ダブルクロスお試し企画6
・これは過去に別場所で公開したF.E.A.R.出版のダブルクロスthe 3rd editionの疑似リプレイを小説として書き起こしたものです。何卒。
・鬱、流血表現なども含みます。閲覧のほどは自己責任でお願いします。
特待生たちはダブルクロスをプレイするそうです
ダブルクロス、お試し企画その6
(今回ややグロ注意)
GM:…………さて。次のシーンは次の日の朝から始まるぞ。場所はUGN支部。登場は全員だ。
四人:シーンイン。
>侵食率上昇
伊月 1D10 → 7
椎堂 1D10 → 4
四方坂 1D10 → 9
那智 1D10 → 6
>伊月空也の侵食率 129% → 136%
>椎堂臨の侵食率 118% → 122%
>四方坂都の侵食率 101% → 110%
>那智の侵食率 123% → 129%
・クライマックスフェイズ2、「おわれない物語」
「で、那智はどうしたんだ?」
「……洗面所で吐いてるよ。ありゃ重症だな」
次の日の朝。UGN支部は異様な沈黙に包まれていた。
原因は昨日の事件を解決したあとにあった。安藤と神原を伊月と那智が探しに行った。それまではよかったのだが。
……校庭で倒れている那智を見つけたのは伊月だった。状況から察するに投身自殺を謀ったらしいが定かではない。
解決したはずの事件。だが、まだ続く事を暗示させるような不吉な出来事。幸い大きな怪我は無かったらしいがこの状況では何かがあったと見ていいだろう。
そんな中、伊月と椎堂は二人揃ってため息をついていた。四方坂は那智の介抱と事後処理に追われていて今この場にはいない。
「……何がどうなってるんだ?」
「私もさっぱりだ。とりあえず、都さんの性格的に身内に手を出されて黙ってるタイプじゃないからなぁ」
「もう少しバタバタするハメになる、か。あーあ、休日が……」
普段から学校をサボっている人間が休日が潰れる事を嘆くなよと椎堂は呆れた顔で肩をすくめ、窓の外に視線を移した。
東雲恵美は死んだ。間違いなくこの手で殺した。だが何故だろう、胸がざわつくのだ。とてつもなく嫌な予感がする。……こんな時に限って何も言ってくれないもう一人の自分に対し、ほんの少し腹立たしさすら感じた。
「……ゴメン……もう、大丈夫」
「死人同然の顔で言われて信用するやつがいるか馬鹿」
不意にそんなやり取りが耳に入り、伊月と椎堂は声のした洗面所の方を見る。と、同時に出てきた四方坂と目が合い、彼女はどうしようもなさげに肩をすくめて苦笑いした。一方那智はと言えば、壁伝いに手をついて移動し、ソファーの上に崩れ落ちる。
「うわ、大丈夫なのかよ」
「……たぶん」
「あー、こりゃどう見ても重症だ」
慌てて二人が駆け寄り声を掛けるも返事には明らかに元気が無い。顔色も紙のように白く、焦点の合わない目がぼうっと虚空を見つめていた。
とりあえず伊月と椎堂は手近な椅子を調達するとソファーのそばに腰を下ろし、四方坂が話を切り出すのを待つ。
ある種の期待の目に四方坂は複雑げな表情で話を切り出した。
「で、その体調の所悪いんだが早速本題に入らせてもらうぞ。昨日何があった?」
「…………」
「言えないか、言いたくないか」
「……言えない。都、ゴメン……ケータイ、貸して」
普段と明らかに違う覇気の無い声に四方坂は根負けしたような様子で支部のケータイを那智に渡す。
一方、伊月と椎堂はお互い何度か視線を合わせるだけで沈黙を貫いていた。昨日会ったばかりの人間が下手に口を開くべきではないと言う判断なのだろうか。
>情報収集判定(境界線2) <情報:裏社会>難易度20-8(2回目補正)
→17(成功。判定値17)
しばらく無言でケータイを操作していた那智だったが、数分して糸が切れたようにぱたりと腕が落ちる。そしてケータイを一番近くにいた伊月に差し出して言った。
「……安藤さんの家を調べて。僕、疲れた……ごめん。しばらく、休ませて」
どこか酷く落胆した様な、泣き出しそうな表情の那智に四方坂はブランケット渡して応え、伊月の受け取ったケータイの画面を覗き込む。
どうやら誰かとメールしていた様だが、その内容は極めて異質なものだった。
「……なぁ、どう言う事だよ」
伊月の震え声がポツリと響く。その問いに、椎堂も四方坂も答える術は無かった。
「ほのかが覚醒してる可能性があるって、どう言う事だよ……!」
絶叫に近い言葉と共にケータイが投げ捨てられる。ガシャン、と騒々しい音を立てて電池パックが転がり視界から消えた。二人はその暴挙を止めるだけの言葉が見つけられない。
反射的に立ち上がり、荒い息を吐きながら伊月は片手で顔を覆った。
ほのかが、覚醒? オーヴァードに? あり得ない。あり得ないあり得ないあり得ない。だって昨日、あいつはいつも通りだった。間違いない。誓ってもいい。なのに、覚醒? じゃあなんで純はそれを知らない? 知っていたとして親友の俺に教えない? どうして?
