practice(107)


百七




 月を食んで大きくなる低い草の陰に隠れることが出来るまでに,一頭のこととして,小走りに去る砂埃の細かい立ちかたが紺色にまで後ずさりした,明るい夜半を包んでいた。不思議と目にも入らない,風もその日は通り道を大きく変えていたようで,のんびりとするものは随分とそちらに流されて,天候にまで静けさが届く。横切るものもいれば,その特徴を存分に行使することが可能であったはずの機会は,思われているように,内側で球形に貼り付けられて,滑らかに配置を変える。這うものは足を伸ばして進んだ。芽吹くものが動いた。平らにならった大地。半分だけ翔ぶものも,遅れた時間は守った。抑えつけた躍動感がそれをぐっと見届ける。岩場を跳んで逃げるものも。どこかの勾配に出逢うまで,その中心を決められない広がりには,生温かい気配が多弁に満ちて,起こそうとするようなところは,けれど枯れ木の幹にも触れていないから,澄んだ感触には隔たりが混じる。さらさらとした灰色の双葉が芽を出すのは,そういうところと,雨が休む,深層にまでいかない所だとか,点在する石の塊によじ登っている,そしてすぐに降りた躍動感がまた別のところに潜んで見失う。
 尾のように翻る。砂埃の立ちかた。
 頬を撫でて,たまたま居合わせたことを喜んだ。鼻を突き合わせて,思っていることを交換しようと鋭い目に,牙を隠して。容れていた水はひと舐めぐらいで,あとは灯りに浮かべて,あとは随分と溢した。大地の表面が浸されて,器を持っていた指が濡れた。
 コンドルみたいな影。光合成には間に合わないと思うけれど。
 静寂がその内で許した喩えのような気配は茂みに潜み,尾は顔を出して,息を吹きかける。光と遅れる。それからものに重なり,失われた近さで,大事な声に耳を澄ませる。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-06

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