故郷に帰りたいお地蔵さん

優しい村人のおさよさんに会って地蔵さんの台座が取れて自由になっペアのお地蔵様は、奈良の東大寺の大仏様に会いに行くのだが

深山の峠にある、二つのお地蔵様は、誰も来なくなって、寂しくなり、旅に出る。だけど・?

今から600年位前の室町時代の話です。
ちょうど、三代足利義満が金閣寺を建立した頃です。
話はそんな華やかさとは、一切縁のない、ある寒村の物語です。


雪が深々と降り続いている
ここは、雪深い越後の里、秋山郷に近い人里離れた峠である。
牡丹雪が積もりつもった白い丘に、赤松の大木が、辺りの木々を、従えるように凛として立っている。
幹は太く、地に這うよな枝が風格を添えている。
時折、辺りの木々から雪の重みで、枝が軋み、沈黙の世界に異音を放す。
ギギーッと闇を射るような音は、まるで、地獄門を閉鎖するような音に聴こえる。
昼でも薄暗く人影も少ない墨の世界がここにある。
年輪を重ねた、赤松の下に、苔むした二つのお地蔵様が隣り合わせで佇んでいる。

この峠は、山で囲まれた日之影村の西の外れにあって、峠の道は、津南を通り日本海に出られる要所の峠で、地蔵が立っていることから、地蔵峠と呼ば村人から敬まわれていた。

日之影村は、平家の落武者が、この深山を開墾したと伝わる荒れ地である。
峠の下は、渓谷で、大きな巖が急流を捌いている。近くの谷間には隠れるように岩肌で囲まれた日之影温泉があり、村人の憩いの場所となっている。
そのせいか、豊作の年だと、お地蔵様には、お供えものが絶えることはなかった。くず餅、岩魚の干物、栗、大根、蓮 芋焼酎などが主なお供え物だ。

この峠の地蔵様は二体あって、背の高いお地蔵様を、のっぽのポーをと いって、村人はポー様とよび、背が低くて太ったお地蔵様をフー様と親しげに呼んでいた。二体のお地蔵様は歳を重ねているせいか体の節々が欠けて落ちていていますが赤い布地の帽子やよだれかけは村人によって清潔に保たれていたが最近は関心が薄れてきているのか汚れが目立つようになっていた。
村人は、このお地蔵様を村の守り本尊として敬い、厳しい暮らしの中から生まれる悩み事の祈りの場としても親しみを持っていた。

このころの、日之影村の食べ物に関する生産物と言えば、山合いを開墾した土地ですから、平地と違って多く採れません。
段々畑を利用した収穫の少い米と、ひえ、あわ、葛、やまめ、沢蟹、野菜などて、暮らしていた。狩猟は深山だから、盛んで、熊、貍 猪、うさぎ、鹿 狐などで暮らしを支えていた。
厳寒時には、竹細工、藁細工、木工品などを作り、雪に閉じ込められた日々を凌いでいた。

厳しい日之影村の暮らしのなかでも、村民は、お互いに助け合いながら、小さな幸せを持っていたのです。

ところが、ここ数年の災害で収穫が減ってた上に、都では、寺院の建立や、聖武天皇が建立した東大寺の、修理工事や、御所の新築、修理などが毎年のように繰り返され、各地から、農民が駆り出され、この、日之影村からも若人が、出稼ぎに出ていくようになり、村は働き手がいなくなり、困窮していたのです。村に残るのは、爺ちゃんばあちやんと子供たちで、若い男は数名に、なっていました。
摩訶不思議と言うのか、豊作の時の方が、悩み事が多いようです。人の営みですから夢や希望や生活の対立もありますからね。   反対に飢饉にあうと悩み事も忘れてしまうほどの暮らしの厳しさが襲って来るので夢どころではないのかもしれません。

峠のお地蔵様達も、その煽りで、尋ねて来る人も少なくなったので、淋しい日々を送っていたのでした。
村人も願いごと、相談事、感謝のお礼などのお詣りが少なくなり、一向に近寄らなくなっていたのです。
お地蔵様達も日課の朝晩のお経を唱えるだけで、殆んどの時間は、昼寝をして時をすごしていました。
来るのは、狸、狐などばかりです。

この頃は相変わらず越後の雪は深々と降り続いているので、村の人が被せてくれた網代笠も、積もった雪に潰されそうで傾きはじめています。
辺りは、水墨画のように、静寂で、お地蔵様の姿も、何処と無く霞んで見える。


寒さが厳しくて、誰も寄り付かなくなった地蔵峠のお地蔵様は、毎日が気の抜けたようです。お経も唱えるのですが気が入らなく感動もご利益も、なさそうなお経になっていました。
どちらかと言えば、やることごないから、仕方なく、ダラダラと時間を潰しているようです。
ポーさん地蔵とフーさん地蔵は、人間には聞き取る事はできませんが、お地蔵様どうしでは霊魂が仲立ちとなり、会話ができるのです。

にぎやかなころは、色々なご祈願がありました。
一例を上げると、しの婆さんがやってきて、一人息子の佐助に嫁が来るようにと、良縁祈願があったり、家督相続の、喧嘩話だったり、地蔵様たちもお経の合間にせけんばなし会話する話題があった。
例えはこんな二人地蔵さんのやり取りです。
(佐助は働き者で、嫁がこないわけがないのにな)

(いや、佐助の家は田圃が小さいから、嫁が来ても食わしていけないのだ。働き者でも、嫁に行くとなると、親は二の足踏んで、佐助の嫁には行かせないのだ、それに加えて、父親の与作が、胸を患って寝たきりだ。嫁に行っても、苦労が目に見えているからの)

(しの婆さんが、私たちに、佐助の良縁祈願をされても、それでは、良縁成婚の成就できませんね。なんとかならないのですかね)

(とかと、言って、良縁をお願いされたのだから、やるだけのことはしなければな。
大日如来様や、留舎那仏様は、思い遣りの深い方だから、想像出来ない、パワーを佐助に授けるかもしれない。
手助けする立場の我らとして、しっかりと、お経を上げて応援しなければの)

このような会話をしながら、毎日、お地蔵様は村人が少しでも和やかに暮らせるように村の外れの峠から祈っていたのです。

ところが、今では、村も寂れて村人は尋ねてこないから、閑散としているのです。

ボー様とフー様のお地蔵様は天が創造してくださった、(仏の言葉いろはにほへと大鑑参照)
仏様言葉を使っています。 
仏様言葉は、人間以外の動物に通用する不思議な言葉で天地創造からの歴史ある言語なのです。  

フー様がお経にも飽きて、眠気が襲ってきて
目が閉じようとするポー様に語り始めました。

(寂れた地蔵とは言え、私も大日如来様の化身で、誇りも、慈愛も忘れてはいませんが、私も時々仕方なしに嘘をついてしまうことがあります。村人には、私の話は聴こえませんので、助かりますけどね、
例えば、村人たちが、私たち地蔵を含め、仏様や神様に、お願い事を祈願したり、厄払いのお願いしたりしていますよね。そのなかには、無理難題の祈願も相当あります。
特に、願い事が、欲張りで、厚かましいお願いをする人間です。
億万長者になりたい、とか、だれだれが死んでもらいたいとか、常軌を逸した願い事をする人ですよ。
その上、お供えものはしない、御布施もしない。頭にカチンときますよね。
私とて、良心がありますから、こんな、常識はずれのお願い事を叶えるわけにはいかないから、(わかった、わかった)
と言いながら、腹の虫が収まらないので、聞くだけ聞いて、お経は上の空で、はい、はい、と返事だけですね。
祈願者に、馬鹿者と面倒向かって言えないし、万が一私が怒鳴ってしまったら、人間と同じですかね。
だから、天は、人間の言葉を私達が解っても、こちらの話し声は聴こえないようしたのですね、きっと。
仏道に生きる我々地蔵は、人間から観れば、救いの仏だから、(お前さんは馬鹿者だ)とは村人には言えませんものねー)

(まぁ、その辺りは、我ら野仏には、修行が足らないのか、よく解らないが、私たちに、さも、神通力があるように、敬ってくれるけど、そんな力は持ち合わせていないよね。村人がお地蔵と思うからお地蔵になっているだけかもね。無責任だけど)
(それは無責任過ぎるよ。矢張、万民を救うお経だけはサボっちゃだめだ)
不思議と話しの合う地蔵様たちでした。

(ポー様、日之影村は、もう昔の賑やかだった面影はなく、淋しい限りです。
私たちはこの村を出て、海に近い糸魚川に行ってみたいですね。
村人の話によると、糸魚川や、寺泊は人の往来もあり、賑やかな街だと言うではありませんか。狸のポンタも仲間からそんなこと、聴いたと言っていましたよ。
旅人の往来もあり、お地蔵様の数も多く、それだけ、皆に敬われていると言うことです。
それに比べて、この峠はまるで、人気のない、ただの僻地です。
たまに来るのは、貍のポンタ、カラスの、黒助、狐のコン、その彼等もお供え物がないから、全く来なくなってしまった。
もう、終わりですよ。
このままだと、やがては草場の下に埋もれて、私達が此処に居たことさえ、忘れ去られてしまいます。
しかし、糸魚川や寺泊、出雲先に行きたいけど、私たちは行けない。動けませんものね。
人間は足が動かせるから、どこにも行けていいですよね。
なんとか、この石の台座から離れて旅に行けるようになりませんかね。そうでも、思わないと、やりきれませんよ、もうこの日之影村は飽きました無味乾燥、感動なし、死に体。あ、あ、ノイローゼになる)

ポー様が、怪訝な顔つきで言いました

(フー様、お前様は、何をたわけたこと言ってるのだ。糸魚川や寺泊に行きたいだと。
そんなこと出来るわけはないだろう。足が動かせるようにならないかだと。お前さんは、それでも地蔵か、聞いてあきれるよ
この村が寂れて行くのを観ていられないのは、わしも同じゃ。でもな、こんなときこそ、私達は村民のために、穏やかな暮らしをと、祈るのが勤めであろうが。第一、我らに歩く能力は備わっていない。戯けたことをもうすな)

(それはポー様のおっしゃる通りですが、私達の身体は誰も世話してくれませんから、苔むして、背中が痒くて仕方ありません。このままだと、草が身体に巻き付いて、そのうちに朽ちて崩れてしまいます。そうなったら、ご祈祷や厄払い、どころでは有りません。日課のお経さえ唱えられません。)
(そうは。いってもな。地蔵が旅をしたなど、聞いたこともない。確かに、ここまで追い詰められると、感動もなし、無味乾燥だな。
この日之影村の住民も、若者達は遠方に出稼ぎに行き、おまけに、凶作だ。フー様の言うこともうなずける。いくら、われわれ地蔵が賢明に教義を守り、修行しても、村は一向に良くならないものね。留舎那仏様はじめ、多くの仏様達にお守り下さるよう御祈願しても駄目だ。
そう、思って仕舞うと修行するのが馬鹿馬鹿しくなる。
この際、他の地蔵様は、どようにして、嫌気を克服していったか、見てみたいものだ。
そうなると何処にでも行けるる人間になりたいよね。
何処でも飛んでいける、鳥もいいね、歩かないで、大空を舞う。もしかすると、鳥のほうが、人間より進歩しているかもね。
どうせ朽ち果てるなら、無責任な地蔵だと、大日如来様がお怒りになると思うが、この際、我が路を行くかのフー様。
でもな、切ない気持ちはお互い様だけど、いざ、行動となると、手も足も出ないのが現実だの)

お地蔵様は、この峠の暮らしに、嫌気がさしていた。普通の地蔵様は、自分の居場所を離れるという発想は浮かばない。
運命に逆らわず、朽ちようが、拐われようが、流れに任せるのが筋金入りの地蔵と言うもの。
ところが、この二体のお地蔵様は、運命に逆らって、自分達の居場所を放棄して、どこかへ行きたいと言う。

無理もありません。無言の地蔵様でも、誰も訪ねてこないなら、ただの石ですから、魂を入れて造ってくれた方に申し訳ないと思うのもわかります。
(そうですよ。ポー様。一日でも早く糸魚川に行く計画をたてましょう、糸魚川や寺泊は街並みも揃っていて、漁港もあるそうですから、人がたくさんいます。だからこそ、私達のお勤めも役にたつのです。人々がいないと私達は只の石ですからね。庭石にもなれませんよ。)

(でもな、フー様よ、旅に出ようと思ってわしらの脚は台座の石と、一心同体だわな、歩けるなんて、夢のまた夢だのう。所詮無理というものだ。はやる気持ちは同感だが、計画を立てるといっても、無理と言うものだ)

(気ばっか焦っても、現実は厳しいですね。仕方ありません。我が身か朽ちるまで、この峠に残るしかありませんね。でも、諦めないで考えましょう。もしかすると奇蹟がおきるかもしれません。ポー様、私達には人間には無い、神通力が備わっていると言うでは、有りませんか。)

(そうよのう。でもな、一般的には、そう言われているが、実は神通力を持っているのは、人間たちだ。
仏を敬う心が、神通力を産み出しているのだ。われらに、特別に神通力があるわけではない。神通力を願う心に神通力が生まれるのだ。つまりだな、人間というか、命のあるものは、産まれたときから神通力の中で育まれているのだよ。風、雨、雷、水 火 大地 空も、みな天の仕業だ、色々な願い事もこの天の下に公平に扱われる。無理な願い事は、この公平の中で計られるのだ。雨乞いは、天からの恵みを願い、ぞろぞろ雨を降らしてやろうと天が考えたときに雨を降らすのだ。人間が望む願い事も、天が、判断してくれる、だから理屈に合っていない希望は、通らないのだ。神通力は人間の誠のなかに実在するのだ。)

(そんな、難しい禅問答のようなことは一先ず置いといて、荒行を修めたお坊さんには、神通力と言うか、不思議なパワーが備わっていると言うではありませんか、ポー様も、この峠で風雪に耐えてもう、100年を越えています。私はまだ未熟者ものです。)

(わしらみたいな、田舎者のお地蔵には、縁のない話だ。わしに、神通力などあるはずがない。今は、訪ねて来る人も少なくなったのも、都の景気のせいばかりではない。雨乞いしても、効き目はなかったしな。
わしらの努力も足らないと言うことだ。人影が無くなってからは、寝てばかりいたからな。だから、神通力もおのずとなくなってしまった。
この峠で静かに朽ちていくのも、運命なのだ。考えようによっては、悪いことでもない。春になれば、小鳥のさえずり、爛漫の花園、とくに腹が減るわけでもない。極楽かもしれない、いや!極楽だ。そう、思わんかねー、フー様)

(そうですよね、神通力は村人達が、苦悩から、逃れるために、造り上げた、想像上のパワーですからね、そのパワーの存在の対象物が、我らですから、神通力を実際に持っているのは村人達ですよね。だから、その神通力をたまには、私達にも使ってほしいですね。)

(村人達が、そうだね。もう、ポー様とフー様は充分、村に尽くしてくれた。
そろそろ、暇をとらそう、とかね。たまには、観光見物に行かせてやろうとか、嫁さん探してあげようとか、地蔵孝行してくれて
さぁ、自由に何処にでも行きなされ、とか言って、台座から、足を離してくれて、新しい法衣を着せてくれてね。
人間は、錯覚していて、私達に念力とか、神通力を求めているが、実は、自分達が神通力の持ち主だとは、気がついていない。
念じる心、信じる心が、念力とか、神通力に変貌していくことに気がついていない。
この村の誰かがそれに気がついてくれて、私達の旅立ちが出来るように念仏を三昧の修行でもしてくれるとありがたいのだがね。
心の優しい人ならば、何とか私達の旅立ちを解ってくれて、一生懸命念仏を唱え、神通力を呼び込んで、奇跡を起こしてくれるかもかも知れない。少し、虫が良すぎるけどね。)

(確かにね。地蔵が旅に行きたいだけの理由で、はい、それならばと、台座がら離れ、手足が動く為のお経など、例え神通力のある人でも断りますよ。)

(そうだな、アホみたいな話だ)


二体のお地蔵様は、地蔵峠から離れて、自由になりたいと、思う気持ちを抱きながら、人里離れた山間の峠で日々を重ねていた。

時は巡って、地蔵峠の雪もとけ、山桜が木々間を桃色に染めて、黄色い山吹の花が咲いて春を告げています。
苔むした二体のお地蔵様は相変わらず、居眠りしたり、時々思い出したように、お経をあげています。


春めいて来たせいか、貍のポンタがお地蔵様を、たずねてきた。
ポンタは、地蔵様の回りを一周すると

(なんだ、春が来たと言うのに、お供え物は、あい変わらす何もなしか。日之影村の人も働き者はみな、都に駆り出されてしまったから、仕方ないか。
それにしても、お地蔵様も見捨てられたもんだ。大根の切れっぱしぐらいあってもよさそうなもんだ。
寝てばかりいるから、村人から、愛想つかれたのだ。頼りにならないお地蔵はやがて土に埋もれて行くか?仕方ないな)

そう言いながら、お地蔵様の前にドカッと座り込んで、話し始めたのです。

(お地蔵様、足があっても、土台と一対だから離れることが出来ない。お気の毒だ。
こんな村いつまでも居たって無駄と言うものさ。おらも、この山捨てて糸魚川に行くさ。
少しはここよりましだと、狐や相棒が言うのでな。
いままで、ありがとうさんでした。
ところで、ポーさんの背中に書いてある呪文だがか真言だかわからないが、背中の字はなんの意味があるの。
前々から一度訊ねて見ようと思っていたのだが。まあ、いいか。このお地蔵様のことだ。大した御利益のある真言ではあるまい。長いこと色々とお世話になりました。今日でお別れです、振り返れば楽しい事もたくさんありましたよ)

二体のお地蔵様の頭を撫で終わると、狸のポンタはスッと竹藪に消えていきました。
それを見ていたお地蔵様は声をかけたのですが、その声も届かないほど、早足でポンタは消えてのです。

(おーい、フーさん、今のポンタを見たか、散々わしらのお供物で生き延びて来たのに、わしらの話しも聞かないで、出ていきおった。)

(ポー様。それは、仕方ありません。挨拶にきただけでも、いいではありませんか。ポンタにも子供がいますので。ポンタも、我らのお供物に頼っていた所も多少あったから、山だけでは、暮らせんのかもね。ポー様。ところで、ポンタが先ほど言い残した呪文とは、いったいなんですか)

(あぁこの背中の呪文と言うよりも真言だ?これはな、私を彫り上げてくれた、日伝和尚が、彫ったものだ。
私は、その頃は、まだ生まれたての地蔵だから、右も左もよくわからないので、興味もないから、背中で何か彫っている音は聞こえていたが、上の空だった。でも、彫っている最中、日伝様は、唸りながら言葉を出していた。その記憶を思い出して見るか)

