リンネ

初めまして!今回、ハチさんが作成なさったボカロ曲「リンネ」を自己解釈し、ストーリー化してみました。拙い文ですが、よろしくお願いします。

寂れた駅。ここに私は立っている。もういっその事ホームから飛び降りてしまおうかとつい考えてしまう。
「黄色い線よりお下がりくださいませ、お客様。」
いつから現れたのかうっすらと含み笑いを浮かべた車掌がそう言った。彼に会うのももう何度目だろうか。彼は一体何者だろう。もう何度も会っているのだが一向に彼の正体が掴めない。
「ですが、このような悪夢を見るのももうこれが最後になるのでしょう。よいではありませんか、私の正体など。」
何なのだ、彼は。他人の心が読めるのだろうか。毎度のことながら不気味だ。
最後、とあの男は言ったが私はまだこの夢を見続けるような気がしてならない。そんな私の目の前を、鈍色の電車が通り去る。

リンネⅠ

最初に私がこの不気味な輪に陥ってしまったのはある春の日だった。これといったとりえのない私は、友達というのがいなかった。極度の人見知りであったというのもあるのだが。だからいつも学校では一人ぼっち。自分から話しかけることもなければ話しかけられることもない。孤独な毎日を過ごしていた。
そんな私の毎日を変えた出来事があった。私が告白されたのだ。向こうから「ずっと前からいいなと思ってたんだ、付き合ってくれない?」と。だが正直いって迷惑だった。別に好き好んで孤独を選んでるわけではないのだが、あまり異性と話すのは好きではない。恋人など尚更である。最初は断っておいた。だが彼は退かなかった。そんな彼を私は次第に認めていくようになっていった。ーここまではよくある話だ。ここからいろんなイベントが待っているのだろう。だが私の恋人ライフは、一週間も満たぬうちに終わった。

「Aさん!」
私は彼の声で振り返った。なんだろうか?なにか用でもあるのだろうかと思っていると、思いがけない言葉が響いた。
「今度、一緒にデートでもしない?」
私は何かの聞き間違いかと思った。だが、どうやら本当らしい。私は彼のことが本気で好きになってしまっていたので、思わず
「うん!嬉しいな!」と口走ってしまった。そうだ、ここなのだ、不幸の元凶ともいえる場所は。なんて愚かなんだと後悔したのは、その一週間後である。

その日から私は彼のことしか考えられなくなった。彼のことを悪く言う人は許さない。彼は私のものーそんな風にまで考えるようになってしまった。今まで真面目に頑張ってきた勉強もだんだん適当になってきた。勉強が手に付かない、彼の顔が脳裏に浮かぶ。そのころの私はほんとに幸せだった。これが永遠に続いて欲しい。ずっとそう願ってきた。
そしてついにデートの日がやってきた。私はとびきりお洒落な格好をして行った。彼は、よく似合ってるよ、と微笑みながらそういった。私は昇天してしまいそうなほど舞い上がってしまった。私たちはあちこちを回って行った。周りからは微笑ましいカップルに見えたことだろう。普段は地味なキャラで通してきたが彼の前では別の自分でありたい。彼もきっと喜んでくれているだろう。ー何度も言うが、本当に幸せだった。
だんだん日も暮れはじめ、彼は
「最後に観覧車に乗ろう。」
と誘った。
二人で観覧車に乗り、彼は静かに言った。
「今日はほんとにありがとう。楽しかったよ。」
そう言うと彼はいきなり私の唇に唇を重ねた。ファーストキスだった。だが、彼に奪われるのなら、本望だった。彼は私を静かに抱きしめた。これが永遠の時であって欲しかった。

私がデートに誘われて一週間後、私は信じられない写真を見つけた。
「何なの、これ…」
私は絶句した。彼がほかのクラスの女の子とキスをしている写真を彼の財布から見つけたからだ。日付は私とデートをした前日。まさか、彼は二股をしているのか?そんなはずはない、彼に限ってそんなことは!だがそんな私の思いは呆気なく崩れ去る。

ついに私は目撃してしまった。彼が仲良さそうにほかの女の子と手を繋いでいるのを。彼の顔はどことなく私と一緒の時より嬉しそうにみえる。そのままあとをつけてみると、彼は観覧車に乗った。その後の彼の行動はもはや見るまでもなかった。私はフラフラとした足取りで家路についた。
家に着くなり私はベッドに飛び込み、大声で泣いた。これ以上ないくらいの大声で。幸い家に誰もいなかったので、誰も聞く人はいなかった。