出口の無い自問自答がぐるぐると巡って吐きそうになる。だって、それは考えたく無い事実で。
「UGNが経過観察してたんだろ……? じゃあなんで覚醒してんだよ! あり得ない……どうしてほのかが……? なんでだよ……何でよりによってあいつなんだよ!! 答えてくれよ!! なぁ!!」
「伊月」
感情の赴くまま激昂し、混乱した感情をそのままぶつけるように叫ぶ伊月に椎堂は酷く落ち着いた声で名前を呼んだ。
「那智が寝てるんだ。もう少し静かにしてやれ」
「…………悪い」
流石にその言葉には逆らえなかったのか、沈黙して伊月は椅子に崩れ落ちる。チラリと垣間見えた表情は苦悩に塗り潰されていた。
そんな伊月と椎堂を見比べ、四方坂は小さくため息をつく。一般的に正しい反応は伊月だ。何も間違っていない。
例えば、そう例えばの話をする。君は化物だ。一瞬にしてたくさんの人々を殺せる力がある。その力を使えば使うほど君は死に近付くが大切な人を守る為には使うしかない。
でも、ある日その一番大切な人も自分と同じ化物に変わり果てていたとしたら?
絶望、するだろう。何より先に混乱し、受け入れがたい現実を拒絶するだろう。心を守る為に現実を否定し諭そうとした周囲の人々を傷付けるだろう。痛い程に、よく分かる。何故なら。
伊月が覚醒した時、神原純は今の伊月と同じように苦しんでいたのだから。
「……伊月。悪いがこんな事、このくそったれな職場じゃ日常茶飯事だ」
再び訪れた沈黙の中、椎堂は虚空を睨むような表情で伊月に語りかける。それはまるで、自分自身に言い聞かせているような言葉でもあった。
「……常に最悪を想定しろ、希望的観測はするな。……こんな所で立ち止まってちゃ駄目だ。那智の言ったように安藤さんの家を調べるべきだと思う」
「……」
椎堂の続けた言葉に伊月は完璧に沈黙する。最悪を想定しろ、とはつまり。安藤ほのかが既にジャーム化している可能性を考えろと言う事だ。
おそらく、それは伊月が最も恐れている事で。
「……よし、動ける奴だけでも動くぞ。椎堂、安藤の家を調べるから手伝ってくれ。……伊月。お前は安藤ほのかと神原純がこっちに来ないように見張っといてくれ……出来るな?」
◇
羽月:ゲームマスター、シーンに出ずに安藤ほのかと神原純を足止めする事は出来るか?
GM:出来ない、と言いたい所なんだが親友の伊月なら苦も無いだろうな。特別に許可しよう。
羽月:それからクレジットデータを共有する事は出来るか?
GM:うーん……ポジティブでロイスを取ってる相手となら共有出来るって事にしようか。
ルカ:なんか……本当にクライマックスって感じがするな。
凛:こりゃ真のラスボスが他にいる予感w
夕月:と言うか凛の発言どう考えてもフラグwww
羽月:お前らシリアスどこ行ったw
ルカ:シリアスは投げ捨てるものw
GM:捨てるな捨てるなwで、お前ら購入判定どうする?
羽月:あ、応急手当キットとか<万能器具>で作れないか?w
GM:ぶっw<RC>で判定……まあいい、購入難易度8ならくれてやるwただし1個だけだぞw
凛:結局作るのかw
羽月:何の為のモルフェウスだと思ってるんだwじゃあ購入判定は応急手当キットとスナイパーライフルでw
ルカ:応急手当キットがここまで活躍するシナリオなんて無いんじゃないかwww?
