SS15 チキンレース
どこからか聞こえてきた男の声に彼女たちはぴたりと足を止めた。
歩行者天国に解放された大通りには大勢の人々が行き交っていた。
「お前、歳サバよんでるだろ?」
どこからかともなく聞こえてきた男の声に複数の女性が足を止めた。
「顔も整形してるって聞いたぞ」
その内の何人かが、ほっとした表情を浮かべて歩き始める。
「噂じゃ小遣い目当てに援交までしてるっていうじゃないか……」
ああ、よかった。私のことじゃなかったんだ。
呪縛が解け、笑顔を取り戻した彼女たちは皆一様に胸を張り、悠々と立ち去って行く。
残ったのは全部で五人。
その誰もが硬直したように立ち竦んでいる。
握り締めた拳は小刻みに震え、こめかみからひと筋の汗が流れ落ちる。
ちらちらと視線を絡ませながら、指摘されたらマズい自分の弱点を反芻しながら、彼女たちは耳を澄ませて投げ掛けられる男の言葉を待っていた。
早く言って! 次の、次の条件は何なの? 絶対に最後まで残りたくないという心理が苛立ちを募らせる。
しかしいつまで経っても”次”は来ない。
「なんで何も言わないの!」耐え切れなくなった五つの顔が一斉に上を向いた。
するとそこにあったのは、自分たちに注がれる好奇の目、目、目。
最早これ以上のチキンレースに意味はない。
一瞬で状況を悟った五人の女性はクモの子を散らすように消えて行った。
そんな彼女たちが残したものは、何かと優劣を競いたがる人間の性(さが)だった。
SS15 チキンレース