ポー様はゆっくりと、昔を思い出しながら、日伝様が自分を彫り上げている、日之影村の川沿いに潜む洞穴を頭に浮かべながら話だした。
その話は次のようなものだった。


ポー様地蔵は日伝様が年老いた最後の作品で、特に想いを入れて彫り上げてくれたそうです。最後にポー様の背中に呪文を彫り上げ、その呪文に御霊「たましい」を入れるため、洞穴で彫りあげたばかりのポー様を側に置いて、心願成就のご祈祷をしたそうです。その時の話だと、

日伝様は、河原から集めた流木をつみかせね、火をつけ暫くすると、、火は勢いよく燃え上がった。、河原に御座を敷いた上に正座をして、厄除けの真言を唱える日伝様の形相は真剣そのもので、辺りの森を圧倒していました。
暫くすると、燃え上がる火の中から真っ赤かな仁王様が口を大きく開けて日伝法師に告げたのです。

(日伝法師よ、よく聞け、わしは奈良の大仏様の名代として、そなたに会いにきた。
わしは東大寺、山門に建つ、仁王の阿吽様の弟子の野良ともうす。
わしはな、大仏様から、そなたに告げる命令をそなたに届けるようにと命をうけて、わし、野良本人が日之影村に出向いていく予定だった。
ところが、久しぶりに旅が出来ると楽しみにしていたのだか、途中の大津で嵐に逢い、予定の日に着けなくなった。遅れると、あの大仏様のことだから、怒るのは目に見えている。おまけに怪我をして脚が動かけなくなり、仕方がないので、わしの化身である、霊魂(たましい)を遣わしたと言うことだ。まぁ驚くことはない。わしの、御霊は、一瞬にして、日本国中を飛び廻ることがでかるのだ。但し一回だけだ。命は一度だけだからな。その一回を日伝法師、お前に使ってしもた。心してきけ。

(日伝よ、命令とは、お前が二年前に大仏様に出した嘆願書の事だ。
大仏様は世の中のことはすべてお見通しでの、その命令だがの、日伝よ、おまえ様は、平家の落武者の末裔と聞く。
越後の奥深い谷川で、祠にこもり、日之影村の行く末を案じて、身を弧にして、荒行をし人間のなんたるや、平和とはなんぞや、自然の、そのなんたるやを会得し、その、霊力と、民の信頼は大仏様の心を捉え、そなたの業績を日本国中に知らしめられた。
して、この度のそなたの願いごと一つのみ叶えて遣ろうと伝えて参れとのご命令だ。
それはだな、そなたが望んでいた二体の地蔵をいざというとき、自由して、村の災害時に活躍出来るよう台座から脚が離れるようにしてもらいたいとのことだが、大仏様は、その様なハレンチな願は歴史を紐解いても見たこともない、と願いごとを一蹴していたが、民が苦しんでいるのを救うのが我らの勤めと、前例に、こだわることなく断を下したと言うわけだ。
ただ、大仏様は危惧もしておられた。真言を唱えると地蔵の脚が自由になると、地蔵の権威も無くなり、地蔵も調子にのって、出歩いてばかりいると、御経もさぼるようになるからなと。
そこで、一案

そなたの最後の作品となる地蔵の背中に真言を彫りこんで、村の災害時には、その真言をを読み上げると、地蔵二体の脚が台座から離れ、自由になり、村の復興に役立たせることができるようにしたという。どうだ、良かったの、そなたの願がかなっての。お主も、歳をとった、この村の先を按じてであろう。
ただし、注文がひとつある。
それはだな、
背中の真言を誰でも詠めると、二体の地蔵は、年柄年中、あちこち、ふらつくことになりかねない。いつも、じっとしているから、興奮して、飛び歩く。純粋な地蔵なら、人間と交じりあうと、心が汚れるかもしれない。
そこでだ。大仏様は、気を利かして、この真言を詠むことが出きる村人を決めたのだ。それはな、村で一番優しい人間だ、一番だぞ。その人間が背中の真言を詠むと、脚が台座から離れて歩けるようになるというのだ。心の悪い村人が何回詠んでも通じないのだ。

そして、野良様は、その二体の地蔵が完成したら、峠下の赤松の下に安直しなさいと大仏様がおしゃったのだ。
では、わしはこれで大津に帰り、怪我して寝ているわしの身体に入り込む。さらばだ。)

と、言い残して、野良様は燃え盛る火の中から消え、魂をのせた煙りは高く舞い上がり、小高い山の頂きに向かって、やがて消えていったという、


ポーさんは今頃になって、背中の真言の事を思い出したのです。

(たしか、日伝様は.そのような、村に災難が起きたとき、村の中で一番優しい女の子がこの背なかの真言を読んでくれると、われらは自由ちなって、手足が動くようになり、災難にあっている場所に駆けつけ、霊力で厄払いをできると聴いたことあるような気がする。でもなーフーさんよ。
わしらが、寺泊に行きたいと言うことだけでは真言の効果はないとおもうがのう。
お勤めを止めて、旅に出るなんて言語道断、何を考えているのだ、頭を冷してこいと日伝様や南大門の仁王様に怒鳴られるぞ。大仏様が怒った手に負えないぞ。
間違いなく!我らは、解体、パラパラにされて、河原に棄てられる。日伝様も、この偽坊主と言われ、村から追放。野良様は、格下げで鹿の餌作りだな。たぷん。
第一、むらが災難にあった場合だけだしな自由になれるのは。)

(そうですかね。私はそうは、思いません。寂れた村にいて、草場の陰になるより、何か自分達で策を考えなさい。と優しい大仏様なら言うと思いますが、いづれにせよ、村が困っている問題を探さねばいけませんね。)


(そうよのう。あるある、村の働き手が、都の大仏様の修理で村が空っぽだから、連れもどしに行くと言うのはどうだろう。それと、わしらの災難は村の災難と同じだろうが、名案じゃ、わしながら、名案じゃ)


ポーさんはめずらしく、笑み満面です。

(なーに、少しぐらい寺泊でお勤めしながら、街の人々と、交流をして、たまには、酒盛りもしてくれるだろうから、しばらく楽しんでから、奈良の都に出掛ければいい。そして、わざわざ、わけあって、出稼ぎに行っている村人を戻ってこいとも言えないだろう。
建前だ。たてまえ。大仏様に、大義名分があればそれでいい。やっぱり村人は稼がないと、食べていけないとな)

フーさんは怪訝な顔つきでいいました。

(そんなもんですかね。大仏様にわれらの策が判ったら怒るだろうね。私は、やはり、道に外れることは出来ません。
道理に反して御経を上げているようなものです。昨年亡くなられた日伝様にも申し訳なく思います)

(なに、怖じけ付いているのですか、大丈夫ですよ。フーさん、かりに大仏様が我らの計画がわかったとしても、怒りませんよ。勿論寺泊や、旅の途中で楽しむなんて言いませんよ。
なぜならば、わたし達は、大仏様の子分ですし、村の父母兄弟孫の近況を奈良の都の村民に伝えるだけでも、懐かしく涙を流して喜んでくれますから、心配いりません)
フーさんは、それでも心配していました。

(では、ポー様、いったい、どうやって村人のなかから、優しい人間を探すのですか。難しいですね)

(うーん。そうだなー、むずかしいなー。そうた。タヌキのポンタが来たら頼んでみよう、寺泊での近くで暮らすと言っていたが、挨拶ぐらいはして行くだろうから)
ボー様はすっかりその気になっている。
やはり、人気のない峠に立ちっぱなしでは、切ないのでしょう?まして、無縁地蔵みたいでは、地蔵の価値が、ありませんからね。
日伝様の遺言を試してみたいとも思っているようです。

雪もだんだん姿を消して、小川のせせらもこきざみな音をたてて流れています
石畳のようにたまゆらが雪の名残を惜しんでいるようです。
笹藪のなかから、ポンタがお地蔵様に近寄ってきてなにか言っています。

(お地蔵様よ、おら、寺泊にいってみたが、狸は住み心地が悪いので戻ってきた。何せ、どこも今年は凶作で、食べ物が、少ない。それならば、お地蔵様たちがいる、日之影村の方が慣れているし、どんな貧乏村でも、信心深いお年寄りはいると、思います野手ね。それで帰ってきただ、また、よろしくね)

地蔵様は日之影村に飽きて離れることにした?さてはて

(そうだ、ポンタに一役かってもらおう。フーさん。その辺にまだいるだろう。オーイ、 ポンタ用事がある、でできてくれ。)

ポンタは熊笹を掻き分けて出てきました。
(なんですか、今、いそがしいのだ。暇な地蔵さんとは付き合っていられない。早く用事を言ってくれ。)

そう、こぼしながら、草の根を抱えながら地蔵様の前にでてきて、すわりこんだ。

(実はなポンタ、わしの背かに漢字が書いてあるだろう、真言と言ってね、御利益のある言葉が書かれている。その真言をだな、この村の優しい人間に読んでもらうと、わしらの脚が土台から離れて自由になれるのだ。それでな、お前えに、わしの背なかに隠れて泣いてもらいたいのだ。
優し人間がお前の泣き声に気がついて近寄ってきたら、その真言を読んでくれると、頼んで見てくれないかの)

(ちょとまってくださいよ。泣き声出すのはわけないが、村で一番優しい人間を探すのに狸の声で、判断出来ないでしょうが)

(そこですね、ポー様。どうやって?)

(わしらは、人間の言葉は聞こえるが、人間と話が出来ないな。大日如来様は、うまい仕組みを残したものだ、動物の話し声が、知恵ものの人間に分かると、食い物にされるからです。自然界は皆平等だとの考えからだです)
(それが、どうかしましたか)ポンタが言った。

(だからだ、村の人間に真言を読んでくださいとは、言えないでしよ、また、誰が一番優しい人かどうかもわからないから、ポンタに、泣いてもらって、試すのです。考えているより実行してみましょう。ダメなら他の方々を考えて見ましょう。優しい人は涙にもろいものだ。ポンタの泣き声に、アクセントをつけ、小さな声が聴こえる人が一番優しいはずだ。高い泣き声でなければ聴こえない人は、それだけ薄情と言うことになる。違うかの)
(耳の聴こえない老人はどうするの)
(そうたな、色々な人に泣いてみるのが一番だな。)

あとは実行するのみでした。
しかし、地蔵峠には相変わらず人影が少なく、たまに通っても、知らんぷりして過ぎ去って行く人が多いのでした。
ポンタも泣き声を上げて見ましたが、反応は殆どありません。
たまにポンタの声につられて、地蔵様の後ろまでくるのですが、
(狸がいる。泣いているぞ、こりゃいいご馳走だ、こんばんは狸汁だ。みんな喜ぶぞ、逃げるな、狸汁。狸汁)
ポンタは竹藪の中を逃げ回るしまつ。
兎に角、成果は上がりませんでした。
やがて、秋が過ぎて、地蔵峠に雪が舞う季節となりました。

たまに、赤松の枝に積もった雪が音を立てて落ちてきます。人影はまったくありません。
ふたつのお地蔵様も、寒さに凍えて、声も出ません。
ポンタが、久しぶりに地蔵峠にやってきました。
(おーい、ポー様フー様、元気だったですか、あるはずありまさんよね。わかってまーす。)
(なんだね、こんな雪の中)
(今。この先ですれ違った女の子が間もなくここへ差し掛かると思うので、知らせにきたのです。
竹細工を背負ってね、これから津南まで売りに行くのかなー、雪の中大変だ。あの子は気立てもよく、親孝行です。名前はおさよといいます。おっとうが病でね。稼ぎに出なくてはならないのですよ。)
ポンタお前はよくおさよの家の事情をしってるな)
(はい、この村のことはなんでもわかりますだい、たまに、倉庫や、台所を荒らすのでね。内緒ですよ。いやね。ほら、村で一番優しい人探していましたよね。その、おさよさん、どうかと思いましてね、それで、ここきたのです。僕がボー様の後ろで泣いてみます。間違いなく、優しい人ですよ。では、行きますよ)
(わかった。おさよさんだと良いがね)


おさよが、背負子に、竹細工を、重ねて山の下手から、カンジキをして、ゆっくりと登ってきました。
三角頭巾につきは剥ぎだらけのちゃんちゃんこを着て、息を切らしながら歩いて、ボー様の前で足を止めました。
(なんだ、この泣き声は、狸だな。こんなとこで何してるだ、そうか、お供え物を取りに来たけど、何もなくて、悲しくて泣いてるのか。しかたねえ、おらの握り飯少しだがくれやるべぇ。可愛そうにのう)

背負子を降ろして、竹編みの弁当箱から、麦飯を取りだしポンタにあげるおさよ)

ポンタはやはりおさよは村で一番の優しい人だと信じて、ボー様の背中書いてある真言を何度も指で指して、大泣きをしている。
(なんだね、狸さん。この字ふを読んでくれだと。
おら、あんまり字が読めないで。でも、たっての用だから、読んでみるか)

(のーまくさんばだばさらなんせんだんまかろしゃなうんたらたかんまん)

(なんたべこりゃ。こんなことしらね。狸さん、これでよか、おら、忙しいで。これで行くだよ)
おさよは、急ぎ足で峠を降りていった。
ポンタが言う。
(何だか、おさよは、わけのわからないこと言って帰りましたよ、大丈夫てすかね)

ポー様が神妙な顔して言う
(でかしたぞ、ポンタ、今の言葉は不動明王の真言だよ、日伝様が私の背中に刻んだのた、ほら、私の足を見てごらん、右下、右上、左上、左下に自由に動かせる。)
(ボー様、私もほら、同じです。おさよさんは、この日之影村で、やはり、一番優しい女の子なんですね。ポンタ、お前の機転がなかったら、おさよさんに会えなかったかもね。ありがとう、ありがとう。)
ボー様とフーサ様とポンタは雪の中に飛び出して、手を繋いで、歓ぴあい、輪になって踊り出した。あまりの嬉しさにフー様は、転んでしまった。
輪になって踊ろう、がすむと、地蔵様たちは、もとの台座に戻り凛として山の頂きに頭を提げたのである。
ポンタが言う
(よかったですね。これで念願の旅に行けますね。やれ、やれ、おめでとうございます)
地蔵様は、感謝の心を込めて御経を唱え出した。

ポー様が御経を終えるとポンタに尋ねました。
(おさよと言う女の子は、優しい子供だね。お父様が病気で寝込んでいるとは可愛そうだ。なにか、我らに出きることがあれば手助けしたいものだかのう)
(そうですね、家内安全の御経を唱えるのが一番だと思いますが、このところお地蔵様達は、諸般の事情で、御経をさぼってばかりいましたから、効き目はイマイチですよね。)
馬鹿こけ、ポンタ、お前は、なにをいいたいのだ)
(いや、なに、お祈りも良いけど、おさよは貧乏しているから、ブツですよ。物、何か、御経のような、見えないものより、見えるものがいいですね。お金とか、お米とか、村上の塩鮭とか、ね)
フー様が気の毒そうな顔して言いました。
(ポンタよ、お前の言う通りだ。私も念仏だけでは腹の足しにはならないから、お礼の意味も含めて何かしてあげたいが今の私たちにはなにもできないだ。許せポンタ)
(念仏だけては、かえって迷惑だ、爺様は身体が悪くて寝てるしね、しかたねー悪さするか)
しばらくして、ボンタは、庄やの納戸から紐に釣らされた干し柿を盗んできた。
フー様が干し柿に手を合わせ
(何枚だ、一枚だ、なむ阿弥陀ー仏)とお経を唱えて泥棒狸のポンタを許し給えと祈っていた。すると突然
(ポー様、おらも、旅にいくた。おお地蔵さんは何処で何をするかわからねーぇ
心配だからついて行くだ。
日之影村からどこもに出たことのない地蔵様だけに、もしもの時にはポンタの出番もあるかもしれねー)
(子ともは、どうするのだ)
(もう、大きい、独立してもらわないとね。ほっておいても大丈夫だ。わしより頭がいいからね)

雪の降り続く峠を後に、地蔵様達とポンタは旅の一歩を踏み出そうとしていた。
お地蔵二体は台座だけになった自分たちがいた場所を向いて感謝のお経を唱えた。そしてポー様が静かに言った。
(長い間、ありがとうございました。慣れ親しんだこの地蔵峠も今日が見納めです。これから私達は長い旅に出掛けます。そしてどこで朽ち果てるか解りませんが、一生懸命、人々の為にお役にたつよう勤めて参ります。)
と別れの挨拶をし終わると、苔むした地蔵様の居なくなった、台座の脇から、のネズミが出てきてお地蔵様になにやら因縁をつけ始めたのです。

(お地蔵様たちは人様のお役にたつために旅に出ると上手いことを言っているけど、本当は、この地蔵峠が嫌になって出ていくのでしょうが。ここにいたって村に残っている人もまだまだいる。特に若いおなごや、爺婆が、寂しそうにしているではないか。それらの人を見離して自分達のやりたいことをすると言う訳だ。それでよくお地蔵様と言えたもんですね。あっしはのネズミですけん、お役にたつどころか嫌われものですが、情け知らずではありません、そこまで腐ってはいませんよ。
まぁ、旅立ちの日ですから、これ以上言いませんが、旅に疲れたらまたこの峠に戻って来てくださいな。戻ってきたら、峠の名前は地蔵峠ではなくおさよ峠と名前が代わっているかもね。はい、おじゃましました)
ネズミはそう言い残すと、雪のかぶった熊笹に消えていったのです。
お地蔵達とボンタは唖然として返す言葉が見つからない。落ち着きを取り戻したポー様が言葉を口にした。

(そうだの、みんな、ネズミの言う通りじゃ。胸を突かれたようだ。わしらは人の道を外れているかもしれん。まして、仏に帰依する地蔵だ、我等を信じている人がたとえ一人でもその人の為に祈りをしなければ道に外れる、ネズミよ、よく言ってくれた)え

ふー様が不機嫌な顔を覗かせて言った
(それはないすょ!とりあえず寺泊に行くことは今、思い付いたことではありませんよ、寺泊に行けばもっと迷いの多い人々がまっていてくれるのです。そして、今更、台座に戻っても、足が離れてしまっているから、立ってていても、ぐらついて、すぐ倒れてしまいます。)

(おお、そうだな。台座にな。立っていられないか。その通りだわい。少々の事は何かてで償うことにして、ここは一番旅に行くしか方法はないな)
ポー様はフー様の言葉に救われたように相槌を打った。

ボンタも負けずに言った。
(ネズミの奴、余計なことを言う奴だ、あいつはお供物がお地蔵様に届かなくなるので困っているのだ。出来たら旅に行って貰いたくないから、つまらん因縁をつけたのだ。でも、賢い奴だ、理屈は合っているからね、まぁ、気にしないで、出掛けることにしましょう)

