妖し狐伝  第七話 絆、そして別れ

藤森朱里(ふじもり・あかり)・・・主人公。16歳の誕生日を迎える高校1年生。母と二人暮らし。
                    父は小さい頃に亡くなったと聞かされて育った。負けず嫌いのがんばり屋。母想い。

藤森ほのか(ふじもり・ほのか)・・・朱里の母。しっかりもの。焔の素性を知った上で愛し合い、朱里を授かる。

矢神風汰(やかみ・ふうた)・・・朱里の幼馴染。矢神神社の息子。やんちゃな性格。朱里を好き。  

焔(ほむら)・・・・・・狐の一族の長である。妻子ある身でありながら、ほのかを愛している。

篝(かがり)・・・・・焔の息子。両親ともに狐の純血であるが、冷たい夫婦仲の間で、次期長となるべく育てられる。
            野心が強く、冷静沈着。

疾(はやて)・・・・鴉一族の次期長。手柄を立てたいという野心がある。

環(たまき)・・・蛇一族の娘。妾の子。

 城に戻ると城内の者たちが一斉に出迎えた。

郷の者 「お館さま。若さま達がお戻りにっ!」

 まだ動けないほのかが、朱里へと手を伸ばす。
 ほのかへ駆け寄って手を握る朱里。

ほのか「朱里・・・」

朱里 「母さん・・・ごめん」

 3人を出迎えた焔。妖力の変化にすぐさま気づき問いただす。

焔  「お前たち・・・(ハッ)なにがあった・・!?どういうことだ!?」

篝  「父上、朱里の力が・・・」

焔  「お前ではない力が、お前の中におる・・・朱里の力か」

篝  「・・・はい、申し訳ございません」

 複雑な表情の、焔と篝のやり取りを居た堪れない気持ちで見守っていた朱里が叫んだ。

朱里 「なんで謝るの!!篝はちゃんとアタシを守ってくれたわ!
    その・・・ちょっとアタシの力が暴走しちゃってこんなことになったけど・・・
    でもおかげで願ったり叶ったりよ(笑)」

 必死に篝を庇う朱里。むしろ力の消失を喜ぶ姿を見せる。
 複雑な表情のほのか。

ほのか「じゃあ・・・朱里にはもう・・・狐の力はないということですか?」

焔  「うむ。だがこの先どうなるかはわからぬ。また、襲われるやも・・・
    遠くから見守らせてはくれないか・・・。」

ほのか「あなた・・・」

 困惑し、心配する焔とほのか。
 吹き飛ばすように明るく笑う朱里。

朱里 「兄さんがいれば大丈夫よ!そうでしょ?今までだってずっと守ってもらってきた」
 
篝  「朱里・・・?」

 突然の朱里の言葉にびっくりする篝。
 思い出すように、話し出す朱里。

朱里 「アタシ 思い出したの。小さい頃何度か危ない目にあった。
    でもいつも誰かが助けてくれてた。たぶん記憶を消されてたのね・・・
    あれは・・・兄さんでしょう?」

篝  「・・・朱里」

 そうだ、と言わない代わりに、妹の名前を呼んだ。
 満面の笑みを浮かべる朱里。

朱里 「ありがとう、兄さん。・・・これからもよろしくっ!!」

篝  「まったく・・・お前には敵わん」

 うれしそうに、そして少し呆れたような顔で答える篝。
 慌てて自分の存在をアピールする風汰。

風汰 「ちょっと待てよ!忘れてもらっちゃ困る。俺だっているんだぜ。朱里は俺がっ」

 風汰の声を遮るようにして、心配そうに焔が託す。

焔  「篝よ、朱里を・・・ふたりを頼んだぞ」

風汰 「だから!!・・・ちっきしょう、もっともっと修行して力つけてやるうううううう」

 悔しそうな風汰。
 ふたりの頼もしい騎士(ナイト)の存在に安心しつつ微笑むほのか。

ほのか「篝さん、風汰くん。よろしく頼みます」

 そんな空気を破るような朱里の現金な声。

朱里 「母さん、帰ろう。誕生日まだしてもらってないしねっ!」

 焔が懐から深紅の小さな石がついた首飾りを出す。

焔  「朱里よ、私からそなたへ 贈り物だ・・・受け取ってくれるか?」

朱里 「・・・はい? もちろん、喜んで!」

 首飾りを朱里の首にそっとかけてやりながら、焔が説明する。

焔  「これは緋紅(ひこう)。私が念を込めておいた。必ずやそなたを守ってくれる。ほのかも持っているはずだ。
    私たち親子の・・・証、そう思って大事にしてくれるとうれしい。」
 
