藜の羹
崖っぷちに吊るされた君を救いたい
恐怖に歪めた表情よ
狂おしく愛すべきその指先に
託された醜い生き様にいざ救いの手を
与えよう
与えよう
でももし君の拾われた命がね
誰かのために辞めるなんて言うなら
先端にしがみつく君の指を
ひとつひとつ丁寧に剥がすんだ
簡単に苦しませたりはしないよ
バカな冗談でもいいながら
一度は手を伸ばしてみるよ
その君の顔が安心に触れたなら
その時はきっと
その時はきっと
生の夢を視た君を殺めたい
疑いなくそれを望んだ愚かさよ
愛おしく諭すべきその切っ先に
投げられた儚い生き様に心から祈りを
捧げよう
捧げよう
壊れた君が見たい
嗚呼それだけで僕の血が
踊るように全てを注ぐ
抱きしめながら
泣く君に見えないように嗤うんだ
大丈夫だよ
僕はいつまでも君のために
なんて
囁きながら歌いながら
今日も君のことを想う
どうしたら悲しいの?
どうしたら苦しいの?
どうしたらつらいの?
これ以上君を想える人は他にいないよ
だってだって僕こそが君に憑く神様
世界を見下す君に尽くしたい
悲観し人を忌み嫌う愉快さよ
名残り惜しく揶揄すべきその顔面に
叩きつけたい
僕のありったけを
叩きつけたい
ひとつひとつ込めて刻む僕は優しい
酷く怯えた君の裸体に
ナイフで描く愛のメッセージ
消せやしないさコレは神のお告げ
読めない場所は僕が読み上げてあげる
全身に記された君だけのバイブル
ほら涙流すそんな目玉なんて
邪魔でしょ
抉り出してあげるよ
この世界には君だけで
十分満たされるのさ
言葉も音も感覚も全部全部いらないの
大丈夫
この僕が
ゆっくりと剥がすから
嗚呼
幸福の海に溺れた君が欲しい
五臓六腑高鳴るその感情よ
見通し良く遮断すべきこの景色に
映された美しき神様に
ねぇ
あの感動を
叶えてよ
叶えてよ
"飽かずやありけむ言の葉の
立ち尽くしたりや泪いづるまでぞ
合へ貫く志たるやいとかはゆし
ねんずることなかれや主の者よ"
藜の羹
瀬尾和