紫陽花色ノ 雨ガ降ル

紫陽花色ノ 雨ガ降ル

私の人生の大半の大きなイベント毎に、雨が降っていた。
遠足、運動会、卒業式、夫と出会った合コン、結婚式…
大切な大事な日には必ずと言っていい程雨が降っていた。

「優美は雨女だから」
そう言って笑っていた母のお葬式の日も雨が降っていた。

「雨は生きる上で非常に大切なんだ」
そう言って笑って慰めてくれた父の還暦の御祝いの今日の日も雨が降っている。

「還暦なんて何だが恥ずかしいな…」
親戚達に囲まれて照れながらグビグビとビールを飲む父の膝の上には私の娘の美雨がちょこんと座っている。
「おじいちゃん、かんれきってなぁに」四歳の美雨が父に聞いている。
「すごくおめでたい事なんだよ」夫が父の代わりにそう答えた。
「そうなの?おじいちゃん、おめでとう」
「ありがとうみうちゃん。おじいちゃん嬉しいなぁ」
「お父さん、本当におめでとうございます。これからも、身体に気をつけて長生きして下さいね」そう言う夫はなんだか少し泣いているみたいだ。

「おじいちゃん、あめ」美雨が庭を指差した。庭に咲いている母が生前大切に育てていた紫陽花の上にシトシトと、雨が降っている。
「うん、雨だねぇ。雨は大切なんだよ…」そう言いながら父もなんだか泣いているみたいだ。


御祝いの後片付けをしながら、母の妹の雅恵叔母さんがぽつりと呟いた。
「今日も雨だったね…天国の姉さんも安心してるんじゃないかしら」
「雨女ですから」私はくすりと微笑む。
「本当、姉さんも雨女だったから、遺伝よね」
「え…お母さんも雨女だったの?」
初めて聞くその事に私はびっくりした。そうか、遺伝だったんだ。そうだったんだ。
「姉さん、嫌がってたから内緒ね」
悪戯っ子の様に笑う叔母さんに、私も悪戯っ子の様に笑い返した。
「美雨ちゃんもきっと受け継いでるわね、雨女の血を。だって美しい雨なんだから」
「間違いなく」私は自信を持ってそう答えた。

雨、雨、雨、私の人生に雨は付き物。無くてはなら無いもの。
これからも私の人生には優しく美しい雨が降るだろう。

紫陽花色ノ 雨ガ降ル

紫陽花色ノ 雨ガ降ル

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-01

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