妖し狐伝  第二話 罠、そして覚醒

【登場人物】

藤森朱里(ふじもり・あかり)・・・主人公。16歳の誕生日を迎える高校1年生。母と二人暮らし。
                    父は小さい頃に亡くなったと聞かされて育った。負けず嫌いのがんばり屋。母想い。

藤森ほのか(ふじもり・ほのか)・・・朱里の母。しっかりもの。焔の素性を知った上で愛し合い、朱里を授かる。

矢神風汰(やかみ・ふうた)・・・朱里の幼馴染。矢神神社の息子。やんちゃな性格。朱里を好き。  

焔(ほむら)・・・・・・狐の一族の長である。妻子ある身でありながら、ほのかを愛している。

篝(かがり)・・・・・焔の息子。両親ともに狐の純血であるが、冷たい夫婦仲の間で、次期長となるべく育てられる。
            野心が強く、冷静沈着。

疾(はやて)・・・・鴉一族の次期長。手柄を立てたいという野心がある。

環(たまき)5台詞・・・蛇一族の娘。妾の子。

 キーンコーン・・・・(学校チャイム音)

 朱里を迎えに来た風汰。帰る準備をする朱里。

風汰  「おーぃ 朱里ーぃ 今日部活ないから送ってやるよ。」

朱里  「ほんと? ってか・・・風汰がやさしいのって・・・なんか・・・コワッ」

 おどけて怖い表情をする朱里。呆れたような顔をする風汰。

風汰  「んっとにお前は!!・・・人の好意をなんだと・・・ お前今日急いで帰るんだろ?」

朱里  「そそ!母さん待ってるからさ♪ じゃあ行こッ!」

 教室を出るふたり。


 下校中、自転車に乗りながら、自宅方向の異変に気づく風汰。

風汰  「・・・ん?・・・なぁ・・・おい・・・煙あがってねぇか?」

朱里  「えー・・・どこ?ぁほんとだ・・・って あっちって・・・ウチのほうじゃん!風汰!急いで!!何か嫌な予感がする!」

風汰  「まじかよ!!お前の予感って当たるからなぁ・・・飛ばすぞ!つかまってろ!」

 危険を察知した朱里、全速力で自転車を飛ばす風汰。


 パチパチパチ・・・ (燃える音)

 朱里の自宅が燃え、近所の人たちが心配そうに見つめている。

朱里  「燃えてるの・・・ウチだ! 母さんっ  母さんっ どこ? 母さんっ!!」

近所のおばさん 「朱里ちゃんっ! ほのかさん まだ中に居るらしいんだよっ!!」

 ほのか不在を早急に伝える近所の人。半狂乱になりながら火の中に突っ込んでいく朱里。

朱里  「ええっ!!そんな・・・母さん・・・母さんっ!!」 

風汰  「あっ おい まてよっ!朱里っ・・・」 

 朱里を追いかけて家の中に入っていく風汰。


 パチパチパチ・・・ (燃える音)

 あたりは火の海に包まれようとしている。ほのかを探す朱里。
 
朱里  「ぁっぃ・・・母さんっ どこっ? 返事して!」

ほのか 『朱里・・・    朱里・・・』

 朱里の脳内に響くほのかの声。方向を探る朱里。

朱里  「母さん?? どこにいるの?? 」

風汰  「朱里っ お前無茶すぎるだろっ!」

 火の手がまわって危険を感じ、腕を引っ張って連れ戻そうとする風汰。

朱里  「風汰!今 母さんの声がしたの!」

風汰  「え?・・・オレには聞こえなかったぞ?」

ほのか 『朱里・・・ 』

朱里  「あっ また・・・母さんっ!どこなのっ・・・」

 朱里の脳内にまた響くほのかの声。神経を集中して再び方向を探ろうとする朱里。


 バキバキバキッ  (家が燃えて崩れる音)

 朱里を外に連れ出そうと必死な風汰。迫る火の手。

風汰  「朱里っ これ以上は無理だっ!外に出るぞ!」

朱里  「ダメよ!母さんの声がしたのに・・・風汰は逃げて!」

 風汰の腕を振り払って、方向を定めたように家の奥に走り出す朱里。

風汰  「おいっ!!朱里っ・・・」

 走り出した朱里をなおも追いかける風汰。火の勢いがどんどん増してくる。

 ガラッ  (襖を開ける) 

 倒れているほのかを見つけ、駆け寄り、風汰を呼ぶ朱里。

朱里  「母さん!!母さん!!しっかりして!!風汰!!母さん居た!!」

ほのか 「朱里・・・逃げて・・・早く・・・」

 死を悟り、朱里の命を心配するほのか。

朱里  「何言ってんの!母さんも一緒に行くの!!ほら つかまって・・・」

ほのか 「朱里・・・ここから・・・逃げるのよ・・・ 風汰くんの・・・ところに行きなさい・・・」

朱里  「なんで・・・母さんも一緒じゃなきゃ・・・いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 息の耐えたほのか。ほのかの体を抱きかかえながら、半狂乱になっている朱里。

