君ニウツル世界 1章 ー夢ー
〈君ニウツル世界〉
1章 夢.
「……ごめんなさい」
…………。
見覚えのない広い空間の隅のベットで毛布に覆いかぶさっている『何か』に、一人の少年
が今にも泣き出しそうな声で頭を下げる。
ここからでは少年の顔は見えない。
「ごめんね……」
「何か」に向かって、何度も何度も腰を曲げ頭を下げて謝っている。
…………。
「ねぇ……」
…………。
「ねぇってば」
毛布の中の『何か』に話しかけているだろう少年の声色が、だんだん苛立ちを見せ始めて
いる。
「何とか言ってよっ」
少年は、我慢できなくなったのか、覆いかぶさっていた毛布と『何か』を引き離
した。
そこには、寝巻き姿の少女が膝を抱え丸まっていた。
おそらく腰まであるだろう綺麗な黒髪がベットに這っている様子は、まるで人形が横たわ
っているのではないかと見間違えるほど幻想的な光景だった。
顔に髪かかっているため、表情は伺えない。
「ごめんねっていってるでしょっ。ほ、ほら、起きてよ」
言うが早いが少年は、少女の小さな体を無理に起こす。
年が同じくらいな子を起き上がらしているとは思えないほど、少年は軽々と少女をベット
の上にとペタリと足を崩して座らせた。
起き上がっているのにも関わらず、少女の顔は、その綺麗な黒髪が塞いでいる。
「○○○ちゃん」
『…………。』
それでも少女は答えない。
すこしの沈黙の後、少年は少女の顔に鬱陶しそうにかかっている髪を分ける。
「………っ!?」
少年は声にならない音をあげた。
色白でキメ細やかな肌、可愛らしい口と鼻、
―――そんな顔の目にあたるところに、大きな傷があった。
両目を塞ぐように一直線に引かれた傷、生生しさも残っており、最近出来た傷だとわかる。
こんな姿を少年には見られたくないから、毛布に包まっていた。そう思った。
そんな少女の気持ちなど理解できないのか、
「きっ、気持ち悪い……」
放った。ひどく鋭利な心を刺す言葉を。
君ニウツル世界 1章 ー夢ー