ポンタを先頭にして、編み笠、脚絆、図た袋を身につけて、五輪をもって、お地蔵様たちはゆっくりと山道を下り谷を過ぎて持、九折を抜けて日之影温泉を横目で通り過ぎて、民家が点在する日之影村の入り口にたどり着いた。
雪が深いから、一日がかりであった。
その日は炭焼き場の中で寝ることにした。寝る前にお地蔵は勤めのお経を唱和していた。
ポンタは生身だから腹が減る。
(ほんじゃ、お地蔵、わしは腹が減ったで、チョイと納屋荒らしに行ってくるだ、お先に寝てくださいな。そうでしたね?お地蔵たちは寝ても寝なくても疲れないのですね。それと、これから、地蔵様の姿では。町中を歩けないので、着物と、ワラジを借りてくる)
(着物?そうか、そんなこともあるか?ポンタよろしく頼む。で、どこから借りてくるの?)
(借りると言っても、いつ返せるものやら。なぁに、この先の金貸してすよ、村の不景気をいいことに、やりたい放題の悪党ですよ、本人は、村のためとか偉そうぶって、顔で笑って舌を出しているヤツです。そこから、上物の着物をただて借りてくるのです。任してください、何処にあるかは、わかってますよ)

(そうか、まぁ、よろしくだ。眠ると疲れもとれる、わしたちの身体は石で出来ている、動けばそれだけ磨耗するのた)
(わかりましたよ、ては、ゆっくりと)

そう言い残すとポンタは闇の外に出て行った。
ポンタが出て行ったあと残った地蔵様は、初めて歩いたので疲れるはずだが、それが以外と疲れていなかった。
筋肉が石で出来ているから疲れの毒素がないのだ。しいて言えば、ショックに弱い。
寝ると言っても寝る必要もないから、無駄話ばかりしている。まぁ、ポンタが戻ってきたら、疲れているだろうから静かになるはずだ。
(今日さ、ここに来る途中に吊り橋があったであろう。あれは、蔦で編んだ強い橋だ、揺れて揺れて、谷に落ちるかと思ったよ)
(私もビックリしたことがあります。足が滑って谷間に落ちそうになりました。
さいわいポー様が腕を貸してくれたから助かったけど、歩くと言うことは命懸けですね。)
(そう言えば!、、、、、)

見るもの聴くものが珍しいことばかりなので、話が止まらないお地蔵たちでした。ようやくポンタが雪で湿った毛を払いながら炭焼き場に戻ってきた。
(いや、参りましたよ、こんな時期ですから、食べ物なんて簡単には見つかりませんよ、仕方なく、この村の一番金持ちの惣兵衛の家に忍び込んで、台所荒らしさ。賄い婦に見つかって、大騒ぎでした。なぁに、惣兵衛のところは、ならず者を飼ってるで、食い物ぐらい盗んでも罰は当たらないのさ。
金貸しして村人を困らせている奴らだ。都に人夫出しして、ピンハネしているしね。)
(それ食べ物は見つかったのか)
(当たり前ですよ。逃げながら干し柿、シミ豆腐などぶら下がっているものとりまくって来た。ざまぁみろだ。それと、はい、着物、少し地味だけと、選んでいるひまないから、衝立に掛かっているのを借りてきた。返すことないですよ。)
(人の物を盗んできてざまぁみろはないだめですよポンタ。)
(なーに、地蔵様は、惣兵衛のことなにも知らないからそんなこと言うのさ。娘を都に売り飛ばされな家もあるのです。)
(そんな悪い男か惣兵衛さんとやらは)

ポンタは眠気のおきない地蔵様に愛想をつかして、隅に行って寝てしまった。

朝になると外は珍しく雪が舞っていなかったが鈍よりした雲は相変わらずだ。
ポンタの起きるのを待って一項は寺泊にいく道を歩き出した。
半里ほど歩いたところで、ボンタが指を出して、言った。
(お地蔵様、あの柿の木のある茅葺きの粗末な家がおさよの家ですよ、寄っていきましょう。びっくりするに違いない、それよりも、こうして旅に出られるのもおさよさんのお陰てむすから)
(そうか、おさよの家か、是非もない、案内してくれ)

ボンタとお地蔵たちはおさよの庭の木戸を開けて格子戸の入り口に立っておさよを呼ぼうとしたら、狭い土間から荒々しい声がしたので、その場に座り込んで話を聴いてみることにした。

中からドスの利いた荒っぽい声がする。男の声だ、まともな人の声ではない。強迫しているようだ。

(おい、親父さんよ、惣兵衛一家を甘くみなさんなよ。貸した金返す返すと口ばっかりだ。今日は耳を揃えて返してもらうからな。手元に金がなければ、おさよを預かっていく、いいな)
ポー様はそーっと木戸を開けて中を覗き込んでみた。
すると、無精髭姿でおさよの父が薄布団に座って黙って惣兵衛一家の若い衆の話を咳を交えながら聞いていた。
(だまっていちゃぁわからねぇ。金を返すのか、それともおさよを都に出すか、どうするのだ)
おさよがいてたまらなくなって若い衆に頭を下げて刷りよって行って、
(お金なら、ここにある、竹細工を売ってきたお金です。しばらくこれで勘弁してください。)
(なんだ、こんなはした金、貸した金は10両だ、もう、一年も待ってやった、安い利息でな。金貸しを道楽で、してんじゃねぇ、おさよ、お前さんは親孝行だ。もう、この金は返せない。そうだろう。10年たっても無理というものよ、だから、親孝行してやれ、わしらと都え行こう。都には食べるもの着るもの、なに不自由はしない。
おまけに、年期が開ければ帰ってこれるのだ。そうしょう、おさよさんとやら。)
おさよの父は!咳き込みながら
(おさよ、返事するでねぇ、いくでねぇ。そんなに甘くはないだ。都は。)
(ふん、偉そうに言う親父だ。娘が可愛いければ、金など借りるな。わしだって、こんなことしたくはないのだ。)
(おらが都さ行くだ。おとう、心配する出ない。おら、大丈夫だ)

(そうか、おさよは、賢い娘だの、そうとわかれば夏にでも都に行くか、今は雪が深いでの、今のうちに親孝行しておけ。ほら、ここに一両ある。おとうに渡せ、これで薬でも買ってやれ、ついでに旨いものでも食べてな、では話が着いたところで帰るとするか)
黙っていたおさよの親父様が絞るようにして声を出した。
(ふざけるな、おさよをお目ぇなんかに渡すものか、うううーん)
(親父さん、そんな強がり言っても無駄だ、賢いおさよが都に行くと言っているのだから
こんな親孝行いないぞ。別れるのは辛いだろうが三年すれば戻ってこれるのだ。それまでの辛坊だよ親父さん。ではな、今日のところはこれで帰るとするか。今晩よく話し合え)
と言い残して、雪道を蹴って姿を消した。

囲炉裏の残り火がつらそうに火を放していた。
おさよは、
(おとう、夏になったら、おら、都えいくだ。
どこにいるか、わからねげど、サキも、花も都にいるだ、話もできる。心配ない、そう決めた)

おさよは、不安を抱えながら結局この夏に都に奉公に出ることにしてのです。

地蔵様たちは若い衆が帰るので慌てて木戸から離れて納屋の後ろに隠れたのである。
ポー様とフー様とボンタは怒り心頭だが、すぐ名案があるわけではない、お互いに顔を見合っているしかなかった。
しぱらく、沈黙が続いたが、ポー様が話し出した。

(おい、フー様よ、行くも、行かないもない、全国行脚行は中止にしよう。こらから奈良の大仏様に御願いをして、腕のたつ仁王様をこの村に派遣してもらおう。わしらは、逃げるわけではないが、これでも、佛に支える地蔵だから、殺生ごとになるかもしれない、揉め事に手を貸すわけに行かない、そうだろう)

(それで惣兵衛一家を懲らしめるということですね。名案ですが大仏様は許可くれるだろうか。都は今は寺の建立で忙しいと聞くし)
(なーに、心配はいらない。大仏様はわしらの親分様だ。子分のわれらが、哀しんでいるのにほっておくらけがないだろう。大仏様は慈悲のあるお方だ。)

(そうですかね、偉い方は、枯れ葉末端の話など取り上げてもらえないだろう。大仏様はいいとしても取り巻きが相手にしてくれないかも)

(そんなことない、直接談判じゃ、門前払いされても、何度も御願いをして、会わせてもらうのだ。おさよはわれらの恩人ばかりではなく日之影村にとっても大事な娘さんだ、大仏様に通じないはずがない、誠は、われらにありです。あたって砕けろです)

(夏までに腕ぷっしのたつ仁王様一人でもいいから派遣してくれれば助かるのだか。おさよが都に連れられていかれる前に解決しなければならない。夏までにな。善は急げた)
ポンタがいった
(奈良の大仏様に会うならお土産を持っていきましょう。越後の銘酒、朝日山をおらが、酒蔵から拝借してきます、なーに、????徳利二本紐で結わいて、首から下げて行けばいいのです。)

真冬の越後の山越えは地元の人でさえしない。
それでも、お地蔵様たちは、ポンタの山慣れした案内でなんとか海に着いた。寺泊だ。

浜辺に出ると、海には鋭い巖がそそりたち、鉛色した波が激しく打ち寄せて、潮の真綿のようなものが飛び交っている。
ポー様様はこの荒々しい日本海に立って何を感じたのか話始めました。

(ふー様、この先に賽の河原という難所がある。この海岸にそってある道だ。波に引き込まれてい命を落とす日本の代表する難所らしい。岩影の洞には、霊を慰める碑がいくつもあるそうだ。日之影村の峠にいるとき、旅人に聴いた話だけど、ここでも、険しい光景だから想像出来ますね)


この日は海辺の近くにある、掘っ立て小屋に泊まることにした。
小屋の中には、漁に使う網との道具類がしまってある。
その片隅で、眠くなるのを待つことにした。
ポー様は、思い出したように、
(ふー様よ、お前様は、たしか、日之影村の鎮守祭の時にこの峠に来たですよね。あの頃、私もふー様も、もてはやせれて、棲みよかったですね。)
(そうでしたね、やれ、婚礼だ、やれ、葬式だ、やれ、新築だ、やれ、厄ぱらいだ、とか、とにかく、やれやれだらけで、忙しく、村人には、聴こえないかも知れないけれど、沖縄や、真言やら、大変だったですね)

ポンタが
(お供え物も豪華でしたね。鯛、鰹、スルメ、お酒、こぼう、人参、なす、カボチャ。景気がよかったかりね。豊年続きてね)
(ふー様、ポンタ、その頃は惣次郎はどこでなにをしていたのかね~日影村で金貸ししていた話は聞いたことないぞ)
ポンタがいいました
(惣次郎は日之影村では新参者で、若い者が都に出稼ぎに行くようになってから、この村に出雲崎から、若い衆をつれてやってきました。
都近辺の神社仏閣の造営が忙しくなり、人手不足で、この、日之影村でも出稼ぎに行くものが多く
村はご覧の通りです。
都の甘い汁に惑わされ、村に帰って来ない者も出る始末です。残されたものは、自ずと暮らしが厳しくなるから、働き手が稼いで戻って来るのを当てにして、借金を作るのです。そこに目をつけたのが惣次郎と言うわけです。
高利で回すから、金はたまる一方ですよ、返せなくなると、娘は容赦なく都え連れて行き、年期奉公だと旨い名目考えて、結局は、働きずくめで身体を壊し、戻って来ない者もいるのです)

(ポンタ、よく知ってるなそんなこ)
(はい、夜になると、天井裏、昼間は、、野良仕事の間、どちらの家の事情でも、餌探しのついでに入りますよ)

(なるほど、ポンタも隅に置けないな。おさよも、危ないところだな、夏までに自由にしてあげねばわしらの面目がたたないの)

(おさよばかりではありませんよ、トメ、ヒロ、与作、名前上げりゃ切りがありませんよ、何とかしてくださいよ、お地蔵様達)

(わかっておる、だからこうして、旅に出てきた、だが、自信が有るわけではない。少しばかり、大仏様と縁が有るだけだし、ましては、位が高いわけではない。地蔵だからの、大仏様が相手にしてくれるかどうかも分からない、行くだけ行って誠意を示す以外ない」

「僕も気軽に楽しみながら旅に同行していこうと思っていたが、おさよさんのことを思うと噴飯やるかたない心境です、僕の知っている情報はすべて提供しますから日之影村から惣次郎一家を追放しましょう、とはいうものの、相手は悪徳手下を20人ぐらい抱える組だ。勢力は日之影村だけではない、寺泊。糸魚川、長岡、など、越後の主なところに進出している。
ほっておけば、善良な人々が苦しむばかりか、暮らしができなくなる。
これは、日之影村だけの問題ではありません。ここにいるお地蔵様達だけでは率直に言いまして、不安です」
「ポンタの言うとおりだの、フーさんよ。わたしは足が動くようになって、自由になれたとたんにおさよさんのことだ。
大きな声では言えないが、わしは、正直者で自分の心の中を覗いてみると、悪魔が棲んでいるのだよ。それはな、おさよさんの一件に遭遇しなければ、全国各地を命のあるかぎり、まわって、温泉や、観光、お寺めぐり、子供たちと遊んだり、仏様の教えを広めたりしたいと思っておった。今でもそのような思いが頭をよぎっている。これは私の心に悪魔が棲んでいる証拠だ。なんて情けない地蔵なんだ。おさよさんを知ったその時から、もっと素直に、雑念が起きないで、おさよさんの不幸を救うために全力を挙げる心が出てこなかったのかと思うのです。修行が足りないのだ。」

ポンタが言葉をはさんだ。

「反省ですか、そういえば、日之影村では、誰も来ないから、おもしろくないとかの理由で、お経はサボるし、雪が深々と降りつずく寝てばかり、僕が声をかけても知らん振り、となりのフーさんも同じでした。カラスが頭に止まれば、うるさいとか、
とんぼが目の前を飛んでると、わずわらしいとか、他の生き物の思いなんか無視していた。たぶん、大日如来様が、お前たち何を考えているのか、なんのためにこの世に命を授かっているのか。ばかもん、と、お怒りになって、天変地変。災害除去。などの時は真言を優しい人に詠んでもらうことで自由になれて村民の役に立つことの原則を、自分たちの都合で詠んでもらったから、お前たち地蔵よ、往くべき方向が違うだろうと、修正なされたのだと思いますよ」

(ポンタのいう通りだ。お供物どろぼうだけではないのたな。ポンタは、わし達も、おさよを助ける為には。命を賭ける。)

波の音が闇に響く。ポンタお地蔵さんは、寄り添うように眠りについた。


朝早く、太陽が、水平線を染めていた。
カモメが遠くの波まで乱舞していた。

海に向かってお地蔵様は、お勤めの御経を唱え終えると、日本海を南下していく。

出雲崎に着いたのは、日之影村を出てから数日が過ぎていた。
遠くに佐渡島が見える。
一行は、海辺の近くの、森の中にある今にも倒れそうな小さな祠に立ち寄った。辺りは深々と鎮まり、時折、小鳥が鳴いていた。
祠の側には古びたお地蔵が人待そうに立っていた。

(ふー様、私達は、やはり、このような静寂でうら寂しい処が落ち着きますね)

(そうですね。ポー様。休み休みここまで来ましたが、それにしても山道は険しくて疲れます。でも、この辺りは、私達の似合う場所ですね。横に居るお地蔵は、もしかしたら女性的なお地蔵ですね。だって、何となく胸が二つあるし、お顔も女性的で、子供が歓びそうなお人形が幾つもある。きっと、子宝地蔵様ですよ。
美しいお地蔵ですね。初めてお逢い出来ました。)

すると、やおら、女性のお地蔵は微笑みながら、傍らに座ることが一行に話しかけました。

(そうですよ、私の名前は華成と言う女地蔵です。子宝地蔵とも、この辺りでは呼ばれています。
皆様は狸さんと、お地蔵様ではありませんか、また、どうして、ここまで歩いてこられましたの。お地蔵様が歩けるなんて聴いたことがありません。もしかしたら、大日如来様が、特別にご用を皆様にお命じもうしたのかも知れませんね。そうでもなければ、歩けるはずが有りませんもの)
ポー様が答えました。、
(いやはや、私達は、山奥の日之影村で、永きにわたり、お勤めをして参りました、名もない地蔵です。ひょっとしたことのご縁で歩けるようになりました。これから、奈良の大仏様に、会いに行く途中です。)
(それは、それは、、ご苦労さまです。これも、ご縁ですので、私も、心願成就、旅の安全を祈るといたします。)
ポンタが言った。

(つかぬことお伺いいたしますが、華成様は微笑ましいお顔を常にしています。その上お美しいお地蔵です。癒し系です。周りの男地蔵様には、関心持たれているとおもいます。結婚のご縁はもうおすみですか)

ふー様がびっくりして
(ポンタ、お前は、なんて失礼な事を言うのだ、お地蔵様が結婚などするわけないのだ。どうも、華成様、許してください。連れのポンタがはしたない事を言いましてごめんなさい)

(なんの、なんの、気配りは無用です。ポンタさんの方が、まともな考えてですよ。自然体で、理にかなっています。そう思いませんか、私達の方がおかしいのですよ。あは、は、は、誰かいませんですかね。隣り合わせに居るだけで結婚した気持ちになれるのですが。冗談、ですよ。でも、本当は、側には誰か男地蔵さんがいてくれると心強いのは確かです、台風とか、地震とかが来たときなど、誰か様におすがりしたい気持ちになります。本当に)
ふー様が華成様になにやら話掛けようとすると、
ポー様が手を軽くさしのべて、遮った。)
(つかぬことお伺いしますが、私達、地蔵が結婚するなど聴いたことがありません。私達は、田舎者と言うか、世間知らずで?)