 朱里たちに迫る火の手、崩れてくる家屋、
 朱里たちを周りには空間が生まれ、不思議な力によって火の手から守られる。

 バキバキバキバキッ ゴォォォォォッ・・・ (爆風とともに家が崩れ、吹き飛ぶ)

 
 火事現場から少し離れたところで意識を失っている朱里を呼び続ける風汰。

風汰  「朱里っ  朱里っ  しっかりしろっ!」

朱里  「・・・・風汰・・・?・・・・ハッ 母さんは?!」

 意識が戻る朱里。ほのかの所在を聞かれ、口ごもる風汰。

風汰  「・・・おばさんは・・・あそこに・・・  でも・・・もう・・・息が・・・ないんだ・・・」

朱里  「・・・うそ・・・ 嘘でしょ・・・・? 」

風汰  「お前が叫んだあと・・・お前の周りを炎が・・・いや・・・まるでお前が・・・火を操っているみたいに・・・」

 信じられない出来事があったかのように話す風汰。
 風汰の話も、母の死も、まるで信じられない朱里。

朱里  「何・・・言ってんの・・・?」

風汰  「だから・・・お前がおばさんを抱えたまま・・・火の中心に居たんだって! お前を囲うようにして・・・火が」

 興奮気味に状況を再度伝えようとする風汰。
 頭上から声がする。

篝   「遅かったようだな・・・」

朱里  「だれっ?」 

風汰  「誰だっ!」

 
 朱里たちのそばに樹上から舞い降りた男。

篝   「俺は狐一族・・・父の命によりここに仕わされた」

 淡々と身分を告げる篝。
 訳の分からないことばかり言う篝をポカンと見つめる朱里。
 篝から妖怪の気配を察知して身構える風汰。

朱里  「き・・・つね・・・? 父って・・・?」

風汰  「お前から・・・妖しの気配がする・・・ ホントに・・・狐・・・なのか・・?」

 風汰の察知能力に少し驚き、不敵な笑みを浮かべる篝。

篝   「ほぅ・・・お前・・・わかるのか? たしかにお前の気は・・・普通の人間とは・・・少し違うな」

 相変わらず不敵な笑みの篝。
 篝をキッと睨みつける風汰。

風汰  「オレは・・・矢神神社の息子だ!」

 矢神の名を聞き、一瞬驚く篝。
 朱里の腕を引き連れて行こうとする。

篝   「矢神神社・・・あの矢神の血か!・・・まあいい・・・朱里・・・俺と一緒に来い!」

風汰  「なっ!! なんだと?!」

朱里  「なんでアンタなんかと一緒に行かなきゃいけないのよ!母さんが・・・母さんが・・・死・・・死んじゃったのに・・・っ」

 篝の手を払い除け、横たわったままのほのかを泣きながら見つめる朱里。
 ほのかの体に手をかざし、生気を確認する篝。
 
篝   「お前の母親は・・・まだ完全に死んではいない。狐の郷に連れていけば間に合うかもしれない」

朱里  「ほ・・・ほんと??!」

 突然の篝の話に飛びつき、すがりつく朱里。
 遠くを冷ややかに見つめながらつぶやく篝。

篝   「あぁ・・・父なら・・・秘術を使える。父は・・・必ずこの人を助けるだろう・・・命に代えても」

朱里  「母さんを助けてっ!アタシ・・・一緒に行く!」

風汰  「朱里っ!こんなヤツの言うことを信じるのか?行かせねぇ・・・どうしても行くなら・・・オレも行く!」

 胡散臭い話をする篝を不審に思い、朱里を引きとめようとする風汰。
 守るために自分も行くことを決意する。
 人間の無力さを馬鹿にするかのように冷ややかな眼差しの篝。 

篝   「人間には・・・郷の瘴気(しょうき)は耐えられぬぞ?」

風汰  「朱里だけを危険なところに行かすわけにはいかねぇんだよ!瘴気ぐらい跳ね返してやる!」

篝   「そこまで言うなら いいだろう・・・一緒に来るがいい。こっちだ」

 歯向かう風汰。フンっと鼻で笑いながら同行を認める篝。
 ほのかを抱きかかえる風汰。人気のない場所へ向かって歩いていく3人。
 
篝   「異界の門が開かれている。ここを通って郷へ参る。ついて来い。」
 
 先頭を歩き出す篝。不審に思いつつも従って歩いていく2人。



               つづく・・・  第三話 狐の郷

妖し狐伝  第二話 罠、そして覚醒

妖し狐伝  第二話 罠、そして覚醒

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-31

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