シャングリラはあなたを愛している
美しいもの
若干効きすぎた冷風が、じわりと滲む首もとの汗水を抜けるように冷やしていく。
わたしとノブが後ろの席を思う存分占領できるくらいお客さんの少ないバスで、真面目なわたしたちは初めて学校をサボったなんともいえない背徳感と開放感とでふわふわ浮き足立っていた。
「ねえノブー。わたし、こんなに時間が大切だって思ったのはじめて」
柔らかい座席にうんと身体を沈め、息を吐くように言った。
「普段はあんまりもの考えてないから、時間が経つのあんなに早く感じるのかな」
ついでに隣にいるとこんなにリラックスできる人もはじめて、と心のなかで確信する。
ノブじゃなかったらこんなに曖昧でふわふわした話はまずしないだろう。
ノブ、という少年の持つ信頼感となんともいえない安心感に尊敬の念を込めて隣を見ると、考え事をしているのかぼうっとしているのか、外の景色を見ながら目を細めていた。
シャングリラはあなたを愛している