(一般的には、そんなこと有り得ません。しかしながら、その、土地柄と言うか、優しい人達の感性で一人ぼっちでは、気の毒とくとか、人間味がある住民が多いと、結婚させてやろうや。と言う雰囲気が、生まれるかもしれませんね。例えば、夫婦円満地蔵とかで名所にしてもいいしね)

(へー、そんなものですかね。ポー様、私達の、日之影村では、まずもって、ダメですね。地蔵どころではありませんからね。貧困と、脅しと、村八分の土地柄ですから)

(この土地の人びとは、優しい人が多いですよ、
私が、女地蔵で寂しいだろうから、私の隣に男地蔵を、置いてくれましたのよ、pairね。ふ、ふ、
名前は創山地蔵、最初のうちは、善良で、御経も、まぁまぁ、何となく安心感があったのね、
土地方々の紹介でもあるし、100%の地蔵様なんていないと思うから、まぁいいかと思っていたのです。
そうしていたら、私に怒るようなったの。
となりで、私がお経あげるでしょ、当たり前のはなしでしょ。そのお経をもう少し小さな声にしてもらえないかとか、華成の御供物は、新鮮なものが多い、私の所は、その辺の余ったものばかりだ。お前は誠実にお経を唱え、人の悩みを汲んで頑張っているからしかたない。もう少し手を抜いてわたしに、合わせてもらえないか。キチッとしているより、少したるんでいる方が身体にいいとか、わがまま出てきて。私の足を引っ張るようになり、色々言えば、反発するし、怒り出すのて、
もう、いやっ!というかんじになり、冷めたのよ。わがままは、困るのよ。まだあるの、隣の稲荷神社の狐と、お供え物を賭けの対象にして、勝った、負けたでしょう。いくら、暇だと言っても、それはないですよ、仏の道ですからね。
負けると私のお供えを持ち出す始末、お地蔵は食べ物いらないとは言え、取り巻きの狐、狸、ガラスなどにご褒美として、お礼の品になるでしょう。彼らには色々頼みますからね。
暑い時は、水不足になるので、そんなとき、川から汲んできてくれるし。
たまには。背中の苔おとしとかね。
もう、冗談出ないわよ。ということで、サヨナラしたの?

あら、私、何でこんなこと話しているのかしら?
関係ないですね。ほ、ほ、。)
ふー様が
(いや、よろしければ、続きを話してください。それからどうなったのですか)

(この土地の人達は、私の連れ合いと言うか、隣に立っていただく、男地蔵は腕力があり、たくましい精神で、私をリードしていくタイプが言いと思っていたらしくの。用心棒なのかな?それは、それで良いのですが、私のタイプではないの。私の感性は、体育系より文学系なのね。それで、私は、なにも怖れていませんからと、強がりを言っていたのです)

どのようにして、創山地蔵様を移動してもらったのですか、ふー様が言うと
(私、創山地蔵様とはなるぺく話をしないように避けていたから、面白くなかったみたい。そしたら、ある日、地震が起きて、創山地蔵様は倒壊してしまったわけ。私は、そこにある松ノ木に支えられてoK。運がいいのね。
地元の方々は、これも何かの悪い因縁かもしれないと、その後は、代わりのお地蔵様を置かなくなったと言うわけ)

(それにしてと、貴殿方は旅ができて良いですね。私も一度は、奈良の大仏様にお会いに行きたいとおもいますが、貴殿方のように、悲しいかな歩けません。これも、大日如来様のご命と思いますのでここで生きていくしかありません。
貴殿方はきっと、大日如来様が特別な使命を与えていると思うので、歩けるようにしたのだと思います。)
ふー様が言う。
(その特別の使命とは、よく理解していないのです、いや、分からないのです。しいて言えば、日之影村が、寂れて悪が運びり、何とか出来ないかと思おうことぐらいです。その為に大仏様に会いにいくのですが、約束を取り付けたわけではない。とりあえず、行ってみよう、と言うことです。)
(それは、りっばな使命です。大仏様も理解してくれて、応援してくれると思います)

(では、そう思って頑張っていきます、華成様も、お元気お過ごしください)

一行は、華成様と別れを告げると、海岸線に添って旅を続けました。
海辺の松林で、休んでいたとき、フーさんが思い出したようにいいました。

(ポー様、話はそれますが、歩きながら、つれづれ考えていたのですが、華成地蔵様は、結婚したと言ってましたよね。なぜ、私達には、その様な話は来ないのですかね。あの、華成様は、綺麗な地蔵様でした。興奮したのは、初めてでした。
わたしも男地蔵であると言うことを実感致しました。出来たら抱いてみたいとね。これは矢張、卑しいことなのですかね)

(フー様もその様に感じたか、わしも正直に言うと、何か、雷でも、落ちた心境に襲われた。なにせ、女地蔵様がいるとは知らなかった。あの、優しい顔は。男地蔵のハートを射るな)

ポンタが笑いながら言った。
(ポー様とフー様が嫁取りだと、恋をしたと。無理無理。日之影村の地蔵様では、誰も来てくれない。第一、あなたがは、見映えがない。貧乏たらしく、お経は、サボるし、居眠りばかり。よれよれの着物で。破れた編笠でどうして、結婚の発想が出るの不思議ですよ。)

(でも!隣に美しい心で、やさしくアドバイスしてくれる女地蔵様がいたら、わしなんて、懸命にお経を唱え、人々が幸せになるよう、お祈りをするのだかね)

(おら、そうとはおもえね、昔の、偉いお坊さんは、嫁さんなんか貰わない。決まりでね。華成様は、本心は、創山地蔵なんか、来ない方がよかったと思っているに違いない。
地元の人々が、余計なお世話をしたのさ、男地蔵が、あった方が、穏やかで、幸せになるとか、人間目線で、並べたのだ。
夫婦地蔵とか、名付けて、お賽銭を増やそうとしたに間違いない。あぁやだやだ、。)

ポンタがつづける。
(女地蔵は。子宝夫婦円満の地蔵で、おなごの悩みを受ける地蔵だ、そこに男地蔵が入り込んだら、隣の男地蔵に悩みを聴かれて、恥ずかしいと思うから、いない方がいいに。きまっているのだ。
だから創山地蔵様は、地震で倒されたのだ。大仏様のご意向だ。ポー様もフー様も夫婦地蔵になろうなんで思はないでね。恋ぐらいにしておいた方が無難ですよ。
だいたい、日頃からプーさんとボーさんは、甘いのです。よく、図々しく、恋なんて言えますね。おさよは日之影村で必死に生きているのに
淡い恋心が沸いたとは、情けない)
(ボンタよ、それ以上言うな。お前だって、嫁取りには、カッカしたろうに。わかったよ。
世の中は広いな、女地蔵様がいるなんて思いもよらずだ。)
一行旅は海山、山河を越え、魚津、金沢 敦賀、琵琶湖から、比叡山を眺め、大仏様のいる奈良にたどりつきました。

夕暮れどきの若草山は今にも姿を隠そうていました。
暫しの休息をとりながら、小陰に入り、明日の大仏様との対面の作戦を考えることにした。


(ボー様とうとう着きましたね。ポンタもよくついてきた,腹が減る,腹が減ると愚痴をいいながら、よく着いてきた)

(おらの活躍はこれからじゃけん。まぁみておってくださいな。役にたちますよ。お地蔵様達だって顔がやつれていますよ、よくここまで、きましたね、お地蔵様の身体は固い石で出来ているので重いし、磨り減るし、さぞかし難儀だったでしょう。さぁ、明日から待ち望んだ大仏様との話し合いが始まります。今夜は、ゆっくりねましょう。虫の音でも聴て。)



聖武天皇が開祖なされた東大寺ルシャナ仏は日本の守護を司る国分寺の総本山だ。
「この大仏様に面会できれば、おさよの件も解決の目処がたつが、門前払いだと、おさよに会わす顔がないな。その時は、どうするか、日之影村には、勝手に出てきてしまったから、もう、戻れない。
何処かの街道筋で、立っているしかないな。
でも、地元の人々か、なんだ、こりゃ、と不思議がって、縁起が悪いとか言われて、埋められるかもね。)


奈良草原の夕暮れどきは、広々とした草原に鹿がゆっくりと餌を探し求めて歩いていた。
南大門は、ここからは見えないが、小さな丘陵を一つ越えれば見えて来るはずだ。

地蔵様たちは、木陰で座りながら夜の更けるのを待っていた。春の息吹が近い大木に寄り掛かっている。

翌朝、お地蔵様達は、東大寺の南大門にやって来ました。
怖そうに睨みを効かす仁王様を見比べていた。
フー様がボー様に耳打ちしている。

(口を閉めて睨み付けているウンギョウ(仁王様は、相談に乗ってくれそうもありませんね、隣の口を開けているアギョウ仁王様は何となく口を開けている分、優しく見えるのですが)

(そうか、フー様もそう見えるか、私も同じだ、たいして変わりはないと思うが、では、少しばかり訊ねて見るとするか)

階段の下から眺めていた地蔵様は、やおら、背中に背負ってきた袋から、越後の銘酒、朝日山を取りだした。
広い階段を昇ると、仁王様様を見上げて、ポー様が口の開いたアギョウ仁王様に言った。

(私達は越後の山奥から参りましたボーと言う名もない地蔵です、ここにいるのは同僚のフー地蔵です。ここに座っている狸はポンタと言います。先月末越後を出まして、やっとこさ、たどり着きました。
(ぐちゃぐちゃいってないで挨拶はもういい、なにようだ。こんな早くに、わしらは疲れておるのじゃ、観光客にジロジロ観られてな、ばかばかしい)

(はい、実は、ぁ、その前に我らの村の銘酒朝日山です、どうぞ納めてください、)

(そんなもの要らんわ、近くに本場、灘の生一本という全国的なブランドの酒があるのだ。越後だか、越中だか知らんがそんな酒は聴いたこともない。持って帰れ)

(は、はーい、そうでしたね。うっかりしました。でも、越後は、はーい、米の本場、味わいはどこか違う筈です、まぁ、そう固いこと言わずどなたかにでも差し上げてください。で、用件は、どなたか、お暇な仁王様がいらしゃいましたら是非私たちの村にきてもらって金貸しの惣兵衛を凝らしめて貰いたいのです、それでルシャナ仏様にお願いに上がった次第です)

(そんな小さなことで大仏様は聞いてくれるはずはないだろう、聞くだけ野暮だ、大仏様は日本の国の大事な事をご祈念するお方だ。たとえば、豊作祈願 疫病払い 平和祈念とか、国事に関することのみだ。地蔵なら、そのくらいのことは解っているだろうが、帰れ、帰れ)

その日は相手にしてもらえないで、けんろほろろにその場を離れたのです。帰り道とは言え帰るところがないから、ただ公園の木のしたで、ボーッとしているしか方法がなかった。

(そうだ、明日は直訴です、直訴。大仏様に直接話をて見ませんか。こうなれば、あの手、この手でやりましょう、まだまだこれからですよ)

ポンタはめずらしくお地蔵様を煽ったのだ。
翌日の昼頃、観光客に混じって大仏殿に入り、大仏様に話し出したしたのだが、遠すぎて話が伝わらないのです。観光客もいる、騒がしい。
しかたないので、閉門になるまで待つことにしたのだ。
閉門時間が過ぎて伽藍のなかには誰もいない。静寂そのものだ。線香の香りが漂っていて、地蔵様達も何かほっとして大仏様の正面に座った。
見上げると大仏様も首を微かに下げて微笑みを浮かべているように思えたのだが、本当は、観光客のための世辞笑いかもしれない。これだけの観光客が押し寄せるのだから疲れるのは当たり前だと、地蔵たちは思っていた。
(大仏様も大変な仕事だ、日之影村のだれも来ない村と違って、さすが都だ)ポンタはお地蔵様を見詰めて言った。お地蔵様は下を向いていた。

外は日が沈みかけて静寂な時間が訪れていた。

(ボー様、見廻りの監視員が来ないうちにお尋ねもうしましょう)
と、フー様が問いかけた。それに促されボー様は柱の陰で座っていたので、やおら立ち上がり優しいお顔の大仏様に一礼をして、事情を語り始めました。

すると、大仏様の脇仏の強そうな三途明王が言葉を遮るように強い口調で

(黙れ、狼藉もの。この時間に何をしているのだ。賽銭でも盗みに来たのか、さぁ、立ち去れ、帰れー帰れ。帰らないと警備員に知らせるぞ)

大仏様は
(まぁ、罪を覚悟で私と話をしたいと言うことだ、それだけの悩みがあるのだろう、騒ぐな不動明王。して、どうしたと言うのだ)

(いや、ルシャナ仏様、それはなりません、こやつは人間ではありません。野原にいる地蔵です、修行をさぼって、観光旅行とは、仏門を支える地蔵のやるべき行動ではありません。まして、野におけ地蔵の本文をわすれ、おそれ多くも、大仏様に直訴しょうなど、言語道断、早速追いは頼ます。オーイ。だれかおるか、この、地蔵たちを外に連れていき、猿沢池の片隅に埋めよ、狸は罪がない、この地蔵についてきただけだ、さぞや、騙されたのであろう、はよう、やれ)

(三途明王、ちとまて、これらのものは、怪しいものではない。よく見ろ側に狸がおるわ、
動物は悪い者には近づかない習性があるのでな、そこの狸、どうだ、わしの言う通りだろう。違うか)

(はい。その通りです、さすがに大仏様はお目が高い。すこし、要領のいい怠けぐせがありますが、その他は情の深いお地蔵さまです。どうぞ話を聞いてやってください。遥々、越後の山奥からわざわざ、大仏様にお遍路のようにしながら訪ねてきたのです)

ポー様は快くして、おさよのこと、悪い惣兵衛のこと、都に出稼ぎいって村人が帰って来ないこと高利貸し悪徳惣兵衛を村から追い出すため仁王様を派遣してもらいたいことなど一通り話終えた。

すると大仏様は大仏様の隣にいて、静に話を聴いていた強そうな仁王様に話しかけた。大仏様を警護する不動明王の明大明王ある。

(のう、明大明王よ、ここにいる二人は人間ではない、我らの仲間、地蔵菩薩だ、この話、小さな村の事件に見えるが、決してそうではない、一番大切なことではないか。解るか。
権力者の機嫌をとり、私利私欲を貪る人が多いと聴く今の世の中で、わざわざ、越後の山奥から、
遠路を旅して、わしに会いに来るとは、見上げたもの達だ。)
(は、は、その通りです。)
明大明王は言葉を返せないでいた。

(でもな、一行よ、お前たちの健気な気持ちは理解できるが、これは、難しい。仁王とて、それぞれ持ち場があるから、簡単には離れられないしの)

(はい、それは、わかっています。私達二人とポンタでは、太刀打ち出来ない相手だし、地蔵だから、仏門の身ですので、喧嘩、暴力はてま来ません。その点、仁王様でしたら、仏を御守りするのも一つのパワーと聴いていますので、ーー仏を護る守護神と聴いていましたので。私たちの早とちりかもしれませんが?なぜならぼ、地蔵も仁王様に護られる資格があるのか、分からないできてしまったからです。ー)

(その通りだ。地蔵とて、同じ仏門で暮らすりっばな仏だ。腕力を使っても護るのも仁王の仕事の一つだ。あい、わかった。
日之影温泉、いや、日之影村に誰か派遣して、やろうではないか。ヤクザよりも悪賢い奴等の征伐だから腕の強い不動明王がいい、明和寺の天水不動明王はどうかの)

(はっは、怖れながら、天水明王は今、修理中でごさいます)

(では、山澄寺の快成明王はどうかの、若いけど思慮分別があると聞くがの)

(はい、快成明王は今、この界隈の一番の売れっ子です。いま其処を離れると、御布施が上がらなくなり財政に影響が出ますので無理かと存じます。していえば、この本山にも影響が出てきます)

(そうか、本山の経営も楽ではないからの、末寺からの浄財の寄附が少くなると遺憾での
快成は、そんなに人気があるのか、うーん。だれかいないのか、これは、私の存在が天から問われておるのだ)

(利徳寺の雷鳴仁王は、腕が立つ、どうかの)

雷鳴仁王は、仏のくせに、大仏様には、内緒にしておいてくれと言われてましたが、実は、麻薬にはまり、頭がふらふらで、今、明日香山の地獄砦にいます。保護観察付きで、再起をするための修行中です。)

(なんだと、麻薬中毒だと。雷鳴仁王が、仏門にいる者が、何としたことか。なぜ麻薬などにはまったのだ。ストレスのたまりすぎか、わしは、きつい修行などさせておらん。
そなたたちに合わす顔かまない。恥ずかしい次第た。許せ。)

ポー様が言った。

(心配ご無用です。悪を覗くのも、これも修行の一つだと思えば許せる範囲です。
清濁合わせ飲むと言うでは有りませんか。おそらく、雷鳴様も、麻薬を使うと、どの様な心の変化が有るのか、試してみたのでしょう)

明大仁王が言った。

(そこの地蔵の言うことは寛大な心で大切です。
しかし、実態は、どうかともうしますと、ある地方で祈願にするときに、何らかの方法で、麻薬を使い、気分よくさして、村民を返すと言う、王道に反する行為をみみにしたので、雷鳴明王は、わざわざ真意を確かめてくると言って出かけたのです。その時の体験が、今の状況をつくってしまったので、本人は、全くの無実です。一言いっておきます。)

(そうだったのか、雷鳴もなかなかやるわい。
ポート言う、地蔵とやら、そなたは、心がでかいのう。雷鳴仁王は、精神障害では旅に出られない、仕方無い、誰か他にさがさねばのう。仁王が精神を患うなんて聴いたことがない)

東大寺、廬舎那仏様は、頭を抱えて考えこんでしまった。

明大明王は直立したまま、額から汗が出ている。
いま時、越後の山奥に行く変わり者の不動明王などいるはずがないとわかっているのだ。
でも誰か探し出さないと大仏様の面子がたたないので、困惑していた。

伽藍はしーんとしていた。
もうすぐ灯明を付けに警備係がやって来る時間だ。お地蔵さんと、大仏様が、会話している姿を見られたら、大問題になる
大仏様も焦っている。
すると明大仏明王は、眼をかっきらいて大声で大仏様に具申した。

(奈良の東、明日香の里に隠居したばかりの不動明王がいます。名は雲龍明王と申します、私の親類で、少々口が悪いでので、トラブルメーカーっていうところもありますが、根っこは、優しい奴です。酒が大好きで困るのですが、ここに土産品貰った朝日山と言う銘酒があります。これを差しだして、酒は越後え行けば浴びるほど飲めると誘えばきっといくはずです。
もう、彼しかいません。どうしてもと言うのなら私、明大が行くしかありません)

(そうか雲龍か、あいつはわしも知っている、
いつか、この講堂で研修をしたとき、作法は、いい加減だけど、大きな声で唱えるお経は元気があって頼もしいと面っていた。行ってくれるといいのだが。退職金出していないからふてくされるかもなー。勿論今は大仏殿の修理で金が出ていくばかりだが、来年になれば、大きな法要会がある。そのときに退職金は、渡せるから、そう伝えてくれ。
、明大明王は私の警護役だから外せん。私とて、けっして安全とは言えないのだ、
焼き討ち、転覆、反乱など、まだまだ世の中が安定しておらんでの。では。さっそく、明日にでも明日香の里に行ってくれんか。なに、大丈夫、雲龍明王ならわしがよく知っておる。酒と博奕が好きでの、一時は仏教界から追放去れそうになったが、わしが、追放までしなくてもと、許してあげた関係だ。いやいや、本人が越後に行くのが嫌なら無理を言ってはならんぞ。その時はまた考えよう。兎に角行ってみることだ)

