静謐な蔵の宴

 前に見た夢の続きを、改造をいれつつ書いていこうと思います。

 ジャンルはホラーですが、怖くはありません。グロ表現が少し含まれますのでご注意ください。

1夜 始まり

 修学旅行。高校2年生で、修学旅行の夜と言えば宿泊。宿泊と言えば、彼らには一番お楽しみな時間帯だ。

 家族と過ごす日々とは違った異色の体験は、学生の彼らの胸を躍らせるには十分な刺激である。

 今日の夜。旅館の広いロビーに学生たちを集め、先生が点呼を取り、それぞれがおおまかに「規律に従い、学生としての本分にそぐわぬ事のない範囲で楽しむこと。明日の見学に支障をきたす事のないよう、遅寝はしないこと」という内容を10分ずつ話していた。

 そうして、それぞれが各部屋に戻る。就寝時間の予定まで残り1時間。たったこれだけで夜のお楽しみタイムを楽しみ倒せというのも無理な話だ。

 各学生は、部屋で恋話や怪談話、噂や悪口などに花を咲かせていた。…真面目に寝ている学生と言えば…、男部屋に勲三と、女部屋に咲久子がいるだけである。

 こんなに早く寝ている理由は、別に真面目だからではない。
単に彼らがオカルト部だからという理由からだ。

 と言うのも名ばかりで、知識からなんからまで、揃った本格的に研究を行ったりしていたのは彼らの先輩の代までだった。

 今やその先輩達も部からいなくなり、ただの好奇心でそれらしき場所に行ったりする程度の彼らだけが部に残された訳だ。

 これまでの彼らの部活動では、何ら不可解現象は起きておらず、雰囲気だけが楽しめている。そんな事ばかりだった。

 勲三と咲久子はこの館についての怪談話は既に調べていた。この館の隣にある古い館で、今までの工事に全て続行不可な事故が起こり、解体できずに放置されているいわくつきの館だ。

 二人はネットを利用して詳細を調べたが、猟奇的かつ不可解な事の多い殺人事件があったという情報と、現在は木材で厳重に打ち付けられていて、外から中には侵入できないようにしてあるという情報を入手していた。

 更に詳しいことを調べようとしたが、前者はそれ以上の記述が見つからず、後者は咲久子が家に帰ってまで調べた結果、一つだけ不思議な方法だが一応は見つかった。

 その方法自体は眉唾物だったが、オカルト部としては面白みがあったので、その方法を試す事となった。


 …深夜の2時。学生達の部屋もすっかり静まり返り、廊下はポツポツと照明があるものの視界は悪い。風に揺れる窓の音と床の軋む音のみが不気味な程に賑やかだ。

 見回りの先生も就寝している。

 勲三と咲久子は、事前の打ち合わせ通りにロビーで待ち合わせをしていた。勲三は先に来ていて、携帯で時間を確認しながら咲久子を待っていた。

「ごめん、待った?」

 咲久子がやってきた。少しばかり入るくらいのポーチを腰にかけている。なにやら小道具を持ってきたみたいだ。今までは大したモノにも遭遇しなかったので、俺は何も持ってきてないのだが、咲久子はいつも準備は欠かさない。