夕月:回復厨www
羽月:夕月テメェあんまり馬鹿にしてると誤射るぞwww
凛:「射線上に立つなって、あたし言わなかったっけ?」w
ルカ:誤射姫乙w
>補足、「誤射姫」。神食い(ゴッドイーター)に出て来るとある女性NPC。味方に向けて(ここ重要)銃を撃つ事からあだ名がついた。
GM:とりあえず購入判定頼むw
・羽月
>購入判定 <調達>難易度8
→14(成功。判定値12+<調達>2)
>購入判定 <調達>難易度19
→19(成功。判定値14+<調達>2+財産ポイント3)
>羽月 残り財産ポイント → 5
羽月:よし、どっちも買えたな。スナイパーライフルは那智に渡すぞ。で、応急手当キット2つ消費でHP回復だな。
>回復1回目 2D10 → 13
>回復2回目 2D10 → 9
>羽月 残りHP28(全回復)
羽月:よし、これで突入にも問題はないなw
GM:くっそ、完璧に体勢立て直しやがったw
ルカ:すげぇw
夕月:やるぅw
凛:じゃ、楽しい楽しい不法侵入に参りますかw
GM:それじゃ、始めますか。クライマックスフェイズ3、「オオカミは家の中?」。登場は椎堂と四方坂、伊月は登場不可。宣言と侵食率上昇お願いします。
椎堂&四方坂:シーンイン。
>侵食率上昇
椎堂 1D10 → 7
四方坂 1D10 → 8
>椎堂臨の侵食率上昇 122% →129%
>四方坂都の侵食率上昇 110% →118%
・クライマックスフェイズ3、「オオカミは家の中?」
雨の中皆同じ様なまっさらな顔を晒して立ち並ぶ家々の前で、二人は足を止める。四方坂の後ろでメモ用紙片手に辺りを見渡していた椎堂は、ある表札のかかった家の前へと向かった。
「えーっと……北の37……安藤、ここだな」
「そうか……誰も見てないよな?」
そういうと四方坂も家の前に立ち、辺りを注意深く見渡す。
「両親は?」
「共働きで不在らしいよ」
「確認に越した事はないな。すみませーん! どなたかいらっしゃいませんかー!?」
何の相談も無しに唐突に叫び始める四方坂に椎堂は飽きれた様な表情で肩をすくめた。
もう一度念のため四方坂は叫ぶが、全く返事は無い。
>椎堂:気付くかな……? <知覚>難易度9
→16(成功。判定値15+<知覚>1)
その時、椎堂は肌の泡立つ様な異様な寒気を覚えて一瞬体をびくりと震わせる。慌てて振り返り、辺りを見渡すも何も無い。ただ同じ顔をした家が無限回廊のように淡々と並ぶ雨にくすんだニュータウンの白い街並みが広がっているだけだ。人影はおろか鳥の影一つ無い静かな場所。
だが。静かすぎる。何もかもがおかしい。考えてもみろ、今は休日の真っ昼間だ。昼食を控えた位の時間帯だ。なのに人っ子一人おらず気配すらしない。まるでハリボテの街に一人放り込まれたかのような孤独感がじわりじわりと不安を呼び起こし、叫びたいような衝動に駆られる。
「……都、ここ、変だ」
「その様子からして本当らしいな。さっさと中にお邪魔しよう」
うざったいほど自己主張をする不快な雨の中で顔色を真っ青にしている椎堂を横目に四方坂はそう言うと、門を押し開けて中に入る。椎堂もその後に続くが、庭の中に入ってもその寒気は拭えなかった。
しばらく荒れた庭を眺めていた四方坂だったが、その辺りに落ちている枝を拾い上げて寸分の狂いも無い鍵に『作り変える』と玄関の鍵穴に差し込んで回す。すると、何の抵抗もなく鍵が開いた。
「よし、ビンゴ」
そう言って、ゆっくりと玄関の扉を開ける。
扉の向こうには、暗い廊下が広がっていた。明かり一つ無い暗い廊下が家の奥に向かってまっすぐに伸び、一番奥にU字を描く階段が影を携えて鎮座している。内実共に典型的なこぢんまりとした分譲住宅の構造をした家で、一見して人がいるようには見えなかった。
中をよく確認しようと一歩踏み込んだ四方坂の鼻腔を埃と饐えたような臭いが突き刺し、思わず手で鼻や口を覆った。
「……椎堂、照らせるか?」
「ああ。念の為……<ワーディング>」
後ろ手に扉を閉めた椎堂が光球を浮かべると同時に<ワーディング>を展開し、家全体をすっぽりと包む。今度は鍵を懐中電灯に作り変えた四方坂は椎堂の明かりが届かない範囲を入念にチェックした。
「玄関廊下ともにAll clear……そっちはリビングか。人の気配は無いな」
「ああ、こっちもだ。気味が悪いな」
お互いの背中をカバーする様に移動しながら、二人は靴をはいたまま廊下に踏み込む。多少罪悪感がつきまとう行為だがこう言う場合は緊急事態なのでできれば許容して頂きたい。四方坂は手でリビングと思しき扉を開けると椎堂に合図すると、扉に手をかけた。そしてほんの少しだけ扉を開け、中を覗き込んで確認する。