それからの私はほんとにおかしかった。ろくに食事もせず、学校に行っても無気力、前以上に話さなくなり、帰宅すれば真っ先に風呂に入り寝る。家族と話は一切しなかった。それを見兼ねた母が学校に連絡した。娘に何かあったかもしれない、と。バカなことだ、どうせ学校は何も取り合っちゃくれないだろう。学校は小さな社会だと誰かが言ってた気がするが、自分らに不都合なことを隠蔽することもそんな社会の一つなのだろうか?きっとそうなのであろう。そんなの間違ってる。だがそんなことを言っても仕方がない。暗くてジメジメした社会に救いなど求めたくはない。

私がおかしくなって一週間後、私は学校側から呼び出された。理由は私の最近の生活習慣について。母がやはり学校側に訴えたのだろう。余計なお世話だ、と私は思った。話すことなんて何もない。というか、彼のありえない一面を見てしまっただけだ。そんなことは口が裂けても言えたものではない。母もまさか娘が色恋沙汰で悩んでるなんて思いもしないだろう。そう思うと少し愉快な気分になった。

私が学校側から尋問され続けて小一時間、ようやく私は開放された。全く迷惑な話である。確かにあの遊び男のせいで心が落ち着かなかったのは事実である。それをどうこうは言うつもりはないが、別に誰かに聞いてほしいわけではない。聞いたところでどうにかあるわけではない。どうせ残るのは周りの人の冷たい目線だけだ。だったらそんなものをあびることなく平穏に、私だけの真実として隠しておきたい。だから私は母にひどく憤慨しているのだ。なぜ母は学校にそんなことをいったのか。そんなの母にしかわかることではないが、私はどうしても母に尋ねたかった。そう、この日だ。私が狂いに狂い、周囲から恐れられた恐怖の夜が訪れたのは。

その日の夜、私は母に尋ねた。なぜ、学校に話してしまったのかと。すると、母の答えは意外なものだった。
「そんなの決まってるでしょ。あなたが困っているようにみえたからよ。親として当然でしょ、子供の様子を見るなんて。」
母は笑ってそういった。私は涙がでそうだった。なんて優しい母なんだ。いつもは口うるさくてかなわないが今日は母がこんなにやさしくみえた最初の日だといってもいいだろう。そう思っていた。が、しかし、母はすぐにこちらに向き直り、
「なんていうとでも思ったの?そんなわけないじゃん。誰があんたみたいな女に気に掛けるっていうのよ。馬鹿じゃないの。いいわ、この際だからいうけど、あなた私の子じゃないのよ。あなたのほんとのお母さんは病死したの。あなたは私の養子ってわけ。わかる?あなたは戸籍上私の娘だけど、本質的には私の娘じゃないの。そんな子に気に掛ける必要あるのかしらね。話がそれてしまったわね。なんで言ったかって?そんなの決まってるじゃない!どうせあんたのことだからしょうもない男に惑わされたとか、ファースト奪われたとか、そんなもんでしょ?それがばれたら風評被害にあうからやめてくれとかそんなもんでしょ。くだらないわ、そんなの。やっぱりあなたはお父さんの子ね。私がここにきたのだってお金目当てなのよ?あの人なんて初めから眼中にないの。つまらないのよ、ほんと。でもお金があるだけまだましね。よかったわ、当面ここで食べていけるだろうから。」
私はここ数分に話された突飛な出来事の連続でほんとに吐き気を覚えた。なんてことだ。私は母の子ではない?今まで母だと思い込んでた人は母ではない?しかも目の前の女は父の財産目当て?なぜだろう、ここは室内なのに、大きなカラスが目の前を通り過ぎて行った気がする。ここから先は正直よく覚えていない。だが、気が付くと目の前に先ほどまで私を嘲っていた女が血だらけの姿で倒れていた。私の手にはナイフが握られていた。
「そうか、私がやってしまったのか...」
だが、不思議と後悔というものは残っていなかった。ようやく私は開放される。と思っていたが、どうやら私の体はそうでもなかったようだ。何故か私は自分の首筋にナイフを当てていた。私は今は亡き実の母を思い浮かべようとした。顔は全く覚えていないのだが、私に生を与えてくれた唯一の人だ。そんな母にはほんとに申し訳ないがここで命を絶たせてもらう。


