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百十一





 主がいなくなった木馬の前に転がったボールをつぶらな瞳で見ていた子は,それを片付けようととてとて歩いて,他に興味が引かれるものを見つけたのか,一度だけは立ち止まった。静かな物が多く,かたかたと動くものも少なくない。片付けられずに箱の側から長い足を出して,引っ張り出すことも叶いそうなものも近くにある。ボール以外になっても不思議じゃない。木馬は生きているように映っている。室内の易しいブランコも空いている。大きなクッションの積み木は門としてもう少しで完成するんだろう,しかし別のものに作り替えるスペースも十分にある。丁度迎えれば,消灯時間のあとにあるであろう話も棚には並ぶ。ただ文字はまだ早いだろうから,選び方はなんとなくという言い方を越えられないだろう,とそれもまたなんとなく,そんな気がするのはよくある話。
 それもまたつかの間のこと,その子が歩いて残りのカーペットを「気持ち」走り,立ち止まり,「それを取ること」をした。ゆっくり。ゆっくり,それで手を伸ばす。ボールもそれを見越して止まり始めている,そうして止まった,ボールの動きを逃がさないように片手で触れて,両手を伸ばすその子は,それを持ち上げて振り返る。そのボールととてとて,とてとて。それを迎える拍手は一つの終わりになった。
 最初の戸締り。主のいない木馬の近くで沢山の質問がなされたという。
「耳みたいな出っ張りは,耳じゃないの?」
 それには木馬が喜んで答えた。姿が動いて見えた。朗らかな月より,外で遊ぶのは容易いと片付けながら言う人もいる。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-14

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