声鳴き
言葉が好きだ。
好きで好きでどうしようもない。
初恋なんて目じゃない。
愛だなんて軽々しい。
そんな類でくくれるような価値じゃないんだ。
こんな素晴らしい力を、存在を与えてくれた神様への感謝が絶えない。
言葉が好きだ。
でもそれと同じぐらい、言葉は恐ろしい。
誰かを好きと心で思う。
思った心で好きと伝える。
相手の心に好きだと届く。
誠実そのもの。
素敵な恋愛が始まるだろう。
でも仮に、好きと思っていなければどうなる。
ただただ言葉として好きと伝える。
そこに心はない。
これでは何も始まらないだろうか。
そんな事はない。
心がなくとも始まってしまうのだ。
言葉として世界に足を踏み出した瞬間に。
言霊。
言葉は力を持つ。
言葉として外に出てしまえば、言葉には魂が宿る。
心がなくても意味を持ってしまう。
ならば、そこに悪意がこもったならば。
僕は言葉が好きだ。
好きがゆえに、言葉を恐れた。
そして結果何が起きたか。
僕は不用意に言葉を紡げなくなった。
言葉が力を持つのを恐れた。
必要最低限の言葉で過ごせるように心掛けた。
とても不便だ、
でもこうするしか僕にはなかった。
なのに。
「好きだよ、君の事。」
そうやってあっさり君は言ってしまうんだ。
僕の想いなんて知らずに。
僕の心はひどく波打った。
いつだってそうやって無遠慮に、何も考えずに思った心をそのまま吐き出してしまう彼女は、僕からしたら魔物か怪物の類にも思えた。
どうしてそんな事が出来るんだ。
大事な事ほど、簡単に口に出すものじゃない。
自分の中の教訓の一つだ。
僕はいつでも言葉を大事にする。そのはずだった。
でも君の想いがいとも容易く僕の規則にひびを入れてしまう。
知ってるくせに。僕がどういう人間か。
知ってるくせに?
僕は自分がふと閃いた考えに戸惑った。
彼女の顔を見る。
ずっと前から見知った顔。
答えを求める表情。
分かってる。答えが必要なのも。
その為に必要な言葉も。
僕は言葉が好きだ。
でも僕はずっとそれに縛られてしまった。
君はわざわざそれを教えてくれたのか。
いや、違う。
ただそう思っただけだ。
僕の気持ちなんてきっと知らないんだ。
それなら、僕は伝えないといけない。
僕の言霊を。大切な言葉を。
「僕も好きだよ。」
僕は言葉が好きだ。
大事な言葉でこうして想いが届けられるから。
声鳴き