妖し狐伝 第五話 戦闘
【登場人物】
藤森朱里(ふじもり・あかり)・・・主人公。16歳の誕生日を迎える高校1年生。母と二人暮らし。
父は小さい頃に亡くなったと聞かされて育った。負けず嫌いのがんばり屋。母想い。
藤森ほのか(ふじもり・ほのか)・・・朱里の母。しっかりもの。焔の素性を知った上で愛し合い、朱里を授かる。
矢神風汰(やかみ・ふうた)・・・朱里の幼馴染。矢神神社の息子。やんちゃな性格。朱里を好き。
焔(ほむら)・・・・・・狐の一族の長である。妻子ある身でありながら、ほのかを愛している。
篝(かがり)・・・・・焔の息子。両親ともに狐の純血であるが、冷たい夫婦仲の間で、次期長となるべく育てられる。
野心が強く、冷静沈着。
疾(はやて)・・・・鴉一族の次期長。手柄を立てたいという野心がある。
環(たまき)5台詞・・・蛇一族の娘。妾の子。
城から少し離れた森の中でひとり泣いている朱里。
朱里 「・・・うっ・・うぅ・」
朱里を見つけ、走り寄る風汰。
風汰 「朱里っ・・・はぁ・・・こんなとこにいた」
朱里 「・・・風汰」
風汰 「おばさんあんな体なのに、心配かけんなよ。ほら・・・戻ろうぜ」
朱里 「・・・わけわかんないよっ。いきなり覚醒だの狐の娘だの、
父親って急に言われてどうすればいいのよ・・・ここに残るなんて・・・やだよ・・・」
風汰 「朱里・・・」
なだめるように笑いながら、朱里を城へ連れ戻そうとする風汰。
風汰に気持ちをぶつける朱里。
ガサガサっ(木々の揺れる音)
バサバサッ(翼の音)
風汰 「誰だっ!」
疾 「こんなところに居やがったか・・・探す手間はぶけたな。おいお前ら・・・生け捕りにしろ!」
鴉1 「御意!」
鴉2 「はッ!」
黒い大翼を持つ鴉族3人。朱里を襲おうとする。
妖艶に着物を纏った色白で、眼の紅い美しい女と、
ひょろっとした細身で長身の色白男が鴉族を止める。
睨み合う、鴉と蛇。
環 「まちな!それはアタシの獲物だよ!手ェだすんじゃないよっ!」
疾 「チッ 環・・・邪魔すんな!こいつは鴉一族がもらってくんだっ」
環 「ハンッ 何言ってんのさ!今じゃどこの一族も狙ってんだ。もちろん手にするのは蛇だがなぁ。
ぐずぐずしてないでさっさと連れておいき!」
蛇1 「はい、ただいま~」
にょろんと音もなく朱里に近づく。
風汰 「誰だ・・・お前ら!朱里に手ェだすな!」
朱里の前に立ち塞がり、威嚇する風汰。
嘲笑う疾。その疾をからかう環。
疾 「お前こそ誰だよ。・・・ん?お前・・・人間だな?どうりで臭いわけだ」
環 「フンッ アタシにとっちゃお前も臭いがな。坊や・・・アタシは蛇一族の娘、環。そこのうるさいのは鴉一族のボンだ」
疾 「誰がボンだ!俺は鴉一族の次期長だぞ!お前みたいな身分の低いやつと一緒にすんなっ」
環 「だ・・・誰が身分が低いって?! そいつを連れて行けばアタシが族長になれるのさ!」
生まれ持つ身分の違いで言い合うふたり。
言い合いを割って入るように響く、篝の声。
篝 「だまれ!!! 余所者が堂々と侵入し、ぎゃあぎゃあとやかましい!」
風汰・朱里 「篝!!」
篝の登場に喜ぶふたり。片側を篝に任せ、姿勢を低くする風汰。
風汰 「こいつら朱里を攫う気だ」
鼻で笑い飛ばし、疾と環らを威嚇しながら飛びかかる篝。
篝 「ふんっ。させるか・・・。・・・お前ら・・・覚悟は・・・できてんだろうな?ここは狐の郷だぁぁぁ!」
疾 「ハハッ 簡単にはいかねぇとは思ってたが・・・ここでこいつが出てくるとはな。相手になるぜっ!」
篝に応戦する疾。
そのふたりの戦いを見つつ、呆れ顔で帰ろうとする環。
環 「おやおや・・・これじゃこっちにとばっちりがくるじゃないか。出直すか・・・
鴉のボン・・・せいぜいがんばりな。・・・いくよっ」
蛇1 「ウチのお嬢は・・・やれやれ、骨折り損かぃ」
呆れながら笑う蛇1。
炎の攻撃を環たちに向けながら、するりと逃げた環たちを恨めしく睨む篝。
篝 「くそっ!蛇め・・・逃がしたか」
疾 「よそ見するとは 余裕あんじゃねぇか・・・なめんじゃねぇぇぇ!夜叉車(やしゃぐるま)ァァァァ!」
篝 「くっ・・・!」
朱里 「篝っ」
篝を煽るように攻撃を増していく疾。朱里たちを庇うように前に出て、攻撃を弾く篝。
