫 「いつかさ、たかゆきがうちのことを忘れても…、うちは…出逢えたこと忘れたくないっ」

 手で涙を拭きながら上げたその顔は、笑顔やった。

 …やけど、

宜之「…勝手な事、言うなよな、いきなりオレの目の前に現れて…今度は、いきなりさよならかよ…? …なんやねん…」

 …自分でも気づかん内に涙が出ていた事に、よぅやく気付いた…。

薫 「たかゆきっ、泣かんといてよ…とか言いながら、…本マはちょっと嬉しい…

  うちの為に泣いてくれてるなんて…」

宜之「アホっ…友達をなくすのは誰だって辛いねん!」

 涙がこれ以上溢れないように、必死だった。

宜之「…なんやねん本マ、いきなり…。一番最初会った時もおどかしといて、

  …最後も驚かすなんて…

  ? それになぁっ…オレが忘れるなんて決めんなよ、

  …忘れるわけがないやろっ!」

 再び頬を伝う涙を、手で軽く拭った。

薫 「…」

 そんなオレの頬を薫の手がそっと触れた気がした。

薫 「……有難ぅ、たかゆき。うち…本マ幸せやったよ」

 薫は…今迄以上に素敵な笑顔やった。

 …そんな風にみえた。

薫 「…、」

 オレに背を向けようとした薫を止めようと、

宜之「!…薫っ…!」

 ……初めて薫の名前を呼んだ気がした。

 そして、

 …その時、また不思議な事が起こった。

 引き止めようと伸ばしたオレの手が、薫の腕を捕まえた。

 …確かに。

薫 「えっ…!」

 薫は驚いてオレの顔を見た。

 オレは…思わず固まってしまった。

宜之「…夢なんか? これは…夢なんか?」

薫 「わからん…うちにもわかるわけないやん…本マ、嘘みたいや…」

 薫は微笑んで、オレに捕まれた腕でオレの腕を掴み返した。

 初めて触れ合えた。

 オレと薫…

宜之「軌跡…なんかな」

 多分、照れ笑いしてたやろうな、この時のオレは。

薫 「…こんな嬉しい事、ないわぁ」

 また涙が頬を伝った。

薫 「本マ言うと、お弁当が一番の軌跡やと思っとったで、うち」

宜之「オレも、」

薫 「…ぁ、本マに…本当に有難ぅ、たかゆき。うち、忘れへんからな! 絶対。絶対に…!」

 力強く言った。自分が忘れないように?

 オレが忘れない事を祈るように?

 深意はわからんけど…未来は…明るく思えた。

宜之「おぅっ!」

 笑顔で言った薫に、笑顔で返した。

薫 「…それじゃぁ」

宜之「…」

薫 「また…来年!」

 …は?

宜之「はぁ?!」

 え、ちょっと待て?

薫 「たかゆきが…うちのこと忘れずにおったら…また来年、春が来たら…」

宜之「え、どゆことやねん?」

薫 「うちは…うぅん、なんでもない。

  来年、春が来たら…またこの場所で逢える…そんな気がする」

宜之「なんやねん?! それ。本マ意味わからんねんけどっ! ちゃんと説明しろよ?!」

薫 「好きやでっ! たかゆきっ」

宜之「なっ…」

 そう言ぅと、薫の姿がおぼろげになりはじめた…。

 か、

宜之「薫っ…!」

 両手で薫を掴もうとしたが、

 …

 もぅ、薫には、

 触れられなかった。

 オレの腕は

 何も掴んでは、いなかった…

 薫は…

 もぅ、いなかった。

 オレの目には、誰も映ってはいなかった。

宜之「え…」

 …目の前に、かすかな光がキラキラと、輝きだした…

 …

 そのキラキラに触れた時、フラッシュバックが起こった。



 ―それは去年の出来事。 ここの大学を受けた日の事だ。

 試験を終えた後、受かるかどうか不安だったオレは、なんとなく、この桜の木の下に座り込んだんだった。

 まだまだ咲くには程遠い季節やのに、この桜の木に触れて…

 「また会おな…その時にはさ、満開の花、咲かしてな」

 そう…笑顔で言った―

 ?

 ―立ち去るオレの姿を見つめる…薫の姿が、桜の木にダブって見えた。―



宜之「…ぅっ……く…!」

 涙が止まらんかった。 次から次へと溢れて…止まらへん……。

宜之「薫ぅ――――――っ!!!」

 声の限り、春の晴れた青い空に向かって叫んだ。

宜之「!?」

 振り向いたオレの目には、

 …

 桜の花が全て散った…

 葉桜が映った。

宜之「有難う、薫。桜…満開やったな、オレ、ちゃんと見てたで?

 あの日、ここで初めて会った日。」


 薫は…

 桜がみせた幻やった。

 でも、

 確かに、薫はいた。

 オレと一緒に、

 誠と一緒に。

 確かにいた。



 春の桜がみせた、ひとときの淡い幻。

 一瞬の楽しい思い出。

 ちょっと、変わった、

 悲しい思い出。



 それが薫。

 薫だった。



 また、桜かおる頃、

 オレは薫に出逢えるんやろうか?


 それは、誰にもわからない…。


 
 
 

完。
 
 
 

天汰PresentS・
seasons...第一章、春・桜
Since...2oo5/2o14
 
 
 

seasons...第一章、春・桜

いかがでしたか?
拙い文章で、もう、本当に手の施しようがないので、手直しなしで載せています。
10年以上前の作品ですが、未だに深く気に入っている作品のひとつです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

seasons...第一章、春・桜

季節は、春。 大学の入学式が行われる中、早々にサボった宜之(たかゆき)が桜の木の下で出逢ったのは…。 神戸を舞台にした、笑い?と涙の春を、にわか神戸弁でおくる長編物語の第一章のはじまりです。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-15

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  1. 4月11日 月曜日、天候晴れ。
  2. 翌日、4月12日 火曜日は雨だった。
  3. 4月13日 水曜日。
  4. 4月14日 木曜日。
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