妖し狐伝  第四話 明かされる生い立ち

【登場人物】

藤森朱里(ふじもり・あかり)・・・主人公。16歳の誕生日を迎える高校1年生。母と二人暮らし。
                    父は小さい頃に亡くなったと聞かされて育った。負けず嫌いのがんばり屋。母想い。

藤森ほのか(ふじもり・ほのか)・・・朱里の母。しっかりもの。焔の素性を知った上で愛し合い、朱里を授かる。

矢神風汰(やかみ・ふうた)・・・朱里の幼馴染。矢神神社の息子。やんちゃな性格。朱里を好き。  

焔(ほむら)・・・・・・狐の一族の長である。妻子ある身でありながら、ほのかを愛している。

篝(かがり)・・・・・焔の息子。両親ともに狐の純血であるが、冷たい夫婦仲の間で、次期長となるべく育てられる。
            野心が強く、冷静沈着。

疾(はやて)・・・・鴉一族の次期長。手柄を立てたいという野心がある。

環(たまき)5台詞・・・蛇一族の娘。妾の子。

 奥の間。
 ガラッ (襖の開く音)

篝  「父上、無事に終えられたとのこと。安堵致しました」

朱里 「あのっ 母さんはっ??もうだいじょうぶなんですか?」

 篝が言い終わるか終わらぬかのうちに聞き出す朱里。

焔  「うむ。ほのかはまだ眠っておる。生死の境におったのだ。しばらく起きられないであろう。」

風汰 「はぁ・・・・よかったなぁ・・・朱里」

朱里 「うんっ!よかった・・・・よかった・・・・」

 優しく話す焔の言葉に、ほっと安心する風汰と、安心して涙ぐむ朱里。
 朱里の顔を微笑みながら眺めつつ、申し訳ないという顔で話し始める焔。

焔  「朱里・・・今日の火事。あれはおそらく、そなたの存在を知られてしまったからなのだ。すまぬ」

朱里 「存在というのは・・・アタシに・・・狐の血が流れているからですか?」

 凛とした表情で話す朱里の言葉にピクリと反応する焔。

焔  「やはりもう聞いていたのだな・・・篝か。」

篝  「申し訳ありません。ですが、必要かと思われたので・・・」

 少し青ざめた顔をする篝。
 苦笑いを浮かべつつ、辛そうな顔をする焔。

焔  「いや・・・よい。いづれはわかることだ。朱里・・・そなたはほのかと私の娘だ。」

朱里 「・・・・まだ・・・・信じられません。父は亡くなったと聞かされていたので・・・。
     目の前にいるあなたを父親だと言われて、はいそうですかというわけには・・・」
 真実を自分の口から再度告げる焔。
 まだ信じられず、受け入れられない朱里。
 諭すように口を開く焔。

焔  「無理もない。だが他の種族がお前の命を狙うは必然。
    今後、篝のそばから離れるでない。」

朱里 「どうしてアタシの命なんかを狙うんですか?ただの半妖なんでしょう?」

 狙われる理由が分からない朱里。
 ほのかとの過去を話し始める焔。

焔  「ほのかは・・・巫女であった。矢神神社の正当な継承者だったのだ。
    私は狐一族の長。その狐の妖力と、巫女であるほのかの霊力。そなたはただの半妖などではない。
    でなければ初めての覚醒で火を纏えるなどありえない。そなただから出来たのだ。」

 【矢神の正当な継承者】という話に驚愕する風汰。

風汰 「ちょ・・・ちょっとまってくれよ。おばさんが・・・ウチの神社の正当な継承者?
    どういうことだよ。じゃあウチの親父は?」
 
 風汰の苛立ちを諌めるかのように、篝が言い放つ。

篝  「矢神神社は古(いにしえ)より妖しの力を抑える強大な霊力を誇り、人間界を守護していたのだ。」

 言葉少なな篝の補足をする焔。

焔  「ほのかの両親は妖しと戦い、破れ、その霊力は一人娘であるほのかに受け継がれていた。
    私と出逢ったのはそんな頃だった。ほのかの、霊力を奪ったのは・・・私だ。
    だが、朱里・・・そなたを授かった。ほのかは矢神神社の一切を当時修行の身であった今の宮司へ託したのだ」