いよいよ。日之影村に戻り惣兵衛一家を

大仏様の紹介で、一行は明日香村に行き雲龍仁王様に会うことになった。

雲龍様の棲みかは平坦な明日香村の外れにあり、
粗末な茅葺きの一軒家で、植え込みに囲まれ、木々が鬱蒼としていた。
小さな庭で、薄暗い縁側の奥に雲龍仁王は横になって寝ていた。
一行は、庭の潜り戸を通り、縁側から、声をかけた。

(雲龍様。起きて下さい。私達は、大仏様のご紹介で、遥々、越後の山奥から出てまいりました。どうぞ、起きて下さい。)

(なんだやかましい。とこのどいつだ。なんだ、地蔵とタヌキか、なんのようだ。)

雲龍仁王様は白色の法衣を無造作に纏い、板の間にムクッと立ち上がり一行を睨むと、無造作に酒の朝日山を取り上げた。一口飲み干すと
(で、なんだ。その用とやら. この酒は辛口だな、わしに合う。越後だと?、酒の本場は。灘の生一本といって、此方が本場だ。それにしても、越後も、見捨てたものでもないぞ。)

グイグイと徳利を口に運ぶ雲龍仁王でした。

(そんなに、イッキ飲みすると、身体に良くないですよ)

(よけいなことをいうな。酒はこうして、豪快に飲むものだ。して、なんだ)

(越後の山奥からきました。日之影村と言う、
小さな村です。そこにいる悪親分の、惣次郎という、金貸しを、雲龍様のお力で退治してもらいたいので、やってきました。
元、雲龍様が勤めていた大仏様の紹介です)

(なんだと、わしに金貸しを、退治しろだと、馬鹿言うな。わしは、東大寺のお勤めは、もう、引退したのだ。大仏様の紹介なんて、くそくらえだ。退職金はないし、つかうだけ使って、はい、それまでだとよ。皆はな、大仏様の御利益を求めて敬っているが、大仏殿の中では財政は、火の車、組織は上の位の者が幅をきかし、下の者は犠牲を強いたげられ、民主的な運営とほど遠いのだ。
仁王と言っても、もう、霊力は無くなった。ほら見ろ、内股が朽ちてぼろぼろだ。大仏様は仁王の使いかたが激しいので逃げだす者もいるのだ。わしもやつれて、ほれ、やせてしまって力もでないのさ。今は、隠居の身だ。さっさと帰れ)

(断られるのは。覚悟の上です。引退したとは言え、元仁王様です。老け込むには、まだ早いですよ。村で一番優しい、おさよという娘が売り飛ばされるのです。私達地蔵は、お経ばかりで、腕力は無しです。闘いを挑むと思っても、地蔵ては、太刀打ちできません)

(だめだったらだめだ。越後の日之影村なんて、聴いたこともないし、人気もないところなど、真っ平ごめんだ。)

(狸のおらだって、日之影村を、まともな、元の姿にしないといけないと思って奈良まできていると言うのに、なんだい、偉そうに、ふんずり反って、それでも、名のある大仏様の用心棒だと、聴いて呆れるよ。黙ってきいてりゃいい気になって。こんな贋物仁王立なんか、こっちが迷惑だ。さぁ、帰りましょう。いるだけ無駄だ。酒は庭にばら蒔くか)

(ぬかしたな、このタヌキめ。)
ポンタと雲龍様は、柿ノ木の廻りをおいかけっこだ。
(おい、ポンタ、やめとけ、雲龍様は体が不自由だ、からかうな、雲龍様、さぁ、そのぐらいにして、酒でも飲んでください)

雲龍様は息を切らしながら縁側にどかっと座り込んだ。
(あぁ疲れた狸と喧嘩しても逃げ足が早いからかなわない、そこでだ、走りながらわしも考えた。ポンタの言うことに一理ある。
このタヌキのポンタに見下り半を言われてはわしの立つ瀬もない。でだ。
このまま下がるわけには行かない。仕方ない、あぁ、その日之影村とやらに、行ってあげようではないか。そこで、このわしが、どんな仁王か見せてやるわい、昔は大仏様を護る守護神だ。天部の一翼を担った、この俺様だ。この、たわけもの、腐っても鯛だ。でもな、酒は欠かせない。その点、大丈夫か。依存症でな、馬鹿力も出んでのう)

(日之影村に行けば造り酒屋があるで心配いらない。平和が戻ったら、村の鎮守様の脇に雲龍様の席を造るよう、働きかけます、こんなみすぼらしい掘っ立て小屋ではありません。守護神として、いや、子分として、ボンタと、狐のコンタを預けます)
ボンタが慌て
(何を言うのですかポー様、おらやだよ。雲龍様は、朝から酒びたし、酔っ払いだから、始末におけない。やれ、酒もってこい、背中を拭け、黙っていれば、無理難題を押し付ける、あぁ、やだやだ)
(ポンタ、よく聞け、お供え物の中で酒以外はお前のものだ。どうだ、楽だろ)
(うーーん、でもねー雲龍様がわがままだからね)

(心配要らない、ポンタ、わしは、そんな小屋に立たされるのは御免だ。その、なんとかいう、悪い奴等を追い出したら、奈良に帰るさ。
なぁ、ポンタよ、わしは、ポンタにけしかけられたようなものだの。ボンタよ、お前は最初から、こうなると計算してたのだろう?)

(めっそうもない、思っても見なかった展開です、失礼いたしました。)

(なぁに、心配いらない。わしも男じゃけん。
ただのう、強そうに見えるのが仁王なのだか、実際に争った経験はゼロだ。
わしだけではない、大仏様を取り巻く仁王は、みな、争った事がないのじゃ。だから、実践経験がないからの。南大門のあの強そうな金剛力士も、喧嘩したことない。
わしらの、怖そうな形相を見て、悪い人間は、さっさと逃げだすから、暴力を奮うことなどないのだ。睨んだらそれで終わりなのだ。実際に腕力を使ったこと一度もない。反旗を降り上げる連中と喧嘩状態になっても、なんとかなるだろう、と言った甘い考えだ。
お前たち、なに不安な顔をしてるだ、わしらの怖れるものは、火だけだ。燃えやすいからね。材料が木だもの仕方ないさ。)

(こんな寂しい掘っ立て小屋で何して暮らしているのですか、引退してから、寝てばかりですか、朽ちていくのを待っているだけではありませんか、もったいない、まだ、長生きして、民衆を導いて下さいよ雲龍様)


(お前たち、わしにまだ働けと。泣かせることいってくれるではないか。
ここに来て二年が過ぎたかな。
この掘っ立て小屋は春日大社の宮司の住まいだった。もう、古くて雨漏りはするし、床もカビ臭いでの、だから、毎日、そこの崖下の川で、身を浄めているのだ。あとはすることねー。
桜の根っこを切り落とした材料で木魚をつくって下手くそなお経をあけでいるだけだ。リズム感は、抜群だぞ。

たん、たん、たん、た、た、た、ん た、た、たんたん(かんじんざいぼさーはんにゃはらみたじ、しょうけんご、うんかいくーーーー)

とうだ、わしのお経は、まぁこんなもんだ。
ときどき、村の集が訪ねてくるが、仏壇に、酒を置いて、手を合わせて帰るだけだ。
わしは、酒がないと死んだも同然だから、すぐ隠してしまう。常にお供物がないとだれかが持ってくるもんだ。これが、難儀なのだ。酒をもってくるお人は、この村では、佐助と、与作しかいないでな。
たから、と言うわけではないが、こんな寂しいところだから、日之影村に行ってみようと思ったのさ。ここにいても、ただボーッとして、寝転ぶか、酒飲むかだが、酒をお供えする人もめっきりへってな、たまにしかありつけない、寂しいもんだ。東大寺を定年退職すると、みしめなもんだ。
佛の加護などありゃしない。まず、ホットケだな。ところで、お前さん達、よく人間に地蔵だと、見抜かれなかったな。顔見れば、石で出来ていること位、わかりそうなことだ。よく見抜かれなかったな。)

(この、お地蔵様は、要領がいいのです。昼間、道を歩くときは、手ぬぐいで、顔を隠し、その上に網代がさ格好で、眼だけ出しているので、地蔵様と気付く人は殆どいなかったのです。寝る場所は、ほどんど、祠か、人目のつかない処で寝ますしね。)

(わしはどうするか?この姿では、仁王だとわしからんだろ、仁王だと解ると人間に捕まり、奇怪な仁王だと、薄気味悪いと、燃やされて仕舞うかも知れん)
(大丈夫です。立派なこつじき法師に、見えます。)

雲龍様の姿は、よれよれの法衣で身を纏い、顔は地蔵様と同じで、編みがさ、手拭いで隠していた。
雲龍様は日之影村に残りの歳月をかけてみようとしていた。

(その、日之影村と言うところはどんなところだ。)

フーさんが笑顔を浮かべながら

(わたしは、日之影村で生まれて、100年です。隣のボー様は、112年です。この間日之影村から、出たことありません。村の情報は、私共にお参りに来たときの話し声で、わかるのです。
日之影村は、黒部の渓谷の谷合にある、そりゃ風光明媚なところです。温泉あり。魚、野菜、何でもあります。)

(なんだ、そんなものか、人間が好きなものばかりではないか。わしは木造での、できたら、水が澄んでいて、夏は涼しく、冬は、雪深く無いところがいい。日之影村は、雪深いときくが、それが気がかりだ。
酒は、毎日欠かせない。ほっておけば、わしの身体は腐るのだ。アルコール漬けが一番。
わかっておるな。日之影村に行くのも、喧嘩騒動など。どうでもいいのだ。
長生きするために行くのだ。まぁ、骨休みだな。

大仏様も皆は知らんが無責任なところもあるでの。
仁王達は、日之影村なんて、誰も行きたくないから、わしを指名したが、よく考えずに、命令したのだ。
なんでも人の願いを受けて仕舞うのだ。そんなことできるはずがないよね。裕福になりたいとか、児だからに恵まれたいとか。100バーセント出来るかい?
後先考ええず。皆には、いい顔をして、その後始末をするのが大変なんだ。
こんどの日之影村の応援も、後始末さ、まあ、いいや、酒があるからな)


(雲龍様、愚痴はよしましょう。大仏様は、なんでも庶民の願いを聴いてやるのが仕事てす。
あの。大きな身体で、年がら年中座っているのも楽ではないですよ。糖尿にならないか、心配でさ。皆さんは。そばに居られるだけ、幸せなのです)

(幸せ?わしが?
お前たちは、わしの苦労を知らないのだ。大仏様につかえて、もう、60年だ。その間には、色々な人間がお参りに来る。その人間たちの中にも、生きていくことだけで、精一杯の人々が、ほとんどだ。
彼らの思いは、願い事ばかりだ。五穀豊穣。身体健全、子宝など、あるは、あるは、その願い事を大仏様様は、(さもあろう、苦労なさったな、わしがそなたたちの願いが叶うよう、こ祈願をしてさしあげよう、大丈夫だ、心配要らない、任せておきなさい)とか、言って、安心させて返すけれど、全部が全部叶うわけないから苦情もでる。
そんな時が我らの出番なのだ。
心願成就できなかった者は不平不満がでる、中にには、仏道、聖典などを疑い、騙されたと言わんばかりに、大仏様に反旗を翻す者も出てくる。勿論、御利益は、見返りを求めず、ただ一心のみ、
信心することで充分ご利益をえたと、仏道の極みを得とくした信心深い者が多いのだが、反旗を翻す者に、わしたち仁王が、その、彼らの邪心に負けないよう、心に潜む悪霊を追い出すために、恐ろしい形相を、常にしていなければ、ならないのだ。わかるか、そこの地蔵!お前たちのように、昼寝したり、お経をさぼたったり、できないのだ、!24時間、顔をひきっつていることは、世界中探しても、ここの奈良界隈にしかいないのだ。わしは、年期を明けて、退職したが、荒業させられた後遺症で、体に軋みが出ているのだ。これが幸せだったと言うのか、お前たちは、バカもん)

ポー様が雲龍様にいいました。


(雲龍様、貴方は幸せなお方ですよ。何だかんだと言っても、大仏様は遅れても退職金を払ってくれるのですから。私達には、そんなもの何もないてむすよ、エリートは違うのですね。皆さん、そのお金を何に使うのですか)

(わしは、退職金と言ったて人間が使うお金ではないのさ。お金の元になったお札だ。おふだ。大仏様が、退職記念にくれる由緒あるお札だよ。只の紙切れだ。わしにはな。大仏様がお金がわりにくれるお札は人間にとって大事なものらしい?なにせお金の元がお札だから来ているからね。我々には、お札は格付けみたいなものさ、多けれぱ多いほど霊力があるといわれるので、簡単に言うと、お札の多い仁王ほど、席順が高いのさ。
お金と大仏様もよんでいるけど、この組織の隠語みたいなものさ、昔はお札が、お金のかわりだったらしいのだ。人間で言えば勲章みたいなものさ。わしは、まだ、もらっていない、大仏様いわく今は暇だから賽銭が、少ないと言うけれど、紙代の問題ではなくて、人間で言えば養老院が満杯と言うことらしい。我らの世界で言えば、わしを死ぬまで居て貰える、寺が、満杯で、仁王は今はいらないと言うことらしい?だから、こんな所にいるのだ)


(そうなんですね。仁王様も年老いたら、こんなところしか棲む家がないのですね。でも、私達はなにもありませんよ。それだけ、雲龍様は、格式高いのですよ)
(わしは、そんな勲章見たいな、お札なぞいらんわい。酒があればそれでいい。あとは野となり山となりた)
そなた達は、地蔵の癖に歩いてきた、どうして歩けるのだ。大仏様の命令でも、あったのか。わしらは、仏を護る役目があるので、時には、腕力を使うときもあるので、大仏様がー行けーと命令がかかれば行かざるをえないでな。

(いや、大仏様のご命があったわけではありません。ただ、私の背中に書いてある、真言を村で一番優しい人に読んでもらえれば、自由になれるとわたしを彫り上げてくれた、日伝法師に言われていたのを思いだしたので、ポンタの協力で、自由になれたのです。但し、日之影村が、災難とが、厄が起きたときだけにしか、使えないと念を押されていたのです。)

ポンタが笑いながら言った。
(聴いてくれますか、雲龍様。この、お地蔵さまは、本当は、日之影村が、寂れて、村人が誰も来なくなってしまい、つまらなくなり、なんとか、日之影村から出ていく算段を思い付き、方法を考えていたとき、ポー様の背中に書いてある真言を思い出して、村中で一番優しい人に読んでもらえれば、足が土台から、離れて歩けるようになるという、日伝法師の遺言を実行したから、ここまで来れたのです。)

(ほぅそうだったのか、そんなことで、自由になれるはずはないが、何処かで大仏様と縁が有るのかもしれないな)
(それが、有ったのですよ。旅立っその日の内に
真言を読んでくれた、村のおさよという少女が金貸しの餌食になり、この夏に都へ売られていくことになり、その事情を知ったお地蔵様が、おさよを救うはめになったのです。
これも、大仏様の命令があったと理解しています。縁ですね。悪いことは出来ないもんです。)
(なるほど、最初は、全国旅行をくわだてけど、その日の内に人助けの命令が出たと言うことだ。
そ卯だろ、あの。大仏様は、甘くないぜ。わしらも、こきつかわれる。では、大仏様が、お前たち地蔵に命令したのを伏せておいて、あの仁王、この仁王、と選別していて、誰も行かないので、わしに頼んでこいと、なったと言うことだ。大仏様は、悪時絵が働くからね)

(だから、雲龍様も、行かないわけにはいかないのですよ)
(そうか、そうなるな、仕方ない行くか、そうとなれば早く行こう。ただ、気掛かりは、途中で酒が切れたときだ、酒依存症のわしだから、皆に迷惑かけるか心配だ。酒が切れると、体が震えるし、歩けなくなる。まぁ、心配事はそのくらいだ。夏はそこまできているから、はよう、出発するとするか)

やっと折り合いがついて、雲龍様を含めた、一行は、もときた道を戻って日之影村に行くことになった。その日は、

出発の日は快晴で、春の終わりを告げる紫陽花が、川の岸辺に、一時のやすらぎを醸し出していた。



雲龍仁王の姿は、大仏殿にいたような口を大きく開いて、目をつり上げてい形相と変わって、穏やか顔付きでした。法衣絆、ワラジ姿は、修行僧の出で立ちだ。
背中の頭陀袋には、朝日山の酒徳利が隠れている。


可憐で穏やかな紫陽花が一行を見送ってくれた。
先頭は、狸のポンタだ。草むらに隠れたり、木の枝によじのぼったり、河原の石を飛んどり、嬉しそうだ。
雲龍仁王は、ご託を並べない、親しみやすい
フー様と気があうのか、駄弁りながら歩いている。
ポー様は、にっこり笑いながら、その後を歩いている。

帰り旅は、二、三日雨にあったが、比較的順調に進み、琵琶湖の まで、さしかかっていた。
その、細い街道筋の草むらに数体の苔むしたお地蔵様が仲良く並んでいた。梅雨時のせいか、地蔵様達は雨上がりで、体が、雨が染み込んで風情がある。そのなかから、ポー様は、くすんだ、赤いよだれ掛けした、子供の地蔵に眼をやった。

(フー様よ、この子供地蔵は、我々を見て笑っている。かわいいね、誰がここに置いたのかしらね)

そうですね、日之影村で言えば、お子さんを無くした、おやごさんが、安らかにと置いたのでしょう、子を思う親は永遠の別れはしませんからね。あの世もこの世も界がありませんもの)

雲龍様が。いならぶ、お地蔵様に合掌をしている。
(野仏は旅の安全を祈ってくれる、ありがたい、地蔵だ。大仏殿で、ふんずり反っている、連中と違う。この地蔵様たちが、わしの目指す仏の道だ。)
フー様が怪訝な顔をして尋ねました。

(そうしますと、私達も、同じ様な地蔵ですが、雲龍様が、目指しているのは、私達と同じと言うことは、よくわかりませんが)

(地蔵は、庶民の大好きなお地蔵様なんじゃ、親しみやすくて、お布施も掛からない。間違って蹴落としても。(*^-^*)にこっと、笑っているだろうが。そこだよ。難しく考える必要なしだ)


(それに比べて大仏殿の取り巻き達は、金箔、豪華、絢爛、上から目線だろう。それは、それで、良いと思うが、わしの目指す仏道は、泥臭い。
(寄進を沢山した人間ほどご利益がある分けでもないだろう。大仏殿は、金がかかるから仕方ないがね。だから、地蔵様連中と付き合っている方が
大衆的で、ざっくばらんだから、本音を話してくれる。そこだよ。そこ。本音が出ないと酒も旨くない。だからな、わしは、悪たれ口をそなた達に言うけど、本当はな、好きなんだよ。旅も面白くなるのだ)