想像通りのリビングだった部屋は特に何も変わった点は無い。カーペットの敷かれた床にテーブルとソファー、そしてテレビ。何の違和感も無い平凡なリビングだ。テーブルの上には中にまだ飲み物が入ったコップが二つ程置いてあり、ソファーの上にはテレビのリモコンが投げ出されている。まるでついさっきまでここで団欒していた人間が一瞬にして消え去ったのかのような光景に二人は言い知れない不安を覚える。生活感がありすぎるからこそ、違和感があるのだ。
消えた住人。誰もいない街。『触媒(カタリスト)』。境界線。東雲恵美。繋がりそうで繋がらない情報に頭を抱えながら四方坂はそっと扉を閉め、2階へと向かった。椎堂もすぐにその後に続く。
階段に差し掛かったその時、むせ返る様な腐敗臭が二人の肺を満たし反射的にこみ上げる胃液が喉をついた。
「っ……!?」
「ぐ……!!」
思わず足が止まり、口を抑えて吐き気をこらえる。胃液の染みた食道にむかむかと嫌な感触が残り、相も変わらず腐敗臭は二人を包み込んでいる。
四方坂は口元を手で庇うのをやめ、キッと階段の奥を睨みながらゆっくりと足を踏み出す。一歩踏み出すと足元で階段が抗議の悲鳴をあげ酷く軋んだ。それと同時に、2階に上がるごとに着実に臭いはきつくなっている。もはや空気に質量まで感じる程の異臭は鼻をつまむとかそんな次元の話では無い。口から吸い込むだけでも数日間の食欲をごっそり奪い取るだけの破壊力があった。
椎堂も嫌々ながら、それでも口元を庇ったまま四方坂の後を追い階段を登る。
ようやくの思いでたどり着いた二階は、トイレを除けばドアは三つしかなかった。そのうちの二つには「ぱぱとままのへや」と「ほのかのへや」と言うプレートの様なものが下がっている。どうやら異臭は「ぱぱとままのへや」からしているようだ。
四方坂はジェスチャーで椎堂に階段下まで下がるように伝えると、「ぱぱとままのへや」のドアの前に立った。出来るだけ静かに、そして思い切り良く、ドアを開ける。
その瞬間、圧倒的な臭いが溢れ出す。錆と大量の脂に魚の内臓と動物の死体と蛆虫をぶち込んで密閉し、夏場の湿った場所に放置したらこうなるんだろうと意識の外で四方坂は何となく考える。階下から水道の水の音と誰かがえずき嘔吐する声が聞こえた気がした。
だが、四方坂はそれから目が離せない。
「これが……パパとママ……?」
部屋の中央のダブルベッドの上には、臭いの元と思われる肉塊が一つ置いてあった。ベッドのクッションやシーツは赤黒い体液を吸って変色して腐り、よく観察すれば小蝿が二、三飛んでいる。肉塊は腐敗過程のようで、どろどろになった肉と内臓が赤黒く染まって汚れた骨に絡み付いて糸を引き無残な姿を晒していた。頭皮から削げ落ちた毛髪でしか男女の区別が付かない有様だがまず『コレ』が人間である事自体が信じがたい。
>四方坂:気付けたかな? <知覚>難易度7
→18(成功。判定値17+<知覚>1)
その時、四方坂の視界の端にあるモノがよぎる。部屋の隅に2つほど転がっている白いモノだ。あれは何だろう、と四方坂は目を凝らす。得体のしれない何かと腐臭が目に染みた。それでも、その何かの正体を突き止めるべく見るのをやめない。そして、気付いた。
部屋の隅に、頭蓋骨が二つ転がっていた。
四方坂は無言でドアを閉め、臭いと光景に耐え兼ねてフラフラと「ほのかのへや」のドアへと向かう。今まで扉が閉まっているのなら多少は臭いが薄い事を期待して入った部屋は、案の定ある程度新鮮な空気が残っていた。あの臭気から大分開放された事に安堵しつつ四方坂は部屋の中を見渡す。
安藤ほのかの部屋は、大分普通と言っても過言ではなかった。些か数の多いように感じる縫いぐるみやクッションもまだ許容範囲内だろう。一般的な少女としての持ち物しかない、ごくごく平凡な部屋で四方坂はふと那智から託された情報の全容を思い出す。
境界線。存在が認知されたのは8年前……つまり、安藤ほのかが小学校3年生の時。当時の彼女の余りの幼さからUGNが引き取ると言う形ではなく経過観察を行いやすい場所へ家族ごと引越しさせて様子を見ると言うプランが実行された。そして、引っ越した先がここ。
ここ最近の東雲恵美との接触によりすでに覚醒している可能性も否定は出来ない。
死体の腐乱具合を見るにおそらく「ぱぱとままのへや」のあれが死んだのはごく最近だろう。だとすれば覚醒時期も、
「……あれ?」
ふと、ある疑問に突き当たる。
昨日。つい昨日、伊月と那智の二人は安藤ほのかの家に訪れた。腐乱臭がしたならいくらなんでも気づかないか? 廊下に漏れ出す程の腐乱臭だ。しかもここ最近は雨だったから気温も上がりにくく腐敗速度もある程度抑えられる。それなら、あの二人が気づくはずだ。それなのにどうして?