ここはどこだろうか。寂れた駅。黄昏時ではあるがどこか昼のようでどこか夜のようだ。そんなところに私は立っていた。どこか見覚えがあるのだが思い出せない。ああ、そうか。私は自殺したのだ。義理の母を殺して。まだ学生の身なのにもう人生を閉ざしてしまったとは。つぐつぐ馬鹿なやつだと私は思った。そこに黒い服の男が来るなり言い出した。
「お客様、黄色い線よりお下がりくださいませ。大変危険でございます。.....はて、初めて見るお顔ですね。ご自分の人生をご自分で閉ざされたのは初めてでございますか?」
妙なことを聞く人だな。そりゃ初めてだろう。そもそも一度死んだら戻れないだろう?と思っているといきなり、
「そんなことはございません。ここは完全に死んでしまった方はいらっしゃいません。すべて未遂に終わった方のみがいらっしゃいます。つまり、ここは俗にいう天国とか地獄とかいう類の場所ではございません。ご安心を。ですが、時々死んでしまった方も時々いらっしゃるのですよ。貴方はもしかすると一度人生を閉ざしてしまったが、この駅にたどり着いてしまったのかもしれません。もちろん、ここから死後の世界に旅立つこともできるのですが、どうでしょうか?このへんで人生を終わられますか?それでも構わないのですが、私としましては貴方様は元の世界に戻られることをおすすめします。やり残したことを終わらせていらっしゃってください。」
と言い出した。何で私の思っていることがわかったのだろうか?
「では、元の世界にお戻りください。お客様。またのお越しををお待ちしております.....」
音もなく鈍色の電車がやってきて静かに扉が開いた。
「その列車は元の世界に戻る列車となっております。どうぞ、お乗りくださいませ。」

リンネⅠ その後

あれから一年がたった。私はある日、ベッドで目が覚めた。だが、そこに「母」と今まで呼んでいた人物は存在しなかった。

一年前、私は母を殺した。それは事実である。私はおそらく、然るべき罰を受けることだろう。今思えば、なんともバカなことをしたものだと、慚愧の念に襲われるのだが、それほど私は放心していた。もう私は当面の間、学校に戻ることもないだろう。そう思っていた。だが、私はこれまでの間、一度として警察とはあっていない。学校にも普通に通っている。どういうことだろうか。
答えは実に単純だった。私は母を殺したあと、一度自殺したという結果で人生を降りたのだ。事実、私は焼かれた。当然記憶はない。だが、夢の中で黒服の車掌に会った時、彼は確かに死んでないとは言ってはないのだ。もしかすると、と言った。おそらくそのもしかすると、のうちの1人が私なのだろう。だが母はいない。では母は一体どうなったのだろうか?そんなことを考えながら今日も私は通学路を渡る。

