お前のために、できること。
カンガエゴト?
少しだけ、考えてみた。
「……高尾。」
「んぉ?何、真ちゃん…」
考えているうちに、いつの間にか眠っていたようだ。
肩には真ちゃんの着ている部活のジャージ、横にはおしるこの缶。
あぁ、でも、何を考えていたのかはもう記憶が薄れていて
よく思い出せないでいた。
「高尾、帰るぞ。」
「もうそんな時間?…じゃあ、鍵閉めるか。」
冷え切った部室のドアを、そっと俺は閉めた。
「高尾が部活後に寝るとは、珍しいな。…そんなに疲れたのか?」
「え?…あー、そうかも?」
俺は曖昧に答えた。
手のひら。
「高尾、大丈夫なのか?」
「ん、気にしないで。…多分すぐ分かるから。」
「…?」
額に触れる大きくて華奢な真ちゃんの冷たい手のひら。
ひんやりしてて気持ち良い。
冷たい手のひらは、心が温かい証拠だって、それは昔聞いたこと。
あれは、本当なのかもしれない。
「真ちゃん、手…冷たいね。」
「そうか?外はだいぶ冷えているからな。」
心地よい感触が、さっきの記憶を少しだけ思い出させる。
いつのことだっけ?どれくらい前の出来事だっけ?
脳裏に浮かぶのは、あの日の真ちゃんの小さな背中。
お前はきっと、覚えてないかもしれない、あの日のこと。
ずっと前のこと。
「…ぅ、うぇえ…っ、グスッ・・・。」
「ぉ?」
その日は、ずいぶん晴れていて、俺の小さな影を際立たせるほどの日差しが
体をすっぽり覆っていた。
俺の目に見えたのは、緑髪の、俺と同じくらいの小さな男の子。
「…どうしたの?」
その子は、目にいっぱいの涙を溜めていた。
よく見てみると、その子の膝は、擦りむいて血が出ていた。
「いたいの?だいじょうぶ?」
「うぅ…いたい、のだよ…。」
「ちょっと待っててね。」
俺はいったんその子の元を離れ、側にいた母さんに絆創膏をもらいに行った。
いつも俺がよくけがをするからだ。
おともだちだよ。
「ハイ、これつかって。」
「ふぇ…?いいのか……?」
「うん!じゃないと、きずぐちにバイキンはいっちゃうよ?」
「…あ、ありがとう……なのだよ。」
その子は絆創膏と受け取って、器用に膝に貼り付けた。
いつしか涙は乾いて、ぎこちなくも笑顔を浮かべていた。
「もういたくないでしょ?よかったね。」
「うん…!」
柔らかい風が吹いて、緑色の髪がさらさらと輝いて揺れた。
「あっ、きみ、なまえは?おれは、たかおかずなり!!」
「みどりま…しんたろう、なのだよ。」
「みどりまくん!」
「か、かずなりくん…?」
そうやって名前を呼び合ったあの日を、今ここでやっと思い出した。
この心、
……って、今更こんなこと、どうせ真ちゃんは覚えてなんかないんだから。
でも、こうやってまた再会して、一緒に歩いてる。隣で一緒。
それだけで、俺は嬉しかった。
昔出会った初めての友達なんて、気がつけば忘れて、会うことなんてない。
あの日握った手のひらも、今みたいにひんやり冷たかった。
ただ違うのは、あの真ちゃんの手のひらが、すごく小さかったこと。
「懐かしいなぁ…。」
「…?どうしたのだよ?」
「ん、真ちゃんは…覚えてないかもな。」
「??」
そのきょとんとした顔も、幼さが垣間見えてる。眼鏡の奥の瞳。
その日からだろうか、俺は真ちゃんに特別な感情を
抱くようになってしまっていた。
胸の奥が熱くなる。
それが恋だと知らないで。
思い出
「そう言えば高尾」
「何?」
おもむろに真ちゃんが俺に話しかけた。
「部屋の掃除をしていたら、昔のアルバムを見つけてな
その中の写真に、お前と同じ雰囲気の男の子が写っていたのだよ。」
「へぇ…。」
「もしかしたらお前かと思ってな。そんな遇然無いだろうけど、
だから高尾、その写真を見てもらえないだろうか?」
「え、なんで?」
「まぁ…確認、して欲しいというかそのだな……。」
真ちゃんは指でメガネのフレームをあげた。
そこで俺は方向をかえて、真ちゃんの家に向かった。
「お邪魔しまーっす!」
「今日は家族は出かけていて留守なのだよ。」
そうでしたか。靴を脱いで部屋へと足を運んだ。
満場一致。
早速、例のアルバムの写真を見せてもらった。
小さいころの真ちゃん、本当にかわいいなぁ…!
今も十分、可愛いんだけどな。
たくさんの思い出が詰まったアルバムは、懐かしいにおいがする。
「これなのだよ。」
「どれどれ?」
それは………あの日真ちゃんと出会った公園だった。
膝に絆創膏を貼った真ちゃん、隣にいるのは、昔の俺。
写真の向こうの俺たちは、にっこりと笑っている。
「……俺だ。」
「本当か!!」
「これ、間違いなく小さいときの俺だよ!」
「そうか…!やはり高尾だったか!」
「えっ?」
「高尾は覚えているか?あの日初めて出会ったことを。」
あ、なんだ。真ちゃん、覚えてくれてたんだ。
キセキとキモチ
「まさかこうしてあの日と同じように高尾が隣にいるなんてな…。」
「ほんと、こんなのありえないっしょwキセキとしか言えねーわ。」
あれ、だから真ちゃんキセキの世代?とか、冗談でも聞けないか。
「真ちゃん、俺ね…。」
「何だ?」
「ずっと、真ちゃんが記憶の奥底から、俺のことを思い出してくれるこの日まで、
伝えてなかったこと、あったんだよね。」
「…?」
今だから、真ちゃんがここにいるから言えること。
今はっきりあの時の分からなかった変な気持ちを。
「俺さ、真ちゃんのこと…あの日からずっと好きだったんだわ。」
「………/////は?」
「あの日真ちゃんと出会って、声かけて、絆創膏あげて、んで真ちゃん
笑ってて、俺も笑いあってってしてるうちに、分かったんだ。
真ちゃんのこと、好きになったって。」
エース、だからさ。
「…////」
相変わらず真ちゃんは、顔を真っ赤にしたまま黙っている。
「ねぇ、返事聞きてーんだけど?」
俺が言うと、真ちゃんは俺の手を掴んで、そのまま優しく包み込んだ。
…手のひらが、熱い。
あの時の冷たい手は、今は照れているのか、熱っぽい。
「本当…なのか?」
「えっ?」
「本当に、俺のことが好きなのかと言っているのだよ////」
俯いた真ちゃんに抱かれながら。
「…当たり前じゃんww世界中のどこ探しても、真ちゃんは真ちゃんだからさ。」
「高尾…好き、なのだよ。」
「真ちゃん以上なんて、絶対見つかんない。見つける気もない。
俺は真ちゃんが一番だから。」
俺の愛すべきエース様のために、できることはこれだけ。愛することだけだ。
―END―
お前のために、できること。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!!
高緑、いかがだったでしょうか?
小さい頃に出会っていたという設定が好きで執筆いたしました♪
次回作もご期待下さい(青火の予定