雲龍仁王様は。弱虫て、困ったもんだ

ポンタが何処かから見つけてきた、紫陽花をそっとお地蔵様の片隅に捧げた。
(ポンタ、何をお願いしたのだ。残してきた日之影村の子供たちかね)

(その通り。おらにはそれしか心配事がないのさ。)
(それだったら、なんの心配あるものか、心配なのはお前の方だ。第一、子供に説教するほど親の義務を果たしていないではないか、家に戻ってきたと思えば、直ぐ何処かに行く、風来坊ではないか、心配しているのは子供達だ。嫁さんはとうに逃げたから心配していない。それも、これも、お前さんが原因だ)

(フー様にそう言われれば、返す言葉はありません。ご説ごもっとも、こうして、野道の片隅にあるお地蔵様達を観ていると、何となく和みますね、ホッとする、それだけでも価値があります
、日之影村のお地蔵様も、居るだけで価値があったのですね、そう思いませんか。旅なんか行きたいと言わないでさ。ほら、ここのお爺さん地蔵様は、笑ってるよ)
フー様がそれを聴いてて言った
(ポンタもう間に合わないな、おさよの一件が片付いたら、日之影村でひっそりと暮らすよ、ポンタも、家族を大事にするのだな)

その日は、長浜の畔で寝る。
この日は雲龍様の酒探しにポンタは1日さいてしまった。
長浜は、昔から商人の集まる街で、賑やかだ。
ポンタは和泉屋の暖簾を見つけ、酒屋に間違いないないと判断して、人通りの少ない夜に酒を盗むと言うか、一先ず借りておくことにしたのである。

夜になり、黒屏を乗り越え、裏口から、店の中に入り込んで、酒樽の栓を抜き、近くにある徳利に急いで詰め込んだ。五合徳利二本を結わいて首から下げて急いで皆のいる畔に戻ったのである。

(いや、雲龍様、おらは、決して恩に着せるわけではありませんが、大変だとは、思ってくださいね)
(わかっておる。わかっておる。ポンタの勇気には完敗だ。どれ。どれ。二日も酒が切れていたからのぞに染み透るわい。感謝、感謝だよ、ポンタ様には)

ポー様が言った
(酒が有ってよかった。またすね出すと始末に困りますからね。この間は、酒が切れて、道端に座り込むし、奈良に帰ると駄々こねるし、まるで赤子ですよ。良い歳していて、みっともないです、こんなときではないと言えませんからね)

(わかっておる。わしは何度言うが、酒依存性なのだ。病だ、病。直そうとしない病人だ。だから、長生きはしたいけど、それは、無理だとわかっておる。みなとこうして、旅するのも、男なら最後の死に場所を探しているようなものだ。それが日之影村かもしれないでな。ゆるせ。もう修業はする必要がないのだ。旅の途中で信念が変わったのだ。おそらく、二度と奈良には帰らないであろう)

(はい、はい、了解です、何を言っても無駄なようですから)

この頃越後日之影村は新緑の青葉がここぞとばかりに辺りを活気づけていた。
川辺りのおさよの家の柿の木も、淡い緑の葉を揺らしていた。
そまつな茅葺きの家のなかでは、おさよが、夕げの仕度をしているのか、小さな格子窓から、煙がでている。
いまごろは、、ヤマメや岩魚がとれるが、殆んど
あわ、ひえ、僅かな米の炊き合わせなど粗末な物で暮らしをささえている。

親子二人の会話が、聞こえてくる。

(お父う、おらは、もうすぐこの村さ出ていくが、年期があけたらすぐにもどるでな、それまで、隣のトメバアちゃん頼んでおいたから、元気でいてくんろ。薬は、おらが戻るま心配いらない。あとは。トメバアちゃんが持ってくる。毎日、欠かさず飲むだぞ、足が弱いで、ゆっくり歩くんだぞ、わかったな)

おとうの与作が、寝床から、細い腕をそっと出して、おさよの手を掴もうとしていた。そして、小さな声で言った
(おさよ、もうすぐ夏がくるな、すまねぇー、わしが、死んでしまえば、お前は、それだけ早く帰ってこれるなぁ)
(バカ言うでない、おっとう、死んでも死ななくても同じだ。なに泣いているだ。泣いてもどうにもならないさ。おら、この通り元気だから、大丈夫だ)
小さな木戸を開いて、金貸しの番頭がやってきた。

(おっ、今日は、見回りにきた。おさよ、お前は相変わらずべっぴんさんだな。わしが嫁さんにしたいくらいだ。親分がいなければな、は、は、は、冗談だ、ほら、鶏肉だ、卵もある。二人でお食べ。なぁに、遠慮することはない。もう一月もすれば出発だ。お前には都に行ってもらって、稼いでもらうのだから野良仕事は、早めにやめて、早く寝るようにな。無理すると旅ができないからな。おっとうの薬は充分与えるからよけいな心配はいらないよ。それにな、ほら、ここに綺麗な着物を持ってきた。好きなのえらべ。派手なのが良いかもね。もうすぐ夏だ、いまから、準備しておくといい)
与作は震えながら声をあげた。
(親分さんわ、おさよはいつ帰ってこれるのだ)
(そうだな、親父さん、早くて二年遅くて三年と言うところかな、おさよの、評判がいいともう少しはやくなるかな、なあ、おさよ、頑張って早く帰ろうな、)
番頭は、いつもと違って優しいのだ。
少しは、情のあるところを見せて、安心させて、都にいけば夢も叶えられると、上手く誘導しているのだ。その魂胆に悪が潜んでいるのを、おさよもしらない。

(華も咲きも、美鈴もみな都に行って楽しく暮らしているよ。食べたことのない、お刺身とか、鍋料理など、たくさんある。おさ読も、早くなれておっとうに、親孝行してあげなければな)
(おら、そんなうまいものなどいらない、早くその、年期を終らして帰ってくるだ)
(そうだ、おさよはそうだったな、早く帰ってこような、とっさんよ、俺もこんなことしたくないのさ、親一人子一人の家族を引き離すような酷いことをな。しかたねえ、これも、渡世の辛い定めだ、足を洗いたくても行くとこないのさ。一度転げると、あとは、坂道を落ちる雪ダルマさ。
いけねぇ、いけねぇ、世間並に情をこぼしちゃこの極道の道じゃ、生きていけねえ。俺も大した男ではないな。
まぁ、とっさんよ、お前さんが心配するほど情のないとこじゃないさ。物を売り買いしたのではないし、人間のやることさ、そこには、縁もあれば情けもある。
そう言い残して金貸しの番頭は、静かに戸をしめて去っていった。

さよは都で真面目に仕事をすれば、年期明けで帰ってこれると信じていた。
この村から連れ去られた娘達が都で辛い思いをしているとはしるよしもない。中には夜鷹に身を崩す娘もいたのである。


善人も悪人も生きていかなければならない。薄情な世の中だった。まるで、一つの蜜に群がる蟻の群れだ。善人も悪人もこの渦の中に巻き込めれていた。

この頃越後周辺を縄張りに、悪気を利かせ悪銭を稼いでいたのが惣兵衛一家である。
人買い、土木、金貸しを主に近辺の村人達の暮らしに深く入り込み、代官と通じていて、悪の粋を
集めていた。
村民にうまいこと言って二階にのせて、階段を外すのが彼らの生きる手段だ。油断をすると、その隙間に忍より、やがて、脱け殻同然にするのた。

おさよに限らず、既に都に行った者すべてが餌食にされようとしていた。

お地蔵様一行は、もと来た道を引き返して行く。
琵琶湖から別れを告げて数日がすぎた。敦賀を抜けて、富山を過ぎ、糸魚川、と日本海を左に見て旅を続ける一行は、津南まで、やっとたどり着いた。
腹が減るのはポンタだけだから、季節としてはめずらしいホタルいが大漁だと聞くと勝手に海辺に行き、畑荒らしや、倉庫破りで、食いつないでいた。

ポー様が、
(雲龍様、ほら、もうあの山々を越えたら日之影村ですよ、二日もあればなんとかつきます)

雲龍様は声もでない。一行は小さな寺の境内でやすんでいました。
笠をとり、手縫いを取り、石段の上に皆で座り込でいました。
(なんだ、まだ二日も歩くのか。いい加減にしてくれ。ポンタが、言っていた、日数と、10日も違う。ポンタは、嘘つきだ、見てみろ、この哀れな姿。これじゃ、大仏様につかえた、仁王と言えないだろう。)

(そう、拗ねないで下さいよ。ほら、これは新酒の地酒の朝日山です。辛口だ。)

(ありがとーポンタ、お前さんには、頭が上がらない。酒はわしの身体を強くしてくれるでな。気分が良くなるだけではない。)

(雲龍様、同じこと何回もいうことないですよ、わかっているのだから)
(そうか、悪い、悪い、もう言うのをやめる、ありごとう)

一行は、海辺の近くにある、小高い丘に静かに佇む小さな小寺の階段に皆で横になって笠をとり、座って休んでいると、一人の老婆がポーさんを見詰めて言った。

(あんら、お前さん、どこかで見たことあるだ。そうだ、日之影村村の地蔵峠のお地蔵様だべ。ポーさんとフーさんだべ。間違いないだ。急にお地蔵様が、いなくなったから皆が心配しているだ。こんなところでなにしてるだ。まさか、家出したのではあるまい。村では、家出するものが増えているからな)

お地蔵様は人間の話は聴こえるが話すことはできない。だけら、返答のしょうがないので困り果てていた。すると、ポンタが、婆さんに近づいて、手をあげた。
婆さんは二、三歩後退りして
(あらやだ、狸だ、狸汁に丁度いい。おい、そこを動くな、おーい。後ろに誰かいるか、出てこい狸だ、はよきて、捕まえろ、後ろに廻れ。)
お婆さんの後ろにいた仲間がポンタを追いかけた。ポンタは、お地蔵様に、手をあげて、、早くこの間に逃げろと合図をしながら、逃げ廻った。

お寺の境内を逃げ回り、ポンタは、地蔵様が遠くに逃げた時間を計算して、山の中に逃げ込み、相手を振り切ったのである。
狸のポンタを取り逃がしたお婆さんと仲間は地蔵様達が居なくなった階段にすわりこんでいる。
(あの狸、逃げ足がはやい。狸汁を食べそこなったな、久しぶりのご馳走だったのに。それにしても此処にいた地蔵様は何処に行ったのだ。あの地蔵様は、確かに地蔵峠のお地蔵様に見えたが、お地蔵様様に見えたのかな?顔は石作りに見えたけど、錯覚だ。最近は目が見えなくなってきたし、夕暮れ時は特にみえないのだ。
もしかすると、地蔵峠のお地蔵様は、最近は、眠っているように見えたし、お供え物は、なんなもないし、村の集からは、殆ど見放されていたから、何処かに埋められてしまったのかもしれないな、まぁよか、さぁ、帰るとするか)


橋の下の草むらに潜んでいた地蔵様たちは、橋の上でポンタの近づいて来るの見届け再会した。

雲龍様が笑顔をみせ、両手で、ポンタを抱き抱えた。
(おお、ポンタさすがに頭がいいな、一時はどうなるかと思った)

ポー様がポンタの肩を優しく叩いた。
(ポンタ様様だ。有り難う、助かった、地蔵様峠で見たことがあると言われたときは、どうして良いのかわからなかった。機転効かしてくれて有り難う)
(だから、わしがいると役に立つど言ったでしょう。別にうのぽれているわけではないですがね)
(それをうのぼれとと言うのだ、ポンタ)
雲龍様が笑いながら言った。
フー様が言った。
(やはり日之影村の人達は、お地蔵様がいなくなって不安なのかもしれませんね。どうでもよければ、峠の地蔵様だとはいいませんよ。これも、何かのお告げかもしれませんね。ー早く惣兵衛一家を退治して、平和な越後にせよ、その辺でチョロチョロしてないで、メリハリつけて行動しろーと大仏様がおしゃっていなさるのです)

雲龍様が
(大仏様は、怒ると怖いからな、大雑把だけどね。戻れと霊魂こめて念波を送られると、奈良に戻らなくてはならない。よし、老骨に鞭打って、峠越えをするか)

一行は、思いを新たにして、一路、日之影村を目指すことにした。

一つ山越え、また山を越え、雲龍様にとっては死の行軍のようです。お地蔵様の顔もやつれ、会話もとざえて、ただひたすらに歩いていく。雨の山越えも億としないで。
ポンタの背中には空の徳利が、波を打っていた。

日本海に別れを告げて二日を過ぎた。一行は、やっとの思いで日之影村の地蔵峠に到着した。
外は初夏の風情だ。おさよが都へ連れていかれる日も間近だ。一行は焦っていた。
地蔵峠に地蔵様がいないのは、絵にならない。
赤松の太い枝が俺が大将と言わんばかりに辺りの木々を圧倒していた。

雲龍様が、赤松の幹の上に乗り、辺りを見渡していた。
(おお、ここが、お前さん達がいた地蔵峠が。ずいぶん寂しい処に立っていてのだな。つまらんとこだ。あの、川の橋を渡った所が例の日之影村だな。これは貧しい村だ。家は多いが人気がない。空気でわかる。なんとなくな。こんなところで、お勤めをしていたのか、旅に出たい気持ちもわからないではないな。あすこにあるのは栃ノ木だな。あれは、蕎麦畑だ、酒蔵は、ここから見えないのか)
ポンタが
(いうとおもってめした。ほら、あの林の向こうに見える、黒塀が、酒蔵です。隣の茅葺きの家は、惣兵衛一家の出城です。

ポー様が話の終るのを待って言った。
(さて、惣兵衛一家だが、作戦をたてましょう、主役は、雲龍さまですから、どうぞ発言してください、その前に敵の様子はどうなのだポンタ)
(はい、惣兵衛一家は、日之影村にいまいる人数は、6人程ですが。親分の惣兵衛が、この村に来るのはほとんどありません。いまいる連中を懲らしめても、何の意味もありませんから、ここは、陽動作戦でいきましょう)
(そうか、して、その陽動作戦とは?)
(まずは、ポー様、おらが惣兵衛一家の出城に挑戦状を渡しにいきます。)
(して、その内容はどうする)
(わしに任せてください)
雲龍様が不機嫌そうに言う

(なんだ、またポンタか、地蔵たちは頭を使わないのか、毎度ポンタでは仏が泣くぞ)
(今は内輪揉めしているときではありません。これから言う言葉を紙に書いて下さいボー様)
そういうと、何処からか持ってきた紙と筆をボー様に渡すポンタでした。して、その挑戦状の内容は

「惣兵衛一家の若い衆よ、よく聞け
お前達の遣っていることは、人間のやることではない。これまで重ねた悪業に鉄槌をくだす。よって、明日昼丁度に地蔵峠まで出てこい。
そうか、そんな勇気もないのか。
弱い者苛めしか出来ない連中だ。嘘でわない。
その明かしに今晩お前達の家に火をつける。ど

ポンタは、ポー様が書いた挑戦状を持って、惣兵衛一家の門を潜り抜け、格子戸を開けて、家のなかに放り込んだ。
音にきずいて、惣兵衛一家の若い衆が、文面を読みだした。
(なんだ、これ読んでみろ、俺はじがよめない。おい、そこの客人さん、お前さんは字が読めるだろう、何て書いてある)
無精髭はやした、浪人が挑戦状を読み終えると、
代貸しの甚平が大きな声で

(おい、ふざけたやつがいる。惣兵衛一家にケチをつけてきた。このままほっておけないぞ。
とこのどいつだ、どうせ、嫌がらせだ。惣兵衛一家に楯突くやつは、関東の愛宕山組ぐらいだ。
まぁ、明日は、権蔵、一平、政の三人で地蔵峠に行ってみろ。悪ふざけはゆるせねー、取っ捕まえてこい。)

用心棒の胡散臭い髭はやした、浪人が
(わしも、暇潰しにいってみるか)
お客人さんの出る幕ではないですよ。遊んでいてくださいな、おい、そこの一松、ボーとしてないで、お酌位したらどうだ)

くずれた身体に浴衣をあおった仲居の一松が
(あいよ、お侍さん、あんたの出る幕ではないのだと。ねぇ、こんな野暮なとこいないで、面白いことしょ、さぁいこう)

髭の用心棒が女を無視して
(代貸し、この字がを観ると、冷やかしではないです、そうといって、剣の達人とも思えない。腰の据わった考えの出来る奴だ、用心した方が無難だぜ)

そういいのこすと、用心棒は、立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとすると、女は
(ねぇ、ちよいと、お侍さん、お待ちよ、ねぇたっら)と追いかけていくが、用心棒は
(俺は、女に興味がないのだ、悪く思うな)と言い残して去っていった。
用心棒にそう言われた代貸しは、
(あの用心棒は、まだ此処に来て日が浅い。この辺りの事情がわからないのだ。そう言っても用心するのにこしたことはない、お前達明日峠にいってみろ)
三人は (へい ) と返事をして、その場は終わった。


翌日の昼になった。快晴である。地蔵様たちは、赤松の下で作戦を練っていた。
ボー様が雲龍様に言った、
(雲龍様、いよいよ、出番ですね。準備体操しなくていいのですか。腕が、なるでしょう。待ちに待った一日ですから、大いに暴れ捲って下さい、期待してます。)
雲龍様は赤松の太い枝に横たわり、頭を抱えて仰向けになって、やおら立ち上がり
(その、あの、この場になって、なんだが、実を言うと前にも言ったけど、睨みかえすことはできても、暴力を奮ってた事はないのだ、大丈夫かな)
フー様が心配そうな顔して
(今回ばかりは睨みは効きませんよ、たにせ、相手が、名うての暴力団ですからね。神も佛も知らない奴ばかりです)
(そんなこと云ったって、ご覧の通りの老いぼれだ、今回ばかりは勘弁しておくれ。別に嘘ついたわけではない。何人くるか知らないが、一人でもヤバイのだ。そうだ、頭が痛い。風邪をこじらしている。)

ポンタが間に入った。
(ポー様これは一大事。ここは、おらに任せてください。一か八か大勝負です。まだ、時間はあります、ほら、あの懐かしい台座に立ってていてくださいな、はやく、はやく)
ポンタの言われるまま、お地蔵様は、昔懐かしい場所にたちました。
(どうするのだ、ポンタ)
(いいから、いいから、雲龍様は暫く草むらで休んでいてくださいな、私は仲間の狸と、親戚の、狐を集めにいきます。兵隊になってもらうのです。それと、村には老人か病持ちしかいませんが、集まって来るはずです、ほらほら、村人の五助さんが、やって来た。まだ、怪我が直っていな
いみたい。さあ。はやく、はやく、元の位置に)