 石から感じ取れる気配をどこかで感じたことがあると気づいた朱里。

朱里 「この石の気配・・・火事のとき感じた・・・母さんの居場所がわかったのはこれだったのね」

 はっとする朱里と、風汰。石の力を称える風汰。

風汰 「そういや俺には聴こえなかったのに、朱里はおばさんの声がするって言ってたもんな!すげぇな、それ!」

朱里 「ありがとうございます・・・お父さん」

焔  「父と・・・呼んでくれるのか・・・?」

朱里 「力はなくなっちゃったけど、あなたが私のお父さんであることは変わらないから。
    遠くに居てもいつも想ってます・・・お父さん」

 笑顔で焔を父と呼んだ朱里。
 父と呼ばれたことを、震えながら泣いて喜ぶ焔。
 そんなふたりを涙を湛えながら笑顔で見守るほのか。」

ほのか「朱里・・・」

焔  「あぁ・・・私もいつもそなた達を想おう・・・朱里、ほのか」

朱里 「私たちだけじゃだめですよ!篝のことも・・・奥さんのことも想って下さい。
    お父さんの大切な家族なんだから」

ほのか「そうよ、あなた。娘に言われるとはね(笑)」

 篝とその母を気遣う朱里。
 それにつられて笑うほのか。
 涙ぐみ、ふたりに、そして篝にも微笑みながら泣く焔。
 
焔  「ああ、わかってる。私の配慮が・・・気持ちが足らなかった。すまぬ。
    みんな、私の大切な家族だ。共に想い、共に生きよう」

篝  「くっ・・・父上っ」

 堪えられず涙ぐむ篝。
 そんな篝を心の中で、涙し喜ぶほのか。
 もらい泣きする風汰。

朱里 「(よかったね、兄さん・・・)」

風汰 「なんか・・・俺までもらい泣き・・・」

朱里 「ちょっと風汰ぁ・・・なんでアンタが泣いてんのよ(笑)さぁ帰るわよっ
    って!!ああああああああっ」

風汰 「なんだっ どうしたっ??」

 急に気づいて大声をあげる朱里。
 びっくりして身構える風汰。

朱里 「ウチ・・・ないじゃん!火事で燃えたままだぁぁぁ」

風汰 「そんなことか、大丈夫!ウチの離れあるからしばらく使えばいい
    ・・・って元々おばさん家だったんだから、偉そうなこと言えないって」

ほのか「風汰くん。お世話になるわね」

風汰 「いえ。きっともう親父が準備してるはずだと思う。あの人世話好きだから(笑)」

ほのか「たしかに(笑)」

 自宅の心配をする朱里。
 自分の家に引き取ることを当たり前のように言う風汰。
 風汰の両親をよく知り、身を預けることを決めたほのか。
 
 皆を見守り、送り出す決意をした焔が声をかける。
 成長した息子に、大事なふたりを託す。

焔  「道中、気をつけるのだぞ。篝よ、お前に任せる。」

篝  「はっ!お任せ下さい、父上」

 晴れやかな顔をした篝が、キリっとした声をあげる。
 低く響き渡る焔の声。

焔  「異界の門を開く!ゆくがよい!!」

朱里 「元気で、お父さん。 ありがとう」

 父へと贈る言葉は、風に消えていく。
 笑顔で見送る焔。



          つづく・・・   最終話  帰世

妖し狐伝  第七話 絆、そして別れ

妖し狐伝  第七話 絆、そして別れ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-01

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