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屋上の柵の外に立つ彼女は、背中に大きな羽根が生えていた
廃墟ビルの屋上に制服姿の彼女はいた。
学校を抜け出してきたんだと笑いながら彼女は僕のところにやってきた。
「昼間の屋上は気持ちがいいね」
そう言って彼女は靴と靴下を脱いで裸足になる。
「足汚れるよ」
僕はそういいながら柵に寄りかかる彼女の隣に立った。
「よいしょっと…」
彼女は柵を乗り越えて外に出る。
「飛び降りるの?」
僕は平然を装いながらほんの少し冷汗をかいた。
彼女は両手を広げてただ空を仰いでいた。
「飛び降りないよ」そう言ってその場に座り込み足をぶらつかせながら空を眺めていた。
自由で清々としている彼女の背中に一瞬真っ白で大きな羽根が見えた気がした。
「ねぇ、そこから何が見える?」
僕は柵の外から彼女の手を握ると彼女は振り向いて
「なんでも見える、何も見えない。君がいるところからとわたしがいるところだと見える景色は全然違うわ。この柵ってバリアみたい、柵の外からだと景色が曇って見えるの。一歩間違えたら死んでしまう場所から見た景色ってすごく鮮やかで綺麗だよ。邪魔するものも遮るものも無くて。」
そう言って彼女は景色を眺め出した。
彼女の瞳にうつる景色は僕が見ている景色よりずっと鮮やかで。
黒い瞳に景色が色付いて彼女が瞬きをするたびに変わる色がきっとこの街の色なんだろう。人を身近で見ることから離れれば、世界はずっと美しい。
世界を彩るのが生き物であるなら生き物にとって人間はただの有害なんだろう。
人はすごく素敵な生き物であってすごく素敵なものを生み出せる生き物だけれど、それの代償として汚いものを吐き出してしまう、この世界で一番可哀想な生き物なのかもしれない。
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