practice(110)


百十




 わら作りの被り物を胸に留めて,恭しく挨拶をする。手を借りたのはそれからだった。
 くすぐったくなる足元の乾いたような興味より,一所懸命にバランスを取りながらする旋回の跡を追った。最初,近付いた空の分からない道ばかりを追って,小さい個体の,逃げるような去り方ばかりが視界の端に収まっていた。当てずっぽうなんていう言い方が実に似合う,穂の先を一度だけ揺らす跳躍を見つけるほうが容易くて,外した目線を何度も頬からくっ付けた。見晴らしよくない「台」を思いっ切り踏んづけて,指示に従い,何もない青から段々と中心になるべき姿が思いも寄らずに入って来て,また逃がし,また追いかけて,そのうちにその姿が中心となっていく。何もなかったただの青の視界に混じって,見失うは段々とそう飛んでいる,羽ばたきのかたちには話せることが多いと気付く。でも言葉が追いつかない。あれは何と言うのだろう。あれは,
「良いコース,ですね。」
 と真上を過ぎ去ろうとしていた動きに合わせて,倒れこみそうであった背中を支えられて,驚きとともに世界は近くなる。くすぐったくなる連れ立つ小さな声に混じって,風が残した,わらの匂いがした。
 くちばしのかたちには話せることが多いと気付く。唇をもごもごとさせて,好きなものは,何なんだろう。
 旋回する。戻って来る。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-12

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