「3分ほどね。それはいいから、行こう」

 二人は1階の女子トイレ前にやってきた。中は薄暗いが、周りの風景は月に照らされて輪郭が見える。勲三は周りを見回す。

「…まるでこの旅館のスタッフからも煙たがれているみたいに管理が行き渡っていないな」

「うん。…問題の奥のトイレも故障中の張り紙も古いし…」

 旅館の1階の、玄関から右手側に行った先の2番目のトイレ。そのトイレの、奥の故障中と書いてある3番目のトイレ。
そのトイレが旧館への入口。

 それがネットで調べた旧館への入り方だった。

 勲三を先頭に、咲久子がついてくる。
いつもと変わらない、ちょっとした肝試し。なのに、咲久子はなんとなく緊張しているように見えた。

 気にせず、3番目の扉に手をかけた。ゆっくりとドアノブを回し、中へ入る。そこは特別に変わっている様子もなく、ただ他のトイレより少し汚れているだけだ。

 一応はこのあたりを調べてみたが、隠し扉とかそういった類いのものはない。変な現象もなく、ただ拍子抜けになって行くだけだった。

 咲久子も緊張が和らいできたようで、ホッとしているようだ。

「どうやら、今日の活動はこれまでのようだな」

 勲三は言った。咲久子も頷く。怪奇現象も何も起こらない以上は、こちらとしてもしようがない。

 勲三はドアノブに手をかける。

「………………」

「勲三君?どうしたの?」

 勲三の手にじわりと汗がにじんだ。

「開かない」

 咲久子は戸惑った。どう反応していいかわからない。勲三は冗談を言うほどユーモアのある人物ではない。

「ドアの鍵はこっちについてるんだよ?開かないなんて、そんな事が…」

 そこまで言って、勲三が考えてる事を咲久子は察した。

「怪奇…?」

 咲久子がその言葉を発したのと、トイレから気泡が浮かび上がったのは同時だった。二人は振り返り、便器を見る。

 先程まで汚れていても便器の底が見えていた筈の便器の中の水は赤黒くどろりと濁っている。酷く濃厚な鉄の匂いと、腐乱した肉の匂いが鼻につく。咲久子は胃から何かが押し寄せるモノを感じたが、我慢して飲み込んだ。

