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百九




 
 白い足を前にして,湯気立つカップを素敵に避ける。お邪魔しますのひと鳴きも無く,代わりに主人が軽い会釈で挨拶を交わしていることを,悠々とすり抜ける後ろ足で知っているような顔をして,一度,顔を洗ってから座るのだ。客がまだ来ない丸椅子のスペース。早い時間であるために,天井に備え付けたテレビからのんびりとスポーツを流す明るい店内にあっては,そこはカウンターの曲がり角近くで,玄関を見つめるのに多分良い。ふかふかとして丸まった背中に乗っかる気持ちで眺めてみたならそう思える。片耳の黒斑を,目印に迷わないようにしながら,勿論ご機嫌を損なわないように。同種の店にあって,木製の感触が堅苦しいところを越えれば,昼時から続く曇りに細く窄められた傘が色々と困った顔をして通り過ぎていく。出番はまだか,と述べている訳でもないであろうが,買い物袋と重なって,邪険にされるのはどうなんでしょう?とご婦人のものは空を見上げている。それから店の前で立ち止まる紳士。垂直に曲げた腕の延長線上でご自身の手の平を広げてから,何かを確かめ,すぐに終わり,さっさと歩いて去っていく。
「雨は降るでしょうか?」
「雨は降ると思いますよ。」
 カップの取っ手を持って飲む。あつい一口目から美味しい。
 古い形の回すダイヤル式の電話は話せる。収集品は自宅に置くものという主人が唯一店内に持ち込んである,実用に適ったものである。それから知恵の輪は主人がその日に持っていれば,そしてそれを借りたくなれば,という互いの気まぐれの合致の上で手に出来る。難易度は選べない。
「少し遠くありませんでしたか?」
 と聞く主人は,お皿を手にする。
「いえ,そんなことは。」
 と答えながらする今回のものは,なかなかのものだ。
 ご提供される甘いものや飲み物にほだされて,堅苦しさは店内全体の雰囲気として柔らかく落ち着き,子供みたいな愛の冗談ぐらいだったら十分に許される程になっているところで,よく見れば,位置するところと同じく浮いているように思えてならない。年季の入った黒の光沢は同じ高さでぶら下がっている換えたばかりの暖色系の灯りと人には何やら難しそうな話し合いをして,気付くと気になっている。ポスターの絵。有名なワンシーン。
「この映画は見ましたか?」
「見ました。けれど,ここしか覚えていないもので。」
「幼少の頃ですか?」
「ええ,ポップコーンは香ばしかった。」
「そうですね。」
「覚えておいでですか?」
「ええ,もう少し先までは。」
 そういえば,と解説者が昨日にあったことを引き合いに出して,盛り上がりが少ない時間帯のゲームを繋いだ。名前はアンドレノというらしい。お腹の大きな男の子だそうだ。きちんと観れば,狭いブースに彼自身が収まっている。しかしゲストは後ろに引いた椅子から身を乗り出して,彼を全身で祝福している。ゲーム展開から目を離さずに祝福を受けている彼に似て,アンドレノはスポーツ好きな健康優良児になるかもしれない。解説者か,そうでないか。
 いずれにしろ,ゲームはそのタイミングで大きく動いた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-10

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