紡ぐ糸 第2章
主人公
渡瀬信二(34歳):大学卒業後、せっかく入社した会社を6年で退社。その後6年間ニート生活が続いたが、ようやく就職出来そうな気配……
信二はある法人の募集に応じ、面接試験を受けている。
でも今までの面接試験との違いに違和感を感じつつも、なんとかやり遂げる。
「じゃ、左手挙げて」
突然言われて「えっ?」と思いつつもゆっくり左手を挙げた。
「右手挙げて、左手は下げない」
バンザイしている恰好になった。一体何なんだよ?
さすがに不思議に思い、たぶんその思いが表情に現れたのだろう、両手を下げるようにとの指示が出た。
「今の、どう思いました?」
「ワキガのチェックですか? 私は今までワキガが臭いと言われたことはなかったですが……」
真剣に答えた様子がおかしかったのか、面接官が笑い出した。
「いや、すまんすまん。今のにもちゃんと理由はあるが、試験中だから種明かしはしないよ」
「では、当法人を選んだ理由は?……という質問をされると思いましたか?」
……なんなんだ。さっきといい、この質問は。
「最初にその質問をされるかと思いました」
「君はもう、社会経験のある人間だ。初対面でもどの程度まで本音で話せるか、アドリブはきくか、その辺の呼吸も出来ない人間など要らないからね。事前準備を必要とする質問も不要、ということだ」
「最近よく言う、KYな人間もうちは必要ないんだよ」
「自分では、自分はKYな人間ではない、と思っています」
「だろうね。だから同じバイトを6年間、続けられているんだろう」
……そういえば、二ートになって最初の居酒屋のバイトは、結局6年間続けていた。
「うちは転勤はないが出張はよくあるし、様々な講習会やイベントで会場設営の準備やら、結構な力仕事もある。公用車での移動も頻繁だ。事務処理でパソコン相手の仕事だけではないよ?」
「出張も運転も気になりません。私はアウトドア派の乗り物好きですから。パソコンの腕は、ネット社会のお陰で錆ついてはいないです。逆に事務仕事は机仕事だけ、というのこそ遠慮したいところです」
「君、いつから来れるの?席はもう空いているんだけど」
「えっ?明日からでも大丈夫ですが……?」
採用か不採用か、面接後の人事会議で決まるものとばかり思っていた。
そう思って一挙手一投足から発言まで、変な印象を与えないように、頭をフル回転させて対応していたつもりだった。
しかし知らないうちに、一事務員の個人面談に変わっていたみたいだ。
「君はこのあと、まだ時間があるかね?」
太閤秀吉似の人から聞かれて時間があることを伝えると、そのまま協会の生い立ちや今の組織について、そして事務でする仕事のあらましの説明を受けた。
それから1階に降りてビルの案内図を見ながら、ビル全体の説明を受けた。
貸しビルかと思ったら自社ビルだった。
協会なのに東京の一等地に自社ビルって、実はものすごい協会なのかもしれない。
そして次の日、我が家に採用通知が届いた。
通知が届くの、早すぎないか?
届いたことは素直に嬉しいが、複雑な気持ちにもなった。
紡ぐ糸 第2章
面接試験は無事終了し、信二は協会の事務に採用される事となった。
事務員信二の今後は一体?
3章に続きます。信二の今後にご期待下さい。