大宮町の二階
エアコンの風は黴臭くて不快だ。6月。じめじめした空気。最後に部屋を掃除したのはいつだったか、と彼女は考える。彼女の四肢はもう長い間干されていない布団の上に投げ出されている。
午後二時。あと三時間後にバイトがあるので、少なくともあと二時間十五分後には家を出なければならない。身支度に一時間かかるとして、彼女にはあと一時間十五分の自由な時間がある。しかし彼女は何もしない。DVDは観るのに二時間はかかるし、観るべきDVDが家にあるわけでもない。漫画もおもしろくない。本は読む気がおこらない。
彼女は自由な時間の過ごし方を知らない。何をするべきなのか、わからない。そうして一時間十五分をただ布団に寝そべって過ごすのだ。無意義な、あまりにも無意義な時間。
しかし、と彼女は考える。この世の中、或いは世界と言ってもいいが、に、無意義でない事柄が、果たしてどれほどあるだろうか?
遠い昔(と言えるほ程遠い昔の話ではなく、実際にはここ一、二年のことだが、彼女にとってはその頃の記憶というのは既に「遠い昔」という風にしか認識できない)、学校の集まりでよく飲み会が開かれていた。何だかんだと理由をつけて断っていたので、彼女がその飲み会に顔を出したのはわずか一、二回だけだったが、彼女にとってこの「飲み会」ほど、金と、時間を無駄にする儀式はなかった。騒々しい店内。粗暴な男。甲高い声ではしゃぐ女。「飲み会」が終わると彼女はくたくただった。自分がまるで老婆になったかのようだった。あるいはぼろ雑巾に。
彼女は傍らの時計に目をやる。三時半。予定していた時間より十五分遅く彼女は布団から起き上がり、やや苛々しながらクローゼットをあけ、服を選ぶ。どうせバイト中はほとんど制服なのに、高々三十分の移動時間のためだけに、わざわざ服を選ぶという無意義さに辟易しながら、彼女は鏡の前で服をあわせる。いつものように。
大宮町の二階