第一人の死体が完全に白骨化するには相当長い時間がかかる。一体普通の家にどうして白骨死体が? 何時から?
(考えろ……考えろ! 何かがおかしい……もっと、こう……何か前提から間違っているような……)
廃墟のような街。少女の家の死骸。気付かれなかった異臭。考えれば考える程頭が痛くなる惨状。四方坂はしばらくドアに背をつけ呼吸を整える。後少しで、何か重要な事が分かりそうなのだ。だがその後少しに今一歩届かない。
数分後、四方坂はそっとドアから離れるとまだ<ワーディング>が継続しているのを確認し、窓を開けた。窓からは無機質な白い街が広がるだけで、生きている物の姿は何一つとして見つけられない。四方坂は窓枠を乗り越えると外側から窓を閉め、そして二階の屋根から庭へと飛び降りる。これくらいの運動は例え肉体強化系ではないオーヴァードでも簡単にできる事だ。四肢を使って上手く衝撃を殺しながら着地すると、今度は玄関から再び中に入る。「ぱぱとままのへや」のドアを開けてしまったためか薄っすらと腐臭が玄関先まで漂っていたが、2階に比べれば可愛い物だ。そして廊下へと踏み入り、微かな水音を頼りに洗面所に向かう。
予想よりもあっさりと洗面所は見つかった。大量の水を吐き出す洗面台にもたれかかる様に座り込んでいた椎堂は気配を察してか蒼白な顔で四方坂を見上げる。
「……何があったんだ?」
「死体が一つと髑髏二つ。とにかくここを出て支部に戻ろう。いくつかわかった事がある」
おそらく嘔吐したのだろう、荒い息を吐く椎堂に手を貸して四方坂は立ち上がらせると洗面所を出て玄関へと向かう。そして再び鍵を作ると玄関から外に出て鍵を掛け、最後に椎堂が<ワーディング>を解く。これで一応は侵入した段階と同じ状態に戻せたはずだ。
街には相変わらず雨が降り続いていたが、今の二人にはそれがとても心地よかった。服についたかもしれない腐敗臭を洗い流してくれる様な気がしたからだ。もしあの異臭が肌や服に染み付いていたらと思うとぞっとする。
「で、わかった事って?」
「…………ジャームだったんだ。安藤ほのかは、ずっと前から狂ってた。たぶん、東雲恵美に命を狙われるよりずっとずっと前から……覚醒じゃない、もう狂ってるんだ、あいつは」
「……そんな証拠がどこにある?」
「死体と一つ屋根の下であの腐敗臭の中暮らせる人間が正気だとでも?」
四方坂の返答に椎堂は下唇を噛んで沈黙する。反論の余地がなかった。ドアを開けただけで嘔吐を催すほどの腐敗臭が漂う様な家の中で暮らせる人間などいない。いたところで、正気では、ない。
あの独特のむせ返る様なにおいを思い出したのか雨に濡れ顔に張り付いた前髪の下で顔色を青くする椎堂を四方坂はチラリと横目で見上げ、ポケットからスマートフォンを取り出して番号を選ぶ。そして無言で耳に押し当て、何かを押し殺す様に口の端を歪ませて待つ。
数十秒の沈黙の後、プツリと言う音と共に彼は電話に出た。
「……伊月、二人は今そばにいるのか? ……そうか。いや、いい。落ち着いて聞いて欲しい…………安藤ほのかの家から、死体が、見つかった。那智の状況を鑑みても……安藤ほのかは、ジャームとしか考えられない。俺たちは死体の処理をしてからそっちに向かう……だから、決めてくれ……誰を殺して、何を護るのかを……」
雨は、まだ止まない。
◇
GM:さて、この後は人を派遣してもらって死体の撤去でいいんだな?