すると、道ばたで見慣れない老女に出会った。彼女は色白で70前後といったところか。黒いローブを身に纏い、一見して魔女のようだが、不思議と浮くようなことはなかった。なぜだろう、いやな予感がする...あの老女は何かしら危険因子を持ち合わせている。
老女は最初はにこやかな顔で私に笑いかけたが、刹那老女は私を凍り付かせるような鋭い眼差しをこちらに向けた。やがて口を開くと、
「どこにいたのだ、少女よ。そなたはここにいるべきではないだろう。...そう、あの駅なんてどうだい。また私もあそこに行きたいものだよ。こんな場所はもうやだね。」
「え。あなたもあの駅にいたの。どうして私たちはここにいるの。」
「なんでだろうねぇ。あの車掌のせいだろうねぇ。あいつはどうもいけすかないねぇ。あいつは昔からそうなんだよ。死にさしかかった人間をこの世につなぎ止めては生き返らせ、あの駅でほくそ笑んでるんだろうねぇ。」
なんだ、急に態度が変わった気が.....
「あの車掌とかあの駅の正体って一体なんなの?私には全くわからないの。ねえ、教えてちょうだい!」
「私の知っている範囲だけどもね、まずあの車掌はそもそも人間じゃないんだよ。やつは山羊だ。と、いっちまえば私も人間じゃないんだな。私は鴉だ。とまあ私の話は置いておこうか。あの車掌だろ。まあやつは山羊だよ。」
「や、山羊?なんなのよ、山羊って!あいつどうみても人間でしょ!」
「いやいや山羊だよ。あいつはそんな顔してるだろ?」
「顔で判断するの.....」
「なにか問題でも?」
「いや、なんでもないわ...あいつは人間って思ってたなぁ」
「ちょっ、お前さん私が鴉ってのは信用するのかい!?」
「え、自分でそういったじゃん」
「ちょっとは疑ってくれないと傷つくんだよ.....」
なにこいつめんどくさい、ということは置いておこう。うん、このばあさんは変なんだ。鴉ばあさんと呼ぼう。
「ねえ、鴉ばあさん」
「鴉ばあさん言うな」
「いいじゃん、じゃああの駅はなんなの?みた感じ普通だけど、きっと普通じゃないんでしょ。」
「お、よくわかったな、そうそう、普通じゃない。あの駅の正体はおそらく日本でいうところの三途の川だよ。だからあの駅を渡ると死ぬんだよ。日本じゃあそこに婆さんがいるんだろ?薄汚い婆さんが。あ、いや私のことじゃないよ。それだけはわかっておくれ、ああそんな目でみないで!」
「いや、みてないわよ!」
「いや、それでだね、あの駅は要するに地獄の一歩手前なわけ、私はなんどもあそこにいってるからね、言って見れば常連なわけよ」
「何回死んでるの?」
「そうだな....焼身が1回、溺死が1回、これはきつかったよ、もう二度としたくないわね。んで薬物が2回、交通事故が3回かしら。計7回ね。」
「もうそれ楽しまれてるわよ。でもなんで交通事故が多いわけ?」
「一回目は本気で自殺を考えて電車に撥ねられたのよ。あれはもう、痛いのなんのって。んで次はぼーっとしてたら車に突っ込んでしまった。3回目は自転車に追突されて脳挫傷で逝っちまったな」
「壮絶すぎるわよ...」
なんだろうか、鴉ばあさんはどうも憎めない。なんだか祖母をみてるみたいだ。しかし、祖母はきっとこんなおしゃれじゃないんだろうなあ。

そうだ、祖母は私が生まれる前に亡くなってしまったのだ。だから祖母の顔を私は知らない。ああ、祖母に一目会ってみたいなあ、と思っていると、
「ああ、お前さんのばあさんか。いい人だったよ。あの人は。ちょうどあの人と同じ日に死んじまってね。まるで自分のドッペルゲンガーをみてるようだったよ。考え方も、心なしが外見もね。ただ唯一違ったのはこの世に未練があったか否かの違いだったよ。あの人には未練があったみたいでな、何だったか、孫の顔が一目みたいといっておったな。」
そうか、祖母がそんなことを....いや、待て。なぜ鴉ばあさんは私の考えてることがわかったのだ!?
「え、な、なんで私が考えてることがわかるの!?」
「二度目に死んでからだね、こうなったのは。人の考えが読めるようになった。三回目には頭の回転がものすごく早くなった。具体的には一つの言語を一時間で取得できるぐらいかな。まだ知りたいかい?」
「い、いや、後で聞くよ...」
なんてことだ。そんなことが起きるとは。このばあさんはいよいよすごいことになったぞ。しかしなぜだろう、このばあさんはなぜ死の国に行かないのだろう。
「行かないではなくいけないのだ。死の国へのチケットとでもいうべきか、その判断はすべてあの車掌が握ってるようだねえ。あいつは未練がないやつは通さないつもりでいるからねえ。さしずめあんたも未練なんてなかったんだろう?」
「確かになかったわね。母を殺してしまえばそれでよかった。それ以上はもうどうでもよかったのですもの。」
「そんなもんだろうねえ。時にあんた、私にあったとき不吉な予感がしたろ?あれは危険予知というか未来予知に等しいんだ。まあ初めてだったから使いこなせてないだろうがね。一度目に死んで得られる能力だ。車掌は死んだ人間に次簡単に死ななくていいように能力を与え続けてるんだよ。なかなかいいやつだろ?お節介なんだけどね。」
なるほど、さきほどのやつが能力だったのか。単なる悪寒としか思えなかったが。使いこなせれば便利なのだろうな。
「鴉ばあさん、貴女さっき一時間で言語を取得できるっていったわよね。一体何カ国語話せるのかしら?」
「そうねえ、だいたい社会に出ても十分いけるレベルが、英語、仏語、伊語、露語、エスペラント語といったところかねえ、けどそれを聞いてどうするんだい?」
「いや、気になっただけよ」
「そうかい」