風汰 「そうだったのか・・・」

 ようやく納得のいった風汰。



 ガラッ (障子の開く音)


郷の者「お館様!お目覚めになられましたっ」

焔  「うむ。朱里、おいで。ほのかが目を覚ましたようだ。」

朱里 「はいっ」

 朱里を連れ、さらに続き間へ行く焔。
 ついて行く風汰。座ったままの篝。

 ガラッ (襖の開く音)
 横たわるほのかの傍らでほのかを優しく抱き起こす焔。

焔  「ほのか・・・」

ほのか 「ん・・・あなた・・・朱里は?」

 朦朧とした意識の中、焔の顔を見て微笑むほのか。
 ほのかの手を取り、声をかける朱里。

朱里 「母さんっ ここにいるよ。アタシはだいじょうぶだから。」

 安堵し、微笑むほのか。
 こわばった顔をする焔。

ほのか 「ふぅ・・・よかった・・・あなたが守って下さったのね」

焔  「いや・・・お前を守ったのは朱里だ。朱里は・・・覚醒したのだ」

ほのか 「そんな・・・。(ため息)そう・・・ここにいるということは・・・全部わかってしまったのね」

 覚醒した事実を知るほのか。諦めたような、悲しい表情。
 すべてを知ったことを告げる朱里。

朱里 「うん・・・全部聞いたよ。母さんが巫女だったことも、この人が・・・お父さんってことも」

ほのか 「・・・ごめんね 朱里。あなたが覚醒しなければいいって、ずっと思って育ててきた。
      だから私の過去も、狐一族のことも、何も話さなかったの。
      でもね朱里。あなたは、私が誰よりも愛した人の娘。何よりも愛しい私の娘よ。
      それだけは・・・どうか 忘れないで・・・」
 
 涙を浮かべながら、朱里の手を握り話すほのか。
 ほのかを抱きかかえながら、朱里を見つめ、思い切ったように言う焔。

焔  「ずっとそなた達を見守ってきた。覚醒した今、この郷で共に暮らそう。
    そなた達のそばに・・・居させてくれ」

 焔の言葉を遮るように話し始めるほのか。

ほのか 「・・・それは・・・できません。ここは私のいるべき場所じゃない。
     あなたのそばには・・・奥様がいらっしゃる。私は向こうに返して下さい。
     でも朱里は・・・この子をよろしくお願いします。」
 
 焔の妻を気遣い断る、だが朱里を託そうとするほのか。
 そんなほのかの気持ちを理解する焔。

焔  「ほのか・・・わかった・・・」

朱里 「母さん?何言ってんの?アタシも一緒に帰るわよ」

ほのか 「だめよ、朱里。覚醒してしまった以上、例え半妖でもあなたは狐一族の娘。
     あなたが向こうにいれば回りの人を巻き込んでしまうわ。あなたの命も危ない。
     ここなら・・・お父さんが守ってくれるわ。」
 
 子供のように駄々をこねる朱里を、なだめるように諭すほのか。     

朱里 「やだ・・・やだょ・・・ 」

ほのか 「朱里!あなたをそんな弱い子に育てた覚えはないわ。
     ここで・・・生きていくのよ。だいじょうぶ。母さんの娘だもの」

 苦しげな息の中、強めな口調で、でも笑いながら話すほのか。
 居た堪れない気持ちでその場から走って逃げる朱里。

朱里 「やだよっ」

ほのか「朱里ッ・・・」
 
風汰 「待てよ!朱里」

 部屋から出て行った朱里を追いかける風汰。
 ふたりの走っていった方向に顔を向け、奥の部屋に座ったままの篝。



          つづく・・・  第五話 戦闘

妖し狐伝  第四話 明かされる生い立ち

妖し狐伝  第四話 明かされる生い立ち

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-31

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