いわれるまま、お地蔵様たちは、昔の姿通り、凛としてたった。
五助さんが、お地蔵様をみて、しりもちをついた、!
(な、なんだ、お地蔵様がもどってきた。こんなことあるのか。これは、ビックニュース。知らせよう、知らせよう、村中にと、歌だか、踊りだか、わからないが、喜び叫んで家並みのある方へ走り出しだ。暫くすると村人達が、十数人やって来て、それぞれ、言葉をお地蔵様にかけた)

(あれー、ボー様とフー様が、戻った。これは何かよいことの知らせだ)
(奇跡だ、奇跡、鬼籍に入ったと思っていたら奇跡になった)
(お前のいっていることはちんぷんかんぷんだ)(やれやれ、これで安心して眠れる)
(もうすぐ都から皆が帰ってくるしらせだ)
(今年は、豊作だ)

村人が喜び叫んでいる光景を木陰で、見た惣兵衛一家の三人は仰天して。声を失った。
(おい、これは大変な事になったぞ、懲らしめるどころではない。わしらが、ケジメをつけさせる、早くもどろう)
足早に、逃げ出す惣兵衛一家の三人であった。
出城の館にもどり、そうそうと、地蔵峠の様子を代貸しに伝えた。

(代貸し、地蔵峠には、村の者が15人ほどいて、なにやら騒がしくしています。三人では、太刀打ちできません。えらく、士気が、上がって、寺泊の親分に応援を頼んだ方が良さそうですよ)

(惣兵衛親分は今日は隣村の赤坂村で越後の顔役を集めて理事会を開いている、理事会と言っても、寺銭稼ぎの、丁半博打だ。顔役達は、手下を連れてきているから、丁度いい、みんな合わせれば惣兵衛一家は、そこにいるだけで20人にはなる。おい、甚平、親分に伝えてこい。急いでだ。
村の者が暴動を起こした。狸も狐や、猪まで、村人に味方している。早く来て、連中を追いはらわないと、縄張りがなくなり、惣兵衛一家がつぷれるとな、さあ、急げ、)

地蔵峠ては、村人がお地蔵様が戻ってきたので大騒ぎ。その数20人は下らない。其れにしても惣兵衛一家はまだやって来ない。ポンタは、次の策を考えていた。
(困った、困った。いいのか、悪いのか、惣兵衛一家はまだ来ない)
お地蔵様はポンタの言われるまま、凛としてたっている。雲龍様は酒飲んで、他人事のように
草のしとねに、寝転んでいた。
ポンタの呼び掛けで、近隣の野山から集まってきた、狸、狐の有志は、地蔵峠の周りでポンタからの指令をまっていた。

狸や狐は、地蔵峠の草むらで寝転んでいる雲龍様を見て揺り動かし起こした。その中の狸が
(なにやら恐ろしい形相をした仁王様だ、ここで何をしているのです化)と尋ねた。
(わしのことか、うーん、これからこの村の悪いやつらと戦が始める、暫しの休息だ)
(そうですか、おい、みんな、これから戦だ、相手は、悪党らしい、仁王様が言うのだから間違いなく悪党だ。ポンタさんもそんなこと言っていた。)
ほかの狸が言う
(この村の人間だ、日頃から、我らを見つけると、狸汁だと、追い回す悪い奴だ)
雲龍様が、

(そうではない、お前達のなかには、畑を荒らして作物を盗んだり、倉庫を荒らしたり、天井から、家の中に押し入り。食べ物を盗んだりしているものもいるだろう、村人は、それに腹立てて、捕まえるのだ。
捕まりたくなければ、盗みをやめればいいのだ。それよりは、今日の戦の相手は、追々皆にもわかると思うので、省略するが、この村の文化と、経済発展を邪魔する悪い人間だ。心配するな、あの地蔵達とお前達のリーダーのポンタがやることだ、心配することないさ)

狐にとっては狐につままれたような話だった。


一方、赤坂村の惣兵衛一家の連中は、慌てていた。親分の惣兵衛は、幹部を集め檄を飛ばしていた。

(どうやら日之影村で騒ぎが起きた。地蔵峠で決闘を生意気に入れてきた。今日来ないと、夜には出城の館を焼き討ちにするとな。もう、峠には20人ほど俺達の来るのを待っていると連絡してきた。みな、丁半は、後回しだ、直ぐに出立だ。ふん、笑わせやがって。蹴散らしてくれるは。)

縞のカッパに三度笠の出で立ちだ。脇には長ドスを差し込んで、20名の惣兵衛一家が、古寺の庭に集まっている。蝉が忙しく鳴いていた。

肥っている惣兵衛は、列の中央を歩いている。

ポンタの放っていた、狐の偵察が、地蔵峠に戻ってきて、間もなく惣兵衛一家は到着すると告げた。
ポンタは、大仏殿から、来てもらった雲龍に、ダメ元で助太刀を依頼した。

(雲龍様、ぐずぐず言っていられませんよ、敵はそこまで来ています、村人は、地蔵が故郷に戻ってきたので、懐かしく見に来ているだけで、まさか、こるから戦が始まるなんて、これっぼっちもおもっていませんから、敵が来たら一目散で逃げたしますよ。そうなったら、この地蔵様は、連中にしてみれば、騒ぎを起こした張本人と思われ、縁起の悪い地蔵だと、粉々にされて、川に沈めらるますよ、きっと。だから、何とか霊魂貢いで、仁王パワーを発揮してください。ほら、もう、そこまできています)
ポンタは、緊張しっぱなしです。

雲龍仁王が重い腰をやっと持上げた

村人の中に竹細工の優しいおさよもきていた。
今月の末には日之影村を出て、惣兵衛一家から、借りた借金の返済のために、都に連れていかれる運命を背負った、女の子だ。
そのおさよが、地蔵様が戻ってきたとの噂を聴いて駆けつけてきていた。
おさよが、お地蔵様の頭なでていた。
(あらまぁ、二人とも何処えいってただ、おら、急に姿が見えなくなったので、心配していただ。
もしかすると、皆の後を追いかけて都に行かれたのではないかと思っていたけど、違うのかなー
都に行ったたならば、また会えると喜んでいたのに、わたし、今月の末に都に行きます、どうぞ旅の無事と残った、お父うを元気付けて上げて下さいお願いします)
そっと手を合わせるおさよだった。

その一方では、雲龍様は。おじけついたのか、ポンタが戦ってくれせがむので、赤松の枝を上り。木のてっぺんによじ登り退避してしまっていた。

地蔵峠に向かう山道は、昼までも木々に囲まれ薄暗い、その山道を惣兵衛一家者たちが、一列になって地蔵峠に近づいていた。
ポンタは、頭をかかえ、地蔵様の前に座り込んでしまった。
(万事休す、大仏殿に行ったのも全部無駄足になった。おさよもこれで都に売られるのは決定だ、さぁどうしょう)
と落ち込んでいた、そのとき、おさよが、ポンタに近づいてきた。

(ありゃ、あの時の狸さんてめすね。ほら、おさよです。ポー地蔵様の。背中の字を読める字だけ読んで上げたおさよです。ねえ、著とと来て。)
おさよは、ポー様の背中にまわって真言を読み上げてのでした。

(ほら、あのときより字を覚えて読めるようになったの、都に行くから少し学んだのね。もう一度読み上げますよ)

(のーまくさんばだはあさらなんせんだまかろしゃなうんたらたかんまん)
すると、赤松の大木にの上で、戦はすかんと逃避していた雲龍様が、おさよの唱える真言に導かれるように、筋肉が、もりもりと盛り上がり、脚の太ももも、筋肉が、顕に現れたのである。
しなびていた顔も精悍になり、眼の輝きも一段と冴え、つり上がった、目は、おそれ多くて、にらみ返すことなどできないぐらい、圧倒する目付きに変身していた。
(雲龍様、あの。本当に雲龍様ですか)ポンタがあまりの変貌に思わず確認するしまつ。
(おかしいか。誰かわしのそばで不動明王真言を唱えた奴がいる。誰でも唱えればいいと言うものではない。あの声には、大日如来様と大仏殿の
留舎那仏様の霊魂が入魂されていた。誰かな、その唱えておるものは)
ポンタはかしこまって話した。
(はい、おさよと言う村の娘です。おの娘を救うためにお地蔵様は、雲龍様に逢いにいったのです)
(そうか、さすれば、あの、けなげな、おさよさんは、天からの使者と言うことになる。この娘さんは、この辺りで一番優しい人なのだ。そのご褒美が、天が下さった、その、あの、惣兵衛一家を退治することに繋がり、わしにそのパワーと、指名を授けてくれたと言うことになる。ありがたや、ありがたや。 まだ、天の、仏様はわしに生きている価値をお認めくださってのだ。そうと決まれば、なにも知らない村人達に挨拶をするか、今日一日だけは、天が人間どもと話すことを許してくれるのだ。いい気持ちだ)


そう言うと雲龍仁王は松ノ木からひょいとと降りてお地蔵様の前に群がる村民を睨み付けると村民達は、ビックリして。草藪の中に逃げたし隠れてしまった

(おお、村人ども、逃げるでない、わしは、大仏殿の仁王だ、退職して、お役御免だけど、大仏さすればには、影響力はある。今日、一日だけは、特別許可でみなと話ができる大仏様の代理でな。
いいか、これけから、お前達を苦しめたニック気、惣兵衛一家がこの峠に我らをやっつけるためにやって来る。そこでだ、すぐさま、家に戻り、何でもいい、武器になりそうな、鍬、かま、槍 鋤何でもいい、取りに行け、急いでだ。
これから、惣兵衛一家と戦をする。日頃の怨念を自ら取り除くのだ。出来るか、自分の力で悪を乗り越えないとだめだ、誰かに頼って勝利をつかんでも、またすぐ戻ってしまうものだ。自分たちが防波堤になることで、いつでも困難に立ち向かう事が身に付くのだ。やれるか!)



(おらの娘は年期を明けてももどらねー)
(金を借りているが、利息が高くて、いくら返してもおっつかない)
(田圃をとられた)
(せかれのサスケが都から戻らねー)村民は、惣兵衛一家の悪業をあちこちで罵りだした。

(おーい、みんな。力を合わせて、戦をするべ、敗けたら、しばらく力を貯めて、また闘うのだ。
そして、自分の土地はおいら達で守るのだ。孫達のためにもな)
おーっと、雄叫びが辺りに響いた。

(そうたろう、だから、今度は奴等に仕返しをするのだ。勇気の無い者、体の悪い者は遠慮はいらない、何処か安全な場所で見学しておれ、さぁ、武器を取りに行け)


しばらくすると、村民は、八巻や、たすきをかけて、手に手に鍬、鋤 窰をもって、地蔵峠に戻ってきた。
なかにははしりながら
(おら、戦は嫌いだ、体育会系ではない、文化系だ。でも、みんなが戦をすると言うから、仕方ないからついていくだ。村八分は、死ぬより恐ろしいでな)

(なーに、男の一人や二人この私が追い返すだ。亭主は、喧嘩などしたことねーそのぶんわたしは、強いからね)
お互い励まし合いながら村人達は集まってきた。

ポー様がポンタにいった
(ポンタよ、わしらはも、戦はできないけど、こんなときだ応援したいのだ。なにか仕事を探せ)

(お地蔵様達は、なにもできないが、勝利祈願でもしていてください)
(そうだ、フー様必勝祈願を願って般若心経を唱えよう。かんじさい、ぼさ、はんにゃはらまたこーしようけんごーうんかいくーどいっさいくーやくーしやりしーーーー)
地蔵峠のポンタ作戦部長が率いる日之影村将棋隊は、時間の経過と共に士気が高まり、興奮状態となっていた。

ポンタは司令官として、最前列にいた。指揮棒の代わりに竹槍を持ち、ポンタの息子のチンタが日之影村将棋隊の旗の代わりに、ムシロを高く揚げていた。

一番前列には、雲龍仁王様が正に一人で仁王立ち、金棒の代わりに、背丈ほどの丸太で敵の来るのを待ち受けていた。
それと、大日如来様と、留舎那仏様の霊魂と使命を受けたおさよが、不動真言を唱え雲龍仁王に鋭気を送る訳として、藍の縞模様に深紅の帯をしっかり巻き付け、八巻を巻いて凛として立っていた。

二列目は、真ん中に亥の精鋭10匹右翼狸左翼に狐、それぞれ10匹
なんでわれわれが此処にいるのだと怪訝な顔して、ならんでいた。

三列目は村人達の男女混成隊約20名但し老人老婆病み上がりのみだ。ただ参加しているだけにも見える。


惣兵衛一家が地蔵峠にたどり着いた。

地蔵峠は、川を背にして小高い丘になっていて、地蔵様達は、その丘にある赤松を背にして丘の上に立っている。地蔵様の前は一反ほどの草むらがあり、その広場に惣兵衛一家と日之影村将棋隊は正面から、対峙した。

惣兵衛一家の親分の惣兵衛は、両脇に手下をつれ、三人で狸のポンタと雲龍様を飛ばして、村人逹のまえにでて、声を荒げていった。

(お前達、なんの真似だ。わしに、さんざん面倒見させておいて、わしに逆らうと言うのか、何とか言って見ろ。おい、サスケ、お前は貸した金を返さないから田圃をでチャラにしてあげたのだ。恩をわすれやがって、鍬、持ってわしを殺そうとするのか、やれるものならやってみろ。おい、サスケ、なんとか言ったらどうだ。

サスケは鍬を捨て土下座をして
(済まねえ、親分さん、あっしは、あっしは?)
(あっしがどうした)
(は、はい、別に、こんな大それた事、考えているわけではないです、つまり、田圃を返してももらわないと、食べていけないので、なんとかならないかと)
(はかいうでない。三年も待ってやったではないか)
(利息が高くて何回か払ってももと金が減らねだ。これじゃ日干しになる)

それぱかりではない、みろ、祭りの一つもできなくなった)

そうだそうだと、村人逹は口々そうさげんで気勢をあげた。

すると、惣兵衛一家の親分は手下にむかって、
(おい、こいつらは、人の恩を仇で返すやからだ、生かしちゃおけねぇ、構うことねぇ、やちぃまえ)
手下の者達が刀を抜いて村人逹に切りかかろうとした、その時、わーっとうねる雄叫びを揚げて、雲龍様が、バタバタと手下の者達の腕や足をへし折り、瞬く間に5-6人を叩きのめした。
親分は後ずさりして、
(なんだ、こいつは仁王が、何でこんなところにでてくるのだ、えーい、かまわねえ、神も仏もあるものか、かまわねぇ、やっちまえ)
残りの手下の者達全てが雲龍様に向かって刀を振り上げ襲ったが、何人きても怯まないで立ち向かう勇敢な雲龍様でした。
手下どもは、鼻血を出したり、足をひきづったり!うめき声をあげてり、地蔵峠の周りは、手下達の怪我人で道溢れていた。

木陰で様子を見ていた惣兵衛一家の髭ずらの用心棒が、しずしずと姿を仁王の前に現した。髭を片腕でこすりながら、

(のーまくさんばだはーさらなん)と叫ぶと雲龍様は用心棒の一太刀を肩に受けて、その場に倒れ混んでしまった。
惣兵衛一家の親分は両手を高く上げ喜んでいる。
(流石にわしの選んだ用心棒だ。、御礼はいくらでもする。ついでに、あのわからず屋の一味をやっつけてくれ)
(親分さん、あっしは、村人逹をやる(殺す)ほど落ちていませんよ。金だと。食うだけあればいい、あれば重荷になるだけよ、それにあっしの命は間もなくおわりだ)
(そんなことあるめえ、お前さんに敵うやつはいないではないか)
(あっしは荒れた自分が、いやになり、堅気になろうと、それなりに修業もして、覚えた真言をこんなところに使ってしまった。悪の使う真言はしっぺ返しが必ずくるもんでね、あの仁王は死んでいませんよ。寝た降りしているだけだ。悪の真言が善の真言に勝てるわけない。あの仁王は、あっしが、少しばかり、まともな人間になろうと一時、仏の道に入っていた者と、察して、俺に少しばかり、華を持たせてくれたのですよ。)
(俺にはよくわからない)
(あんたみたいな極悪人には見えなものよ)

ポンタは、お地蔵様の発案でおさよを呼び真言を唱和させることにした。

ポー様の意見は、
(ポンタ、あの髭侍は、雲龍様を切りつける時に、不動真言を唱えていた。あの、神妙な響きは、かなり修業をしたものとみえる。
おそらく、罪深い浪人であったのだろう。だが、還俗して、世間に戻り、また、己に負けて罪を重ねてしまったに違いない。その真言の言霊があやつを土壇場で甦って来たのだ。雲龍様が倒れたのも、あやつの魂に火をつけた瞬間なのだ。だから、あやつは、それ以上刀を振り上げないのだ。
はよう、おさきをよんできて、心のこもった不動真言を唱えてみてくれ。雲龍様にパワーを送るに違いない、早くいそげ)

ポンタは、
(おらには、何を言っているのかさっぱりわからねえが、ポー様がいうのだから、やるしかね、たぶん、悪い奴の真言をおさよの誠の真言で追い返そうと言うことかもしれない、おさよの唱和で雲龍様が生きかえったから、急いでしらせてあげねいと)

ポンタが、闘いの最前列にいくと、おさよは倒れてうずくまっている雲龍型様を介護していた。
ポンタは、ポー様を指差しおわると、時分の背中を何度もゆびさすと、おさよは、真言を唱えろの合図と直感して透かさず
(のーまくさわばたさらなんせんだまかろしゃなーーーーーかんまん)
と、不動真言を唱えると、倒れていた、雲龍様は、すっと立ち上がり、惣兵衛一家と村人逹と争っている中に入り、惣兵衛一家の手下のどもを次々と倒して行った。それを見た、村人逹は、一斉に不動真言を唱えだした。
(のーまくさんばだはーさらなん)のーまくさわばたさらなんせんだまかろしゃなーーーーーかんまん)大合唱だ。
戦の勝敗は、雲龍様の大活躍で日之影村将棋隊の勝利に終わった。
惣兵衛一家の親分と、用心棒と幹部の連中は村人に押さえられお地蔵様達の、前に連れ出された。
雲龍仁王様は。い並ぶ連中を見て口を開いた。

(いいか、惣兵衛一家の者達よ、よく聞け、わしが人間と話せるのも今日一日だけだ。それだけに、耳をかぽじってよくきけ。
まず、そこの用心棒だ。お前は、わしに切り込む時不動真言を 唱えたな、わしは、その声を聴いて、動きが鈍くなり、怯んで一太刀をあびてしまった。
なぜ。続けて真言を唱えなかったのだ。わしを殺すことも出来たはずだ。なぜ止めた。わしを殺せば惣兵衛一家の縄張りは消えずにすんたものを)

