妖し狐伝 第六話 奇跡
藤森朱里(ふじもり・あかり)・・・主人公。16歳の誕生日を迎える高校1年生。母と二人暮らし。
父は小さい頃に亡くなったと聞かされて育った。負けず嫌いのがんばり屋。母想い。
藤森ほのか(ふじもり・ほのか)・・・朱里の母。しっかりもの。焔の素性を知った上で愛し合い、朱里を授かる。
矢神風汰(やかみ・ふうた)・・・朱里の幼馴染。矢神神社の息子。やんちゃな性格。朱里を好き。
焔(ほむら)・・・・・・狐の一族の長である。妻子ある身でありながら、ほのかを愛している。
篝(かがり)・・・・・焔の息子。両親ともに狐の純血であるが、冷たい夫婦仲の間で、次期長となるべく育てられる。
野心が強く、冷静沈着。
疾(はやて)・・・・鴉一族の次期長。手柄を立てたいという野心がある。
環(たまき)・・・蛇一族の娘。妾の子。
辺りには煙が立ち込め、焼ける匂いが充満している。
先に目を覚ました風汰が横たわったままの朱里に声をかけ続けている。
風汰 「・・・かり・・?朱里・・・朱里っ!」
意識の遠くから風汰の声が近づいてくる。
ようやく目を覚ました朱里。
朱里 「ん・・・風汰・・・」
風汰 「朱里っ!目が覚めたか・・・よかった!」
目を覚ました朱里を思わず抱きしめる風汰。
記憶が途切れ途切れの朱里。
朱里 「アタシ・・・どうしてたの?」
風汰 「よくわかんねぇけど、お前の力が一気に吹き出したって感じだったかなぁ・・・。
俺まで吹き飛ばされたしな!」
思い出しながら朱里の体をゆっくり離し、笑いつつ話す風汰。
朱里 「ぇ・・?」
風汰 「無意識ってやつだろうな・・・でもさ、そのおかげかしんねぇけど 見てみ!ほら」
風汰がうれしそうに指を挿す。
その方向を見て、信じられない朱里。
朱里 「何を・・・? って・・・え?篝??」
篝 「朱里」
少し起き上がれるぐらい回復した、息を吹き返した篝が微笑みながら朱里の名を呼んだ。
朱里 「篝・・・生きてたのね・・・よかった・・・よかった・・・」
篝に抱きつき、うれしさのあまり泣き出す朱里。
そんな朱里に戸惑いながらも、受け入れている篝。
篝 「いや 俺はたぶん一度死んでたんだ。風汰の話を聞いたところ お前が無意識に力を暴発させて、
父の使う【反魂の術】と同じような力が働いたんだろう。それで俺は・・・こうして生き返った」
身に起こったことが信じられないが、納得いくように語ろうとする篝。
説明が頭に入らないようで、篝が生き返ったことをひたすら喜ぶ朱里。
朱里 「なに?・・・よくわかんないけど、篝が生き返ってくれた・・・それだけでいい」
異変に気づいた篝。
篝 「まて 朱里。お前・・・手出してみろ」
朱里 「え?・・・なに・・・こう?」
朱里の手に、自分の手をかざし、妖力を感じ取ろうとする篝。
やがて、首を横に振った。
篝 「・・・やっぱり・・・お前の力が・・・消えてる」
朱里 「え?力が?」
篝 「あぁ。おそらくお前の力が・・・俺に移動したんだと思う。
気がついてから俺の中で、今までと違う気配が蠢(うごめ)いているんだ」
信じられない風に自分の体に手を当てる篝。
力がなくなったことを微動だに思わず、篝に力が渡ったことを喜びまくる朱里。
思わず握った篝の手をうれしそうにぶんぶん振る。
共に素直に喜ぶ風汰。
朱里 「そうなの??!! すごいじゃん篝!!願ったとおりになったよ!」
風汰 「すっげぇ!やったな!朱里!!」
力の消失、譲渡を素直に喜べない篝。
全く気にも止めず喜びまくっている朱里。
篝 「・・・いいのか?お前はそれでいいのか?」
朱里 「何言ってんの。いいに決まってるでしょ!アタシにはあんな力いらないもの。
篝はこの郷を守っていかなきゃいけないんだから。篝がもらってくれてうれしいよ。
半妖じゃなくなって清々した・・・って・・・それは変わらないか(笑)」
力がなくなっただけで、何も素性は変わらないことに気づき笑う朱里。
もう半妖であることを受け入れている。
朱里を見つめ、素直な言葉を口にする篝。
篝の中に、兄妹としての感情が芽生えていた。
篝 「朱里。お前は何があっても俺の妹だ。それは変わらない・・・忘れないでくれ」
朱里 「ん・・・わかってる。さぁ 帰ろう。アタシがここにいる必要はないもの」
風汰 「ああ。戻ろう、おばさんきっと心配してる」
兄妹の感情を交わし合うふたり。
肩を貸し合いながら、城へ戻る3人。
つづく・・・ 第七話 絆、そして別れ
妖し狐伝 第六話 奇跡