ずいぶんと突飛な話だ。このばあさんも元は鴉...なのかどうかは知らないが、あの世と呼ばれるような場所の話も聞くことができた。人は誰しも死ねばあの世に行く、という通説はどうやら大嘘だったようだ。現に私はここにいる。一度は死んだ。それによって不思議な能力も身に付いた。それでもこの世にいる。
だが、一度死んだことはこの世では証明できない。それが大きな悩みの種でもある。私は願わくばあの世に行きたい。もう母を殺した私にこの世に生きる資格はない。それなのに、なぜあの車掌は私をあの世に送らないのだ。もううんざりだ!この世界は!
「そんな風に悲観するんじゃない。私だってこの世界は嫌いだ。反吐がでそうなほどな。この世は毒という毒で埋め尽くされている。だがその毒を吐き続けるのは人間だ。その人間である私たちは本来なら悲観してはいけない現状なのだ。それでも目を背けてしまう。それもわかる、私がそうだったからな。だが今私は少しだけこの世界に希望を持っている、あんたのような考えの人間が存在していることを知ったからだ。あんたのように人間に失望しているのならば人間は希望を見いだそうとするのだよ。だがあんたはその小さな、それでも輝かしい希望を死という選択肢を持って閉ざそうとしているんだということを知ってほしいねぇ。私だってもう一度あの駅に行って今度こそ死の世界に踏み込んでみたいんだよ。たとえ地獄であろうともな。だがそれには未練がいる。私の未練は最早存在しない。私には未練の存在意義がわからないんだ。なぜ人は死ぬときに未練を残すのだ?なぜ死という壁に打ち当たって考えるのだ。生きている時にそんなものはなくすべきだろう。少なくとも私は七回の死を経験し、未練を残したことがない。だが、最近はそれでもなんだかわかった気がするんだよ。私の人生は決して単調ではなかったと、なんせ何度も死んでいるんだからね。それでも私の人生には充実というものがなかったんだよ。あんたみたいなのをみているとつくづく思うよ、充実を知ったものが未練というものを残すんだ。あんたも私も充実を知らない。だから未練がない、だからあの世に行けないんだ。そう思うと何とも言えないだろう?」
私は何も考えることはできなかった。ばあさんが言っていることは間違ってはいない。それでも私は反論したかった。だが、それもできないのだと思うと無性に悲しくなってきた。私が悲しくなっていると、
「まあ、そんなに悲観しないことだ。この世に逆らえないことの辛さはわかる。だが、あの男に見放されたとなれば新たな人生を切り開くことだな。そうだな、手始めにこんなのはどうだ!」
いきなり鴉ばあさんは私をナイフで斬りつけた。
「っ...!」
反応できなかった。ああ、目の前がどんどん眩んでいく。ばあさんの白い、それでいて不気味な顔が脳内に浮かび上がる。かろうじて目を開けてみると、ばあさんは、
「おめでとう、これでおそらくはあの世にいけるよ。未練タラタラだろ?君はもう大人になってしまったんだよ。」
最後の言葉の意味は私にはわからなかった。だがその言葉は大きな塊となって私の心にのしかかった。
「さて、私もあの駅へと行くとしようか。あの車掌も待っていることだろう。」

リンネⅡ

目が覚めると、私はまたあの駅にいた。昼とも夜とも見分けがつかないほど曖昧な空。いつぞやか見た、狂った世界だ。辺りを見回してみれば、あの車掌はいない。代わりに小さな少女がいた。
「初めて見る人。あなた、どうしてここにいるの?」
なんと返そうかと迷っていると、
「あなたは人を殺した。そして自分を一度は殺した。そしてあの車掌に蘇らせられた。そして鴉にあった。そして鴉に殺された。どうかしら、合ってる?」
あ、やっぱりあのばあさんは鴉だったんだ。という感想は置いておこう。おそらくこの子は一度死んでいるんだな、と思っていると、
「ううん、私は復活していないから、その能力は得ていないんだよ。死んで復活したらその能力が覚醒するの。私は現世に戻っていない。だから能力はないよ。」
それでも不思議なものだ。この子は私の思っていることをずばりと当ててしまった。

リンネ

リンネ

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-15

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 1
  2. リンネⅠ
  3. リンネⅠ その後
  4. リンネⅡ