電車

電車

感情も感性も豊かな彼女はいつか自分で自分の首をしめてしまうんじやないかってほど繊細だった

「電車ってかわいそうね」
線路の前で立ち止まる彼女は少し前髪が目にかかっていて表情はよく見えなかったけど
すごく悲しそうな声を出していた。
「なぜ?なぜそんなことを思うの?」
彼女は前髪を少し分けて眉を潜めながら僕を見つめた。
「電車をひとつの身体だとするでしょう、毎日何キロも何キロも走らされているだけでなく体内に汚い二酸化炭素を吐き続ける消化をすることが出来ない異物が常に入っているのを想像してみればわかるわよ、立ち止まることも許されなくて、ほんの少し調子が悪いだけで体内にいる異物は尋常じゃない攻撃をしてくる。」
そう言って本当に内臓が詰まっているのか、というほど細いお腹を撫でる。
「電車の音が泣き声に聞こえる、ブレーキの音が悲鳴に聞こえる。」
そういうと彼女はその場にしゃがみこんでしまった。

僕は彼女の隣にしゃがみ背中を撫でる。
「電車も気がついてくれる人がいて今幸せだろうね、吐いても吐いても入ってくる異物は最高に気持ち悪い。だけど少し明るい方向に考えてみよう。電車にとって異物を運ぶのは幸せなんだ、確かにすごく大変で辛いことだけど。小さくて純粋な異物は電車の体内から外の世界を見て喜ぶんだ。外の世界から電車が走っているのを見て喜ぶ異物がいるんだ。そうやって考えたら少し気持ちが軽くならないかい」
僕がそう言って彼女の頭を撫でると彼女は少し顔を上げて
「珍しいね、君がそんなこと言うの。」
そう言って少しはにかんだ。
「寒くなってきた、もう帰ろうか。帰って紅茶を飲んで寝てしまおうか」
そう言って僕の手を握ってきた彼女は先ほどまでの死にそうな表情が嘘みたいに晴れ晴れとした表情をしていた。
彼女が思っているより繊細な彼女

電車

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-01

CC BY-NC-ND
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