凛:多分それでいいと思うぞ。
ルカ:何か色々やばい展開になってきたぞ……。
夕月:問題は残りのグレーゾーンが白か黒かだよね。
GM:それじゃ、四方坂。<交渉>で難易度10の判定頼む。
羽月:よく分からんが把握した。
>羽月 <交渉>難易度10
→22(成功。判定値21+<交渉>1)
GM:お前らなんでそんなに出目いいの? 馬鹿なの? じゃ、お前は死体を回収した専門の人からこんな情報を聞き出す事ができる。(紙飛行機を飛ばす)
羽月:普通に渡せ……えっと、うわぁあ……。
夕月:あ、何かやばい情報上がったみたいだね。
凛:で、次のシーンどうするんだ? 俺も余裕無くなったんだけど。
羽月:ロイスが全部残ってるうちは全員生存圏内だから安心しろってwいざとなれば倍振りも追加振りも出来るんだからw
ルカ:で、安藤ほのかがヤバいんだよな……結局俺はあの後どうしたんだ?
GM:シーン登場してないから特に行動を起こしてない事になってるぞ。安藤と神原の足止めくらいしかしてないな。シーンに出るなら会話シーン作るが?
羽月:とりあえずわかっている事。
・安藤ほのかはジャーム。
・神原純はグレーゾーン。
多分ラスボスは安藤だな。ジャームになった原因とかはおよそ掴めたが、「触媒(カタリスト)」についてはまだ推論の域を出ない。
凛:ゲームマスター、「触媒(カタリスト)」について詳しく調べられないか?
夕月:と言うか「触媒(カタリスト)」本来の意味から少し遠ざかった運用方法とかしてない?
GM:ん、バレたか。それじゃあ……<情報:UGN>で判定。難易度は8だ。
>椎堂:わかるかなー? <情報:UGN>難易度8
→13(成功。判定値12+<情報:UGN>1)
GM:OK、それじゃあ情報を開示しよう。東雲恵美の持っていた「触媒(カタリスト)」に関してだ。
変異性「触媒(カタリスト)」。別名「無知の罪(アイロニー)」。
最大の特徴は保有者の周囲にいる人間の体内のレネゲイドウイルスを感情の起伏などにより無意識の内に過剰に活性化させてしまう点である。活性化したレネゲイドウイルスはより激しくオーヴァードを侵食したり、非オーヴァードを感染により覚醒させたりする。
そしてこの「無知の罪(アイロニー)」により覚醒した人間は同じ性質の「触媒(カタリスト)」保有者として覚醒する。連鎖を止める術はいまだ見つかっていない。
四人:…………。
GM:さて、そろそろ全貌が見えてきたかな。
凛:とりあえずこの情報を全員にメールで送ったって事でいいか? シーン作るのもしんどいし。
GM:もちろん構わないぞ。
羽月:あ、じゃあ俺も送ったってことで情報開示する。安藤ほのかの家にあった死体の件についてだ。
腐乱死体については身元不明。ただ、一応オーヴァードだった形跡がある。白骨死体は安藤ほのかの両親で死後3年は経過しているそうだ。
ルカ:真っ黒じゃねえか!!
夕月:うわぁ……。
凛:えっと……これは安藤ほのかがジャームで、しかも東雲恵美の覚醒原因が「感染」、と。
羽月:とりあえず次のシーンどうする? 俺はまだ動けるぞ。
ルカ:とにかくロールプレイ的には出て行った方がいいな。あ、多分次のシーンだとグダグダ悩んだりするロールプレイが増えると思うぞ。
GM:それじゃあ、演出はどうする?