心配そうに見守る朱里。
篝 「朱里っ・・・いいから逃げろっ。そこの古井戸から城へはいれっ」
風汰 「朱里っ、いくぞっ! うわァァァァ」
このままでは朱里たちに攻撃の余波が飛ぶことを案じた篝が、逃げ道へ誘導する。
朱里を引っ張り連れて行こうとする風汰が鴉族の手下に捕まる。
朱里 「風汰っ!」
風汰 「いけぇぇぇ 朱里っ」
羽交い絞めにされたまま逃げるようにと叫ぶ風汰。
行けない朱里。
疾が逃がしまいと攻撃を朱里へ向けた。
疾 「させるかぁぁぁ!不知火(しらぬい)ィィィィィ」
朱里 「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
目を閉じてうずくまる朱里。
風汰 「朱里ィィィィィ」
篝 「朱里っ!!!!・・・・」
バアアアアアアアアアアン(爆発音)
朱里 「ぃ・・・たく・・なぃ?え?篝・・・?篝ィィィィ・・・」
自分が怪我のないこと、庇うように覆い被さっている篝に気づき、
篝を抱きとめる朱里。
体中に火傷をし、煙で巻かれてボロボロになった篝。
篝 「はッ・・・無事・・か?」
朱里 「アンタが守ってくれたんじゃないっ」
息も絶え絶えに朱里の無事を確かめる篝。
守ったことを信じられないように手を伸ばす。
篝 「ふ・・・体が・・・動いちまった・・・。まさか俺がお前を助けるとはな・・・。」
朱里 「篝・・・しゃべっちゃだめ・・・」
制する朱里に、絶え絶えと、ぽつりぽつり話し始める篝。
篝 「俺は・・・お前が嫌いだった。子供の頃からお前を見てたんだ・・・。
父はいつもお前達のことを想っていた。その分、俺や母にとってあの人は冷たかった。
母の涙を俺はいつも見ていた。愛されない気持ちが・・・わかるか?
何も知らず愛されてるお前が・・・お前のその力さえもが・・・うらやましかったんだ・・・。
・・・嫌いだったんじゃなく・・・嫉妬・・・してたんだ・・・な・・・」
篝の息がどんどん荒くなる。
朱里の目からは涙が溢れてくる。
朱里 「篝・・・」
篝の手を握りしめる朱里。
その手を、残された力を精一杯込めて握り返す篝。
篝 「それでも・・・朱里・・・お前は 俺の・・・妹・・・だ・・・」
朱里 「・・・篝・・・兄さん・・・?・・・兄さんっ!!!」
風汰 「おいっ!篝ィィ」
息絶えた篝。
泣き叫ぶ朱里。
鴉手下に捕らえられたまま身動きできず叫ぶしかない風汰。
篝の死を嘲笑う疾。
疾 「ふんっ。狐の息子もたいしたことねぇな」
その言葉に怒りを爆発させる朱里。
朱里の周りに赤々と燃え盛る炎が渦巻き、
朱里の絶叫とともに疾を火炎が襲う。
朱里 「・・・許さない・・・兄を・・・よくも!うあああああああああああああああ!」
疾 「くッ・・・!ぐぁぁぁぁぁぁ・・・なんだ・・・この炎は!」
初めて見る炎の力を前に、弾き返せず驚いている疾。
朱里の炎を見て、火事を思い起こしている風汰。
風汰 「朱里っ その炎はあのときのっ」
朱里 「どうしてそっとしといてくれないの・・・どうして壊すの・・・どうしてぇぇぇぇぇぇ!」
怒りと悲しみでコントロールできないぐらい、さらに炎の威力を増す朱里。
たじろぐ疾。
疾 「ぐはぁぁぁぁぁぁぁッ!・・・やはりただの半妖じゃねぇってことか・・・その力欲しいっ」
朱里 「力?力なんていらない・・・何も守れないなら・・・こんな力 いらないッッッ!!」
荒れ狂う炎の中に立ち尽くす疾を、手下が心配し撤退を促す。
鴉1 「疾様ッ。こ・・・これ以上は持ちませぬッ。」
鴉2 「ここは、撤退しましょう!若ッ」
疾 「チッ・・・わぁってるよ! くそッ・・・一旦撤退だ!!散れ!」
鴉1・2 「はッ!」
疾が撤退の指示を出すと、手下たちは風汰を放した。
力を止めようと朱里に駆け寄ろうとする風汰。
と同時に、悲しみに我を忘れた朱里が泣き叫びながらその力を暴発させる。
朱里 「篝・・・篝・・・目ェあけてよ・・・こんな力・・・アンタにあげる・・・
だから・・・目ェあけてェェェェェェ!!」
バアアアアアアアアアアン(爆発音)
爆発とともに、吹き飛ばされる皆。
風汰 「朱里っ!うわぁぁぁぁ!」
疾 「うわぁぁぁぁ!」
鴉1・2「疾様っ」
つづく・・・ 第六話 奇跡
妖し狐伝 第五話 戦闘