(はい。不動真言を唱えて切り込んだ時、そこに不動様がいたのです。あっしは、昔はわけありで、人を殺してしまった。自殺を考えたが、だらしのないやつで、死に切れなくて、山奥の寂れた、寺に逃げ込んで、そこの、日良法師に世話になり、お経を知り、その時に不動明王真言を覚えてのです。不動真言を悪に使えば命取りなると教えられたもので、あっしは、この地蔵峠でそれを使ってしまい、罰当たりな奴でごさんす。)

なんで途中で刀を止めたのだ)

(刀がとまったのです。雲龍様の眼光で勢いがとまった、それと、そこにいる娘の真言を聴いて、怖じけがついた。善良の、娘の真言は、悪党の真言など勝てるわけありませよ。そのぐらいの事はわかってますからね)

(わしも娘の真言を聴いて力が出たのだ。この、おさよの真水のようね心に大日如来様と、留舎那仏様が、心魂込めて不動真言を通して。世直しをしたのだ、お前は、仏道を極める事が出来ず、還俗したが、なんでだ、折角、罪が消えるわけではないが、その穴埋めをしようと心ざしたのにな(
はい、出来の悪い男でね、恥ずかしくて言えませんや)
(ならばきくまい。大方わかっておる。相場はきまっておる。女さ、女は男を狂わせるでな)
(、、、、、。?)
(それでこれからどうするのだ)
(それは、あっしが聞きたいはねしで、なーに、命ごいはしませんよ、殺るならさっぱりとおねがいしますだ、この世に何の未練もない、可愛いおさよさんに遭えただけでも極楽です。)
(そうか、おまえの希望通り、さっぱりと殺ってやりたいが、あいにく刀を使えるものがおらん。だから、迷惑な話なのだ。どこか、好きなところへいけ。)
(じゃ、許しておいでくださるのですか)
(悪い真言もいい真言もないのだ、お前が勝手に創造したのだよ。それがいいのだ。心底からの悪人ではない。反省すれば咎めなしだ。昔からきまっておる)
(ありがとうございます、それでは、奥山の日良法師のそばで、お仕えさせていただきます)
ポンタが言った。

山奥の信奉寺は、今はだれもすんでいませんよ。荒廃して、狸も近寄りません)

(そうだと。残念なことだ。)
フー様が
(それではこの村の用心棒ではいかがなもんでしょう。ここにいる者達はまた、やらかすかもしれめせんから)

(そうだの。お前さんの名前は、人切り伊右衛門と、確か世間ではそうよぱれているとな、それならば、この慎ましい日之影村に残り村の集の相談に乗ってやるのがいい、どうだ、いやか)
(私のような、脛に傷持つ男でもいいのですか)
(脛に傷があるから、いいのだ。人の痛みと情けが解るからな。そうと決まれば、とりあえず。わしは奈良に戻るので、わしと、一緒に奈良まで同行だ、その後は。そして奈良,京都にいる、日之影村の者を無事に連れ戻して来てくれ、いいな)

(はい。ありがたいことで、生まれ変わってみせます。)
(さて。問題の惣衛門一家の元締めは貴様か。どうりで、悪党面してあるワイ。おい、このケジメはどうとるのだい。まさか、借用書返しますで、終わりはないよな。
(しゃ、どうすればいいですかね)
(お前の返事はそんなとこか、解った、では、教えて上げよう。ポンタ。あの松ノ木に縄を結べ、いいから、早くやれ)

周りの人々は真っ青担った。見たことのない縛り首と思っているからだ。
(惣兵衛よ。斬首晒し首と、首吊りと好きな方えらんでよいぞ、どっちだ)
(、・!ーー。)
(返事がない。それならば、わしがきめてやろう、まずは、あの世に行く前に肩の荷を下ろせ
まず借金の証文を取りに行かせろ、そして目の前で焼いてしまえ。取り上げた田んぼは、すべて、もとの持ち主に返せ。都で働いている者達の上前分を返してやれ。村の復興に資金を寄付しろ。取り合えずこんなことだ、肩の荷をおろさるかな)

(できねーと言っても無駄だ。すきなようしろ、俺は、どうせ首を切られるのだ、早く殺れ)
(そうか、皆に謝らないのたな、よし、それなら、望み通りにしてやろう。斬首だ、見な、よく見ておけ、欲の塊になると天罰がぐたる。民を苦しめ、権勢を欲しいままにする人間の末路だ。ポンタ、其奴を河原に連れていけ、この地蔵峠と赤松を汚せてはならぬ)

縄で後から結わかれた惣兵衛は、崖を降りて、川原に連れていかれ、砂利の上に座らされた。村人もその光景を静かに観ている。
惣兵衛は、意を決したのか、首を前につきだしていた。
雲龍仁王は、手下から、取り上げた、刀を伊右衛門に渡し惣兵衛の首をはねよと命じた。
(雲龍様、あっしには、昔のように人は殺せません、まして、悪党とは言え、一宿一飯の義理ある人です)
(おい!惣兵衛いまの用心棒の声を聴いたか、お前は殺れないだとよ、それでいいのだ、用心棒の伊右衛門は生まれ変わったのだ。おーい村の者!お前たちのなかで、惣兵衛を殺したい奴はいないか?ーーなんだ。誰も返事ができないのか、意気地無しだ。よし、わしがやろう)
川原敷きに神妙に座る惣兵衛は、みんなの見守るなか、首を晒しだした。
(よし、行くぞ、思い残す事はないか、家族に遺言が有るだろう、俺見ないになるなとか、こんな親父ですまなかたっとか、嫁さんはには、これまで尽くしてぐれて有難うとか、何もないのか)
惣兵衛は、頑なにしていた口を開いた。
(あの)
(あの、なんだ)
(あの、今、仁王様がおっしゃった事、全部遺言にしてください)
(横着するな、自分の言葉でハッキリ言えばいい)
(いえ、自分のやって来た悪業を思うと、そんな都合の言い訳にはいきません。わしにも恥じというものごあります。言付けでいいですから、そう、いっていたと伝えて下さい)
(うぬ、あい、わかった。それでは、行くぞ、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏
雲龍様は、鋭い刀を中に上げ、切り落とそうと構えたのである。
(おい、ポンタ、大丈夫か、刀で首をはねても良いのか)
(添うですね、おらだったら、やめるね。だって本人は、悪かったと認めているのだからね)
(やっぱしお前もそうか、わしも、人殺しはしたくない。刀がおろせないのだ)
この光景を見ていた、村人は歓声をあげた。
(殺すのやめてくれ。おらたちも、金を借りて、一時は暮らしに役だつこともあっただ、天変地変で苦しんだのは惣兵衛のせいではないだ。雲龍様どうか、命だけは、助けてあげてください、おねがいしますだ)

(おい、お前たち、宋、簡単に言うな、わしにも面子がある。殺す度胸がないと、皆に笑われる、そこが問題だ)
(お目ぇさんは。自分の面子で人を殺すのか、本人は、反省してるではないか)


(そうだ そうだ。おらたちは殺せとはいっておらん)
(おい、惣兵衛、見んな、嬉しいこと。いってくれるではないか。聞こえるか、わしだたって、殺生は、したくないのだ、、最初から殺るつもりはない。こうして、皆がお前の命乞いをしているのだ。言葉の一つや二つなんか言ってみろ)
惣兵衛は、振り返り村人に土下差をした。

祭り早し

惣兵衛は頭を伏せたまま村の集に言った

(なんてぇことをわしは、していたのだ。道がら外れたことばかりだ。死ぬ瀬戸際になって我が身の不浄を知ったとは、これからは、坊主になって、不憫な人々のために尽力をつくします、当てにならないと思うけれど、残された人生は目的に向かってあるいていきます)

(そうか、惣兵衛もやっとこさ、本物を見つけたようだ。それが、本当の価値がある、金にも勝る財産だ。これも、姿を見せない大仏様のお力添えだ。無駄にするでないぞ)
ポンタが、言う。
(雲龍様、おさよに一言何か。陰の主役だからね。お地蔵様もね)
(おお、忘れておった、おさよ、前に出てこい)

おさよは笑顔を浮かべて雲龍様の側にきた。
(雲龍様、おらは、おそろしかった。でも。一人も死なないでよかった。お地蔵の前で人が死んだらお祭りもできないよ、日之影村のはじだべ)
(おさよ。お前は、村で一番優しい娘だ、お前が、ポー様の背中の真言を読んでくれたお陰でみんな幸せになった。大仏様は。村で一番優しい娘だけ、真言を読めるようにしたのだよ、お地蔵様もお前の真言で旅をすることが出来て、わしもこの日之影村までこれたのだ)
(そんなこと言われても実感、全然ないわ、そんなことより、この夏に都に奉公にいかなくて済んで、おさよは幸せです。らこれも、皆のお陰です。特に雲龍様にはね、ポンタさんも素敵よ、おらに、真言詠ませて、それから、摩訶不思議、お地蔵様たちが、家出をしたのだからね、ポンタさん、お地蔵様たちは、家出を本当にしたの。)
(家出をしたのです。この日之影村を捨てて、寺泊とか、糸魚川、余裕ができたら、日本一周したいとね)
(やはりね、そういえば、居眠りはするし、ねてばかりでしょう。ポンタさんは、お地蔵様と話ができるから、きいてみてよ)
(何を)
(家出した動機、誰も相手にしてくれないから寂しくなって家出をしたとか)
(そんなこと聞かなくてもわかりますよ、怠け者です。ハッキリいって。お経も時々サボるし、お互いに無駄話していますよ、)
(やっぱりね。また、何で戻ってきたの)
(どこも無地目なお地蔵様でないと雇ってくれないのさ)
ポー様がこらえきれずにいいました。
(おい、ポンタ、お前なんて言うことを言うのだ、ここまで仲間同士でやってきたではないか)

フー様が怒った顔付きで言いまくった。

(それでも、仲間か、そこまで言うなら私も言わしてもらう、御供物どろ)
ポンタは声を遮った
(御供物泥棒と言いたいのでしょう。おさよさんよく聴いてください。お地蔵様ははじめはおさよさんの言う通りでしだが、今から一月前に、旅に出るその日に、おさよさんの家に立ち寄り、惣兵衛一家の手下に脅かされているのを見てしまい、考えを変えて、おさよさんを助けるのが自分達の勤めだと言うことに気が付いて、都に出掛け雲龍様を大仏様様から、派遣してもらい惣兵衛一家を懲らしめにきてもらったのです。貴女や、村の人々を救いに帰って来たのですよ)

(そうなんだ。惣兵衛一家の人とのやり取りを聴いていたのですね。それで、大仏様に会いに行ったのですね。ご免なさい。私、勘違いしていた。優しい娘ではないわね)

(すべて、終わったことだ。これからが大事だよ)
(ところでお地蔵様達よ、お前さんたちはこれからどうする。また、旅にでるのか)
ポー様が笑いながらいいました。
(雲龍様、私達の思いがかなって本当にありがとう御座いました。長旅でさぞお疲れになったことでしょう、この先の清流の側に日之影温泉♨がありお酒もたっぷり用意させますので、ーポンタ準備はいいな。ー、ゆっくりとくつろいでください)

(わしのことはどうでもいい、酒さえあればな、お前たちはどうするのだ)
わたしたちは、地蔵の本文である、日之影村の安全、豊穣を願ってこの地に朽ちるまでこの赤松の下したで村民のお役にたちたいと思います)
ポンタが
(お地蔵様、おさよの家に惣兵衛一家が来てなかったら、今ごろ、どこで何をしているやら、恐らく歩くお地蔵様と評判が立って、スターになり、都で人気がでて、大変な賑になっていたかもしれませんね)
雲龍様がいいました。

(そりゃあまい。日之影村が災難に遭って、逃げたしたお地蔵だと、いつかはわかるものだ。そうなれば、厄除けどころか、祟り地蔵と呼ばれて、一貫の終わりだ。川底に捨てられるか、山の奥深いところに棄てられて終わりだ。
たから、この赤松の下が一番ふさわしいのだ。日伝法師がこの村に災難にあったとき、ポー様の背中の真言を村のなかで一番優しい娘に読んでもらうと、地蔵が歩けるようになって、村のために活躍できると言う念を入れた真言が、今、ここに形として現れ。日伝法師の祈願がかなったことになる。
この真言は、一回使うと二回は使えない。ここぞの真言と大仏様が特に霊魂を入れてくれていたのだ。わかるか、地蔵ども。これからは、その台座に戻った以上、歩くことは出来ないのだ。よく、心しろ)

(言われる前に心して決めております。私達は、日本国中、旅をして、見聞を広げ、人々のお役に立ちたいと考えていましたが、それは、仏の道がら外れてあました。哀れな人間達に癒しと希望を与える旅だと、正当化して、自由を満喫しようとした、欲の行為だったと、悟りました。
幸せは何処にでも探せる、足元にも心一つで幸せを発見できると思うようになりました。)

(そうか、痛いこと学んだな、わしは、偉そうなことをいっているが、これは、大仏様の警護という役目がらだから仕方ない。わし、個人では、酒がほしいしという欲望に負けてしまう。わしは、それでもいい。酒を求めての旅烏になってもね)

木陰で聴いていた惣兵衛は、雲龍様に近より話だした。
(雲龍型様私になにかやらせて頂けませんか。提案があります。この赤松の側にお寺を創建させてもらえませんか。名前は雲龍寺で、寛主は、用心棒でした伊右衛門にしてもらい、伊右衛門は昔、お寺で修行をしていましたから、お経はこなせますし、雲龍様に帰依したのですから、うって付けです。寺の山門には、厳しい顔をした、雲龍様が睨みを効かせてもらって、どうですか、私も、これからは、村人のために頑張るので、私の決意を固めるため、寄進をしたいのです。)

(そういわれてもな、わしは、自由が性にあっているでな、また、飛び出すかも知れない。自由依存症だ。だから。ありがたいはなしだが?)
ポンタが口をはさんだ。
(雲龍寺はすぐ、つぶれますよ。廃寺です。
なん立って、地元のお地蔵様が、御供物が届かないので逃げ出したのですからね。
経営が成り立ちませんよ。惣兵衛さんが生きているうちは心配ないと思いますがね、それと、雲龍様は、お酒がないと死に体ですから、ますます、お寺の評判を悪くしますよ、旅の途中でも酒を探すのに困り果てたのですから。酒蔵荒らしですよ。狸だからできるけど、人間だったら窃盗罪ですからね、酒が切れると、動かない、やかましい、拗ねる、ですからね、子供より始末に悪いのです。何でこんな仁王様を大仏様は、選んでくれたのかと、思うこと、度々でした)

(ポンタ、そう恨めしそうに言うな。そのかいあったではないか、平和がきたではないか)

(うん、まあね、雲龍寺建立は、実のところ賛成です。ただ、建てるだけでは維持がむづかしいといってるだけです。新風を巻き込みましょう。アイデアです。他所の村からもお詣り出来るような御利益のある寺にです。それには、雲龍様をスターになってもらうことが一番です。奈良の大仏様の命令で、日之影村の荒廃を救った日本一の不動明王とね)
フー様が
(ポンタ、いいアイデアだ。雲龍様、私達と一緒にこの日之影村に骨を埋めませんか、地蔵だちだと、格がちがいますかね。)
(そんなことないさ、格式なんか、仕事柄必要なことで、深い意味などあるわけがない。仏の道に生きるものは、差別などあってはならないのだ)
ポンタが言う
(雲龍様、都に帰っても、仕方ないでしょう、大して、やることはないし、酒と暇の二つで毎日を過ごすのは辛いですよ。
ここにいると、これからやることはあるし、退屈しませんよ、はい、決まり。そうしましょう)

雲龍様は皆の居残れムードに押されて、結局日之影村に残ることになった。

(雲龍様そうと決まれば、今日から、寝る場所を探さねば)と、プー様が言った

ポンタは、

(寝る場所はありますよ。元惣兵衛一家の出城があります。大きな数寄屋風の建物の玄関ですよ、あの檜一尺の太い柱のとなりです。あすこなら、風格もあるし、悪い奴は恐ろしくて入れない。これが本当の用心棒だ、酒にはふじゅうしないしね)
惣兵衛が
(それはすぱらしい、是非そうしてください。毎日身体を清めますし?なんだったら、隣村から仁王様を連れて来ますよ。寂しいならば)

(そうか、みんなが、そういってくれるならばそうしよう、わしも、人間と会話が出来る時間も残り少ない、大日如来様と留舎那仏様が、日之影村の不幸を解決させるために、わざわざ、わしに特使として、命令を下し、人間と話せる時間は一日だけど制限せれている。このことも、それなりに深い理由(わけ)があるのだ。仁王が、毎日人間と話せるようになると、人間は厚かましいから、自分の願い事を成就できることばかり仏様に祈る。仁王も仏様の一翼を担っているから仏と同じだ。従って、言葉が通じあうといちいち、人間の要望に答えを出さなくてはならない。これが面倒で、すぐ答えを求められても、理不尽な願い事に答えを持たれても、答えようがないから、話さないようになるとなっておるのだ。全国均一だよ、わしも、人間と会話が出来なくなるのは寂しいが、偉い仏様が修行して、会得した、理念から来る作法だから従うしかないのだ。明日からは、惣兵衛の家の門前に立つが、よろしくな。たまには出掛けてこい。おい、ポンタ、お供えものは、お前のものだ。仲間に平等にわけてやらな)
村人で組織した将棋隊も、勇ましい名前だけで、戦をしなくてすんだ。勿論、戦をさせようと雲龍様は、初めから計画にはいれていない。惣兵衛一家を威圧刷るための道具にすぎない。戦が終わりメンバーは雲龍様を中心に円陣を組んで御礼の、言葉をかけた。
(これで日之影村も元の平和な村になれる。ありがとうございました。)みなは、顔を下げて深く雲龍様に感謝の意を示した。

夏が終わり、山間の田んぼにも秋が近づき、稲刈りも間近にせまっていた。
おさよも、

故郷に帰りたいお地蔵さん

やはり慣れた故郷には、村民の人々が喜んで迎えてくれるのか

故郷に帰りたいお地蔵さん

立ちっぱなしのノッポのポーさん地蔵と肥ったフーさん地蔵が繰り出す愛と涙と冒険の物語です。

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-31

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 深山の峠にある、二つのお地蔵様は、誰も来なくなって、寂しくなり、旅に出る。だけど・?
  2. 地蔵様は日之影村に飽きて離れることにした?さてはて
  3. 3
  4. いよいよ。日之影村に戻り惣兵衛一家を
  5. 雲龍仁王様は。弱虫て、困ったもんだ
  6. 雲龍仁王が重い腰をやっと持上げた
  7. 祭り早し