凛:伊月に死体見せればいいんじゃねw俺はグロッキーになって支部に帰るからw
夕月:安藤ほのかは神原に預ければいいと思うw四方坂の名前乱用したら神原の家に固定できるしねw
GM:ふむ、じゃあそう言う流れで。
クライマックスフェイズ4、「猟師の来ない家」。登場は伊月と四方坂。宣言と侵食率上昇どうぞ。
ルカ:シーンイン。
羽月:シーンイン。
>侵食率上昇
伊月 1D10 → 2
四方坂 1D10 → 6
>伊月空也の侵食率上昇 136% → 138%
>四方坂都の侵食率上昇 118% → 124%
・クライマックスフェイズ4、「猟師の来ない家」
騒がしさと人の気配を取り戻した住宅街は、一種異様な雰囲気に包まれていた。
現場の進行管理と現場保存のための<ワーディング>内に外敵が侵入した際の対応役として現場に残る四方坂は適当に調達してもらった服に着替え、紺色の傘をさして今まさに作業をしている黒いバンを無言で見つめていた。
UGN支部の中でもかなり異端とされる四方坂の纏める支部の構成員には、現場処理を専門とする者が複数名いた。今回はその内の一人に処理を頼んだのだが、流石に手に終えずモルフェウス持ちの人材を一人引き連れて来たらしい。先程四方坂のあらかたの報告を受けた二人は嫌そうな顔で中に入って行った。まぁ、腐乱死体の処理をやりたがる人間など一人もいないだろう。
四方坂はそんな事を考えながら、買って来てもらった缶コーラを開けた。プシッ、と言う空気の抜ける音と共に開いたコーラを一気に煽る。自動販売機から出たばかりのコーラの冷たさは何かが粘つく喉に心地の良いモノだった。一気に半分ほど飲み干し一息ついていると、背後から声が投げかけられる。
「四方坂さん」
「ああ、伊月か。安藤は?」
「今、神原の家にいる。すまないが言いくるめるのに名前を使わせてもらった」
「それくらい構わん」
そう言って隣まで歩み寄る伊月を四方坂は横目で見上げ、コーラの残りを口に含む。
言わなければならない事があるのに、それを面と向かって言うのは酷い重圧だった。胃を鷲掴みにされるようなプレッシャーが炭酸飲料を拒むが、それを無視して飲み下す。
椎堂の言ったとおり、ここはクソったれな職場だ。守りたかった人間すら、守れない。
「……ほのかが、ジャームだって……嘘、だよな?」
伊月の問いに、答えられない。
おそらく、それはオーヴァードが最も恐れている事。自分自身がジャームになる事と同様かそれ以上に恐れている事態。
だからこそ、四方坂はその問いに答えられない。伊月の震え声にも、報いる事ができない。
その時、ガチャリと言う音と共に顔面を蒼白にした部下二人が重そうなバケツとスコップを下げて家から出て来た。
「うぐっ……!?」
そのあまりに強烈な臭気に伊月は反射的に口を手で覆って後ずさる。それと同時に、バケツの中身を確認した伊月の顔からみるみるうちに血の気が引いた。
バケツの中には、あのベッドの上にあった腐乱死体が乱雑に詰め込まれていた。同じ色の何かに汚れたスコップの用途などこの際考えたくも無い。申し訳程度にラップを掛けられたバケツを部下達は黙々と車に積み込んで行く。おそらく運搬中にどちらかは吐くだろう。
臭気からそのバケツの中身を察してしまったのかその場に力無く崩れ落ちる伊月の方を見ないまま、四方坂は問い掛ける。
「お前は死体のある家に上がりこんで、何も気がつかなかったのか?」
「そんな……だって、昨日は……」
「……あれ以外に、骸骨が二つあった。安藤の両親にここ最近会ったか?」
「あいつの両親は共働きだ……! 会ってなくて何が悪い……!」
子供の言い訳のような言い分に四方坂はゆっくりと目を閉じる。
「腐乱死体の方はまだ身元不明だが、骸骨はご両親だそうだ。……そろそろ、分かってもいいんじゃないか?」
「…………ッ」
一つ一つ逃げ道を潰すように、言葉を刺して行く。俯き、何かに耐えるように歯を食いしばる伊月の姿に四方坂は言いようの無い罪悪感を覚えた。だが、それすらも押し殺す。
「せめて、お前自身の手で……自分に言い訳が出来るような、終わり方をしてみせろ」
「……でだよ」
噛み付くような、手負いの獣のような低い唸り声に四方坂は伊月を見る。次の瞬間、弾けるように立ち上がった伊月は四方坂の胸ぐらを掴んで吠えた。
傘が二本宙を舞い、ふわりと音も無く落ちて転がる。
「何でなんだよ! 何で殺さなきゃならないんだよッ!? 答えろよ!! 答えろよぉおッ!!」
駆け寄ろうとする部下を四方坂は無言で静止する。
当然、かもしれない。確か安藤と伊月は幼馴染だったはずだった。幼馴染を、親友を自分の手で殺す事など考えたく無いのだろう。