 そして、中から…所々の肉がべろりと剥がれて血肉の繊維が見え隠れする犬の頭が浮かび上がってきた。白い眼球が二人を見据える。

「う、うぅぁあ、あ」

 咲久子はあまりの恐怖に腰を抜かしてしまった。

 奇異な犬は、中から出まいと上半身が飛び出す。勲三と咲久子を襲わんと、便器から暴れて出ようとしている。

「こいつ、させるか!」

 勲三はそういって犬の頭部を足で蹴り、便器の中に押し戻そうとする。

2夜 血だるま犬

 しかし、蹴っても蹴っても手応えが少ない。少しずつ這い出てくる奇異な犬に対して、何度も押し返そうとするが、皮膚が剥がれて滑ったりするのだ。

 勲三が蹴った一撃が奇異な犬の鼻に命中した。一瞬、ひるんで後退した。

…ガチャリ

 後ろで音がした。どうやら腰を抜かしていた咲久子は後ろでドアを開けることに成功したらしい。

 二人はとりあえず外に出た。勲三がドアに背もたれ、あかないようにしている。

「このままじゃ、遅かれ早かれあの犬が出てきちまうな」

 後ろで扉をバリバリと掻く音がする。既に下半身もかなり出始めているようだ。このままでは…

 咲久子はようやく立てるようになり、急いで近くのロッカーに向かう。

「何してんだ、咲久子?」

 彼女はモップを掴むと、勲三の前に立った。

「開けて、勲三君」

 勲三は考えたが、このままでもしょうがないので、彼女の言う通りに素早く開けた。中では足まで出ている犬が便器から出ようと暴れている。

 咲久子はモップを地面と水平にし、犬の顔面を突いた。犬はお構いなしに暴れる。咲久子はモップで犬の顎を打ち上げ、突いた薙いだ叩いた突いた打ち上げた突いた突いた。

「さ、咲久子?」

 勲三は問いかけた。咲久子は怯え切った顔で犬を縦横無尽に叩いている。

 …バグっ、ごスッ、バカッ、ゴンッ、ベシッ、ドスっ、

「帰れええええええ、帰れえええええ、来たとこに帰れええええええ!」

 犬はどんどん押し込まれ、便器から顔だけだす程になっていた。咲久子は便器に何度もモップを突いていたが、途中で便所カバーの蓋を閉めた。

 …すると、不思議なことに犬が中で暴れる音は止んだ。

「ぜぇ、ぜぇ。も、もう大丈夫かな…」

 咲久子はそのばにヘタっと座り込み、一息ついた。勲三はポカーンとして咲久子を見ていた。

「えっと、やるなお前…」

「へっ?あ、いやその…」

 先ほどまでの記憶を思い出した。必死だったとは言え、他人に見られて嬉しいものではない。咲久子は自己弁解の言葉を必死に探したが、なかなかない。

「どうやら、怪奇現象に遭遇しちまったみたいだな」

 「う、うん。まさかあんな怪物みたいなのがでるなんて…」

「ああ。それもあるが、周りを見てみろよ」

 咲久子は言っている事がわからず、周りを見渡してみた。3つのトイレの扉。真っ暗な窓。古い蛇口、床や壁に使われている木材。使われていないからか穴があいている壁や床や、張っている蜘蛛の巣…え?

「どうやら本当に来てしまったらししぞ。旧館に」





 皆幸せそうだなぁ。とてもかわいそうだね。

 そこのカップルとかもいつか結婚しようって話してたね。

 皆が、幸せになるために努力しているんだね。

 大丈夫。僕も皆が幸せになれるように後押ししてあげるよ。

 今日、この日のために出し物を考えてきたんだ。

 喜んでくれると嬉しいなあ…


 
「さて、旧館に来てしまったのはいいが…。どうする?」

 勲三は聞いた。確かに肝試しは面白いが、あのようば事がその度に起きてしまっていては無事でいれるかはわからないからだ。

 咲久子は少し考えていたが、やがてにっこりとして勲三を見つめて言った。

「私たち、オカルト部だよ?ちょっとくらい探索しようよ」

 勲三は頷いた。さっきまではいきなりの出来事で不安になったりしていたが、今度はなんだかワクワクして来た。

 二人は少しワクワクとした足取りで出歩く。周りの雰囲気、リアリティはこれまでの肝試しから最上級だ。

「…ん?この廊下、さっきも通ったよな」

 勲三は言った。先ほど通った時にあった、汚れ方が特徴的な消化器を気にかけて通っていたのだが、どうも同じ汚れ方の消化器が何本もある。これはおかしい。

 咲久子も同じことを思っていたらしく、頷いた。

 それから逆方向を歩いたりしてみたが、どうしても同じところに来てしまう。咲久子が残り、勲三が歩いても咲久子に再開してしまう。

 二人は見合わせた。

「どど、どうしよう」

「窓があるんだし、窓からでようか」

 勲三は言った。外側からは窓に鍵がついてて開かないが、内側からなら脱出できる。

「やめたほうがいいんじゃない、かな?」

「ん?何か理由でもあるのか?」

 勲三は咲久子を見た。咲久子は黙って肩を震わせている。
様子が分からずに首をかしげると、咲久子は勲三の後ろを指さした。

「何だ、俺の肩に何か…うぉっ!」

 そこには、透き通る様に白い肌の、同年代くらいの男の子がいた。足は地面から離れて中空にあり、体はほんのり透けている。

 明るい笑顔で手を軽く振ったので、怖い話で良く聞く幽霊とは少し違うイメージな印象を受けた。

静謐な蔵の宴

静謐な蔵の宴

きちんとした知識のない、ただそれらしし所に言って肝試しをするのが好きな、形だけのオカルト部員の勲三と咲久子。二人は、修学旅行にて妙な噂の多い旅館に泊まる事を聞き、早速と調査をして確認を取ることにした。 そうして、噂の旅館の1階。玄関から右手側にある2番目の女子トイレ。そのトイレの手前から3番目の、何ヶ月前、何年前からそうなのか「故障中」と書かれた扉。 いつもどおりにただ肝試しをする筈だった二人だったが…

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-15

CC BY
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  1. 1夜 始まり
  2. 2夜 血だるま犬