ただ単に驚きが形象化しただけのような夢


 何だか変な夢を見た。Cが、「斎藤 杏」と名前を変えて大成功を収めている夢だ。Cにとって念願だったものが何だったのかは知らないが、ともかく今は多数の著名人を引き連れた劇団で主役――何の劇の主役だったかは忘れた――を務めているらしかった。それが本人にとって成功だったのかはともかく、大抜擢ではある。
 Cは昔大学で同じサークルだった女の子で、最近はほとんど連絡もとっていなかった。卒業後ブライダル関係の仕事に就いたが性に合わないだか何だかで数ヶ月で辞め、その後演劇(ミュージカルだったと思う)を勉強するために渡米した。いつ戻って来たかは記憶に定かではない。というより、知らない間に行って知らない間に帰って来ていた。ともかく戻って来てからはどこかの劇団に所属して、何か旅回りのようなことをしていた。最後に会ったのはその頃で、今は出演者ではなく大道具をやっている、ということだった。毎日金槌を振っているせいで「腕が太くなって困る」と言っていた。そんなだから当時は出演者というより主に裏方だったのだろう(それでも時々端役として出してもらっているようではあった)。今はどうしているのかは知らない。
 ところで、「斎藤 杏」とは誰なのだ? なにゆえ「斎藤」で、「杏」というのは一体どこからとったのか? どちらも本人とはまったく無縁で無関係なものに思える。そういう名前の共通の知人がいるわけでもない。手掛かりがあまりにもなさ過ぎて、この謎は解ける気配がしない。その謎こそが何かのキー・ポイントになっているのだろうけれど。
 ちなみに、著名人を引き連れた一座の主役に抜擢されたというのは本人から聞いたのではなく、街を歩いている時、たまたま通りかかった劇場の前に封切り前の宣伝用ポスターが貼ってあって、そこで知ったものだった。だからそれは、まったくの偶然だった。特に見るつもりはなく、感興を惹いたからというのでもなかったが、ただ目立つポスターだった。それだけの理由で目を移すと、そこに彼女の顔が大写しになっているのを認めて驚いた。一瞬真実か疑ったが、どう見ても本人だった(おまけに「旧姓」としてもともとの名前まで書いてある。わざわざ書くくらいなら何のために改名したのだろう?)。それでも、何か、まだ騙されているような気がする。いや、騙されているのだろう。これは夢なのだから。そう思って、何か釈然としない気持ちで目が覚めた。

ただ単に驚きが形象化しただけのような夢

ただ単に驚きが形象化しただけのような夢

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-27

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