だが。四方坂にも、引けない理由がある。
「……やっぱり、俺がやるしか無いのか?」
その瞬間、ゾッ、と言う感覚と共に彼女を取り巻く空気が一瞬にして塗り替えられる。伊月はその変化に思わず目を見開き、手を離す。
同い年のはずの少女から発せられる、狂うほどに圧縮され濃縮された絶望が、憎悪と敵意と全てを練り上げた肌を灼く程の感情が全てを圧倒していた。まるで少女と言う名の殻を被っていた化け物が、その殻を押し破って姿を覗かせたかの様な変貌に肌が泡立つのを感じて伊月は後ずさった。
「……ここは『境界線』の為に作られたオーヴァードの住むニュータウン。住人は百五十人かそこらだったな。全員、もう死んでるよ。『境界線』の力が殺した。俺の友人の湯川も、ついさっき死体で見つかった」
「なっ…………!」
「伊月。これ以上、人を殺させるつもりか? これ以上、犠牲を増やす気か?」
伊月が一歩下がるごとに、四方坂は実に穏やかに一歩ずつ歩み寄る。伊月は、彼女の瞳から目が離せない。
<ワーディング>すら使用していないのに、言葉と空気のみで周囲を圧倒する少女は、ある種東雲よりも狂っていた。
「あいつを野放しにすれば犠牲者が増える。そうすれば東雲のように殺そうとする人が出る。魔女狩りの再来になるかもしれない、そんな存在は生かしてはおけないんだ」
これが、彼女が猟犬と呼ばれる所以。
狂的なまでの憎悪を持って自我を押さえ付け獲物を狩る事の見に特化した心を持つオーヴァード。高校生にしてUGN支部長の座を渡される実力武闘派の少女、それが四方坂都だ。
そして、彼は全てを受け入れた。
哀しき『赤ずきん』の話は、終焉へと向かう。
◇
おまけ。楽しいレネゲイド教室
GM:次回! ついに最終決戦! そろそろ話す事無くなって来た。どうも、ゲームマスターです。そろそろシナリオギミックの話でもしますかね。
・シナリオギミック
GM:はい、今回こんな感じでマルチエンディングでした。
・クライマックスフェイズまでに「東雲恵美2」「神原純」「境界線2」の情報を全て回収 → END1へ
・クライマックスフェイズまでに「境界線2」以外の情報を全て回収 → END2へ
・クライマックスフェイズまでに「東雲恵美2」以外の情報を全て回収 → END3へ
・クライマックスフェイズまでに「神原純」以外の情報を全て回収 → END4へ
・クライマックスフェイズまでに情報を二つ以上未回収 → END5へ
GM:今回はエンディング2ですね。全エンディング中一番鬱な終わり方かもw
1は比較的救いようのある終わり方なんですけどw
まぁマルチエンドのシナリオを書きたい時は開示された情報の数や進行度で管理するといいと思うのぜw
・今回のシナリオについて
GM:はい、何となく勘付いた人もいると思います。今回のシナリオは童話の「赤ずきん」を題材にしています。更に某笑顔動画の「触媒(カタリスト)」に関する考え方も参考にさせていただいております。感謝感謝。
展開も一部某童話小説を参考にさせていただきました。断章の人で分かる人は友達になってくださいお願いします。
・「触媒(カタリスト)」についての考察
GM:ほい、以下「ダブルクロスTHE 3RD EDITION、上級ルールブック」41頁、No.15。「触媒(カタリスト)」に関する解説冒頭2行より引用開始。
>あなたが、他のレネゲイドを活性化させる能力を持つことを表すDロイス。
GM:これは某笑顔動画(ウルトラ外道ネットワークの元ネタとなった卓)様の受け売りですけど。他者のレネゲイドを活性化させる能力、と言う事でそれの突然変異版をこの卓限定で使用してみました。
「無知の罪(アイロニー)」。レネゲイドウイルスを見境無く、しかも無自覚の内に活性化させる「触媒(カタリスト)」の突然変異版です。戦闘には使用しないので効果は決めてません。バランスブレイクはしたくないですしね。
ルールブックは丸暗記するモノ、なんて思ってるキ○ガイプレイヤー対抗策で私はそう言うモノを作る事が多々あります。まぁ大抵名前だけなんで許してください。本家の設定をいじりたくない人の苦肉の策なんです。
GM:それではこの辺で。待て次回!
ダブルクロスお試し企画6
「ダブルクロス the 3rd edition」は有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチの著作物です。一切の著作権はF.E.A.R.に帰属します。
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