赤い本
たまたま目に入っただけだった。それだけの本なのになぜこんなに涙が出るのだろう。
いつもの古本屋である本が目に入った。
赤い表紙の古い本。
かなり古い本のようでページは擦れてジッと見なければ文字が見えないところも所々あった。
普段ならあまり読まない西洋史。
何故だかすごく気になって買うことにした。
「珍しいね、西洋史買うなんて」
彼はそういって本を袋に詰める。
「わからかいけど、読まなきゃいけない気がしたの。」
私は本を受け取ると近くのカフェに入った。
いつものハーブティーを注文するといつもの席で先程の本を広げて読み始めた。
私と彼と同じくらいの青年たちの話だった。
読んでる途中で涙が止まらなくなった。
今までどんな感動作を読んでも泣かなかった。
感動なんかじゃなくて。
作者はどれだけ彼らのことを愛していたのだろう。
「……ただの…物語なのかしら…」
涙が零れる目を擦り窓の外に目を向けると古本屋の仕事を終えた彼がカフェに入ってくるのが見えた。
私が泣いてるのを見るとギョッとした顔で近づいて来る。
「どうしたの、なんで泣いてるの」
そう言って私の頭を撫でる手が優しくて
彼らにもこうやって頭を撫でてくれる人がいたのだろうか。
きっと居たんだろうな、こんな頭を撫でられるなんて小さな幸せがすごく大きな幸せだったのだろうか。そう思うとまた涙が出てきた。
小説に感情移入なんてしたことはあまりなかった。
「…ページがない」
1ページだけ抜けていて、かなり寂しかった。
見つかるといいな、そう思って目の前でオロオロしてる彼に話しかける。
「ねぇ…もし今戦争が始まって、人を殺さなきゃ自分が死ぬ状況に置かれたら…君はどうする?」
彼はかなり時間をかけて悩み、答えた。
「…わからない、その状況にならないと。僕にはわからない」
そう言って目線を下に落とす。
「この本、そんなに良かったんだ。僕も読んでいいかな」
私は黙ってうなづき
「1ページだけ、抜けてるの。見つかったら教えて」
そう伝えると赤く染まった空を見つめた。
彼の「わからない」と答えが好きだった。
簡単に答えを出さない、彼のそういうところが好きだった。
この本に出会えて良かった。
きっと私の人生の中で一番大切な本になる気がした。
赤い本